食王ミドラ   作:黒ゴマ稲荷

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この作品を読んでくれたたくさんの方々、本当にありがとうございました。
突っ込みどころの多い、私の妄想の具現のような作品ですが、楽しんでいただけると幸いです。


004

 

 

 

 

 上空での巨大な呪力と神力の激突によって、万里谷祐理はハッと我に返った。

 彼女には、生と死の境界からアカシヤの記憶と呼ばれる、この世すべての事象を記録したものを読み取ることができる()を持っている。

 霊視と呼ばれるその能力によって、彼女はこの世の神秘の奥底まで、一般人では届かない事象までも覗き見ることができるのだ。

 それゆえに彼女は理解していた。

 さきほどまで持っていた、西方より持ち込まれた古代の神具、『ゴルゴネイオン』。

 それを奪い返しに、まつろわぬアテナが自分のことを追ってきたこと。

 さらに、さきほど黒曜石のメダルを奪い返し、自らの体の一部である《蛇》の因子を取り戻したことにより、三位一体の女神として復活を遂げたことを。

 そして、今まさに完全復活を遂げた女神と上空にて一騎打ちをしている男性の正体が、神殺し(カンピオーネ)であることも!

 我に返り、幾分か―――余談も許さない状況なので、本当に少しだけ、まともに思考できるくらいの―――の余裕を取り戻した彼女は、()()()()()()()()()()を呼んだ。

 

「―――草薙さん!草薙護堂さん!!早く来て!!私には、あなたの助けが必要です!!急いで――――」

 

 風が、吹いた。

 それは救いの風だった。

 祐理が名を読んだことで、もう一人の神殺しである草薙護堂の権能の一つ、『風』の化身の効果が現れたのだった。

 巫女の傍らに、渦巻く強風を伴って現れる神殺し。

 カンピオーネ、草薙護堂が、現れたのだった。

 

「万里谷、無事か!?」

 

 街灯の灯りすら冥府の女王によって奪われ、月の光だけが照らす夜の街中、護堂が祐理に駆け寄る。

 彼が弑逆した神から奪った権能、『東方の軍神』と名付けられたその力は、十の化身の姿に変え、それぞれ異なった力を振るうものだ。

 さきほど風と一緒に現れたものは、ウルスラグナの第一の化身である『風(強風)』の化身である。

 民衆の守護神として崇拝されたウルスラグナは、吹きゆく風となり、民衆や旅人の行く末を見守る。

 その性質の表れが、この『風』の権能なのである。

 相手が護堂の顔見知りで、なおかつかなりの危機に立ち会っていること。

 さらには双方風が吹く場所にいるところにいるという、少々発動条件が厳しいものがあるが、それさえ満たせば強風を伴い、どこへでも瞬間移動することができるのだ。

 それによって、瞬時に祐理のいるところまで移動した。

 護堂が目の前に現れたことにより、祐理が安堵の表情を漏らす。

 

「…ええ、私は大丈夫です。…ゴルゴネイオンは、アテナに奪われてしまいましたが…」

「何言ってるんだ。お前が無事で本当によかった」

 

 そう言って顔に笑みを浮かべる護堂に、祐理も釣られて笑みを浮かべた。

 

「…それで、アテナは…?」

 

 護堂がまつろわぬ神の力を感じ取り、上空へと視線を向ける。

 祐理も、『強風』の権能によって共に瞬間移動したエリカ・ブランデッリも、傍らの魔王の視線を追いかけるようにして、視線を宙へと向かわせる。

 いた。

 月光によって照らされる、二つの影。

 一つは鳥類の、ふくろうの羽を背中に生やし、飛んでいる女性。

 護堂が以前見た姿はまだ年端もいかない子供の姿だったが、完全復活を遂げた影響からか、すでに成熟した、神々しい美しさをもった女性の姿へと変異している。

 護堂の権能の力を感じ取ったのか、相手もこちらの方を見て、笑みを浮かべている。

 見るもの全てを虜にするような、しかしどこか怖いとさえ思える、整然とした笑みだった。

 もう一人の方は、護堂の知らない男性だった。

 あちらも、自分のことを知らないであろう。

 しかし、それでもわかる。

 

「…護堂、あれって―――」

「ああ、わかっている」

 

 ―――あれは、自分の同類(カンピオーネ)であると。

 

 ふと、上空にて浮遊する魔王が、左手を上げた。

 それと同時に、アテナの左方の空間にて、形成される鈍い銀色に光る()()か。

 それをアテナに向けて、左から右へ横凪ぎする。

 瞬間、形成された銀でもって打撃され、翼でもって上空にて浮遊するアテナの体が、右方向へと吹っ飛んでいった。

 もう一人の神殺しも、後を追うようにして空中で疾走する。

 

「護堂!!」

「ああ、俺たちも追うぞ!!」

 

 女神と神殺しが消えた先へと向かって、一行は足を動かした。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 目の前に存在した神殺しの手によって打撃を受けたアテナは、その衝撃で遠くまで飛ばされることとなった。

