須木奈佐木咲は箱庭でも平穏を望む   作:めためた

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第三操 引っ張り込めば

変人奇人ばかりが集う箱庭学園の中でも、特に異端児と呼ばれるものばかりが集まるクラス――十三組。

当然その思考回路を理解することなど一般人には到底できないほど、突飛なものも多い。

それは見た目が良くても、中身には問題があるということだ。

人畜無害そうであっても十三組に属しているとはそういうことなのである。

目の前にいる黒神真黒くんもその一人なのだろうと考えると、私はため息をつかざるを得ない。

 

「えーと……?」

 

困惑気味に私は首を捻って呟く。

いきなり――本当にいきなり生徒会の副会長を譲ってくれとはどうゆことだろう。

確かに、私は日之影くんを生徒会長に据えようとは思っていたけれど。

しかし副会長になるとは私は一言も言っていないのだが――。

 

「あれ……?」

「別に私は生徒会に入るつもりはないよ?」

 

そんな私の反応が予想外だったのか、黒神くんも困惑気味に呟く。

なんだろう、私が生徒会に入ると確信(・・)していたかのような動作だ。

私が生徒会に入るとでも思っていたのだろうか。

 

「え、……え!?須木奈佐木さんは生徒会に入らないのかい?」

「うん、ないけど」

 

黒神くんは動揺したように私に言うが私は彼の意見をばっさりと切る。

真正面からぶった切る。

どうして私が副会長になるなどという意見を有していたのか知らないが、切る。

一歩、二歩と黒神くんは後ずさる。

なんか、悪いことさせてしまったかな。別にそんなつもりはなかったけれど。

 

「そうなのか?須木奈佐木。お前は生徒会に入らないのか?」

「うん、私みたいな能力じゃとてもとても。足をひっぱるだけだし」

 

やや意外そうに聞いてきたのは、私の中で断トツの生徒会長候補、日之影空洞くんである。

私と黒神くんの会話を黙って聞いていたところをみると、やはり人がいいのかもしれない。

彼の質問に対する本当の答えを私は持ち合わせているけれど、本音をここで暴露するような真似は流石にしない。

それほどまでの信頼関係が築けていないと言うのもあるが、それ以上にこの人は私の本音を受け入れられないだろうから。

 

「私としては逆にどうして、私が生徒会に入ると思っていたのかを知りたいんだけど」

「いや、だってなあ?」

「うん、そうだね……」

 

二人は顔を見合わせ困ったように示し合わせる。

私の意見に変なところがあったのだろうか。

ややしてから、黒神くんが代表して私に聞くことに決めたようだった。

 

「いや、だって須木奈佐木さん。日之影くんを生徒会長にするなんて宣言していたら、普通それは君も生徒会に入るといっているようなものだと思うよ?」

「そう?」

「ああ。俺も昨日、須木奈佐木のセリフを聞いたときは、生徒会に入るつもりだと思ったが――」

「君にそのつもりはないんだね?」

 

と、黒神くんは最後通告のように念入りに私に聞いてきた。

もちろんそのつもりなので首を縦に振る。

 

「うん、生徒会に入るつもりはないけれど」

「じゃあ、どうして日之影くんを生徒会長にする方法を考えたりするなんて言ったんだい?」

 

黒神くんは純粋な疑問といった体で私に聞いてくる。

なんて答えようか。返答しだいでは、思惑が見抜かれてしまいそうだ――。

黒神くんは返答を考える私を見て目を細める。

まるで、観察しているかのようなそんな雰囲気だ。

これは視線などにも注意しなければならないだろう。それだけで、ごまかせるかどうかは分からないけど。

 

「それは――クラスメイトとしてだよ。数少ない(・・・・)同じクラスメイトとして力になりたいと思ったからだよ」

 

嘘をつくときは真実を少しだけ混ぜることだ――先人の作り上げた言葉を思い出しながら、黒神くんの瞳を真っすぐに見据えながら断言する。

 

「……それはそれは、とてもとても残念だ」

「ごめんね。でも、足を引っ張る結果にしかならないだろうから」

「それなら大丈夫なんだけどなあ……」

 

