異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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本当はトマトになるわけないが、普通に考えたらならないと異常だものな。

 さて、親愛なる読者諸氏に質問をしてみようと思う。なんのことはない他愛のない質問であるため、気軽に答えて頂いて一向に構わないし、答えないなら答えないでも一切物語の進行に影響はないので安心していただきたい。御託を並べていないでさっさと質問しろと言われるだろうから、質問に入る。条件一、突然現れる。条件二、いつの間にか背後にいて、見つけた者を驚かせる。条件三、体色は黒味がかった茶色、条件四、並はずれた素早さで我々を翻弄する。これに該当する生物は?

 

「またゴキブリか」

 

 当然仕切りなおされた。

 

 

 

 

 

 私は現在、一階のエレベーター前にいる。なぜこのようなところにいるのかといえば、人吉君から「頼むから進行を妨げるような発言をしないでくれ、出来ればどっかで大人しくしておいてくれ」と言われたからである。失礼な。ゴキブリは生命力も強く、数億年という永きにわたって目立った進化を遂げていない、いわばある意味において完成された生物だというのに。それを考えると、フラスコ計画=人類ゴキブリ化の法則が成り立つと思わないか?と返したら、阿久根先輩からここで大人しくしていなさい、とエレベーター前に連れてこられた。なんとなくいらっとするのは私だけだろうか。

 

「…あれ?四方寄ちゃん、一体どうしたんだい?こんなところで不貞腐れて」

 

「ああ、真黒さんですか。いやね、私がやたらと場を乱す発言をしまくると、締め出しを食らいました」

 

「………え?」

 

「黒くてすばやくて突然現れて人の背後にいつの間にやらいるとか、ゴキブリそのものだと思いませんか?」

 

「…高千穂君をそう見る君の感性は十分に異常だと思うよ」

 

 私がおかしいのだろうか。

 

「まあ、いずれにせよそろそろ地下一階も突破している頃でしょうから、あとを追うなら今のうちかもしれませんよ?」

 

「ありがとう。じゃ、()()()()

 

 そう言って真黒さんは地下へ潜っていった。あとで、ねえ。まあ、確かにその通りになるのだろうけれど。

 

「文字数制限なし、漢字かな混じりのパスワード、はたして何回目でひくことが出来るのやら」

 

文字数無制限で毎回変更とか、最早無理ゲーの予感たっぷりである。まあ、それでも挑戦する事にこそ意味があるという先人の偉大な名言を信じて打ち込んでみるのだけれど。まあ、効率はさっきのパスワードよりよっぽどいいし、それだけを心のよりどころにして頑張るとするか。どうせあちらは波乱万丈なのだろうし、一方が地味でも構わないだろう………。

 

一回目、クリア。

 

「………あれ?」

 

 

 

 

 

「………彼女はやはり『異常』なのでしょうか?なんだかんだで『拒絶の扉』も開けましたし、まさかあのエレベーターを一回で……」

 

「んー…ちょっと分かんないな♪それよりむしろ、おじいちゃんホントにゴキブリ化しようなんて思ってないよね?」

 

「そんなわけないでしょう!?いくら袖ちゃんでも怒りますよ!?」

 

「ごめんごめん。ちょっと気になったもんでさ☆」

 

「まったく……」

 

 

 

 

 

 

 

「……ぬ?確か、ウジ虫とかいったか?衆愚の中の異常(オレタチ)よ、このエレベーターを使えるということは、やはりお前も異常者(こちらがわ)ということだな。偉大なる俺は朝の件を水に流し、仲間として迎え入れてやろうと思っておるぞ。寛大な偉大なる俺の心に感謝しつつ、『平伏すがよい』」

 

「悪いが、生徒会の執行内容が『フラスコ計画を潰す』なのでお断りする。そもそも、ゴキブリの仲間になどなりたくない。というか、『偉大なる俺』って何様のつもりなのだ?この国は一応民主主義国家という名目の国家だし、仮にこの国に王権を持つ者がいるとしたら、それは天皇家の現宗主だけだろう?」

 

「減らず口を叩くな、死にたいのか?」

 

「減るも減らぬも元々口は一つだ、という冗談も通じないらしいな。まったく、女の子に暴力を振るおうとするあたり、お前に『王』を名乗る資格なんかないよ」

 

「『圧政(コトバ)』が通じぬなら『暴政(ボウリョク)』を振るうまでだ!そもそも偉大なる俺こそがルールなのだからな!」

 

「いいか、この国の基本的なルールは憲法及び各種法律、民法や条例で、この学園のルールは校則だ。人がルールを作ることはあっても、人がルールになることなどあってはならんのだよ」

