異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
箱庭学園という学校を知っているだろうか?一学年十三クラスというマンモス校だ。一組から四組は普通科、五・七・九組は体育科、六・八組は芸術科というクラス分けに加えて、十組から十二組はそれぞれ特別科というクラスがある。百年の歴史を持つ伝統校で、その伝統に恥じぬだけの部活があり、全国大会の常連を輩出し、卒業後に様々な分野の第一線で活躍する人間も少なくない。
どこの学校でも同じことだとは思うのだが、この学園にも生徒会執行部という組織がある。しかし、ここの特色として生徒の自主性を重んじるという校風があるため、その仕事は多岐に渡り、生徒会長ともなれば学校への時間拘束はかなりの物となる。とは言う物の、決してなり手がいないというわけではなく、毎回の選挙の際には相当な数の立候補者が出て、生徒会というものの人気を窺わせるところではある。
まあ、そんな学校の中で生活する生徒諸君においては、学校の校風もあり、自身の青春時代を自らの打ち込みたいものに全力を注ぐことができると殊更評判なのだが、今まで語らせていただいた私としては非常に気になることがあるのだ。というのも…。
―――――なんで生徒の血液型が全員AB型なんだろうか?―――――
そう、周り人の血液型がAB型であることを不審に思い、全校生徒の名簿を先生から見せてもらったところ、全員がAB型なのである。AB型というのは日本人の中でも割合が低いはずなのだが、この学園で調べた限りにおいては、AB型100%である。一体何がどうしてこのような事態になっているのか。まさか何か意図でもあるのか。思わず邪推してしまうほどに、この学校は異常だった。
異常と言えば、この学校のクラスを一つ説明し忘れていた。十三組、このクラスに関しては、謎が多いという言葉では足りないだろう。何せ、学校側から登校免除を言い渡されており、十三組の生徒で学校に来ているのはほんの僅かなのである。この学校の異常性が際立つ一因となっている。
そんな箱庭学園だが、ついこの間生徒会の会長選があった。その一件で、私のこの学校に対する異常性の認識は一際目立ってきたと言っていいだろう。その子は、他の候補者に大差をつけ、というか、ほぼ票を独り占めして、支持率98%という異常な数字で生徒会に当選したのである。その子は未だ一年生であるにも関わらず、だ。別に一年生が生徒会長に当選した程度では驚かないが、支持率の高さとも相まって、私はあの子のことを
つまるところ、十三組の人間は……異常なのだ。
―――――一年一組 教室内―――――
「―――ねぇ、聞いた?新しい生徒会長の噂―――」
「私達と同じ入学したての一年のくせに」
「態度がエルな奴だっていうあれか――?」
「ひくほど美人だけどさ、行動の破天荒ぶりで絶対損してるよな――」
「あの傍若無人さに先生も手を出せないとか―――」
クラス内の喧騒に耳を傾けつつ、やはり彼女の話題でもちきりなのか、と少し辟易とした感情に包まれる。既に生徒会の就任演説からは少し時間が経過しているにも関わらず、ここ数日は喧騒に耳を傾ければ彼女の話題が聞こえてくる有様だった。
「…ありゃあ、人の前に立つことに慣れてんじゃねえよ。人の上に立つことに慣れてるんだ!」
「あー、そりゃそうだね。そーでなきゃ、一年で生徒会長になんてなれっこないか」
まるで生徒会長のことを熟知しているかのような発言が、私の席のすぐ後ろから聞こえてくる。後ろの席に座っているのは…。
「人吉君か。それに不知火さんも」
「ん?どうかした?」
「いや、まるで生徒会長のことを熟知しているかのような発言だったからね。少し気になって」
私がそういうと、人吉君はバツが悪そうに目をそらしつつ、アイツとは幼馴染だ、と言ってきた。なるほどね、確かに幼いころから見ているのであれば、分析ができるのも納得だ。…彼女と、幼いころからの付き合いねえ…。
「よく耐えられたものだね。かんしんするよ」
「おかげでいつも振り回されっぱなしだ!いいか不知火、俺は絶対に!生徒会には入らねえ!」
そう言っている人吉君の後ろで、噂の彼女は人吉君のポーズを真似しているわけなのだけれども。まあ、不知火さんは気付いているのかな。ものすごい良い笑顔だ。
「―――まあ、そうつれないことを言うものではないぞ、善吉よ」
噂の種になっている、この箱庭学園生徒会長様であるところの、黒神めだかさんである。彼女は有無を言わさずに、人吉君をどこかへ引きずっていった。
「あれ、人吉は?」
「や、日向君。人吉はね、さっき怖ーい生徒会長さんに連れてかれちゃったかな?」
「ご丁寧に頭を掴まれて引きずられていったよ」
「…そーいやなんか選挙活動も手伝ってたね…。人吉と新会長の関係って一体どういう関係なのかね?」
「人吉君曰く、幼馴染だってさ」
「だけどあたしに言わせりゃ、ただの腐れ縁なんですけどね♪」
