異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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異常が集まりだした。普通に気味が悪い。

 賽子。起源は定かではないものの、元は占いなどに使われていたという。出鱈目の語源もこの賽子から来ていると言われ、そのランダム性の高さから数々の遊戯や賭けごとで使われる、我々人類に最もなじみのある正六面体だろう。二つ以上の賽子を振り、全て同じ目になる可能性というのは、賽子が増えれば増えるほどに少なくなり、最早八個のそれともなれば、全て同じ目になる可能性は天文学的と言っても過言ではない。ましてやそれが何回やってもとなれば、それこそ宇宙の法則が乱れているのだろう。規格外にも振っただけでタワーになるなんて、物理法則的にどうなのかとすら思う。

 

 なぜこのようなことを話しだしたのかといえば、理事長直々の呼び出しを食らったからである。なんと言えばいいのか、このおじいさん、私への視線に遠慮がない。さっきから私の全身をやたらとじろじろ眺めてきている。正直言って、コレが立場のある人間でなければ露骨に舌打ちでもして御退散願うところなのだが、残念ながら呼びつけられた手前、そうもいかない。

 

「…で、先ほどから私を随分観察されているようですが、一体何の御用なんですか?私は特に呼びつけられるような賞罰は受けていないのですけれど」

 

「ああ、コレは失礼しましたね。いえいえ、特に頭の痛いお話しではないのですよ。まあ、今回の雲仙君の暴走を治めたのが、普通科の貴女だというので、お礼と少しの注意をさせて頂こうかと思いまして」

 

「お礼を言われることでもありませんし、むしろ停学以上の処分は覚悟していたんですが。いや、実際には覚悟なんてできてませんけれども」

 

「ホッホッホ。面白いですねぇ、海路口さんは。我が校の校風は自主性を重んじる、という物ですから、個人同士の喧嘩に一々口など突っ込みませんよ。まあ、流石に今回は若干被害も大きかったですけれど、それは殆ど雲仙君と黒神さんが原因ですし。ただ、校舎から飛び降りるという行為を禁止していなかった此方の不手際ではあるのですが、あのような真似は少々感心できませんので、そこについて注意を。あとは、事態を収拾してくれたお礼ですよ」

 

「…私は最後に会長様…黒神さんの手柄を掻っ攫っただけとも取れますから、お礼など必要とは思えませんが」

 

 というか、何なんだ。この人さっきからやたらと話しをはぐらかしている。さっさと本題を話せと声を高らかに叫びたい。いやまあ、しないのだけれど。

 

「…どうやらずっと本題を話さないことに苛立たれているようですねぇ。ええ、分かりますとも。注意も感謝もついでですからね。本題なのですが、実は…」

 

 説明を大まかに纏めるとこうだ。学園長が個人的に主宰し、進めているプロジェクト、「フラスコ計画」。会長様のような人間の巣窟である十三組から、特にイカれた人間を十三人分別し、被検体として肉体情報を蒐集、DNAをはじめとする様々な情報をもとに、『人工的に天才を作る』。そんな馬鹿げた計画を実施し、そして最終段階に入りつつあるというのだ。正直、この学園の異常性と、目の前の老人から出てくる不思議な威圧感がなければ、呆けた老人の戯言だと一笑に付していただろう。そして、理事長の話はそこで終わらなかった。彼曰く、人間は三種類に分けられるらしい。「普通」と「特別」、そして「異常」だそうだ。コレはそのまま学校のクラス分けに用いられているらしく、普通科と特別科、更に登校義務すらない十三組の三つがそうなのだとか。

 

「ですが、ここにきて貴女という存在が来た。正直に申しますが、我が学園は血液型AB型の人間以外は入学を許しておりません。天才型などと称されるため、この計画のモニターにちょうどいいからですね。ですが、貴女はB型。一体どういう手違いがあって、この学園に入学してきたのか。もしかしたら貴方は普通科に所属しているとはいえ、『普通』ではないのかもしれない、と考えるにいたったわけです」

 

「…ですが、『特別』でも『異常』でもない私は、それこそ『異常』に見えた、ということですか?」

 

「非常に興味を抱くようになったというのは間違いないでしょうね。そこで、貴女に少しやっていただきたい事がある」

 

 そう言って理事長が出してきたのが賽子であった。「それを振れば貴女がなんであるのか分かるかもしれない」等と言ってきているが、なるほど、『確かに分かるだろう』。

 