 

「………!?」

 

「分かっているのか?都城王土。特殊な能力を持っているからと言って、お前が偉大な理由にはならん。偉大は他称であって自称の為の言葉ではない」

 

「知ったような口を………!!」

 

「そもそも、言葉が通じないから暴力だと?そんな野蛮な国、私は住みたいとも思わん。お前が仮に王になったところで、所詮は愚物と罵られるだけだろうな」

 

「きさまぁ……!!!!」

 

「それと、会長様にも言っているのだが…私に対して貴様などという二人称を使うな、反吐が出る。それでは、おいてきぼりをくらった私は外のメンバーを驚かせるべく上に向かう。せいぜい王様ごっこに興じているがいい。いつか『規則』が邪魔をするだろうけれどな」

 

 

 

 

 

 で、途中チミッ子と談笑しつつ、上に用があるからあとでな、と階段を用いて上にあがってきたのだが………。

 

「なあ、いくら地下だからって本当にアングラみたいなことしなくても良いんじゃないか、阿久根先輩」

 

「…海路口さん!?なんでここに、いや、なんで下から!?」

 

 エレベーターが有ったのに下から来ることを不思議に思うとは、一体どんな神経してるんだろう、この人。

 

「エレベーターで地下十三階まで行って、そこから階段で上がってきたが、何か問題でも?あ、真黒さん、先ほどぶりです」

 

「……さっきぶり。にしても早かったね。きっと十三階についた頃出てくるっていう劇的な再登場だと思ってたのに」

 

 私はそんなどこぞの主人公のような真似は死んでもしたくない。

 

「それよりも海路口さん、まさか君も『異常』なのか?」

 

「人を異常呼ばわりするとは人格を疑いますね。偶々ですよ。きっと次はない。というか、『あ』と打っただけで通れるあたり、実際はそこまでセキュリティ厳しくないんじゃないですか?」

 

 正直、完全にランダムというパスワードは、あまりセキュリティに向かないのでは、というのが私の持論である。

 

「…おいおい、何気に無視してくれちゃってるんじゃねえよ、『規則』ちゃん」

 

「別に無視しているつもりなどないが?男子との会話などさっさと終わらせたかっただけだよ。名瀬ちゃん。それにしても可愛らしい顔だな、不貞腐れた表情も元がいいと絵画にしかならないよ?」

 

「………」

 

 ところで阿久根先輩はいつまでそんなエロティシズムな格好をしているのか。そこの先輩もかなり可愛らしいのだが、一体全体何があったというのだろうか。

 

「いい加減どいてあげてはいかがですか?正直女の子を押し倒して押さえつけるとか、性犯罪者のソレですよ?」

 

「敵対している以上そんなこと言っていられないだろう!?」

 

 ああ、じゃあ彼女も十三組の十三人の一人なわけか。抑え込み技を使っているあたり、燃費が悪いのかな?というか。

 

「真黒さん、そこどいた方がいいですよ?」

 

「どういうこと……げふぅっ!?」

 

「黒神くじらという素敵な名前が聞こえたのは、此処かな?あ、くじ姉だ!」

 

「こういうこと…って、遅かったですかね」

 

 なんでわざわざそこを狙って出てくるのか分からないが、会長様は兄貴レーダーでも搭載しているのか。

 

「ぬ?なぜ四方寄もいるのだ?…まさか」

 

「エレベーターを使わずに階を移動するとしたら、床をぶち抜くか、瞬間移動の能力でも持っていないと不可能だろうな」

 

 なんだってこの人たちは私を異常扱いしたいのだろうか?そんなに私は普通じゃ無く見えるのか?まあ、見えるのだろうけれども。会長様やそこの三人とは違って、私はちゃんと観察すれば規則性が見えてくるはずだと思うのだが。そもそも私が普通科にいる時点で、『異常』な筈がないだろうと言ってやりたい。まあ、『普通』でもないのだけれど。

 

 そんなことを考えている間に、どうやらまた会長様と名瀬さんの応酬は進展していたらしい。少しは生徒会の仕事に力を入れなければならないか?まあ、どうせ会長様が最終的にはどうにかするのだろうけれども。

 

「なるほど、これは確かに、痛い」

 

 そう一言つぶやき倒れる会長様。何やら注射針のようなものが見えたから、毒でも自ら打ったか?全く世話の焼ける会長様だな、などと思いつつ、私は状態を見る。

 

「…毒ではないな。だが、まっとうな薬でもない。こんな副作用の出る薬など、正規品ではあるまいよ」

 