黒神くんはとても残念そうに見えない表情で呟く。

大丈夫とはいったいどういう意味か気になるが、それを聞くのは墓穴を掘ることになるだろうから、聞かない。

 

「事務仕事なら僕がやるからどう?君は生徒会に席を置くだけでいいから」

「……ご、ごめんね」

 

一歩近づいてくるごとに、蛇に絡みつかれるような感覚を覚える。

まるで死を待つだけの蛙になったようだ。

 

「なら、クラスメイトとして僕の力になってくれないかな?」

「ッ!?ど、どういう意味かな……?」

 

黒神くんは笑みを浮かべて近づいてくる。

しかし、出会った当初と違い、随分と厄介に感じる。

ああ嫌だ。自分と似たようなタイプ(・・・・・・・・)が相手だなんて、分が悪い。

私は舌打ちを飲み込む。

 

「そのままの意味だよ。日之影くんにクラスメイトとして協力するというのなら、僕に協力してくれてもいいんじゃない?たった二人しかいないクラスメイトなんだし」

 

黒神くんはきっと自分が何を言っているのか分かっているのだろう。

私が日之影くんに力を貸すのは確かにクラスメイトだからだけど、それが黒神くんにも適応するかと言われればノーだ。中学校から上がったばかりの高校一年生にときおり見られる超理論のようなものだ。どうしてあいつに適応されて俺には適応されない。

そんな道理の通らない理論。

彼はそのことを分かって言っている。

だからこそ性質が悪い。

こういうタイプは気が付いた時既に遅く、しがらみで雁字搦めにされていることがままある。

否定すればそのときは引くものの、後々引っ張り出してくる人間である。

総じて、うんと頷くまで厄介なタイプが多い。

 

「全然筋が通らないよ……」

「あはは、そりゃそうだ。だったら貸し一つでどうかな」

「貸し一つ……」

 

それなら、筋は一応通している……か?

日之影くんがいるところで宣言したということはそういうことと思っていいだろう。

もし、しらばっくれられたら、日之影くんに証明してもらえばいい。

私の心は固まりつつあった。

 

「なあ、須木奈佐木。別に、俺は一人でもいいんだが、黒神がここまで言ってるんだ。生徒会に入っちゃくれないか?」

「日之影くんまで……」

 

義理堅そうな日之影くんまで参戦してきた。ここで駄々をこねるのは、人間関係的にも今後の私の計画にもまずい。

日之影くんが黒神くんの肩を持ったことで、私には勝ち目はなさそうである。

しかし、ここで黒神くんに貸しを作っておくのは長期的に見て私の勝利となる。私に貸しを作ったことを後悔してもらうときがいつか来るだろう。

内心負け惜しみをしながらも、私は渋々頷いた。

 

「分かったよ――そこまで言われたら、流石に私も頷くしかないよ。あ、でも黒神くんには貸し一つね」

「ああ、分かっているよ。よろしく、須木奈佐木咲さん」

「うん、よろしくね」

 

黒神くんはいい笑顔で返答する。

コイツ、ここまでの流れを想定していたように思えるぞ。

掌の上で踊らされるのは当然いい気分ではない。

 

「じゃあ、さっそくだけど日之影くんを生徒会長にする会議を始めようか」

 

黒神くんがそう言ったとき私は手を挙げる。

 

「そうそう、私はそれを考えて来たんだった。大丈夫、簡単だから」

 

そんな風に呟いて、私は黒神くんへの意趣返しのように答える。

聖女のような、女神のような、全てを包み込むような微笑みを浮かべて。

 

「椋枝先生をこちら側に引っ張り込めばいいんだよ」




黒神さんは球磨川さんの影響をもろに受けて、かつ一年生ということでまだ影響が抜けきっていない印象です。推測多いな……。

ちなみに、箱庭学園の制服姿版、須木奈佐木さんがイメージできないと言う方は、最終巻に出てきた平戸ゴージャスをイメージしてください。多分、あれが一番近いでしょう(偏見)
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