「……コレは……」

 

「宜しいですか、理事長。私は『異常』ではありません。この結果は少し偏ってこそいても、『普通』の範囲を超えないでしょう?」

 

 私が振った八つの賽子。出た目は一が六つと、三が一つに六が一つ。念のためもう一度振って欲しいと言われたが、その時の賽の目は一が七つに四が一つ。以前会長様に見せてもらったサイコロは、『縦に積みあがっていた』ので、コレを異常とは絶対に『理事長は』言えないはずだ。

 

「…いやいや、確かに貴女は『普通』のようだ。『異常』なら、毎回必ず同じ状態になるはずなのですが…申し訳ありません、態々呼び立ててしまって。ああ、それから今回の件を踏まえて、校則に校舎からの飛び降りを禁ずるという項目を追加させていただきます。今後そのようなことはしないよう頼みますよ」

 

「分かりました。失礼…します」

 

 若干の失望をその瞳に携えながら、あくまでも理事長としての威厳を崩さずに言うおじいさん。そのあたり人の上に立つ人間の本気を見た気もするのだが、どうでもいいので気にしない。むしろ気になるのは、「学園長の後ろにいる人たち」だ。かわいいのが三人いるので非常に素性を教えてもらいたいところだが、あえて今回は無視する事にする。話の内容を考えるに、分かってしまうことも『異常』ととられる可能性があるし。私はできる限り自然に、理事長室を辞した。

 

 

「…ふむ、一瞬B型でも『異常』が発現するのかと思いましたが、若干偏りがあるとはいえ、やはり普通の子でしたか…」

 

「所詮は愚民であるということだな。態々呼び出すこともなかっただろうに」

 

「まーまー、そういうなよ、王土。彼女だって可愛かっただろう?」

 

「どう見ても普通の人間でしたね。まあ、若干殺しにくそうだったけれど」

 

「俺らの事には気づいてたっぽいが、それも違和感程度だったようにおもうな。その程度なら普通だし、別に考えるまでもねえだろ」

 

「ま、ごくごく一般的だったと思うよ?」

 

「………ああ、そうだな。…まだ二回見ただけだ…」

 

「やはり彼女は『ハズレ』でしたか…では、黒神さんの方に重点を置くとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 今回の件で漸くはっきりした。私は『異常』よりもある種において『オカシイ』と。これまでに遊びなどで幾度か八つの賽を投げていたが、理事長の説明を聞いて理解した。

 

 今まで投げた回数は十七回。そして、今回で計十九回八つの賽を振った。お察しのとおりである。私の賽子は、『カウント』するのだ。いつもその結果、というのが『異常』だということであれば、私は『異常』ではない。ただ、『規則性』が有るだけなのだから。

 

「だから、私は騙していないというのは、詭弁になるんですかね?名瀬先輩」

 

「…気付いてたとか、やっぱお前も『異常』なんじゃねえかよ。なんだ、理事長の野郎は騙されてたみたいだがな。俺の目はだませねえぜ」

 

「…会長様や貴女達に出会う前でしたら、私もこれを『異常』と捉えていましたよ。けれども」

 

 いつの間にか腕に突き立てられようとしていた注射を、私はなんとかよける。そして、少しの驚きに包まれている彼女に、次の言葉を紡いだ。

 

「こんなのは『異常』ではない。これをもしも貴女達の流儀で名づけるとしたら…差し詰め『規則(レギュラー)』と言ったところでしょうか」

 

「『規則』…?よくわかんねえな。それはお前の『異常性』じゃねえのか?」

 

「あくまでもコレは『異常』なんてモノではありませんよ。そんな馬鹿げたものじゃない」

 

「…馬鹿げた、だと?」

 

「ああ、それに誇りを持ってらっしゃるのですね。でしたら言葉が悪かった。申し訳ありません。つまり、私が言いたいのは、コレは『普通』の延長線上にあるものでしかない、というだけです。『特別』とは少し袂を別つものではあるようですが、基本が『普通』にあるのは間違いない」

 

 そう言って、私は彼女が取り出した注射針を潰す。益々驚きに満ちていく表情、そして焦りが出始める。まさしく『規則的』な反応である。

 

「…一体どういうことだ?」

 

