異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
老朽化した設備を改修するのは学園の務めである。が、代替設備が出来てしまったモノについてはその限りではない。以前鬼瀬ちゃんの依頼で訪ねたプール然り、いま目の前にある旧校舎、通称『
黒神真黒、元十三組の生徒で、現在この旧校舎の管理人である。私はこの人を一目見て、「ああ、また異常者が出た」と思うに至ったのだが、その理由は察してほしい。いかに自分の妹とはいえ、成長記録をそれこそ毎年数冊以上のレベルで記帳出来る人間、更には部屋の壁一面に妹の写真を並べている人間、さまざまなぬいぐるみやフィギュア(全て会長様がモデル)を部屋のスペースの至るところに配置している人間を、異常者と言わず何だというのか。シスコンを自称する人間でも、この部屋を見たら気持ち悪いというのではないだろうかと思うほどに、ここは妹グッズに溢れていた。そんな人間を見て、異常だと思わない人間がいるのなら見てみたい。ところで、部屋の状況を説明している間に一体なんでこの真黒さんとやらは吹き飛ばされているのだろうか。しかも何やら会長様の解析まで始めているし。内容は変態的なまでに微に入り細に入りって感じだし。もう帰りたい。
「―――ま、めだかちゃんはちょっと弱ったくらいが一番かわいいんだけどね~☆……ところで二人とも、僕の知らない人が一人いるんだけれど、彼女を紹介してもらっても良いかな?」
「おっと、そうでしたね。コイツは海路口四方寄、現生徒会の臨時役員です」
「へぇ……はじめまして、海路口ちゃん。僕はそこにいるめだかちゃんの兄、黒神真黒だ。いつも妹がお世話になっているようだね」
「……いえ、私の方こそめだかさんにはいつも助けられてばかりで、本当に素晴らしい妹さんをお持ちでうらやましい限りです。私の弟も彼女のようになって欲しくない!すいません、やはり本音は抑えられませんでした」
「…あはは、面白い子だね、僕の妹にならないか?」
「全身全霊でお断りします。初対面の方に失礼だということは承知で言わせていただきますが、気持ち悪いので」
後ろで頷いている二人、そんな暇があるのなら私を守ってくれないか、何気に頬を触られているのが気持ち悪くて仕方がないのだが。
「………!?」
「ん?どうしたんですか、真黒さん」
「いや……なんでもないよ。きっと気のせいだ」
「「?」」
疑問に満ちた顔をしている二人。然も有りなん。いきなり驚きに満ちた表情をしておいてなんでもないとか、疑ってくれと言ってるようなもんだ。しかも初対面の私に対する反応なのだから、二人が疑問を持つのも間違いないだろうに。
「それにしても、めだかちゃんの弱体化と比べると、善吉君は随分鍛えてるみたいだね、触るまでもなく筋肉の質が上がっているのがよくわかる。見違えたよ、よく頑張ってるみたいじゃないか、善吉君」
「…仰る通り言葉もありませんよお兄さま。めだかはすっかり鈍ってしまいました。ですからここに来たのです」
そう言って、自分の目的やら信条を吐露している会長様だが、ぜひともその前に私を其方へ回収してほしい。さっき頬を触っていた手が今度は胸と尻に伸び始めているのだが…。
「って、何やってるんですか、真黒さん!!」
「おっと、全然抵抗しないから、つい」
「…抵抗してよかったんですか?」
「良いに決まってるだろ!?」
「いや、しかしな。会長様の兄上だろう?下手に抵抗して何かされるよりも、やり過ごした方が…」
「お前は絶対痴漢に遭っても申告しないタイプだろ!?」
なにを言うか、申告なんてしたら相手を甚振れないだろうが。
「…僕はめだかちゃんみたいにスキルがあるわけじゃないからね、抵抗されたら直にやめるつもりだったんだけど」
「さっきから話しが進まんな…お兄さま、私を強くしてもらうのも勿論重要な用件だったのですが、もうひとつ有ります。…フラスコ計画について、お兄さまが知っている限りのことを教えて頂きたい」
その後会長様とへんた…真黒さんの会話の応酬と、露出狂が兄妹共々発現しているという事実を身を持って知る事態が有ったのだが、正直どうでもいいので割愛。まあ、流石に全てを割愛をするわけにはいかないので、若干の説明はさせていただくとしよう。