 翼で体を安定させ、宙に浮かぶ。

 ―――ずいぶんと遠くまで飛ばされたものだ。

 眼下には、人間たちが作ったであろう、貧相な自然を模した姿の風景が立ち並んでいた。

 浜離宮恩賜庭園。

 この公園の名だ。

 もう夜も遅く、庭園は閉館しており、人の姿は見えない。

 その中でも、少し開けた場所。

 地を人口の土で固めた、見開きの良い場所に、あの神殺しは立っていた。

 宙に浮いていた先ほどとは違い、地に足をつけこちらが来るのを待っている。

 アテナもそれに習い、広場に、地にたどり着く。

 少し距離を開けて、先程と同じように向かい合った。

 

「口上もなしに乙女を打撃するとは、感心せんな」

「よそ見をした、お前が悪い」

 

 さきほどの一幕の話である。

 三島貴虎と名乗った眼前の神殺しと、空中にて切り結んでいる最中、以前計略にて死の言霊を体内に流し込んだはずのカンピオーネ、草薙護堂が現れたのだった。

 それに二人共が反応し、距離をとって一時中断。

 どちらともが突如風を伴って現れた若き神殺しの姿を補足した。

 ――――やはり再び現れたか、草薙護堂!!

 もともと、彼をあの程度で殺せたとは思ってはいなかった。

 カンピオーネとは、思惑とは外れたところにいる存在。

 なんらかの方法にて、復活を遂げると確信していたのだ。

 アテナの注意が、草薙護堂へと向いてしまった。

 油断。

 まさにこれだ。

 もちろん、眼前の神殺しのことを忘れたわけではなかったが、甘かった。

 気づいたときには、横合いから鈍い銀色の物体にて打撃。

 その勢いのまま、こちらの庭園上空まで飛ばされてきたのである。

 

「…人の姿が見えんな。ここに妾を連れてきたのも、人間に配慮してのことか?」

「それもある」

「まったく、人間のことなど放っておけば良いものを…」

「邪魔されたくないだけさ」

「ほう、我らと神殺しとの闘争を邪魔することのできるものなど、人の身にあっては存在しないと見るが―――」

「あそこもう一人いただろ」

 

 もう一人のカンピオーネだ。

 彼も、彼女もその存在を確認している。

 

「後で二対一だから負けました、なんて言い訳されても困るしな」

「…知恵と闘争を司る女神である妾が、そんな言い訳をすると思っているのか!?」

「言い訳をするかしないか、それを判断するのはお前じゃない、俺だ。わずかでもそんな可能性があるならば、排除するに限る。それに、見ろ―――」

 

 貴虎が夜の闇が満ちる庭園を眺める。

 

「―――ここならば、存分に喧嘩することができると思うが?」

「…なるほど、あなたは存外、闘争に対して誠実であるのだな」

 

 アテナの口角が上がる。

 それに伴い、自身の死の力を凝縮した、漆黒の鎌を手に宿す。

 

「いいだろう!!タカトラといったな、このアテナに対して、一騎打ちを挑む、その心意気や良し!!存分に力と力を比べるとしようぞ!!」

「…来い」

 

 その言葉をきっかけとして、漆黒の鎌と手刀とが、交錯した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 時は少しさかのぼる。

 三島家では、小雪、天使、辰子、竜兵、さらには先程仕事から帰ってきた亜巳が勢ぞろいしていた。

 小雪、天使、竜兵がコントローラー片手に白熱している光景を、亜巳はちゃぶ台に腕を載せて眺めている。

 辰子は、あいもかわらず座布団を枕にして眠っている。

 三人が騒ぎ立てている中で、眠っていられるのはさすがというべきか。

 彼女たちは、自分たちの武術の師匠である釈迦堂と、小雪の父親である貴虎の帰りを待っているのだ。

 ―――今日はいいものが手に入った。

 貴虎がそう言った日には、大抵美味しいものを食べることができた。

 今では板垣家も混ざって、一緒に食事をとるようになっている。

 この家で飯を作るのは、もっぱら貴虎であった。

 というか、キッチンを占領しているのである。

 手伝いをすると申告したこともあったのだが、客人に手伝わせるわけにはいかないとつっぱねられた。

 他の人たちもそれで何も言わないので、板垣組が三島家と一緒に食事をするときには、貴虎の調理となったのだ。

 貴虎、小雪、亜巳、辰子、竜兵、天使、それに釈迦堂を加えた7人が、この狭い部屋へと集う。

 ある程度の広さは確保できるが、やはりぎゅうぎゅうになって体を寄せ合いながら、美味しい料理に舌づつみをうつ。

 毎回、騒がしいが、どこか暖かい団欒のような感じだ。

 腕にはめた腕時計に視線を落とす。

 帰ると言っていた時間に、少し過ぎた頃であった。

 ―――どこで何をしているんだか…。

 中年というか、いい年したおっさん二人が、仲良く釣りをしに行って、どこかほっつき歩いている。

 ダメ人間である。 

 ゲームをしている三人や、眠っている辰子もまだ何も言わないが、やがて空腹から騒ぎ立てるようになるだろう。

 それをなだめるのは、年上の自分の仕事なのだ。

 いつからかそうなっていた、自分に与えられた役割。

 ほう、っとため息をついた。

 貧乏くじを引くのは、いつも自分だ。

 帰ってきたら、あの馬鹿どものすねを蹴飛ばしてやる。

 ―――怪我をするのは、いつも自分なのだが…。

 そう息巻いているうちに、突如、電源が消えた。

 

