異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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普通に考えてその服装は異常だと思う。

 読者諸氏の一部には、高校や中学などに風紀委員会、もしくはそれに類する委員会があったかと思う。この箱庭学園に於いても風紀委員は存在し、生徒会が設備や学生の不安の解消を担っているのに対し、風紀委員は文字通り学園の風紀、つまりは治安の維持を担っている。以前にもお話ししたようにこの学園は生徒の自主性を重んじているためか、その権限は理事会、職員室など、他の組織或いは派閥から影響を受けることも、拘束されることもなく、その存在の意義と良心に基づき権限を行使する、という文言は生徒規約にも乗っている。風紀委員に限らず生徒会以外の委員会は、名義上生徒会の下部組織に分類されているのだが、だからと言って生徒会の権限が強いわけではなく、各委員会と我々生徒会は対等な関係にあると言っていい。『下につけども従わず』、この学園の各委員会が生徒会に対して信条としている文言だ。どこぞの先進国の三権分立的な不安定なものよりも、よっぽど自立していることには尊敬すら覚える。まあ、なにが言いたいかといえば、取り締まりの対象は何も一般生徒に限ったことではなく、我々生徒会にも関係する事なのだ。今回の話はそんな風紀委員と、現生徒会の初めての邂逅から始まる。

 

 

 

 

 

 学園風紀徹底取締週間、言葉通り学園内の校則違反などの取締まりを風紀委員主導で徹底する一週間である。その取締まりの厳しさから学園警察と揶揄される風紀委員が、もっとも活躍する一週間であり、殆どの生徒が目をつけられぬよう大人しくしている一週間でもある。とはいえ、風紀委員は校則違反を犯してない生徒には無害な存在ではあるのだが。

 

「校則違反です!あなたがたの服装には正しい部分が一つもありません!服装の乱れは心の乱れ、あなたがたの心は完全に乱れきっています!この風紀委員会、第三部隊所属の鬼瀬針音、私の目が黒い内はあなたがたのような謎の風体の生徒を校内に足の親指一本も入れさせませんからね!!」

 

 教室棟からでさえよく聞こえる鬼瀬ちゃんの声を聞きながら、私は彼らの服装について考察していた。チェーンネックレス着用に改造制服、更には私服登校といった具合で、確かに学生生活を送る上で正しい服装とは言い難い。短い人生の中でもたった一部の青春時代を楽しく過ごしたいのは分かるが、流石に守るべきルールというのは存在する。ちょっとした違反であれば直に改善もできるだろうが、あのレベルでは流石に今日どうにかなるレベルではないので、鬼瀬ちゃんのお叱りをしっかり受けるほかないだろう。…そう言えば私以外の生徒会の連中も明らかに校則違反の服装だったな。あ、ちょうど通りかかってる。…鬼瀬ちゃんの魂が抜け出ているように見えるのは気のせいだろうか?いずれにせよ、今日の生徒会室には怒号と罵声、暴力の嵐が吹き荒ぶだろうな。書類を避難させるためにも、早めに生徒会室へ向かわねばなるまい。私はそんな益体もないことを考えつつ、不知火さんと談笑に興じていた。

 

「しかし、あの子と海路口が友達とは思わなかった☆海路口の口訊きでお菓子の事とか不問にしてもらえないかにゃ?」

 

「彼女と友達なのはそういった贔屓をして貰いたいからではないからね。ただ、彼女が可愛くて、偶々入学式のときに隣に座っただけだし」

 

「海路口って女好きだよねー♪あたしも口説かれちゃったりして☆」

 

「随分前から口説いているのだが。君の心には届いていないようだが」

 

「ごめんなさい♪」

 

「構わんさ」

 

 

 

 

 

 さて、ちょうど書類を安全な場所(生徒会室にある私のロッカー)に入れて、準備を終えてしまったところで、鬼瀬ちゃんはやってきた。つかつかと会長様の席に向かい、机に手を強く叩きつけた。ああ、鬼瀬ちゃんの罵声開始の合図だ。

 

「一体、なにを考えているのですか生徒会(あなたがた)は!生徒の範であるべきはずの生徒会役員が、一体どんな魂胆で率先して風紀を乱してやがるのですか!?まず人吉善吉君!どうして制服の下にジャージを着ているのですか!まさかオシャレのつもりではないですよね!?」