つまるところ、真黒さんはフラスコ計画の元参加者で、他のメンバーと反りが合わなくなったために脱退。だが、その際に支払った代償のため、日常生活を送るのに難儀するからこの軍艦塔の管理人になったのだとか。そして会長様を心配して、フラスコ計画の内情は一切喋らないと断言。が、それ以外の全てを教えてやる、と会長様のレベルアップを快諾してくれた。ついでに人吉君も一緒に鍛えると言っていた。まあ、そこまで来てしまうと私の仕事は生徒会執行中の記録係程度になると思っていたのだが。
「で、早速なんだが特訓のコースを選んでくれ。Aコースはありとあらゆる苦痛を全身で経験し、悪魔ですら泣き叫ぶだろうハードトレーニング、しかも効果と命の保証はできない。Bコースは寝て起きたら最強になっている。さて、どっちを選ぶ?」
「「…Aコース!!」」
「因みにCコースは『お兄ちゃんと』一緒に寝たら最強になってr「「Aコース!!」」…そうかい」
「…って、海路口、お前はどうするんだよ?」
「あ、善吉君、彼女は別だよ。めだかちゃん達みたいにそんなコース選ぶ段階じゃないから、基礎編をやるんだ」
「…え、私もやるのか?」
「じゃなきゃどうやってフラスコ計画廃絶に加担するのさ?」
「え?ただの記録員のつもりでしたが」
「まあ、どちらにしろ、これからも生徒会に在籍するつもりなら、ここで僕の特訓を受けるのは得策だと思うんだけれど」
「…仕方ないな。では、その基礎編をお願いします」
「基礎編もA・B・Cに分かれるよ?内容もほぼさっきと同じ。Aコースが死の危険無しってくらいかな?」
「まだ選択段階でないならあえてCを選びましょう」
「………」
真黒さんが倒れた!?この人変態のくせに意外と純情だぞ!?という人吉君の言葉を聞きながら、真黒さんの後ろにある本棚から会長様の観察日誌的なものを取り出す。………なんとも可愛くない子どもだ。これならまだ今の会長様のほうが可愛げがあるな。そんなことを考えていると、真黒さんが立ち直ったのか、会長様達を別室へ連れて行った。しばらくして戻ってきた真黒さんの目は、先ほどまでの軽薄な表情など演技であったかのように、私への疑念と警戒で満ちていた。
「さて、改めて自己紹介をしよう。『
「まさか『何』と聞かれるとは思いませんでした。海路口四方寄、一年一組所属の生徒会臨時役員です」
「そうじゃない。君は、『
「…少し前にも聞かれたばかりですよ。その時にはその場で彼女達の流儀に合わせて『
「『規則』?…一体どんなものなのかな?」
どうにも私の異能が気になるらしく、私の言葉を一言も聞き逃すまいと此方を睨みつけるように見ている真黒さん。そこまでされると、正直気持ち悪くて仕方がないのだが。
「その場で名乗っただけですし、私以外の人間に私と似たようなのがいなければ、ただの『異常』の一端でしかないかもしれませんけれど。ただ、個人的には『違う』と思っているので」
「御託はいい。さっさと話してくれないか?」
あせっているらしい。焦りは正常な思考力を奪うということくらい分かっているだろうに、
「せっかちですね。まあ、文字どおりですよ。『異常』が天才・鬼才等と云われるなら、『規則』はあくまでも凡才でしかないでしょう。ですが、凡才だからこそ、鬼才や天才を上回ることが出来る。まあそれはそれとして、どんなものか、ですね。『異常』の彼らは謂わば人外です。通常人間が出来るはずもないことをやってのける。それに対して、『規則』は、『人にできる事しか出来ない』。つまり、『人にできる事』ならやれるんですよ。それこそ、『特別』な事でも、『異常』な事でも」
「…それこそ、フラスコ計画の最終到達点じゃないか。君はまるで、めだかちゃんの頑張りも、フラスコ計画に携わっている人間の頑張りも、同時に無意味なものにしてしまうような存在だ」
「それこそまさかですよ。私のこれは、『異常』や『特別』、『普通』が居てこそ成り立つ、歪なモノなんですから」
「どういう意味だい?そんな完璧な能力のどこに欠陥が…!?」
話しの途中で何かに気付いたかのように驚く真黒さん。まあ、真黒さんに限らず懸命な読者なら理解しているだろうし、説明をしてしまうとしよう。
「気付かれましたね。そう、『誰かがやったこと』でない限り、私には出来ないんです。それに、『やろうと思わないこと』も出来ない」
「…その欠陥に気付かないまま、もしも君みたいな存在をたくさん作れば、間違いなく…」
「人類の進化は止まりますね。私は『なんでもできます』が、『なにもできない』んですよ。まあ、どちらにしろ反則じみてはいますが」
「しかし、それなら『規則』なんて名前じゃなく、『
