聖剣使いの禁呪詠唱の二次創作。
シュウ=サウラの過去がもっとかっこよかったらなぁとおもってサクッと書きました。
「…………」
彼は目を伏せ、身を委ねた。
両手両足を鎖で繋がれ、吊り上げられた牢獄の中。封印の闇術によって一切の身動きを禁じられ、一日に一度だけ寄越される飯の時間のみ、彼には動く権利を与えられる。
シュウ=サウラ。それが彼の名前だ。
「…………」
サウラは目蓋を上げる。
足元には小さな皿に置かれた質素なパン。それを持ってきた幼い少女が不思議なものを見るような顔で見上げている。
不快はない。サウラにとって、あらゆる全ては無に映る。
「早く出ろ!」
門番に怒鳴り急かされ、その少女はおどおどと去っていく。
サウラは目を細め、やがて閉じる。パンには手を付けず、門番が早く食えと怒鳴る声も聞き流す。
これは己が望んだこと。
悪しき冥王と呼ばれた自分には、お似合いの監獄。外にいても退屈だ。一歩動けば大災厄。
嬉しくも悲しくもない。
何も思わない感じない。
ならば此処に居ればいい。
シュウ=サウラは眠る。
幾度の目覚め。変わらぬ毎日。
それで良かった。
なのに、聞いてしまったのだ。
「いや…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
幼い少女の声。僅かに耳にした、配膳係に任命されていた少女の声だ。悲痛に叫ぶ声だ。まるで拷問を受けているような、決して耳になどしたくなかった――サウラが最も嫌う声だ。
「…………」
名も無き幼い少女は叫んだ。
左上に刻まれる焼印。熱い痛い酷いなんでなんでやめて苦しい。所詮奴隷である自分には叫ぶしかない。叫んだ分後から痛みが返ってくる。それでも叫ぶしかない。たったそれしか、少女に許された行為はなかった。
爛れる肌。赤く蒸気した印。一生拭えない奴隷の証。私はこれからもずっと牢獄で死に続ける。嘲られ嗤われ犯され苦しみ殺され続けるんだ。
……私はずっと、ずっと……この闇に縛られ続けるの。闇を支配する人間達に縛られ続けるのね。
「…………醜いな」
それは誰の声か。
壁がぶち破られた。
無造作に、強引に。
轟音と闇の奔流が暴れる。
「人は、人に縛られなどしない。自ずから縛られに行かん限りは、人は皆自由だ。ゆえに――」
持ち上げられた少女の体。
彼女を苦しめていた闇の人間達は皆醜く死に絶え、それはたった一人の少女を助ける為だけに起こった虐殺。
彼は――シュウ=サウラは言う。
「――お前も自由だ」
「……ぁ…………」
サウラは自ずから束縛を望み、そこに身を委ねていた。だが、彼は束縛を拒否し、解放した。己と、悲しむ小さな少女を。他にも大勢の奴隷は逃げ、サウラは久方ぶりに――綴る。
「幾何の眠りを誘う鎖 望んだ地獄はどれ程の天国だっただろうか
あぁ、躊躇うな。汝らは自由、解放されし清浄なる魂である
あぁ、世は穢れきっている。冥土の海が流れ出しているように、足を踏みしめる隙間すら有りはしない。
あぁ、壊したい。腐った総てをこの手の下に粉砕したい。遍く総ての闇を闇で以て溶かし尽くしたい。
これが冥王の応えなり。
これぞ冥王の怒りなり。
震えて慄け。哭き、平伏せ。
今宵此処は、閉ざされる」
宙に描き出された文字。スペリングと詠唱。自然に満ちるエネルギーを魔力に変換し、一人の《黒魔》――冥王シュウ=サウラの禁呪が蘇る。
「第十三階梯闇術
『
生滅の変移を捻じ曲げ、生を停止、死のみを動かす第十三階梯の禁呪。冥王を冥王たらしめる永劫の闇。
サウラは抱えた少女へ問う。
「……お前は、どうする」
少女は、言った。強い意思で。
「……あなたに……あなたに縛られたい。自ずから……あなたという優しい鎖に……」
一つの小さく大きな出会い。
冥王シュウ=サウラ。そして後に語られる少女の名は、王佐の魔女。
冥府に君臨した黒き魔女、と。