「あ”ー!!!!」

「お”い”い”!!」

「真っ暗だー」

 

 画面の向こうに向かって白熱していた三人が、電源が消えたことによって画面も消えたことに、批難の言葉を上げる。

 そのままテレビを叩いたり、コントローラーを放り投げたり、部屋の電気をつけるための紐を引っ張ったりしている。

 しかし、電源はそのまま付く様子もない。

 

「あー、もう!!」

「腹減ったぞー!!」

「減ったぞー!」

「いつになったら帰ってくるんだ、あの馬鹿中年ども!!」

 

 本当にね。

 今日も引くことになった貧乏くじを恨みながら、電源が消えたことによって騒ぎ立てる年下をなだめるために、亜巳は重い腰を上げた。

 やはり、脛を蹴飛ばしてやると決意して。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 死を具現化したような、漆黒の鎌が迫る。

 それを、呪力を集中した手刀にて迎え撃つ。 

 金属どうしが激突したような音を奏でながら、鎌と手刀とでつばぜり合いを行う。

 どちらともがつばぜり合いをやめ、距離を取り合う。

 次に接近したのは、貴虎の方だった。

 手刀にてアテナの胴めがけ、袈裟懸けを浴びせる。

 それを漆黒の鎌で受け流し、返す刃を神殺しに浴びせる。

 貴虎が次弾のために残しておいた左手で受ける。

 冥界の死をそのまま表象したような鎌を受けても、その肉体は傷ついていなかった。

 横腹めがけて放たれる回し蹴りを、後ろに飛んで回避する女神。

 そのまま後ろに飛びながら、背後の地面より現れた蛇が貴虎に食いつこうとする。

 そこで手刀の横薙ぎを一閃。

 蛇たちは口から半分に割れ、そのまま地面で動かなくなった。

 

「…ふむ、我が刃をもってしても、体を傷つけることが叶わんとは…」

 

 手に持った漆黒の鎌を見つめ、相手のことを見つめる。

 神力のすべてをこめた全力ではないが、それでも幾分か力を込めて作った、冥界の死の鎌。

 これに刈り取られれば、容赦なく死が訪れることとなるだろう。

 その鎌を受けても、ちっとも堪えている様子がなかった。

 ――――呪力の扱いが上手いからか?

 確かに、相手はこちらを手刀にて切り刻まんとするときに、カンピオーネとしての呪力を集中させる。

 あれで貫かれれば、ただでは済まないだろう。

 それだけの危険を、持っているものだった。

 だから、アテナの鎌とも切り結ぶことができる。

 しかし、それ以外の場所を狙い切っても、相手の強靭な体に止められる結果となっていた。

 ――――権能か?

 彼女の仇敵である『鋼』の英雄たちは、体を鋼のように強靭とすることができる。

 刃の通ることのない、鋼の強度を持つ英雄、それが『鋼』の英雄の特質の一部だ。

 以前あいまみえたイタリアの剣王も、確かそのような権能を行使していた覚えがある。

 ならば、眼前の神殺しも、『鋼』より絶対強度の肉体を得たのだろうか。

 否。アテナが否定する。

 そのような兆候は見られなかった。

 アテナが貴虎のことを見る。

 夜の暗闇の中で、怪しく光る二つの目。

 なんとなく、理解している。

 相手の内包する呪力の強大さだ。

 それがアテナの神力を込めて編んだ鎌よりも強大であるため、肉体に傷つけることができないでいたのだった。

 よほど、神格の高い神を弑逆したのだろう。

 もしくは、そういう権能なのか…。

 知恵の女神たるアテナであっても、眼前の神殺しには謎が多かった。

 ――――仕方がない。

 背に生えていたふくろうの翼を引っ込める。

 その分の神力をまとめて鎌へと送り込む。

 見る見るうちに、より鋭く、より禍々しく、より命を刈り取る型へと変貌していった。

 それを見た貴虎が、表情を鋭くした。

 

「気づいたか、神殺しよ。冥界の死を凝縮した鎌。これならば、あなたの体にも傷をつけることができるだろう」

 

 そう言うとアテナは相手の懐まで駆けた。

 一瞬にしてたどり着き、鎌を振るう。

 手刀にて切り結ぶが、先ほどとは違い、皮一枚ほどではあるが、貴虎の手にできた。

 貴虎には、格闘技の心得はない。

 対して、アテナは人類最高峰の武芸を、超えたところの腕の持ち主。

 変幻自在の鎌裁きもそうだが、受け流すことに関しては、まつろわぬ神のほうが一枚上手であった。

 あっという間に無数の切り傷が貴虎の体に刻まれていく。

 それでも、貴虎の表情には変わりはない。

 致命傷を避けながら、アテナの命を刈り取るように手刀にて、鎌とつきあわせる。

 周りから見れば、何をしているのか、体が消えて見えるかも知れない速度。

 二人が拳と鎌とでやりあっているのは、そのようなレベルであった。

 何度かの交錯の後、今度は貴虎の方から距離をとった。

 体には数多の切り傷が、その体に刻まれている。

 対して、アテナの方は目立った外傷は見当たらない。

 相手の攻撃を鎌にて全て受け流す絶技によって、ダメージは受けているとはいえなかった。

 これも、最高峰の闘神であるアテナの力である。

 

