異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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まだまだ異常はいるらしい。普通に恐ろしいわ。

 さて、私も部活で使用する第二音楽室なのだが、実際にはほぼオーケストラ部の部活動に使われていて、私は週に三回使うかどうかであり、更に使う時間帯も殆ど全ての部活動終了後である。

 

 そのために私は今まで第二音楽室がいかに老朽化していたのかを知らずにいたのだが、ある日目安箱にオケ部の音漏れが酷いという内容の投書があり、認識に至ったわけである。まあ、その案件自体は会長様自ら解決に行くということで(ただ単にコスプレがしたいだけと見えた)、残りの生徒会メンバーは他の仕事に精を出すことになった。どの程度の老朽化なのかを見るためにあとで第二音楽室へは向かうつもりなのだが。

 

 

 

 

 

 老朽化。百年以上の歴史を持つ箱庭学園であるがゆえに起こる、設備の寿命超過。

正直に言って、業者に頼めという話なのだが、どうにもここの学生達は生徒会を完璧超人の集まりか何かだと勘違いしているらしい。

 

 まあ、その実不完全超人の会長様はいるか。会長様なら改築は無理でも防音設備の応急処置くらいはできそうだ。いや、あの人なら改築すらやってしまうか…?どちらにしろ、今回は私の仕事ではないので気にしない。

 

 さて、私が頼まれた仕事なのだが、目安箱関係ではない。書類整理の最中に、一枚の要望書が上がっていたのだ。曰く、「第一音楽室におかれているピアノ弦が切れたので、張り替えを頼みたい」とのこと。

 

 場所が高音部だったため、弦の発注は不必要だったが、学校設備は切れる可能性が高いことを認識したことだし、父上の事務所に頼んでメーカーに発注してもらうとするか。調律工具を持って第一音楽室に向かう。そこには音楽の先生と切れた弦、そして少し古いピアノがあった。

 

「君が海路口四方寄か。私が依頼者の赤崎だ。…って、名前から男だと思ってたのに女の子だったのね。ごめんごめん、威圧的になっちゃった」

 

「…いや、構いません。私が海路口です。よろしくお願いします」

 

「こっちこそ。ごめんね、いつもオケ部ばっかり見てたもんだから、そっちの部活に顔を出せなくて」

 

「人数も多いですし、それに掛け持ちは大変でしょうから。今度もし此方に顔出しをしたときには、お茶でもお出しします」

 

「ありがと~。で、これが切れちゃった弦なんだけど…」

 

「ああ、大丈夫ですよ。張るべき弦の太さはピアノに記してありますから」

 

「そうなの?」

 

「ええ。恐らく張弦にはそれほど時間もかかりませんし、お仕事が他にあるようなら其方にかかられて大丈夫ですよ」

 

「ありがと、実はちょっとプリント作らなきゃいけなくて…お願いね?」

 

 了解しました、と私が答えると、先生は直に職員室へ向かったようだった。さて、張弦を始めるとしよう。

 

 張弦の際に必要なものは、当然ながら替えになる弦と弦を巻くためのハンマー、弦をピアノに密着させるための工具など、多岐に渡る。

この作業をこなすのに必要な時間はおよそ10分。まあ、プロならそのくらいでできるのだが、私は生憎まだ修行の途中であるため、少し長めに計算して15分といったところだろう。

 

 ピアノの後方を見て、その音を出すのに必要な弦の太さを見る。その後、弦を適量切り取り、弦を止めていたピンを廻し、弦を巻きつける回数分表面に出す。この辺りの弦は2本張りという方法で張られているため、二つ出さなきゃな。片方のピンに弦を通し、根元を押し付けて弦を引っ張りながらピンを廻し、そのまま1回転。この過程を通らないと、上手く弦を張ることができない。その後、弦を奥のターン部分に引っ掛けて捻り、型をしっかりと作る。もう片方のピンに弦を通して、さっきと同じ要領で巡らせる。ここからは弦をしっかりと張っていき、音を元の高さにする作業を主にやっていく。

 

 とはいえ、これは応急処置だ。ここから1週間で、この音と周りは一気に狂う。これは全体の張力バランスが崩れてしまっていたことと、弦が新しい事が原因だ。どのピアノであろうともでてしまう不具合なので、仕方のないことだろう。とりあえず作業を終了し、工具の片付けに入る。さて、作業も終了したことだし、先生に報告して第二音楽室へ向かうか。

 

 

 

 

 

「…なんでわざわざ来るのさ♪さては海路口、マゾだな?」

 

「四方寄!こっち来ちゃダメ!!」

 

「ん?コイツも生徒会のメンバーか?刺客を使うまでもなくそちらから来てくれるとはありがとさん」

 

