あたしの兄貴がこんなにモテるわけがない 作:powder snow
「あ、あんた……アンタねぇ……そんなトコで……なにやってんのっ!!」
大魔神という者が存在するなら、きっと目の前にいる妹みたいな顔をしているんじゃないだろうか。
そんなことを考えてしまうくらい桐乃は怒っていた。
「……ば、馬鹿な。何故――バレた!?」
「げ、玄関に黒いののクツがあったから……もしかしてと思って来てみればあんたぁ……!」
拳を握り締めながら、ぷるぷると怒りに身を震わせている我が妹。
その視線はベッドに腰掛けている俺と黒猫を真っ直ぐに刺し貫いていた。
「い、いや、違うんだ桐乃。これはな……ちょっとした行き違いつーか……きっとお前は何か盛大な勘違いをしている……!」
「勘違いってナニ? 何かやましーコトでもしてたわけ?」
「してねーよ! てか……だから違うんだって! 俺はただ、黒猫と一緒にゲ――」
妹のあまりの怒気に押され、俺はベッドから立ち上がるや、そのまま彼女に浮気現場を見られた彼氏みたいな釈明を始めちまった。
だが当の桐乃は聞く耳持たぬとばかりに部屋に押し入って来ると、俺の襟元に手を伸ばしてギュウッと締め上げる。
「――ぐえっ!」
「な・に・が違うっての? あたしが居ない間に女連れ込んだよーにしか見えないんですケド!?」
「なに……人聞きの悪いこと言ってんだっ!? ちょっと黒猫と一緒に……遊んでただけじゃねーか」
「それがキモいっつってんの! アンタさぁ、妹がいない間に妹の友達を部屋に連れ込んで……は、恥ずかしくないワケ!?」
「はあ? 黒猫はもう俺の友達でもあるんだ。別に部屋に呼んだっていいだろーが!」
「じゃあなんでコソコソと隠れるよーなコトしてたわけ? っていうかー、黒いのと遊ぶなんてあたしは一言も聞いてないんですケドぉ?」
「何でいちいち説明しなきゃなんねーんだよ! 俺は妹の許可とらなきゃ友達も呼べねーのか!?」
「うっさい! あんた、黒いのと……ベッドで仲良く並んで座ってたじゃん! ほんとキモい! マジ死んでよね!」
売り言葉に買い言葉。
なるべく穏便に事を終わらそうと思った俺の目論見は、木っ端微塵に吹っ飛んじまった。
確かに桐乃の言う通り、コソコソしてたのは認めるさ。
だけどそれは、黒猫とあやせが会ったら喧嘩になっちまうだろうなっていう老婆心からきたもんであって、決してやましい気持ちがあるから隠れてた訳じゃない。
きちんと言葉を弄すれば分かってもらえるはずなのに、この妹ときたら兄の話を聞きゃしない。
だけど……まあ、少しは桐乃の気持ちも分かる。
きっとコイツは混ぜて欲しかった、一緒に遊びたかったんだと思う。口では色々言ってるが桐乃は黒猫のことが大好きだし、俺に友達を取られたみたいで面白くなかったんだろう。
じゃなきゃここまで怒る理由が思い当たらない。
そう考えれば、ここは兄である俺から折れるのもやぶさかではなくなってくる。
俺は大きな溜息を吐いてから、未だ襟元にある桐乃の腕をそっと掴んだ。
「……あのなぁ、桐乃。ちょっと落ち着けって。ちゃんと説明すっから」
「――フンッ!」
桐乃はぷいっとそっぽを向きながら俺の手を払いのける。だけど声音を落としたのが効いたのか、何とか話を聞く態勢にはなってくれたようだ。
これで誤解が解ける。
そう思ったのも束の間、俺が説明を開始するよりも先に、桐乃がベッドに座ったままの黒猫に視線を移した。
「……じゃあアレの説明」
「アレ?」
桐乃に釣られてベッドを見てみれば、黒猫が俺のマクラをぎゅっと抱き締めながら、顎をマクラの上部に乗せているという実に珍妙な光景が見えた。
つーか、何してるんスか、黒猫さん。
