慢心していた。もう制覇した迷宮だからって余裕でいたらまさか今までと違うギミックがあったなんて驚きだ。しかも山岸や久慈川さんでも気がつかなかったなんて。
「みんな!!」
悠が叫んだ時には遅かった。僕と悠、そしてほかのメンバーとの間に柵が降りてまるでみんなは囚われてるようになっていた。
「っ……!」
咄嗟にペルソナを召喚して攻撃してみるけどビクともしない。内側から真田先輩や荒垣先輩が攻撃してるけどそれでも壊れない。
「陽介、内側は大丈夫か?」
「特に問題はねぇよ…。相棒たちこそ大丈夫か?」
「俺たちも大丈夫。だが、これはどうしたら……」
僕を含めたみんなが悩んでいる時に不思議な声が迷宮中に響いてきた。ごうこんきっさで聞いたような機械の音声のように聞こえるけどそれよりかはとてつもなく不気味に聴こえる。その声から発せられた言葉に僕たちは耳を疑った。
[仲間の開放条件は鳴上悠が有里湊の胸を刀で貫け]
要するに僕の体……つまり心臓を貫けってこと、だと思う。この時僕は恐怖とかよりも真っ先に浮かんだのが「僕が死ねばみんなが助かる」ってことだった。このままここにいたっていつシャドウがくるかわからないし、この声の主が何をしてくるかわからない。ふと悠を見ると僕を動揺の目で見つめてくる。ほかのみんなもだ。なんでそんなに動揺する必要がある?僕一人でみんなが助かるんだ。そっちの方がいいじゃないか。正直、自分なんてどうでもいい。みんなを守るために命を使えるならそれだけで僕が生きてたっていう存在意義になる。そう思った瞬間僕は悠に向き合う。
「悠。僕の胸を貫いて」
自分の胸に手を置いて悠に話しかける。なのに簡単にわかるように伝えた筈なのに悠は固まったままだ。言っている意味がわからないといっているように。
「聞こえなかった?その刀で僕を刺して。そうしたらみんなが助かる。はやくして」
悠を軽く睨みつけながら言うと返ってきた言葉は僕の思いを無視するものだった。
「そんなの!!できるわけがないだろう!?胸を貫けってことは…心臓を貫けってことだろう!?そんなの…できるわけがないだろ…!!」
「なんで?僕一人が犠牲になればほかのみんなが助かるんだ。このまま全滅より一人の犠牲で助かった方がこれからの探索も効率いいだろう?」
「ほかに方法があるはずだ!!君が犠牲にならなくてもいい!!」
「じゃあ何?ほかの方法っていうのは何?あの柵はペルソナでも壊せないのにどうするの?相手が僕の死を要求してるならそれを飲むしかないだろ。悠、早く」
僕の言葉に悠が息を飲んだのがわかる。図星だ。僕の言葉は正論のはずだ。それしか方法がないのだから。たぶん多くの時間があるなら打開策もじっくり考えれただろう。でも、たぶんだけど時間はない。だっらすぐに解決する方法は僕が死ぬことだ。僕自身が悠の刀で貫いてというはダメだろう。だったら悠を説得しないと…そう思った時だった。聞き覚えの声が聞こえた。
「うわぁ!!」
「きゃぁ!!」
声のする方を見てみるとみんなが倒れたりしていた。肩を押さえてたりしている。それをみて悟った。時間がない、と。悠!っと叫ぶが固まったまま動かない。なんとか説得して悠に僕の胸を貫かせないと…。なら僕の胸を貫ける手助けをしよう。僕は悠の握っている刀の歯の部分を掴み、先を自分の胸に当てて固定する。歯の部分を握ったから手が切れて血が流れてる。でも、もう死ぬ身だしどうでもいい。
「ほら、これなら君が刀を押すだけで僕を刺せるよ。悠早く」
優しく語りかける。それでも悠は首をふって拒否をする。刀から悠が震えているのがわかる。ほんとステータスMAXのくせにこういう時になぜそれを発揮しないかなぁ…って心の中で笑う。仲間たちの方を見るけどたぶんこれ以上はあの声の主は待ってくれないと思う。次はどんな攻撃がくるかわからない。早く僕が殺されないと…そう思った時だった。ふと浮かんだ案に自然と笑が溢れる。あぁ…初めからこうすればよかった、と。僕は召喚器を握り締めて自分のこめかみへ銃口を当てる。召喚器の冷りとした感覚を感じ取りまだ生きてるんだなぁって実感する。これから僕は死ぬんだ。こんなことも感じられなくなるのかって思うと恐怖よりもなぜか笑いが込み上げてくる。これが死かな…?まぁどうでもいいや。僕には今しなければならないことがある。
「悠」
彼の名前を呼ぶ。悠は驚いた顔で僕をみる。初めてこんなに驚いた顔を見た気がするなぁと今更思った。本当に悠に会えてよかった。楽しいひと時を味わえて。元の世界に戻ることはできないけど、楽しい思い出作れてよかった。本当によかった。そして僕は精一杯の感謝を込めて愛する人に話しかける。
「悠、大好き。ありがとう」
そう言って僕はたぶん久しぶりに作れただろう笑顔を悠に見せる。ほんと、手のかかるサブリーダーだこと。悠との思い出に浸りながら僕は召喚器の引き金を引いた。
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湊の引いた召喚器の音の次に来たのは背中への衝撃だった。視野の端に見えたのは湊のペルソナ、オルフェウス。オルフェウスが俺の体を押したのだろう。その次に来たのは何かを貫く刀から伝わる感触。俺はその感触の先をみる。それは湊だった。湊は俺が刺したことになるようにペルソナで俺の体を強制的に動かしたのだろう。まるでスローモーションのように感じたほんの数秒の間に見た湊の顔。優しく微笑んでいた。いつものどうでもいいと言って無関心な無表情とは違っていつも綺麗な顔だなって思ってたのがその笑顔でさらに綺麗だなって感じた。
「いやああああああああ!!」
岳羽さんの悲鳴でスローモーションの世界が一気に通常に戻る。湊を見てみるともうあの綺麗な笑顔は見れなくて顔は血で染まり、どんどん白くなっていっていた。すぐに俺は湊の体を抱える。
「湊!湊!」
名前を呼んでも返事はない。条件が達成されたのかいつの間にか解放されていたメンバーたちが駆け寄ってくる音が聞こえる。岳羽さんや天城や回復系が使えるメンバーは湊を回復させようとしているが聞かない。徐々に白くなっていく湊をただただ見ることしか出来なかった。
「……どうしてっ!!!!」
微かに聞こえていたはずの湊の呼吸の音がしなくなった。湊は、湊は死んだ。それを信じたくなかったでも上下しない胸や聞こえない呼吸音がいやというほど湊の死を俺、いや俺だけじゃない。みんなにも突きつけるものだった。
こうして有里湊は命を落とした。