「どうした、神殺しよ。もう終わりか?―――それとも、拳ではなく、神と神殺しの本懐、権能を行使することを選択するか?」

 

 アテナの方は余裕そうだ。

 ひと目見れば、どちらが優勢で、どちらが劣勢なのかはわかるだろう。

 武芸では、相手はアテナの相手ではない。

 それを今まで、何十、何百と続けられたのは、相手の肉体と、野生の獣じみた勘のせいであった。

 ―――油断はできん。

 最上位の戦女神をして、この打ち合いの中で思い知らされたことである。

 もともと、カンピオーネは思いがけない行動にて、でたらめな行動で相手を打倒しようとする生き物である。

 例えどんな相手でも、死力を尽くして、挑まねばならぬ相手。

 余裕とは、武芸ではアテナのほうが優れているということであった。

 油断は、できない。

 それに、死の鎌で傷をつけているのに、相手はちっとも堪えている様子はない。

 出血も、いつの間にか止まっている。

 貴虎が構えを解いた。

 自然体だ。

 さっきまでの他人の見よう見まねのような、ちぐはぐなファイティングポーズではない。

 ――――来るか。

 アテナも鎌を構え直す。

 来たのは、攻撃ではなかった。

 この日、初めて、貴虎が臨戦態勢に入る。

 暗闇故に伺いしれないが、おそらく表情も変化していただろう。

 人間のように愛嬌のある顔から、鬼のように容赦のない顔に。

 瞬間、東京都内、果てには近い地域を住処にしていた動物たちは、一斉にその場から逃げ出した。

 野生から離れ、鈍化した人間であっても、その強大なモノの存在を、驚異を感じ取り、肌を震わせる。

 数人の実力者たちも、都内にて現れたその驚異を防ぐために、現場へと急ぐ。

 たとえ、自らの実力よりはるかに大きい驚異であっても。

 アテナ、その肌で、相手の姿を見ながら、その驚異を、相手の力を認識していた。

 その上で、自らの中に棲まわせている闘いの炎を熱く燃やす。

 ――――おもしろい!

 貴虎が臨戦態勢に入れば、たとえ高位の神獣であっても、逃走することを選択するだろう。

 しかし、アテナはまつろわぬ神。

 カンピオーネである貴虎とは、戦い、滅ぼし滅ぼされる宿命のもとにある。

 内面にて変貌を遂げた神殺しを前に、その驚異を感じ取りながらも、アテナは笑った。

 貴虎が腕を振りかぶった。

 十分な距離が、両者の間には存在している。

 

「“フライングフォーク”」

 

 放たれたのは、エネルギーの塊だった。

 それも、視認することができるほど濃密な。

 アテナに向かって放たれたそれは、三股の矛を思わせる。

 戦いの女神は、それを鎌で振り払う。

 次々と放たれるそれを、アテナも振り払い、弾き、ときには受け止める。

 その間に接近していた貴虎が、アテナに向かって拳を振りかぶる。

 

「“20連”――――」

 

 接近した貴虎を迎撃するためにアテナが鎌をふるった。

 死を凝縮した鎌が、貴虎の体を傷つけるが、彼は構わず――――

 

「――――“釘パンチ”!!」

 

 ミサイルのようなその左拳を解き放った。

 脇腹に直撃した。

 

「ゴッ――――――!?」

 

 咄嗟に後ろに飛んで威力を和らげる。

 しかし、どういうことか、打撃された場所に次々と新しい衝撃がくるのである。

 まるで、釘を打ち付けるように、何発、何十発もの衝撃が後から後から襲ってくる。

 

「――――――ガアアアアアアアアア!?!?」

 

 二十発分の衝撃をその体に受けて尚、アテナの目に宿る闘志は衰えてはいない。

 口から血反吐を吐きながらも、油断なく相手のことを見据えている。

 しかし、ダメージは受けた。

 今ので、今までの戦いの分とは比べ物にならないほどのダメージをこの身に受けたことになる。

 

「――――タフだな」

「なめるなよ、神殺し」

 

 お互いが口元に笑みを作る。

 第一ラウンドはお互いに様子見であった。

 今しがた、第二ラウンドのコングが鳴ったのだ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 庭園内で起こっている、自然災害が具現化したような二つの激突を、ある程度の距離から見ていた者たちがいた。

 いずれもが実力者、暴風のように辺りに撒き散らされているあの威圧感の近くに近づいていけるのは、やはり壁越えもしくはそれに近しい実力者のみである。

 強大な気配の出現から、街で起こる騒ぎを収めていたのを代わりの者に任せ、文字通り飛んできた川神院の総大将、川神鉄心。

 一緒についてきた、こちらも壁超えの実力者である川神院師範代のルー・イー。

 近々九鬼が起こす川神でのプロジェクトのため、川神内の治安を良くしている途中だった、九鬼の従者部隊。

 その0番である、ヒューム・ヘルシング。

 3番、クラウディオ・ネエロ。

 そして、今破壊の限りを尽くしている二人のうちの一人のことを追ってきた、釈迦堂刑部。

 庭園内で出会った5人が、様子見として二つの強大な力の激突の姿を見ているのである。

 