昼ドラを見てるお袋の如くリラックスしてる態勢じゃないッスか。
……実は少し前からこの態勢になっていたらしいのだが、色々と切羽詰っていた俺はこのことに気付けていなかったのだ。
「――フッ。私の何処に問題があるというのかしら? あるのだとしたら是非聞きたいものねぇ」
状況が楽しくて仕方が無い。
そんな感じの実に嬉しそうな表情を浮かべながら、黒猫が桐乃に挑戦状を叩き付けている。その挑戦を受け取った桐乃は、第一声から豪快な啖呵を切った。
「良い度胸してんじゃん。なに? もしかしてあたしに喧嘩売ってんの?」
「どうしてそういう捉え方をするのかしら。私は状況に何か問題があれば説明しなさいと言ったのよ?」
「へぇ~。じゃあ言わせてもらうケド、なんでアンタ人ん家のベッドで我が物顔でくつろいでんの? マジむかつくんですけど」
「あら、そんなにいけない事かしら?」
「駄目に決まってんじゃん! それに……その“ぎゅっ”てしてるやつ!」
八重歯をむき出して桐乃が睨み付けていたのは、黒猫が抱いている俺の枕。
だが当の黒猫は何のことを言われているかわかりませんとばかりに、頭にはてなマークを浮かべている。
「ぎゅ?」
「こ、こいつの枕っ! なに大事そうに抱えてんの? ばっちいから捨てた方がいいよ、ソレ?」
おいおい、酷い言われようだなぁ!
俺の枕はばっちくないぞ!
ってか、どさくさに紛れて兄を足蹴にするんじゃない。
「フッフッフ。語るに堕ちたわねぇスイーツ(笑)ここは誰の部屋かしら? このベッドは? この枕はあなたの兄のものだと記憶しているけれど?」
「だ、だからっ?」
「あなたが怒る筋合いはないでしょうということよ。それとも“怒らなければならない理由”でもあるのかしら?」
そう言った黒猫は、これみよがしにマクラを“ぎゅっ”とするや
「あぁ……! ここが兄さんのベッド! これが兄さんのマクラ! なんて……なんて素晴らしいっ! はぁ、はぁ、はぁ――――くんか! くんか!」
『――なあああぁぁっッッ!?』
枕を抱いて匂いを嗅ぐ“真似”をする黒猫。その光景を見た俺と桐乃の絶叫が見事に重なった。
つーか、何してくれてんだこの黒猫は!?
恐らく桐乃を挑発する目的でやってるんだろうが……正気か、マジで正気なのか!?
けど挑発効果は抜群だったようで、怒りの為か、桐乃の頬が急激に紅潮していく。
「こ、このクソ猫っ! なにふざけたことやってんの? ぶっ殺されたいワケ!?」
「だから何を怒っているの? 先輩が怒るのなら分かるのだけれど、あなたには一切関係ない話しでしょう? それともこの行為は真実であり、あなたの隠れた趣――」
――プチン。
あ、桐乃がキレた。
桐乃は僅かに腰を落とすや、一瞬の溜めを作り込み――――あろうことか、黒猫に向かって“ジャンピングニーパッド”を放ちやがった!
手加減は一切無し。全力で放たれた桐乃の膝が、マクラを抱えたままの黒猫を捉える。
「ぐ……はぁ!?」
見事に直撃。
かろうじて枕でブロックした黒猫だったが、威力に押され壁際まで吹き飛ばされている。
つーか、友達に対してなんて技を放ちやがるんだコイツは。俺と黒猫に対してだけはいつも全力全開だよな!
ホント……我が妹ながら恐ろしい。
「……まさか、たかだか人間風情の攻撃が、この私の防御結界を上回るなんて――ッ!?」
「なぁにが防御結界よ!? ただのマクラじゃん。つーかさ、さっさとソレ離せっつってんのっ!」
ボカスカとパンチを繰り出す桐乃の連続攻撃を、防御結界(俺のマクラ)で防ぐ黒猫。
二人とも容赦なく扱うので、枕の寿命が心配になってくる。っていうかさ、こいつら枕が俺のだって忘れてね?