そういう不知火さんは、これから起こるであろう騒動に目を輝かせつつ笑顔を浮かべていた。日向君は何か思案しているようで、そこで会話は終了となった。まあ、あんなことを言っていた人吉君だけれど、彼女の押しに負けて生徒会に所属するのは間違いないだろうなと思いつつ、私は下校準備を始める。周りの生徒ももう下校支度を済ませて、それぞれ部活や帰宅の途へ着こうとしていて、既に教室内は人影も疎らになっている。今は部活動もお試し期間であるため、興味のある部活へ仮入部をしているのか、校門前にはまだそれほど生徒もいないようだった。かくいう私も、今日は部活に本格入部をするため、第二音楽室へ向かう予定である。この学園、専門の音楽高校にも劣らないほど優秀なオーケストラ部を持っており、それと隣接する形で、ピアノ同好会というものがあるのだ。とはいうものの、演奏をしたいわけではない。私がやりたい事は、幼いころより父から学んだことを実践したいだけ。ピアノ同好会という名前は残っているものの、去年の三年生が卒業したことで、実質廃部しているも同然であるらしく、これから部員が入ることがほぼないであろう。顧問もオーケストラ部との掛け持ちで、こちらには全く顔を出さないのだとか。そんな好条件が整っている部活に、私は真っ先に飛びついたわけだ。まあ、演奏がしたいわけではないとはいったものの、部活動の本分が演奏にある以上、ある程度の演奏はするつもりだが。そんなことを考えつつ、私は第二音楽室へと向かった。
―――――第二音楽室―――――
ポーン、ポーンと教室内に音が響く。若干狂った音が出ているため、人によって不快と感じることもあるだろう。第二音楽室は使用頻度もそれほど高くないため、業者が入ることも少ないようだ。
私が父から教えられ、卒業後は一生の仕事としてやっていくだろうこと、調律。既に学園から許可は貰っているため、このピアノは私が三年かけて調整をしていく。学園内の他のピアノについても、調律が必要なときには私がやることを条件にされたけれど。業者に頼むよりは確かに安く上がるのは間違いないだろう。何せ、無償なのだから。既に父から工具は一通り貰っているためにできない作業はない。弦はまあ、父の工房から貰い受ける形になるだろうか。
これから三年付き合っていくピアノに、私は挨拶代わりにと音出しをし続けた。やがて下校時刻も近くなる。本格的な部活動は明日からだな、と思いつつ、私は音楽室をあとにした。
―――――帰り道―――――
「おやおや、奇遇だね!」
「ああ、不知火さんか。こりゃ奇遇」
「ねえねえ、もしよかったらさ、近くの喫茶店にでも行かない?オイシイお店知ってるんだけど」
「構わないよ。可愛らしい女子に誘われるのなら断る筈はない」
「……その辺、直した方がいいかもねー」
「?」
「ま、それじゃ早速ゴーなのだ!」
――――というような経過で、現在私は不知火さんと喫茶店に来ている。というか。
「よくそんなに食べられるね。私は見ただけで胸やけをしそうだ」
「んー?これくらいは入るよ。燃費めっちゃ悪いし、アタシの体」
チャレンジメニューというものを知っているだろうか?制限時間内におよそ常人には独りで食べるのが難しそうな量の料理を食べきったら賞金がもらえたり、食事が無料になったりするのだが、不知火さんは今、喫茶店自慢の特大マウンテンパフェを凄い勢いで食べている。このメニュー、制限時間は30分であるらしいのだが、まだ10分たっていないにもかかわらず、既に残すところ普通のパフェ一人分程になっていた。あ、今食べきったからクリアかな。
「く…、クリアです…!」
「意外と量は多くなかったかな?今まで一人も食べきったことないって言ってたし期待したんだけど」
「いや、どういう胃袋してるんだ、君は。正直甘い物好きな人でもアレを10分そこらで食べきることなんてほぼ不可能だと思っていたんだが」
「えー?燃費悪いし?」
「それですまされる問題なのかは分からないけど…まあいいや。で、なんで私を誘ったのかな?私は君と特別親しいわけでもなかった筈だが?」
「そりゃー親睦を深めるため…ってわけでもなくて、びっくりしたからかな?」
「びっくり?むしろ私は今の光景にびっくりしているわけだけれど」
「いやいや、そうじゃなくてね」
そういうと彼女は、少し間をおいて私に言い放ってきた。
「……なんで、
…どうやらこの学校においてAB型以外の人間が入ることは異常であるらしい。それが気になっていたということか。まあ、気持ちは分からなくもないが、むしろ学校という限られた場とはいえ、数百人以上が集まる学校のメンバーほぼ全員がAB型ということの方が異常だとは思わないのか?
「私に聞かれてもね。大体、私の方が気になっていたんだよ。なんでこの学園にはAB型の人間しかいないのかって」
「……にはは、それもそうだよね。ごめんごめん。それが普通の反応だよね」
「ま、違和感を禁じ得ないのは仕方ないと思う」
「そっか。改めて自己紹介するよ♪アタシは不知火半袖。君と同じ一年一組さ」
「そうだね。人間関係において、自己紹介は大切だ。私は
――――どうやら、この学校においては私が存在する事こそ異常であるらしい。
はじめまして、既にこの作品を知っている方はお久しぶりでございます。
以前にじファンにて投稿活動をしておりましたEINSこと、のろしでございます。
一時期こういった活動からは離れていたものの、久々に拙作の続きを書きたくなり、こちらにて
投稿させていただく次第でございます。
しばらくの間は今まで投稿していた分の補筆・修正分になるかと思いますが、よろしくお願いいたします。