 

「いや、そろそろ俺に時代が追いついてきたかと…」

 

 そんな時代私が生きている間に来てほしくない。

 

「阿久根高貴さん!たとえあなたがエルヴィス・プレスリーの熱烈なファンだとしても、その大胆さはあり得ません!」

 

「正面から怒られたら流石に返す言葉もないな……」

 

 いくら会長様に心酔しているとはいえ、そこまでやる必要はないだろうという言葉は正論ではなかったのか。

 

「そしてそこで自分は関係ないとばかりにソロバン弾いてる喜界島もがなさん!あなただって十分校則違反です!」

 

「…何が?私は制服改造もしてないし、スカートだって普通の…」

 

「下に水着を着といて何言ってやがるんですか!?」

 

「……っ!?…フッ、今のはお前を試したのだ、よくぞ見抜いたな!」

 

 遥かなる高みから言っているように見えてもそれはただのバカにしか見えないわけであるが。バカな子ほどかわいいというのはこういうことなのだろうか。

 

「…なんかお前の心の声が男女差別に満ちている気がするんだが」

 

「ん?そんなつもりはないが?」

 

 

 さて、その場で三人は着替えを強要され、仕方なく正規の状態へ戻っていたのであるが、一気に作業効率が落ちている。お前らは顔がぬれた餡麺麭の人か?服装ぐらいでそんなに落ち込むとは、一体なんでなのか。

 

「鬼瀬ちゃん、態々仕事に来させてしまって申し訳ないね。だが、どうにも仕事効率が悪くなってしまって仕方がない。生徒会室だけなら他の生徒に見えるわけでもないのだし、ここで好きな恰好をするくらいは大目に見てくれないか。主に私の負担を減らすため」

 

「四方寄……ですが、ここで許せば外でも同じことをするでしょう?生徒の規範になるべき生徒会役員が率先して校則を破っては……」

 

「…まあ、それくらいにしてやってくれ、鬼瀬同級生。みな決して悪気があったわけではないのだからな」

 

「あ、いえ。こちらこそ職務中にお邪魔いたしました。それでは失礼させて頂きます!」

 

「うむ、委員長によろしく頼む」

 

 うん、何故そこまで悠々と接する事が出来るのか。基本真っ直ぐな鬼瀬ちゃんは意外と翻弄されやすいのだが。

 

「って、そんなわけないしょー!!一番問題なのは生徒会長、あなたです!その恥ずかしい制服以上の悪気が、この学園内にありますか!?」

 

 多分悪意なら有ると思う。おもに理事会とかあたりに。恣意的な生徒獲得とか色々。

 

「恥ずかしい?なにを言うか。随分と的外れなことを言うな、鬼瀬同級生。この黒神めだか、己が肉体に恥じる箇所など一つもない!!」

 

 およそ話しが噛み合わない。恥ずかしいのは肉体ではなく服装のことだ。というか、肉体も服装も恥ずかしくないとしてもだ、その考え方は恥ずかしいだろう、常識的に考えて。それを意に介さない会長様は、やはり普通ではない。

 

「だから、服装を恥じてください!そんなに胸元を露出してはしたない!!」

 

「これは胸元を露出しているのではない、胸元以外を隠しているのだ」

 

「「基本全裸なんですか(なのか)!?」」

 

「少しはご自身の影響力という物を考えてください!真似する生徒が出たらどうするんですか!?」

 

「真似?結構なことではないか。むしろ推奨するな。私は任期中に女子の制服をこれで統一しようと思っている」

 

「とんでもねえ事企んでやがります!?」

 

 その通りだ。会長様のように胸に自身のある生徒ばかりではないのだから、流石にそれは遠慮すべきだと思う。まあ、見る分には楽しそうだが。

 

「…流石のめだかちゃんも少し押され気味ですね」

 

「ふっ、虫だな人吉クンは。これはいつものパターンだろう?ここからだよ、今回は一体どんな名台詞が出てくるのだろうか。鬼瀬さんは勿論、俺達も思わず唸らされるような名言は!」

 

「何が何でも着替えてください!それとも何かその服装である合理的な理由でも有るんですか!?」

 

 あったらあったで厭だと思うのは私だけか?

