異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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普通に考えて、アイツらの繁殖力は異常だと思う。

 早朝六時。時期を考えると既に日の出の時刻は過ぎているのだが、そんな時間に登校するような生徒は一部の部活動生以外にいるはずもなく、学園内は伽藍としていた。ましてやそれが普段生徒の行き来も少ない時計台ともなれば他者がいるはずもない。まあ、そんなところの、しかも屋上をデートの待ち合わせ場所にした都城先輩とやらの事を私は恋愛経験ゼロの奥手男子だと思っているわけだが。私なら行かずに寝てるな、間違いない。会長様は律儀だなと思いつつ、思わずでてきそうになる欠伸を噛み殺して、我々三人は時計塔の頂上にいるわけだが。

 

「………地球は俺にとって小さ過ぎる。太陽で漸く偉大なる俺に匹敵しよう。だから俺はこうして欠かさず日の出を眺める。立ち上る太陽を見つめることで、都城王土という己の姿を確認するのだ」

 

 地球の全ての土地を踏んでからそういうことを言えと。

 

「愚民どもは毎朝鏡の前で身だしなみを整えるだろう?それと同じだ。太陽は俺にとって鏡なのだよ」

 

 長時間見つめていると視力に多大なる悪影響を及ぼす可能性があります。

 

「待ち合わせにこんな早朝を指定したのはそのためだ、黒神めだか。俺の妻になるものとして、お前に太陽(おれ)の姿をみてほしくてな」

 

既に日の出の時刻は過ぎているとか、まだ一目会っただけで結婚まで考えるとかどれだけ妄想たくましいんだとか、そもそもちっぽけな人間を太陽に例えることがおこがましいとか、色々言いたい事は有るのだが、それをのみこみきれずに出てしまった言葉を、私は決して間違っているとは思いたくない。

 

「……いや、逆光で貴方の姿見えないし」

 

 当然仕切りなおされた。

 

 

 

 

 

「『平伏せ』」

 

「「いやだ!!」」

 

 ……何がしたいのかよく分からない対話を見ながら、私はこの都城王土という存在の『異常性』について考察していた。

 

 会長様達が彼の言葉に抗うかのように体に力を込めていたこと、周囲の空気から静電気のようなものが出ていたこと、更に昨日の真黒さんの発言……なるほど、私を相手取るには一番やりにくいだろう能力だ。自らが放つ強力な電磁波によって相手の身体に発生している電磁波を狂わせ、更にその電磁波に指向性を持たせることであらかじめ決めておいた動作をさせる。電磁波の発信が主な内容のスキルだろうか。さて、既に『見る』、『知る』、『理解する』の条件はクリアしている。しかし、彼のスキルを覚えようとしているにも関わらず、『覚えられない』。何か重要な案件が欠けているのか、それとも順序を間違えたか……いや、見ることから始め、知ることを二つ目へ、そして理解へと向かったのだから、順序が違うわけではなさそうだ。ではやはり、何かが『欠けている』。どうせ彼もフラスコ計画の一員であるのだし、後々改めて考察する事が出来るだろう。二つの『規則』はもうOKなはずだし、『理解』を深めるとするか。

 

「……ところで、都城先輩はどこだ?そしてなぜ会長様は人吉君から少し距離をとっているのだ」

 

「コイツ話しを全然聞いてなかった!?じゃなくて、大丈夫か都城先輩―――!?」

 

「なるほど、良い蹴りだ。避ける気にならなかったよヒトキチ。だが、偉大なる王の身を案じるなど、愚民(ノーマル)としてあるまじき行為だ。無礼であるぞ」

 

「………嘘だろ、まるで()()()()()みたいに……」

 

「偉大なる俺には地球という存在が小さ過ぎるといっただろう?地球の重力程度では偉大なる俺を縛ることなど出来ん」

 

「マジかよ…!?」

 

「というのは無論冗談であり、こんなものは足の握力で壁にしがみつき、腹筋で上体を起こしているだけにすぎない。訓練すれば誰でも出来る」

 

「…それがフラスコ計画の成果か?」

 

「会長様、やめてくれ。フラスコ計画なんて大仰な名前つけといて、出来るようになったことがゴキブリと同レベルとか、私は絶対に思いたくない」

 

「貴様は……ほう、貴様も偉大なる俺の言葉に逆らえるのか。昨日も違和感を感じたが、まさか愚者共(ノーマル)の中に異常(オレタチ)が入っているとは思わなかったぞ?」

 

「何を言っているやら。やはり人の言葉を使うのは難しいのですか?ゴキブリ先輩」

 