「その通り!ってか、説明聞いてなかったのかよ?異常殺しの特効薬、『ノーマライズ・リキッド』だよ」

 

「主な副作用としては激痛だな。その他に副作用は有るのか?」

 

「特に命に関わるもんじゃねえよ。ま、そいつの『異常』は間違いなく消えちまってるがな」

 

「そんな薬があるのなら、自分に打てばいい物を。ちらっと聞こえたが、貴女は不幸をお望みなのだろう?だというのに『異常』なんて恵まれた能力を持っている時点で、矛盾が発生している。正直、貴女のその矛盾は馬鹿げているとしか思えんな」

 

 そう言っている間に、会長様への鎮痛剤投与が終わる。薬剤は専門家にしか使えないという無粋な突っ込みはしないでくれ。ちゃんと処方された市販の薬で、効果は気休め程度なのだから。

 

「しかし…、会長様の『異常』がないものにされてしまったのは困るな。この先ずっと彼女の力でフラスコ計画を潰す予定だったのだが。というかそれが生徒会の仕事なのだが」

 

「…案ずるな、四方寄。ちゃんと普通に動けるから」

 

「そうか、なら心配しない」

 

 後ろから阿久根先輩が何か喚いているが、気にしない。自己申告は基本的に尊重するのが私の規則だからな。まあ、『普通に』動けるだけというのは少し不味いとは思うが。

 

「お姉さま、どうやら実験は成功のようですよ?」

 

「嘘つけ、普通に動けてんじゃねえか」

 

「ええ、『普通に』なら動けます。そして、それで充分だ」

 

 それこそ嘘だと言ってやろう。『異常』がそんな生易しい物である筈がない。根本的に私達とはかけ離れている存在に、『普通』の会長様が勝てるはずもないのだから。

 

「オーケィ、降参だ。ほれ、解毒剤。この通り二人分やるから、許してね☆」

 

「めだかさん、信じてはいけない!異常(そいつら)は降参なんてしない!十中八九、それは解毒剤ではなく別の毒物です!!」

 

 その言葉を聞く会長様じゃあないだろう。阿久根先輩も結局は会長様の事を理解しているとは言い難いらしい。人吉君なら強制的に止めるのだろうか?まあ、どちらにしろ結果は変わらないだろうけど。ほら、打った。

 

「海路口さんもなんで止めないんだ!?めだかさんがどうなっても……!!」

 

「どうやっても止められないことくらい付き合いの浅い私でも分かりますよ。そして、『異常』がなくなった会長様が勝てるはずがないことも、『彼ら』を少し見ていれば分かります」

 

「ならば尚更……!!」

 

 なるほど、記憶制御薬ねえ。今の科学的には不可能ではない、か?まあ、現実的ではないけれども。正直それ一本作るのにいくらかかっているのか気になる。

 

「あ、負けた」

 

「あっさり言うな!?」

 

「さて、帰りましょうか、阿久根先輩、真黒さん。正直ここから私達だけなんて、荷が重いにもほどがある。降参だ、そこにいる会長様は好きにして良いから、私達は見逃してくれないか?」

 

「………『特別』やらに興味はないが、お前には有るからな、お前も一緒に来るってんなら、そこの二人は逃がしてやっても良いぜ?」

 

 だから阿久根先輩、そこで喚くなというのに。そういうのを決めるのは本人の意思なんだから、他人が首を突っ込むなと。

 

「構わないよ。貴女のように可愛らしい女性からのお誘いなら普通についていくさ。ただ、ちゃんと階段を使ってくれないと、私はそこの怪力が自慢な美少女のように穴を空けて飛び降りたり出来ないからね。下手すればトマトだ」

 

「海路口さん…っ!!!」

 

「四方寄ちゃん……めだかちゃんを頼んだよ」

 

「ここは私に構わずさっさと行け、というべきなのだろうか?どう思う、そこの……古賀さんだったか?」

 

「……うん、まあ、そうなんじゃないかな……」

 

 まだ何か喚こうとしている阿久根先輩を真黒さんが連れていくのを見て、私は素直に彼女たちのあとをついていった。会長様を背負いながら。

 

「ねえ、それこそ怪力持ちの私の仕事じゃない?」

 

「見た目がか弱ければ私にとってか弱い女性だ。たとえ怪力持ちであったとしても、それが頼る理由にはならん」

 

「君って変な子だね」

 

 『異常』な貴女達にだけは言われたくない、とは言わないでおこう。ところで、天井を歩くということはもしかして本当に………。

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