やぁ、咲ちゃん。須木奈佐木咲ちゃん。
こうして向かい合って対面するのは今回が初めてだよね。
初めまして。
僕の名前は安心院なじみ。親しみを込めて安心院さんと呼んでくれまえ。
ああ、その通り。君の頭を螺子で貫き捻じ伏せた敗北主義者、球磨川禊にちょっかいをかけた人外――なあに、ただの平等主義者だと思ってくれれば構わないさ。
そんな人外が一体なんのようかだって?
あはは、せっかちだな。そう焦らないでよ。
そうだな、じゃあまずはここがどこかを説明しようか。端的に簡潔に言ってしまえばここは君の中だ――とはいえ、なにもそれは、君の体内という意味ではなく君の心の中と言ったほうが正しい。さらに正確に言えば、ここは君の心の中に僕が作った教室さ。脳が心を創る以上、体内でも正しいのかもしれないけれど、それは言っても詮無きことだろから、言及しないでくれたまえ。
そんなことは、置いて置いて。置いといて。
球磨川くんから聞いてるとは思うけど――あれ、聞いていないのかい?
まったく、球磨川くんは忘れっぽい男だ。そこが魅力でもなかったりするのだけれど。
彼から聞いていないなら仕方ない。僕から聞くことにしようか。
咲ちゃん――君の願いを一つ叶えてあげよう。
おっと、そんなに警戒しないでくれたまえ。確かに僕は焼石の奴を使って君を球磨川くんに、けしかけたけど、消しかけたけど、今回は何も企んでいないし、目論んでもいないよ。
えーと、七つのボールを集めた記憶はないって?大丈夫、安心してよ(安心院さんだけに)。
これは純粋な行為、もとい好意から来るものさ。
君は信じられないかもしれないだろうけれど、僕はわりと本気で言っている。
ははは、そうだね。君に対する謝罪の意を込めてでもある。おいおい、純粋な好意じゃないじゃねぇかなんていう揚げ足取りはしないで欲しい。
さて、君に改めてきくけれど。
須木奈佐木咲は。
僕の。
悪平等の不平等なプレゼントを受け取ってくれるかい?
――了承してくれて良かったよ。受け取ってくれなかったら、適当にアイドルにでもして終わりだったからさ。君だったら売れっ子にでもスターにでもなんにでもなってたんだろうけれど、それだと僕の自己満足になってしまうからね。
うん、大体の願いなら僕の名に懸けて叶えることを約束しよう。
ああ、君には悪いけれど主人公補正が欲しいとかそういうメタ的な願いはやめてほしい。
残念ながら、僕にも今すぐに出来ないことは存在している。
全知全能であるが故に、僕は主人公にはなれないからね。譲り渡すことも出来ない。
もちろん表舞台を嫌う君がそんな表に引きずり出される面倒な体質を望むことはないと知っているけれど、気が変わったりで考えるかもしれないから、言うだけでも言っておかないとね。
それで、君が願うのは何だい?
さっきの今だけれど、結構無茶な願いでも叶えてあげるぜ。
アニメの世界に行きたいだとか。
声優になりたいだとか。
人生やり直したいだとか。
そういう、ファンタジーな願いでも――。
…え?何?ごめんもう一回言ってもらってもいいかい?
君が球磨川くんがこれから転校する学校に行きたいだなんて、そんな空耳が聞こえた気がするんだけれど、もう一回、もう一度だけでいいから言ってもらってもいいかな?
…本当にそれでいいのかい?
いや、出来ないわけじゃないよ。出来るか出来ないかで言えば、可能だ。
確かに君に願いを言えと言ったのは僕だけれど、しかし流石にその願い事はこの安心院さんも動揺を隠せないぜ。
君がそれを願うなら、君がそこに行きたいと言うのならそれを叶えよう。
まったく、
時間軸は君が中学校を卒業したところでいいんだね。
球磨川くんが来る前に学園を支配し、球磨川くんを排除する、か。
僕としては、それにとても興味がある。
僕の本拠地らしいところだし、一筋縄じゃあ絶対にいかないだろうけれど。
それと、ここに来た記憶とそれに関連する記憶は消去させてもらう。ごめんね。
高校三年間の記憶は消しておく。覚えていると、色々と不都合が生じてしまうからね。良い方向にもあるい方向にも。球磨川くんに対しての記憶だけは出会ったときに思い出すようにしといてあげるから、平穏な学園を頑張って作りあげてね。
僕、安心院なじみは貴殿の活躍と手腕をとくと拝見させていただくよ。
さあ、須木奈佐木咲の物語の始まり、始まり。
――――
「朝か…。……今日から、私も高校生か」
私――
はあ、今日から高校一年生だと言うのに、こんな女子力で大丈夫なのだろうか……。
そこまで考えたとき、頭にノイズがはしる。
まるで、失った記憶を強引に思い出そうとしたみたいに、頭を痛めつける。私には封印に値する過去の出来事等存在しないはずだが。
しばらくしたら、頭痛が収まったので学校へと通う準備をする。
かけてあった箱庭学園の制服を手に取って着る。鏡に映る自分を見る。
マスクに全然あっていない白い制服が眩しい。緑色の制服の水槽学園のほうが良かっただろうか。
しかし、今更である。うだうだ言っても仕方ないだろう。
ここまで来たら、平穏を望む私でも、覚悟を決めるほか無いのだ。
私は、名門の箱庭学園の中でも異端児の集まる十三組で入学してしまったのだから。
須木奈佐木さんが主人公。
若干、キャラクター性をマイルドにしています。