 

「……とにかく嫌だ!」

 

 その言葉に鬼瀬ちゃんは唖然とし、生徒会正役職の三人は壁に手を添えて俯くというポーズをとった。まあ、その後で鬼瀬ちゃんが暴れたのは言うまでもないことなので、詳細は割愛させていただく。…書類を避難させておいてよかった。

 

 

 

 

 

 全ての業務が終わり、鬼瀬ちゃんをメールで呼び出して一緒に喫茶店へ行く。会長様及び生徒会正役職のメンバーには随分と怒りが募ってしまったようで、喫茶店に着くなりずっと愚痴を零し続けていた。その様子も可愛いのであまり気にはしていないが。そのうち私は学園の秩序を守るために身を粉にしていると言うのに、あのような人が支持率98%で此方は嫌われ者なのかだとか、風紀に入ってから友達もいなくなり、最早君しかいない、結婚してくれだとか、喜んでと思うようなことを言ってくれたのだが。急に私へ顔を向け、彼女は良い笑顔で思いついた、と私に言ってきた。

 

「そうです、目安箱を使えばきっと黒神さんの服装を正すことができる!」

 

 御馳走様でした、と彼女は喫茶店を後にした。ああ、支払いは私なんだな、とか、きっと彼女の企みは失敗してしまうのだろうな、とか、そういえばここの新商品はわらびもちスイーツだったから追加しようかな、とか考えつつ、まず…

 

「すいませーん、追加でわらび餅とソフトクリームの黒蜜掛けをください」

 

 スイーツを食べることにした。糖分は脳を円滑に動かすための必需品である。待っている間に、今度は不知火さんが来たため、私は財布の中身を確認し、少しバイトの時間を増やそうかなどと考えたわけである。

 

 

 

 

 

 50Mプールが新設されたということは、既設のプールがあるということだ。屋外に設置されていて、この間の水中運動会が開催される前までは此方で授業や部活動を行っていた。が、屋内プールの使い勝手の良さが解ってから、一気に此方は使われなくなり、水もだいぶ前に抜かれた筈であった。が、この間少し長雨になった時期があり、そこで溜まったのであろう水が腰の高さほどまでになっており、落ち葉なども相まって不気味な様相を呈している。と言えば風情も有るのかもしれないが、実際はただボロく見えるだけだ。生徒会執行部は、今朝鬼瀬ちゃんからここに集まるよう言われており、少しの疑念を(会長様除く)感じつつも、此方へ来たわけである。そこで有ったことは…まあ、鬼瀬ちゃんは女優などの演技力を必要とする職業には向いてないということだった。

 

「さあ、私にできることはここまでです!どうなさいますか、黒神さん!」

 

「…ふむ、よくわからんが、まあよくわかった。では、目安箱への投書に基づき生徒会を執行する!」

 

 恐らく鬼瀬ちゃんの考えとしては、会長様を水着に着替えさせ、その間に更衣室に置かれた会長様の改造制服を通常仕様に変えておくとか、そのような作戦なのだと思う。だが、会長様は鬼瀬ちゃんの予想の斜め上を行った。つまり、制服のまま飛び込んだのである。曰く、「乱れようが汚れようが所詮はただの服」ということらしい。この生徒会仕様の制服、決して一着当たりの値段は安くないと思っていたのだが、金銭感覚も異常な会長様からすれば気にならないらしい。私のような一般学生なら間違いなく着替えるが。そしてそんな制服を貸与でも着たいとは思わないのだが。仕様であるためにしょうがないとは、ダジャレにもならんな。

 

 会長様の行動に驚き、その行為に自身が恥ずかしいとでも思ったのか、彼女もあとを追って飛び込んだ。うん、なんで?

 

「探し物は私の良心、おかげで、もう見つかりました!」

 

「………そうか、水に溶ける前で何よりだったな」

 

 

「えぇっ!?黒神さん、代えの制服七着も持ってるんですか!?」

 

「なんだ鬼瀬同級生、貴様は代えを持っておらんのか?明日からどうやって登校するつもりだったのだ?」

 

 後先考えないと大抵あとでバカを見る。これはある種のお約束であろうな。

 

「……どうしよ」

 

「…安心しろ、鬼瀬同級生。私は困っているものを見捨てたりはせん」

 

「え?」

 

 嫌な予感しかしないとはこのことである。鬼瀬ちゃんはそのまま生徒会室へと誘われた。

 