「……?ああ、なんだ。鬼瀬ちゃん、喫茶店デートをしたいのならそう言ってくれ。私はいつでも歓迎する。不知火さんも一緒に行く?確か今日から新作の挑戦メニューが出ているはずだ。早速クリアーしてくれ。まあ、この人たちの応急処置と部活動を終えてからになるから、なんだったら今日は一緒に活動していくか?」

 

 第二音楽室の中は凄惨たる状況で、その中には子どもが一匹と、不知火さん、鬼瀬ちゃんがいた。状況から見るに、鬼瀬ちゃんではない。勿論不知火さんでもなく、つまりこの状況は目の前にいる可愛げの全くない子どもが創りだしたものらしい。つまり、部外者が勝手に暴れただけ。ここの凄惨たる状況の収拾は私の仕事ではないと判断し、初対面のオケ部部員を治療することにした。

 

「…あれあれ、オレもしかして無視されちゃってる?いいねぇ、そういう気の強い女は大好きだ。だが、今回は敵同士だからな。しっかり殺してやるよ!」

 

「とは言う物の、今日は中も凄惨たる状況だからな。部活動は諦めて治療を終え次第喫茶店に行こうか」

 

「いや、そんな悠長な話ししてる場合じゃないよ!早く逃げて!?」

 

 鬼瀬ちゃんの言葉を聞き、私はもう一人いる子どもに目を向ける。非常に愉快そうに不機嫌そうな彼を、そう言えば私は見たことがあった。

 

「ああ、申し訳ない。はじめまして、雲仙冥利委員長。現在生徒会の臨時役員として頑張っております、海路口四方寄と申します」

 

「おう、はじめましてだな。そしてさよーならだ」

 

 そう言って雲仙先輩は私に何かを飛ばしてきた。頭に命中し、思わず倒れこむ。

 

「委員長!?一体何を…!」

 

「だからよ、鬼瀬ちゃん。こいつらと俺は敵同士なんだって」

 

「だからって……」

 

「いきなりの仕打ちに私、驚きが隠せないんですけれども。鬼瀬ちゃん、これは風紀委員会の挨拶みたいなものなのかな?」

 

「四方寄!!」

 

「あれ?それを受けて立ちあがるとか、普通(ノーマル)にしちゃ随分強いんじゃねえの、お前」

 

 まあ、普通に痛かったが。昔から頑丈さが取り柄だったのだ。恐らく会長様が本気で殴ってきても耐える自信はある。まあ、痛いのは痛いのだけれども。

 

「これでも結構丈夫なので。…あー、雲仙先輩?誠に申し訳ありませんが、少々お待ちいただいても宜しいですか?この部活動生を保健室へ…」

 

「ああ、もう保健室に連絡してあっからさ、別に気にしなくていいぜ?むしろ応急処置をささっと済ませたアンタの技術がすげえな。ま、どっちにしろ壊すだけだが」

 

「私が何故壊されるのかいまいちよくわかりませんが」

 

「そうだな…黒神のせいだとでも思っておけばいいだろうさ!」

 

 なんとなく納得できるから困る。ところで、この場に会長様がいないのは何故か。確かここの修繕が今回の案件だったはずだが。

 

「黒神なら他の役員の処へ必死こいて行ってる筈だぜ?まあ、どうせ手遅れだろうけどな。お前のところには絶対これねえよ!」

 

「そうですか。ちょっと待ってくださいね?」

 

「んあ?」

 

「…あ、会長様か?私の方へは来なくていいぞ?私?第二音楽室だ。大丈夫だって。こう見えて頑丈さは私の取り柄だ。さっさと正役員の方を助けておけ。なに、もう既に助けただと?それはお疲れ様。ああ、私の方は適当に終わらせておくから。だから、十三組だとかそんなのどうでもいいんだって。残念だが第二音楽室は業者を呼ばなきゃ直らないから、執務室で業者を呼ぶための決済を頼んだぞ?だから大丈夫だといってるだろう?なんならあと十分で其方に帰っていってやるから。ああ、分かった。ではな…お待たせしました。もういいですよ」

 

「……てめえ、まさかオレに十分で勝とうなんて思ってんのか?」

 

「いやいや、まさか。今すぐに……逃げるだけです」

 

 そう言って、私は窓から飛び降りた。校則に扉以外からの出入りを禁ずるという条項等は書いていなかったので、校則違反ではない。そして、そのまま私は執務室へ戻ることにした。

 

「……マジかよ、ここ四階だぜ?普通(ノーマル)が飛び降りて無事な筈…!?」

 

「……えっ、嘘…走ってる……!?」

 

「うわぁ……中々凄いことするねぇ、海路口は♪」

 

「ん?ああ、呼子か。任務の進捗状況はどうなって……失敗?どういうことだ――――」

 