シーツもぐっちゃぐちゃだしよぉ……もう勘弁してくれ。
そう思ったからか、無謀にも俺は普段なら止めないだろう痴話喧嘩の間に入っちまった。
「おい、桐乃! 黒猫! もうやめろって。喧嘩すんなってっ!」
「うっさいっ!」「うるさいわねっ!」
『……ぐ…ほあっ!!』
まったく同じモーションで枕を投げつける桐乃と黒猫。投げつけられた枕は見事俺の顔面に直撃した。
さすがは親友。さっきまで喧嘩してたとは思えない絶妙のコンビネーション……。
「痛ってーな、おい! なにしやが…………」
「元はと言えばあんたが悪いんでしょ!?」
どうやら桐乃の怒りはまだ収まっていないらしい。一度は黒猫に向かった怒りの矛先が、再度俺の方へと向いちまった。
しかし俺には、桐乃に言い訳するとか説明するとか、そんなことに意識を向ける余裕がまったくこれっぽっちも無くなっていた。
何故かって?
それはな――
「だいたいアンタはいつもいつも…………って、なに? ドコ見てんの?」
どうやら桐乃も俺の様子がおかしいのに気付いたらしい。
マシンガンのように放っていた文句を収めると、俺の視線を追ってゆっくりと後ろへ振り返り――その光景を視界に納めた。
「え? あや……せ?」
凍り付いたような桐乃の声。
そう。俺達が見たものとは、半開きになった戸口に半身を隠しながら、中の様子を伺っている新垣あやせの姿だった。
「これはどういうことですか、お兄さん?」
天使のような声で、天使のような笑顔を貼り付けながら、あやせ様が部屋の中に入ってくる。
普段なら大いに歓迎するところだが、今は状況がそれを許さない。つーかぶっちゃけると、俺はかなりマジでビビッていた。
だってこの女、目が笑ってねーんだもん!
「……いや、違うんだあやせ。これはな、違うんだよ?」
「また妙なことを言いますね。違うって何に対して違うんですか? まるで“この部屋でいかがわしいことをしていたように見えるけれど違うんだよ、あやせ”という風に聞こえます」
「ななな、何を言っとるのかね? そんなわけないじゃないですかー。あっはっは……」
俺の乾いた笑いだけが室内に響いている。
あやせの正体を知っている桐乃も少し顔が引きつっているし、状況が分からない黒猫だけがぽかんとしていた。
「あのさ、あやせ。あたしが戻ってくるのが遅いから様子見に来たんだよね? ごめん! もう用事は済んだからさ、部屋戻ろっ!」
「ごめん、桐乃。ちょっとだけ黙ってて欲しいかな。今はお兄さんとお話ししたいから」
「は……はい」
状況を打開しようとした桐乃の提案は、にべもなく断られた。
そうっすよねー。あやせさんに睨まれたら“はい”としか言えないっすよねー。
「では、お兄さん。一つだけ聞いてみたいことがあるんですけど、答えてくれます?」
お願いという名の命令を受けた俺は、もちろん了承の意を示した。
「この部屋の状況から察するに……お兄さん、女の子を部屋に連れ込んだんですね?」
「ち、違う! それは断じて違うぞ、あやせ。さっきはそれを説明しようとしてだな――」
「連れ込んだんですよね?」
「――はい」
俺が頷いたと見るや、あやせの様子が一変した。
「いやらしい! いやらしい! いやらしいっ! わたしに“あんなこと”を言っておきながら、早速別の女を連れ込むなんて……この変態ッ!」
「だから違うって! 桐乃もお前もなんでそんな風に解釈すんの? 黒猫とは一緒にゲームして遊んでただけで、やましいことなんてなんもしてねぇよ!」
「嘘ですね! だってお兄さんが女の子と二人きりでいてエッチなことをしないなんてありえません!」
「どんだけ信用されてねーの、俺!?」
「今までの行いを思い起こした上で、まだわたしに信用されてるのだと思うのでしたら病院に行くことをお勧めします。それに、わたし達が戻って来るまで部屋では二人きりだったんですよね?」
「そりゃそうだけどよ……」
「ほら、認めた! さっき桐乃が“ベッドで仲良く並んでた”って言ってましたし、お兄さん――本当は密室で“なに”をしてたんですか?」
あやせの瞳から光彩が消えていくように見えたのは、俺の気のせいだろうか。
しかし、ベッドで云々~辺りの話しを知ってるってことは、あやせの奴、相当前からいたってことか?