 

 

 

 

「………」

 

 サイズの合っていない服を着て恥ずかしそうにしている女子、というのは世の男性諸君にとってある種の理想のようなものではないだろうか?私はそのような格好は大好物であると言っておく。まあ、だからといって本当に恥ずかしい服を来ている女子をみて興奮するはずもなく、むしろ可哀想に見えてくるだけであるのは、言うまでもない。

 

「一体どんな悪事を働いたらこんなことになるのか……」

 

「何だ海路口、まるで私の格好が悪事であるかのように」

 

「会長様なら似合っているのだがな、鬼瀬ちゃんにはかなり大きいようだし、それに常人が着れば恥ずかしさのあまり悶絶しかねん服装であることに疑いを持つべきではないと私は思うのだが」

 

「…むう、やはり私の服装に理解を示してくれぬのだな、貴様は」

 

「だから会長様が来ている分には似合っているのだよ。…さて、鬼瀬ちゃん、そんな格好ではいくらなんでも恥ずかしかろう。私の制服なら少々大きいだけであるし、改造も施されていない。確か生徒会用を貰って以来使っていない制服が有ったから、それを貸そうじゃないか」

 

「ホント!?四方寄はやっぱり優しいね!」

 

「褒めても君への愛しか出ないぞ?」

 

「出さなくて結構。同性愛は好きじゃないので。でも親友だ!」

 

 そう言って私に抱きついてくる彼女。ああ、身長が足りていないからきっと袖が長かったりするのだろうな。可愛らしい限りである。

 

「…ふと思ったのだが海路口よ。貴様、私と他の女子で随分と態度が違うんじゃないか?」

 

「可愛い女の子には優しさを、が私のモットーだ。会長様はどちらかというと綺麗系だからな。優しくできん」

 

「…なあ、人吉クン」

 

「何すか、阿久根先輩」

 

「あそこで百合の花が咲いている気がするよ」

 

「そうですね、俺も珍しくアンタと同意見ですよ」

 

 取り合えず恥ずかしい恰好で校門に立つという責苦はなんとか回避したものの、会長様の格好をさせられた恥ずかしさからか、やたらと生徒会正役員を敵視する様になったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 事の顛末、というか後日談。(某お人好しが出てくる怪奇ハーレム小説風に)その後数日たって、人吉君と鬼瀬ちゃんが手錠のせいで互いに離れることができない状態になるという事件が発生。鍵を持っておけとあれほど言ってたのに携帯してなかったらしく、そのまま風紀委員会室に鍵をとりに行くことになる。が、その途中で会長様が乱入、更に何をトチ狂ったか自らの手にも手錠をはめ、三人で風紀委員室に突入という流れになる。だが更に間が悪く、行く先行く先で会長様がトラブルを解決するために別方向へ行く、というのを繰り返した結果、風紀委員室に向かうのがどんどん遅れる。その中で鬼瀬ちゃんは会長様への認識を若干改め、また、逆恨みされていた木金コンビ(ふざけたネーミングである)を人吉君と会長様が簡単に鎮圧(金属バットをどうやったら折れるというのか)し、そこでその力なら手錠も壊せるだろうと気付いた鬼瀬ちゃんがその旨を伝え、その一件は終了と相成ったらしい。どうせ繋がるなら私が繋がりたかったが、その場にいなかった以上どうしようもない。

 

 なお、若干気になる噂を耳にしたので、特記事項として記しておく。風紀委員の委員長に関する情報なのだが、僅か九才にして高校へ飛び級入学し、その天才具合と異常性も相まって、十三組に所属している生徒であるらしい。現在十才だということなので恐らくは先輩に値するのだろうが、元々風紀取り締まりのためであれば少々強引な手も使う機関だった風紀委員会が、更に過激な集団へと変貌したのはこの人が委員長になってからなのだとか。たとえ仮所属(もはやすでに教師からは本所属扱いになっているが)とはいえ自らの組織と対立しかねない存在であるからして、若干注意が必要だと思われる。噂を聞く限り話し合いに乗ってくれるタイプの人間ではないらしいので、自らの保身と組織の安全を確保するためにももう少し情報を集めようと思う。

 

―――――もっとも、この決意は情報を集めきるには少々遅く、私が彼を脅威だと考えるには十分すぎるほど早かったのだが。

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