 

 

 

 

「海路口、無事であったか!」

 

 生徒会室に戻り、他のメンバーが無事であったことを確認する。同時に、会長様の現在の服装をみて、着替えを進めることにした。ああ、待て。他の人もいる状況で脱ごうとするんじゃない。とりあえず男子は外に出し、着替えをさせてから改めて風紀委員長との対立についての考察を聞くことにする。

 

「――――そのスーパーボール、もしかしてこれの事か?」

 

「まさか海路口、お前もとったのかよ!?」

 

「耐久力には自信がある。当たったついでに回収した」

 

「カッ、テメエも十分普通じゃねえな!」

 

「なにを言うか。私は十分に普通だぞ?むしろあんな人たちの周りに平然とついてられる人吉の方が」

 

「それ、お前も同類な?」

 

 人吉君の言葉に反論したいが、ここで空気を読まず反論するのもあまりいいことではないな、と考え直し、会長様に続きを促す。

 

「うむ、とは言う物の普通のスーパーボールではない。かなりの反発力、反射力を有しているようで、ほれ」

 

 会長様が指ではじくと、縦横無尽に跳ね続けるスーパーボール。軌道を一瞬で判断したのか、私達に当たることはないが、結構びっくりする。

 

「な?」

 

「な?じゃねえよ!」

 

 その反応には大いに同意するところだが、どうやらそんなことも言ってられないほどに、事態は緊迫していたらしい。

 

「いやー、お見事、お見事!一年ずっとそのネタでやってきたが、見破ったのはお前らが初めてだぜ!」

 

 そう言って拍手をしながら雲仙先輩は入室してきて、鍵を掛けた。あとから思えば、この時点で感じた違和感にしたがっておけばよかったのだろう。残念ながら、後悔先に立たずとはまったくもってその通りだ。

 

「流石に既製品じゃあ攻撃力が足りねえからよ、そこは素材に気を使ったりなんだり、色々改良はしてんだけどさ」

 

 そう言いながらボールを床に撒き散らす雲仙先輩。会長様に仲間だとか鏡映しみたいだとかいいながら、ご丁寧にも窓の鍵まで掛けている。結局相容れないだの何だのと、御託を並べているようだが、正直なにがしたいのか分からない。が、よく省みてみると、不自然なのは別に鍵を掛けたことだけではなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それを理解したとき、私は何気なく移動し、雲仙先輩の死角を利用してロッカーの扉を開けた。

 

「貴様達、離れろ!これはスーパーボールではない、火薬玉だ!」

 

「おっと、ばれちまったか。まったくオレってば手品下手すぎ!だがまあ、遅い。細工はギリギリ完成してる!」

 

 阿久根先輩やら喜界島さんやらが、即刻やめるように言っているが、むしろ逆効果だったようで、どこからともなく取り出したマッチに火をつけ、引火させた。瞬間、生徒会室は炎に包まれたわけだ。火傷は上手く処理しないと酷いあとが残ってしまうのだが…。

 

 

 

 

 

「んな!?全員無事だと!?」

 

 雲仙先輩は驚きに満ちた表情で叫んだ。前もってロッカーを開けておいてよかった。なんとか三人を詰め込み、爆風から身を守らせることが出来た。

 

 まあ、当然ながら私と会長様は外から抑えなければならなかったから、思いっきり爆風は被ってしまったわけだが。………って、おい。会長様はこんなに恐ろしい表情をすることがあるのか?

 

「黒神、一体テメエなにをした!」

 

「…簡単なことだ。爆発の恐ろしさは爆熱よりもむしろ爆風の方にある。だから私は四方寄があらかじめ開けておいてくれたロッカーに三人を入れ、扉を閉めた」

 

「まあ、扉は内側からは閉められないので、こうやって私達は外にいたのですが」

 

「なんでテメエも無事なんだよ!普通(ノーマル)!」

 

「言ったでしょう?私は丈夫だ、と。会長様がある程度の下準備をしてくれていたので、かすり傷と少しの火傷ですみました。ついでに、爆風に合わせて外に飛びましたからね」

 

「……ケケケ、いや、ホントすげーわ、会長様の聖者っぷりと、海路口の頑丈さはよ!どうせ黒神は誰も傷つかなかったから一件落着とかいって、海路口は仕事じゃねえと言い張るんだろ!?」

 

「煩い」

 

 会長様はそうつぶやく。その一言だけで十分に威圧感を発揮するあたり、この人やっぱり常人じゃない。その後も上から目線性善説に則り、ご高説をふるっているようだが、それより何より聞きたい事がある。

 

「会長様、いつの間に髪を染めたんだ?」

 

 …あれ?どうしたのさ、みんな一気に脱力してるが。

 

 

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