さすがに戸口付近にずっといたら気付くと思うんだけど……もしかして桐乃の部屋まで話が筒抜けだったか?
確かに壁は薄いけど、細かい内容までは聞こえないはずなんだけどなぁ。
ぴたっと壁に耳を当ててない限りは。
幾ら桐乃の為とはいえ、そこまではしねーとは思うが……。
「二人きりなのをいいことに、いかがわしいことをしたに決まってます。バカ! えっち! 変態! いっそ――――死んでください」
不確定要素に対してそこまで言うか……?
怖ぇーよ。マジ怖ぇーよ、この女。
だがそれ以上に恐ろしい事態が直後に発生することになる。なんと桐乃があやせに待ったをかけたのだ。
「ちょ、あやせ。なにもソコまで言うことなくない?」
「え……?」
「だ、だからコイツも悪気があってやったわけじゃないじゃん? 何もなかったって言ってたし、つーかさ……その、チョットかわいそうかなーって」
「でも明らかにウソだよ?」
「黒いのを連れ込んだのはマジだと思う。ケドその先……っていうか、そんな度胸コイツにあるわけ無いじゃん。言っちゃえば未遂? みたいな」
「……桐乃」
正直我が耳を疑ったね。
桐乃が俺を擁護するとか夢でも見てんのかと思った。けど全身に鳥肌が立ったところを見るとどうやらマジらしい。
言い方に腹は立ったがな。
「……な、なに見てンの、あんた! 別にあんたの為に言ったわけじゃないし……こっちくんな!」
「いってえなぁ!」
別に近寄っちゃいないんだが、何故か桐乃に蹴られちまった。それを見た黒猫はなんかクスクスと笑ってやがるし……。
しかし、このやり取りで分かったことがある。
それはこの言動には裏があるということだ。
桐乃が嫌いな俺を擁護する理由なんてカケラもねえ。なら考えられるのは、桐乃はこの場を穏便に収めて、はやく部屋に戻りたかったということだろう。
あやせはオタク趣味を嫌悪しているし、黒猫と接触させたくなかったのかもしれない。
ようし、これで得心いったぜ。
ここは妹の案に乗っかって、俺も場を収める努力をするか。
「――あやせ。お前が桐乃と遊ぶのを邪魔されて怒ってるのは分かるよ? けどよ、このままこーしていても時間は減っていく一方だ。誤解されるようなことした俺も悪いけどさ、ここは収めちゃくれねえか?」
「……お兄さん?」
「お前が心配してるよーないかがわしいことも無かったと断言する。なあ黒猫?」
「ええ。“まだ”無かったわね」
更に誤解を招くような言い方してんじゃねーよ!
だが、あやせは納得しないまでも、追及は諦めてくれたようだ。
「ふう。仕方ありませんね。この場でこれ以上追求しても埒が明きそうにないですし……桐乃にああまで言われたら諦めるしかないですよね」
可愛く嘆息するあやせ。その瞳に光彩が戻った。
だが、その矛が完全に収められた訳では無かったようで、あやせは俺から視線を外すと、面識がないはずの黒猫の方へと矛先を向ける。
「そして――――あなたが“あの”黒猫さんですか?」
「……そうね。ハンドルネーム、黒猫よ」
「はじめまして。わたしは新垣あやせと申します。桐乃の親友で、そこのお兄さんとは顔見知りです」
まあ間違っちゃいねえ。
「この女の……親友ですって?」
「はい。――たった一人の親友です。それにしても黒猫さん。クロネコなんて名前をよく恥ずかしげも無く人前で名乗れますね。そういうの厨二病って言うんでしたっけ? 早く卒業したほうがいいですよ」
「……言ってくれるじゃないの、スイーツ2号。うまく擬態しているようだけれどこの私は騙せないわ。あなた――身体の内に醜悪なバケモノを住まわせているようねぇ。……クク、とってもおぞましいわ」
『……フ。フフフフフ』
天使のようなあやせの微笑みと、妖艶な黒猫の薄笑み。
互いに相手を見つめて笑い掛けているのだが……これって、仲良くしようね! っていう挨拶じゃないですよね?