「…おー、派手にやってんな」

「釈迦堂よ、あれはお前の仕業か?」

「アホなこと言ってんなよ、爺さん」

「なら何故、ここに現れタ!?」

 

 これまで姿を見せなかった釈迦堂に向けて、川神院の二人が不信感をあらわにする。

 

「あそこでバトってる男の方。あれ、俺が今住んでるところの隣人なんだわ。そんで、本気で喧嘩やるっていうんで、見に来たわけ」

「…ならば、あやつは――――」

「知ってるのか?三島貴虎っていうんだけど」

 

 あれが!?

 あれが孫の言っていた男か。

 眼前で繰り広げられる破壊の後を見る。

 地面は抉れ、木々は倒され、建物は倒壊し、悲惨な情景になっている。

 拳の一発、蹴りの一発でそれらを成しているのだ。

 数分もすれば、瓦礫の山が出来上がるだろう。

 

「いやー、あいつにボッコボコにされてさ。強いのなんのって、ボロ負けですわ。んで、そんな奴が本気で戦うってんなら、これは見なきゃいけないでしょ。ってなわけでノコノコやってきたところに、あんたらがいたんだわ」

「…ふーむ、釈迦堂は関係なしか」

「すると、あの男の正体ハ―――――」

「カンピオーネだな」

 

 川神院組の会話に割り込んできたのは、金髪で立派なヒゲを蓄えた執事、ヒュームだ。

 

「あの力の波動、膨大な気―――呪力から見てまず間違えあるまい」

「うーむ、やはりか…」

「まさか羅刹王の一人が、こんなに近くにいるとハ…」

「九鬼の事前の調査でも、把握できていませんでした」

「――――待った、あんたら、何言ってんの?」

 

 釈迦堂だけが、この場で唯一、話についていけないらしい。

 カンピオーネという言葉に、聞き覚えがあるのは四人。

 どこか仲間はずれにされたようなものだった。

 

「…ああ、お前は知らなかったのか。説明ならあとにしてやる。まずはあれらをどうするか…だ」

「おそらく相手はまつろわぬ神。壁超えが5人いるとはいえ、どこまでできるか…」

「それでもやるしかあるまいて…」

「しかし、無闇に介入するのは危険すぎマス。幸い、羅刹王とまつろわぬ神が無人の庭園内にとどまっているのですカラ、庭園外に被害が及ばないように結界を張ってはどうデショウ?」

「ふむ…それでいくか…」

 

 次々と自分を取り残して話がまとまっていく。

 加えて、どうやらその話の中に自分が戦力の一つとして入っているのだ。

 冗談じゃない。

 釈迦堂が厄介事に巻き込まれる前に、集団から離れようとしたが、

 

「何処へ行く」

「逃がさんぞ」

「釈迦堂!!お前も手伝いなさイ!!」

「申し訳ありませんが、拒否権はありません」

 

 実力者4人に囲まれては、さすがの釈迦堂も逃げられなかった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 アテナと縁のある動物といえば、蛇と梟である。

 アテナ・メティス・メドゥサと三位一体を成した古代の女神アテナは、死と再生を司る大地母神に加え、冥界の主であった。

 豊穣を司る大地母神の中でも、アテナを象徴する蛇。

 蛇は死と再生を司る聖獣として崇められた。

 古代天候や風土病など、さまざまな理由から、凶作の時があった。

 自然の恵みとは、いつも十全に受けられるものではないのだ。

 季節でさえも、豊作の秋に加え、作物が育たない冬がある。

 冬になれば、蛇は冬眠し、姿を見せなくなる。

 やがて春になると、下界に姿を見せるようになる。

 死と再生の循環をあらわした、蛇こそが、大地母神と冥界の女神であるアテナの特質にほかならない。

 加えて、ふくろうの持つ翼によって、アテナは大地と冥界、二つを自由に行き来することができる。

 翼のある蛇、原初のアテナはそのような姿だったろう。

 アテナの号令によって、地を這う百を超える蛇が、暗闇で飛び回る梟の大群が貴虎に襲いかかる。

 

「“フライ返し”」

 

 貴虎へと飛びかかった軍勢が、独りでに吹っ飛んでいく。

 何かに跳ね返されたような光景であった。

 それにも構わずアテナは果敢に攻めていく。

 次に現れたのは、20から30メートルはあるであろう巨大な大蛇。

 それらが一斉に貴虎目掛けて、鎌首をもたげる。

 

「“サウンドバズーカ”!!」

 

 音の衝撃波。

 貴虎の口より放たれたそれは、強大な威力をもって巨大な大蛇を()()()()()

 頭を失った蛇が、崩れ去る。

 もともと、庭園内の土から作られた蛇が、役割を終え元の土へと戻っていくのだ。

 

「“劇毒機関銃(マシンガンポイズン)”」

 