「恐らくはこの後、会長様が先ほどの会話の内容に違和感と嫌悪感を覚え、フラスコ計画の廃絶に動くでしょう。ですから、学園側についていると思われる貴女と、一応生徒会に所属する私は敵同士。大したことはないとは言う物の、戦力を敵に漏らすわけにはいきません。きっと貴女の頭脳は聡明である筈ですから、ご自身で考えてください。では」

 

 そういい残し、私はその場から全力で逃げた。

 

 

 

 

 

 

「おい、そこを走っている女。…おい、偉大なる俺がお前に話しかけてやっているのだ、一寸は話しを聞く様を見せろ。まったく…『跪け』」

 

「悪いがいきなりそんなことを言われても急いでる最中だし、知らない人と仲良くしてはならないと母に教えられている。更に、そんな命令をされても私にM属性はないのでお断りする。では」

 

「…ぬ?おい、偉大なる俺が言っているのだぞ?ちゃんと聞くがよい。それに、聞く時の態度がなっていないな。『平伏せ』!」

 

「断ると言っているだろう。箱庭学園はいつの間にやら魔窟と化してしまったのだ?初対面の人間にそんな横柄な態度をとるとは、人間性を疑う限りだ。急いでいるのだから、ひきとめようとするんじゃない。失礼する」

 

「……偉大なる俺の圧政に刃向かうとは、あの女、やはり只者ではないのか………?」

 

 

「…で、会長様の顔にできている擦過傷と骨折等の重傷に、人吉君の膝の打撲は一体どういうことなんだ?」

 

 生徒会室に向かったものの、誰もいなかったために書類整理をしていたのだが、戻ってきた会長様及び人吉君の怪我を見て、とりあえずロッカーから救急箱をとりだすことにした。そんな中で今回の怪我についての説明を求めたわけだ。

 

「ああ、実はよ……」

 

「ほう、彼はそんな異常があったのか。本当に『異常性』というのは馬鹿げているな。『言葉の重み』ねえ……」

 

 まさか会長様以外に『真骨頂』なんて馬鹿げたモノを並べている人間がいるとは思わなかった。それとも普通なのか?だったら私も真骨頂を考えなければならないのだろうか。まあ、どちらにしろそんな小恥ずかしい事はお断りである。

 

「って、海路口!お前、都城先輩の事知ってるのかよ!?」

 

「知ってるも何も、さっき同じことをされたよ」

 

「はあ!?」

 

「ふむ、非常に興味深いモノではあるが、関わったら碌なことになりそうもない。もしもその計画を断絶するつもりで生徒会を執行するのであれば、私はリタイアさせてもらってもいいか?」

 

 その言葉はどうやら会長様も予想していたようで、仕方ないな、といった表情を醸し出しつつ私に返答する。

 

「仕方あるまい。私もやられてしまったのだ、それこそお前には荷が重かろう。リタイアしたからといって問題はない。むしろ、そこで私も関わると無謀なことを言ってくるようなことがなくて安心した。お前は『仕事なら仕方ない』と付いてきそうだからな」

 

「……ふむ、では、これは生徒会の仕事にしないのだな?」

 

「いや、当然ながらこれは執行部の仕事だ。まあ、今の私では心許ないので、自身のバージョンアップのためにも、兄貴を訪ねる必要があるが――――――」

 

 会長様の言葉を途中で遮り、私は彼女に言い放つ。ああ、もう。だから生徒会に入るのは絶対に嫌だったんだ。私の性格上、こればかりは仕方ないことだからこそである。

 

「残念だな、会長様。これで私はこの仕事に参加しなければならなくなった。会長様の言うとおり、『仕事なんだったら仕方がない』」

 

「な、海路口、オマエ!」

 

「…後悔するぞ?」

 

「仕事に後悔も何も有るか。仕事は仕事だ」

 

「…感謝するぞ、四方寄」

 

 いや、感謝される筋合いはないし、結局仕事という形を辞めないが故の不可抗力なのだが。既に方針が決まってしまった以上、会長様のあとを追わざるを得なくなるな。はあ、自身の性質が恨めしい。

 

 

 

 

 

「やあやあよく来てくれたね、ようこそだ。一年ぶりだぞ、愛しの妹めだかちゃん。勿論妹愛あふれる僕にはお前の用件くらい分かりきっている。直にお兄ちゃんが全盛期に戻してあげるから安心したまえ!」

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