おいおいおい。お互い自己紹介しただけなのに、いやに険悪じゃねーか。
「初対面でこういうことは言いたくないんですけど、あなたとはお友達になれそうにない気がします」
「あら、奇遇ねえ。私も同じことを考えていたわ」
なにこの雰囲気?
なんで会っていきなり喧嘩おっぱじめようとしてんの、この二人?
あまりの超展開に俺も桐乃も絶句してしまい、声をかけるタイミングを逸していた。
そして、突然形成されてしまった魔空間。この世界をぶちこわしてくれたのは、なんと第三の闖入者だった。
「桐乃ぉ~。ジュースまだかよー?」
廊下から俺の部屋へ差し掛かり、おやっという表情を浮かべたのは
「か、加奈子!?」
「ありゃりゃ? もしかして修羅場かぁ? うひひ。面白そうーじゃん」
……まさかこいつも来てやがったとは。
廊下から部屋に押し入って来た女の子は、桐乃とあやせの共通の友達である来栖加奈子だった。
見た目は桐乃達と比べると随分幼く、もう〇学生にしか見えない。こいつを攻略対象にした瞬間、俺は間違いなくロリコンの烙印を押されてしまうだろう。
いやいや、俺、加奈子に興味ねーし、ロリコンじゃないからね?
その加奈子は室内をぐるっと見回した後、軽く桐乃にメンチを切りやがった。
「つーかさ、ジュース取りに行くだけでどんだけ人待たせてんだっつーの。あやせも途中でいなくなるしよぉ。いくら温厚な加奈子だっていい加減キレるゾ。お?」
ちなみに俺と加奈子に“直接の面識”はないが、ある事情から違う人物としての面識ならあるという困った事態になっていた。
その辺りはあやせしか知らないので、何とかこいつを誘導して欲しいんだが……。
果たして願いが通じたのか、あやせが加奈子に両手を合わせペコっと頭を下げた。
「ごめーん、加奈子。桐乃を向かえに来たんだけど、なんかお兄さんが“ジュースだけじゃなくてケーキもあったほうがいいよな”って言ってくれて、それで買いに行ってもらうところだったんだ」
「へぇ。桐乃の兄貴チョーイイやつじゃん。――じゃあ、加奈子ぉ~ショートケーキとモンブランとチーズケーキとシュークリームお願いしまぁす」
甘ったる~いぶりっこボイスで四つも頼みやがったこのクソガキはおいとくとして、これで何とか場を抜け出せそうである。
予想外の出費になるが……あやせの機転を無駄にする訳にもいかねーし、仕方ねえ。
俺は了解したと片手を上げて応え、部屋を出て行こうと歩みだした。
もちろん、その後ろから黒猫もついて来る。
「……フン。落ち着いたら説明聞かせてもらうから」
通り抜けざまに桐乃がそんなことを呟いた。
けど、もう説明することねーんだけどなぁ。けどこいつ納得しないんだろうなー。
っち。頭が痛いぜ。
そして家を出て、ケーキ屋へ向かう道すがら。
「ごめんな、黒猫。色々とぶち壊しになっちまってさ」
「そうね。この埋め合わせはいつかしてもらうわ」
そう言ったものの、黒猫の表情から非難めいたものは感じ取れなかった。それどころか、少し楽しそうな表情を浮かべて
「それに、今日は“敵”を確認できただけでも良しとするわ。私もそうだけれど……あの女も色々と災難ね」
「それってどういう意味だ、黒猫?」
「フフ。先輩は随分と深い業を背負っているということよ」
「あん?」
結局、黒猫は微笑むだけで、それ以上の答えは返してくれなかった。
その後、黒猫にもケーキを買ってやってから俺達は別れることにした。
別にいらないわよ、と随分照れていたが、桐乃達に買ってやって黒猫に買わない理由はないだろう。
ちなみに自分の分のケーキは買っていない。
あ? 何故かって?
そりゃもちろん加奈子が四つも頼みやがったからだ。予算をオーバーしたんだよ。
あのクソガキ。覚えてろよ。