「……貴様は命が惜しくないらしい。が、まあ。興が削がれた。せっかく呼びつけたのだからフラスコ計画について簡単に説明してやる」

 

 そう言って都城先輩はフラスコ計画の概要を話しだした。この話を聞くのは二度目だが、まったくもってつまらない。つまらなすぎて関わりたくないくらいのモノだけれど、仕事である以上仕方ない。が、都城先輩の一言で、私は少し気分を害した。

 

「フラスコ計画は、箱庭学園に所属する生徒すべてを犠牲にして完成する!」

 

「待て待て待て待て。それはつまり、ここの生徒のほぼすべてが死滅すると?」

 

「その通りだ愚者の中の俺。俺の計算では98%の生徒は耐えきれず壊れてしまうだろう。だが、数人でも成功すれば、それをもとに100億の天才が生まれる。対して大きな犠牲でもないと思うが?」

 

「………それが学園の中で起きていると?」

 

「現在はまだその段階に至っておらん。何より、数合わせとはいえ、黒神に来てもらう必要もあるのでな。成功した暁には、成功者から4人、偉大なる俺が貰っていいことになっている。そこで偉大なる俺はそいつらを四天王に王道楽土を作る!その初代王妃が黒神めだか、お前だ」

 

 そういいながら踵を返し、時計台の地下がフラスコ計画の研究所だから見に来るがいい、と投げかけつつ、都城先輩は壁を降りて行った。いよいよもってゴキブリじみている。ああいう姿を見ると思わず熱湯をかけたり殺虫剤を撒きたくなるのは私だけなのだろうか。

 

「どう思う、人吉君?」

 

「ああ?最終的にはめだかちゃんが決めることだ。まあ、俺としてはそんな命を大事にしねえ計画なんか最悪だと思うけどさ」

 

「いや、ああいう壁を歩く存在を見たら、殺虫剤とか噴射したくならないか?」

 

「わけがわかんねぇよ!?」

 

「だって、ああいう壁を歩く存在って、ゴキブリとか蜘蛛とかヤモリとかタモリとか気持ち悪いのばかりだろう?」

 

「タモリさんは壁を歩かねえし気持ち悪くもねえよ!」

 

「ああ、そうだな、確かに殺虫剤は効きそうにない」

 

「それ以前の問題だ!?」

 

「何をしておるのだ、善吉、四方寄。生徒会を執行するぞ!」

 

「って、悪い。で、めだかちゃん。どうするつもりだ?」

 

「無論、そのような無謀な計画を完成させるわけにはいかん。私の目の届く範囲で他者が被害に遭うようなことなど、絶対に納得できんからな。今回の生徒会執行内容は、『フラスコ計画を今日中に叩き潰す』だ!」

 

 

 

 

 

 時計塔という存在は以前から生徒にとってこの学園のシンボルの一つであったのだが、内部については業者や許可証を持っている人間でない限り入れないという秘密に溢れた場所でもあった。そんな場所の地下に、フラスコ計画の研究施設は有るという。そんな場所に来ることなど、生徒会に入っていても先ず来ることはなかっただろうに。会長様のトラブルメーカーぶりは人外レベルの異常性だと思うのは、私だけだろうか。

 

「「いらっしゃいませ」」

 

「生徒会執行部の黒神めだかだ。貴様達も『十三組の十三人(サーティン・パーティ)』のメンバーか?」

 

「いやいや、僕らは普通の門番さ」

 

「「至って普通の異端児さ」」

 

「無視して通り過ぎてくれて構わないよ」

 

「「但し勿論、この『拒絶の扉』を通ることが出来たらだけど☆」」

 

 六桁の数字の羅列による暗証番号を用いた電子錠。しかもパスワードは一回ごとに更新され、一回で開けられる確率は百万分の一。『異常』ですらある程度のレベルになっていなければ開くことはできず、十三組の十三人になるための最低条件は、この扉を開けることが出来るかどうかなのだとか。あっさりと開けることが出来た会長様はやはり異常度が高いというわけか。白黒兄弟が何やら説明口調で語っているが、とりあえず残された自分たちをどうするのか考えてみる。まあ、会長様の言葉で予想は出来ているのだが。

 

「「さて、次は君たちの番だ」」

 

「つってもよ……」

 

「人吉君、次は君の番だ。君にとって一番身近な番号と言えばなんだ?」

 

「あ?……誕生日かな…お!?」

 

「会長様のヒント的に間違いないだろう。入力して入ればいいよ」

 