 梟の翼で、再び宙を翔けるアテナ目掛けて、体内で生成された劇毒の雫を次々と浴びせようとする。

 劇毒の雨を、アテナはスイスイと避けていくが、女神の眷属である梟たちで、避けきれなかった者が溶解性の毒を浴び、その姿を白骨と化していた。

 

「もらったぞ!!」

 

 地面すれすれで飛ぶアテナが、隙と見たのか黒い鎌で持って、貴虎の命を刈り取ろうとする。

 

「“ナイフ”!!」

 

 呪力を集中し、十分に強化された手刀で、鎌の一撃を受ける。

 反対の手でもって、アテナを狙うが、女神は後ろに飛び去ってしまった。

 

「危ない危ない。もうあのような拳を受けるのは御免こうむるからな」

 

 20連釘パンチを受けた脇腹に女神は手を当てる。

 ダメージは、あった。

 それも甚大な。

 しかし、神と神殺しが戦う時の、アドレナリンよりももっと強烈な闘争本能によって、いつしか痛みも消えていた。

 辺は凄惨な状態となっていた。

 貴虎の攻撃の影響によって、瓦礫の山と化した建物。

 アテナの邪眼によって、石となった木々。 

 被害が庭園内に収まっているのが不思議なくらいであった。

 アテナは上空にて、地に足をつけこちらを睨んでいる相手の方を見る。

 なんとなく、相手の能力はわかっていた。

 こちらに浴びせてくる数多の攻撃の数々は、()()()()()()

 神々の権能に匹敵するような、威力を持った()の数々である。

 それよりも、そんな威力の技を何度も行使して、けろりとしているそのエネルギー源だ。

 エネルギーの源こそ、やつの権能なのではないか。

 加えて、やつの強靭な肉体。

 アテナの死の鎌ですら寄せ付けない強靭な肉体を作ったその源こそが、やつの権能だ。

 鋼の英雄のように、鉄より固い体を持つのではない。

 鋼の硬度に近づくほどの強靭さを作った、その過程にこそやつの権能の秘密がある。

 あたりにはアテナの発した死の気配が充満している。

 それが周囲の温度を奪い、永久凍土の冥界の冬を演出しているのである。

 しかし、貴虎の様子に変化はなかった。

 ()()()すらも出てはいない。

 いずれにしても、埒があかない。

 見たものすべてを石化させるメドゥサの邪眼も、冥界の瞬時に体が凍ってしまうような冬も、辺り一帯の植物を残らず枯らせてしまうほど濃密な『死』も、貴虎の強大な呪力耐性に加え、その強靭な肉体の前には意味を成さなかった。

 やはり、多少リスクを犯してでも、()()『死』を叩き込まなければ…。

 アテナはふくろうの翼を消滅させ、地上へと降り去った。

 代わりに現出させたのは、盾と槍。

 アテナの神力のほとんどをそそいで創り上げた、死を具現化させた槍とメドゥサの姿が象られた、盾。

 アイギスと呼ばれる、攻防一体の盾である。

 女神の姿も、白い衣から甲冑をつけた戦士へと変化していた。

 

「三島貴虎よ、いざ勝負!!」

 

 ギリシアやローマ時代の歩兵のように、女神が槍を構えて突撃してくる。

 地母神として大地から吸い上げた力によって強化された怪力は、盾でもって防ぐ力を強化してくれる。

 そして、閃光の速さで相手を突く槍を喰らえば、ただでは済まない。

 文字どうりすべてを費やして作成したようなこの槍は、冥界の死の具現、死そのもの。

 貴虎も側面を手刀でもって叩きおろうとするが、アテナの強大な力をそそいで作られた盾と槍は壊すことは叶わなかった。

 何十合かの突きあいによって、ついに貴虎の脇腹へと槍が突き刺さった。

 

「―――――ぐっ!?」

殺ったぞ(とったぞ)、神殺しよ!!」

 

 そのままアテネの権能である死が貴虎の中に流れ込み――――――

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ぐぎゅるるる。

 腹の音がする。

 腹が減ったなぁ。

 早くたらふく飯が食いたいぜ。

 ああ、ああ…。

 いつまで待たせるんだ。

 空腹で空腹で、耐えられないよ。

 いいか…。

 もういいか…。

 目の前の奴、美味そうだ…。

 ちょっとだけ。

 ちょっとだけつまみ食いしてしまおう。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

  

 アテナの必殺の気をこめた槍はカンピオーネ貴虎の脇腹を貫いた。

 そこから、冥界の死が流れ込むはずだった。

 これなら、この強靭な肉体と高い呪術耐性を持つ神殺しを殺すことができよう。

 カンピオーネは、貴虎に限らず、自らの持つ呪術耐性ゆえに、魔術などをかけることができない。

 その効果を打ち消してしまうのだ。

 ゆえに回復魔術などをかけるときは、内部から魔術をかけるしかない。

 体の外には強大な呪術耐性。

 一般にはキスなど経口摂取によって魔術を送り込むのが普通である。

 今回のアテナが選んだ方法は、槍を突き刺して『死』を送り込むという方法である。

 自らの力の大半を費やして創り上げた必殺の槍が、見事カンピオーネの身体を貫いたのだった。

 内部より、死の権能を送り込む。

 もはや抗うことなどできない。

 そう思った矢先だった。

 ズンッ。

 そんな衝撃が、盾を持った左手に現れたのである。

 少し遅れて、飛び散る血しぶき。

 目を見開き、視線を左手に移す。

 無かった。

 無かったのだ。

 さきほどまで自分の体についていた、左腕も手で持った盾も、無くなっていたのである。

 眼前より聞こえてくる、()()()