「それがそうでもないんです。この能力、必ず『ルール』に則って使用しないと意味がないんです」
「つまり?」
一拍置いて、私は再度言葉を紡ぐ。出来る限り平易に、出来ないところは難解に。
「対象を『見る』、対象を『知る』、対象を『理解する』これを、順番通りにやらないと発現しない、他にも『ルール』は有りますが、大まかにはこんなところです。あとは、日常生活で規則に一番重要性を感じるため、定められた規則は絶対に守らなきゃならないといったところでしょうか」
「…そういうことか。あくまでも『
「やれることがその人にとって『レギュラー』だからですよ。それに、人間の『規則』を破れないからですかね」
「大まかな内容は分かったよ。でも、『本当にそれだけかい』?」
この人の解析能力の高さは空恐ろしいものがあるな。私の能力の副産物にも目がいくあたり、もうこのヒト人間やめてるだろう。
「…まあ、もう一つありますね」
「聞こうか」
「人間的にあり得ない異能は、私に効きません。私は元々『普通』な人間ですから、人間が本来出来ないだろう『異常』な能力は、『あり得ない』ものです。つまり、私には他者に影響を与える『異常』が効かないことになります。例えば、テレパスの類ですね。思考を推測するならともかく、『読みとる』なんて専門の機械を使っても難しいことを、人間が出来るわけがないので、私には通用しない。これは私が知覚している・していないに関わらずオートで発動します」
「…それじゃあ、人間を操れる能力はどうかな?科学的にも証明されている、人間が出す電磁波を使う能力だけれど」
「…通用しませんね。人間が出す電磁波は周囲の人間に影響を与えられるほど強いものではない。そんな能力は『あり得ない』」
「…君は、とことん『異常』にとっては相性が悪いんだろうね」
「いや、例えば真黒さんの『解析』は、あり得ないものではないため、通用しますし、人工的な『異常』、例えば人造人間なんかは、人が生み出したものである以上、あり得ないものではないから通用します。他人に影響を与えない『異常』は、例えば身体能力関係ですかね、そういったものは普通に通用します」
「…けど、そういう物も覚えてしまうことは出来るんだろう?」
「まあ、個体だとはいえ人間が使える能力ですから、使えるようにはなります。ですが、あり得ないタイプのモノは『今の私には』無理でしょうね」
「限定されているのが何故かはわからないけれど、確かに無理だろうね。君はその能力を使われても、『見えない』んだから」
基本的に理解力のある人間との会話は楽しいものだと思うのだが、この場合は相手の変態さを先に見ているせいかいまいち楽しいと感じることが出来ない。まあ、それでもそれなりに私の能力を自己分析できたから万事オッケーと言ったところなのだが。
「…最後に聞くよ。君は、めだかちゃんの『敵』か、『味方』か?」
「最後の最後でバカだった………!」
「どういう意味かな?」
「…真黒さんはなぜ、二元論で語ろうとしたのですか?人間は多種多様ですから、どっちかに分けるなんて無理ですよ」
「…すまないね。質問が大雑把過ぎた。今回の件に関して、君はどっちだい?」
「それでも敵味方という分け方ではないかな。私はあくまで、生徒会を執行する立場の人間です。つまり、『仕事だから』ですね」
「…あまりにもあまりな返答に、真黒さんは若干びっくりしているよ」
そう言われても。『規則』は日常生活で融通がきかないのだから、仕方がない。
「まあ、君の『規則性』を考えれば、君がめだかちゃん、というか生徒会に害を為すことはないかな?…さて、君の特訓に入ろうか」
「あ、やっぱりするんですね」
「当然だろう?君の身体能力は一般人とほぼ同じだ。少なくとも『特別』レベルにはなってもらわないと」
「で、コースはやっぱり」
「ABCどれがいい?」
「…三択なら、今回はBしか選べませんよ?前に選んだ選択肢はAでしたから」
「…難儀だね、君は。分かった。じゃあ、明日まで…お休み」
「おやすみなさい」
そして翌日。朝起きると確かに今までと明らかに違う自分になっている事を自覚した。一体何をやってくれたのか非常に気になるところだが、まあいいか。既にボロボロになっている人吉君と会長様をしり目に、普通に朝の身だしなみを整えながら、時計塔の屋上にいく準備を進める私なのだった。…にしても、会長様のその乱れた髪だけは断固許せないな。というわけで、髪だけは整えてあげたのだった。人に会う以上、身だしなみは大切だからな。