 人吉君クリア。黒白兄弟は何やらわめいているが、なんのことはない。会長様が次に選ぶだろう番号を入力しただけである。さて、次は私の番だな。百万分の一、一度でクリアすることなど出来るはずもない確率だ。だが、手はある。

 

「そこの白黒兄弟。ここの認証は何回やっても良いのだな?」

 

「「勿論さ。気のすむまでやればいい。まあ、一回目で引き当てられないと、まず無理だとは思うけどね」」

 

「いや、逆にそれは有り難い限りだ。私なら、『確実に引き当てられる』」

 

「「…どういう意味だ?」」

 

 一回目、エラー。二回目、エラー。三回目、エラー。四回目、エラー。五回目、エラー。六回目、エラー。七回目、エラー。八回目、エラー。九回目、エラー。十回目、エラー。十一回目、エラー。十二回目、エラー。十三回目、エラー。十四回目、エラー。十五回目、エラー。

 

「フン…、やはり君みたいなノーマルにクリアできる筈はないね。諦めた方がいいんじゃない?」

 

「まあ、続ける根性は認めてあげてもいいけれど、同じ『異常』の僕達でも不可能なんだ。大人しく帰るのが賢い選択じゃないの?」

 

 三十一回目、エラー。三十二回目、エラー。三十三回目、エラー。三十五回目、エラー。

 

「……ムキになっちゃったかな?まあ、気が済むまで試せばいいさ。まあ、無駄だとは思うけれどね」

 

「所詮『普通』にクリア出来るような壁じゃないんだよ、この『拒絶の扉』は」

 

 七十三回目、エラー。七十四回目、エラー。七十六回目、エラー。

 

「………随分集中力が続くものだね。今まで挑戦した『異常者』でもここまでつづけた奴はいないよ」

 

「まあ、『普通』だからこそやれば出来るなんて思っているんだろう。それでも、無理なものは無理さ」

 

「おい、お前ら」

 

「「何かな?」」

 

「お前ら『異常者』に不可能な筈がないだろう。『普通』の人間より、よっぽどクリア率は高いはずだ」

 

 百六十三回目、エラー。百六十四回目、エラー。

 

「お前らにはっきりと言ってやろう。こんなものは不可能なんてものじゃない。ただ、面倒臭いだけだ」

 

「「いや、これは絶対に不可能さ。僕達でも出来ないんだから、君にできるはずはない」」

 

「『異常』だからこそ、そんな考えになるのかもしれんな。『普通』に考えてみろ、数字上百万分の一だからといって、百万回試さねばならない道理がどこにある?会長様は二回連続であてたし、フラスコ計画の参加者も毎朝通っているのだろう?つまり、実際にはそこまで低い確率でもない」

 

「詭弁だね。彼らが『異常』の中の『異常』だということを考えていないだろう?」

 

「その通りだね。毎回変わる暗証番号を引き当てられるはずなんて……」

 

 三百六十七回目、エラー。三百六十八回目……。

 

「ほら、開いた」

 

「「なんだって!?」」

 

「お前達、何か勘違いしていないか?『正解・不正解に関わらず』、『毎回暗証番号が変わり』、『挑戦回数は無制限』、『確率は百万分の一』。なら、同じ数字をずっと打ち続ければ、何回目かでクリア出来るに決まっているじゃないか。とはいえ、ここまで早く出来るとも思わなかったがな」

 

「「………扉が許可した以上、僕達は何も言わないよ。さあ、この先へ沈んでいくがいい」」

 

「うむ、それではまた帰りにでも会おう。喜界島さんと阿久根先輩も、早めに入ってきてくださいね?」

 

 いつの間にか来ていた二人に、私は声をかけつつ扉をくぐる。閉まった扉の先にはまだ会長様と人吉君が待っていた。

 

「てっきり先に行っているものだと思ったが」

 

「揃ってこその生徒会だ。ところで…外が若干騒がしいが、一体なんだ?」

 

「さあ?阿久根先輩と喜界島さんが来ていたが、何か関係でもあるのではないか?」

 

「…カッ!だったらこの扉、もう誰でも入れるようになっちまうな!」

 

 どういう意味だろう、と思っていると、扉がどんどん歪な形になっていく。段々と周囲には罅も入ってきており、今にも壊れそうな勢いだ。数瞬後、扉が開かれ外から燭台を携えた阿久根先輩が現れた。どうやら扉の開閉機能を壊して入ってきたらしい。まあなんとも『特別』らしい入場の仕方である。思わず私は心の声を溢してしまった。

 

「……シャイニングって確かこんな感じのシーンがあったよな……」

 

 当然仕切りなおされた。

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