 喰ったのだ。

 このカンピオーネが。

 アテナの左腕も盾もみな、食べてしまったのである。

 

「―――――おのれえええええええええええ!!!!」

 

 アテナの死に犯されながらも、今だ膝を折らない神殺し。

 青い、もう白くも見える顔色ではあるが、今だ戦意は衰えず。

 自らの体の一部が喰われたという事実に怒りを顕にして、アテナは失った左腕を再生させた。

 アテナを力の一つである蛇は、再生と死の象徴。

 蛇は脱皮を繰り返すことによって、傷を治し何度でも蘇る。

 ―――――が、遅すぎた。

 アテナが死を象徴する鎌を繰り出す前に、貴虎から放たれた()()が、アテナの胸を、脇腹をえぐった。

 血を噴いて倒れ尽くす女神。

 釘パンチを食らったときとは比べ物にならないほどのダメージ。

 それに加え、()()()()という事実。

 それは力を奪われたことに等しい。

 ゴルゴネイオンを取り返し、三位一体の女神として再臨したアテナだったが、今の攻撃によって、力の大半を()()()()

 もう女王の姿のままではいられない。

 成熟した女性の姿から、可愛らしい童子の姿へと戻っていく。

 さらには、削られた部分を蛇の権能にて再生させてはいるが、実はこれもすかすかの見せかけである。

 先程再生した左腕も、見てくれは元に戻ったように見えるが、中身の呪力はいつもと比べ物にならない。

 血反吐を吐き、荒い呼吸を繰り返す。

 ザッと、耳元で土を踏みしめる音がした。

 そちらになんとか顔を向けると、神殺しの姿が。

 口元よりしたっているのは、アテナの血だろう。

 両目からは滝のような涙を流している。

 

「…わ、…らわ…の肉…を、食べ…たことで…、…死からと、…遠ざかった…か」

 

 アテナの莫大な神力を内包した身体。

 その肉を食べたことで、死にかけだった身体が元気になっている。

 冥界の死の象徴である槍も脇腹から抜いてあり、もはやアテナにどうすることもできない。

 がふっと口より大量の血を吐きながら、自分を倒した神殺しの姿をみる。

 アテナには、何故、この男が涙を流しているのか理解できなかった。

 自分に、このアテナに勝利したのだぞ。

 …何故、泣く?

 不可解だった。

 それよりも、もっと不可解な出来事が起こった。

 貴虎が虚空に腕を突き出すと、その腕の先が空間に吸い込まれていく。

 そこから取り出したのは、一つの食材。

 アテナが光を奪い去り、暗闇が支配する夜の世界でも、光り輝く()

 まるでその肉の周りだけが、昼間のように明るい。

 その光景に目を見開くアテナの口から、血以外の液体が流れ出た。

 光り輝く、太陽のような肉が、アテナの口元に運ばれる。

 もう一歩も動かんと思っていた身体が、何かに突き動かされるように肉を咀嚼した。

 ――――おお、おお…。

 ひと噛みごとに口の中ではじける肉汁。

 口内の体温ですら、溶けてしまうサーロイン。

 こりこりとした歯ごたえのあるミノ。

 クリーミーな味わいのレバー。

 一つの部位でさえ、これほどの味、食感、部位を楽しめることができる。

 そして何より、()()()()()()()()()()()()

 全快にまでは程遠いが、ひとまず自然消滅を避けられた形になった。

 

「…何故、助けた?」

 

 体を起こし、神殺しへと問いかける。

 

「あなたに体の大部分を食い破られ、もはや妾は消滅を待つのみだった。…なぜ助けた?そのどこぞの農耕神より授けられたであろう、生と死の境界の食材を使って」

 

 生と死の境界―――幽世などと呼ばれている場所で作られる作物は、特別な現象を帯びる。

 すなわち、呪力を蓄えるのだ。

 肉体に栄養分を与えるだけしかしない現世とは違い、魂にまで影響を及ぼす食事。

 

「…これだけの食材を作ることのできる庭を一人で所有している神は限られる。―――あなたの弑逆したのは、もしや宇迦之御魂神か?」

 

 アテナの言葉に貴虎が目を見開く。

 その反応から得心がいったのか、さらに問いかけるアテナ。

 

「…なるほど。かの神より簒奪した権能の特性を考えると、これまでのあなたの強靭な肉体や膨大な呪力にも納得がいった。…だが、どうして妾を助けたのだ。これだけが納得がいかない」

「…フェアじゃないからな」

「フェアだと…?」

「一体一、全力で喧嘩して、その結果勝った、負けたならまだいい。私も納得ができる。しかし、さっきのはフェアじゃなかった」

「――――」

「相手を一方的に食うってのは、もはや力と力を比べる勝負じゃない。ただの捕食になってしまう。それが私は気に入らん」

「勝ったほうが負けたほうを食らう。それが自然の摂理なのではないか?」

()()()()()()()?」

「――――」

「まつろわぬ神と神殺しの闘いは、そういうものなのか?相手を一方的に食べてしまう、それが武を競い合う戦いなのか?…少なくとも、それを容認すれば私はなってしまうだろう。―――抑止の効かない獣に。すべてを食い尽くしても止まらない、食欲の悪魔に」

 

 そう、貴虎の危惧しているのは、このことだったのだ。

 人間ではなくなってしまう。

 カンピオーネとして新生した今でも、想い続けていることだ。

 ――――あの、下半身が食いちぎられている老人の姿。

 野生では、構わない。

 食うか、食われるか。

 強いほうが相手を喰らい、自らの血肉としてその命に感謝する。

 皮肉なものだ。

 カンピオーネであるほうが、()()()()()()()とは。

 

「…なるほどな」

 

 アテナがこちらを見据えている。

 相手の底まで見定めるような、知恵の女神の瞳だ。

 

「ならば妾との此度の戦は―――――」

「ノーコンテストだ。再戦を希望する」

「今すぐか?」

「アホか。今から飯だ。お前の相手をしている余裕はない」

「…いいだろう!!一応の勝者であるあなたの意見を受け入れ、此度の戦は私の負けを認めよう。しかるにこの体が元に戻った時に、もう一度あなたに闘いを挑むことにしよう!!」

「話し、聞いてた?ノーカンだっつってんじゃん」

 

 ようやくもう一人の神殺し、草薙護堂もたどり着いたのか、息を切らせながら庭園内に入ってくる。

 傍らにはエリカと、祐理の姿もあった。

 三人とも庭園ないの惨状に顔をしかめていたが、アテナの姿を見つけると目を丸くし、

 

「アテナが―――」

「光ってる―――」

「――――どうなってるんだ?」

 

 アテナの方も護堂の姿を確認したのか、

 

「…そういえば、貴方とも決着をつけなければならなかったな」

「え、あ、そうだな」

「といっても、妾は力の大半を消耗した状態。現時点では争うことは避けたいのだが…」

「え、帰ってくれるの?」

「今の妾と戦って勝利したとしても、権能は得られないだろう。やはり後日仕切りなおしたほうが、あなたもいいのではないか?」

「いい!!もう来んな!!」

 

 アテナの背中に翼が生える。

 貴虎と戦っていた時のような立派なものではないが、これでも一応空を飛べるようだ。

 

「さらばだ、極東の神殺したちよ!!妾は今しばし羽を休める。再戦を楽しみにしていろ!!」

 

 そう言って夜の闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「…終わった?」

「そのようだな…」

 

 庭園外にて、結界を張っていた実力者五人組。

 その誰もが、息を切らせて地面にへたり込む。

 カンピオーネとまつろわぬ神の激突をどうにか庭園内に押し止めようと、全力で結界を張っていた五人組。

 何度も割られながらも、その都度貼り直していた。

 周りの民家が無事なのは、この五人の功績にほかならない。

 

「…年寄りにはきついわい」

「まったくですな」

「老いたな、と言いたいところだが、残念だが俺ももう限界だ」

「一世一代の大博打でしたネ」

 

 四人が健闘をたたえ合っている中で、釈迦堂だけが地面に突っ伏している。

 

「…もうやらん」

 

 なまじ好奇心を出してしまったがゆえに起こった今回の事態。

 釈迦堂もまた、貧乏くじを引いた人間の一人だった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 貴虎には忘れていたことがあった。

 家に帰ると、床に突っ伏しているゾンビが5人。

 

「ハラヘッタ」

「メシクワセロ」

「……」

「…ZZZ…」

 

「ふむ、ここがあなたの住処か、なんとも貧相な出で立ちよな」

 

 貴虎の後ろより現れたのは、さきほどまで雌雄を決していた相手、アテナ。

 

「…なぜいる?」

「満月の日、アルテミスの月光を身に浴びることで、失った呪力を回復させようと思ったが、それよりもあなたの呪力を内包した料理を食べたほうが早いの気づいてな」

「…ついてきたのか」

「さあ、客人として私をもてなすといい。安心しろ。妾も客人としてまいったのだ。あなた以外の人間の無礼にも、多少は目をつぶり、権能の行使も控えよう」

 

 そして、アテナの声に反応した者がもうひとり――――

 

「―――――お父さん、知らない女の声がするんだけど…」

 

 ギギギと擬音を立てて立ち上がる(小雪)

 その背後には守護霊として阿修羅が宿っているようにも感じられる。

 板垣家の面々は、空腹もあってまともに取り合うことができない。

 傍観することを決めた。

 内心、幾人かはざまあみろと思っていることだろう。

 これから起こるであろう出来事を思い浮かべながら、極大のため息を落とす。

 ――――まずは風呂に入らせてくれ。

 

「お父さん!!後ろの女のことを説明して!!」

 

 

 

 

 

 

 




戦闘シーン難しすぎです。
とりあえず、あと一話くらいプロローグとして続くので、どうかお付き合いください。

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