異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
親愛なる読者諸氏は、洗脳という言葉についてどのような印象を受けるだろうか?辞書を引く読者もいると思うので、簡単な解説をしようと思う。起源としては共産主義を謳った中華人民共和国において、知識人に対して強制的な思想改造を行ったという一件を欧米が非難して用いた侮蔑的表現、『brainwhasing』が語源とされており、一般的な意味においてはその通り思想改造及び主義主張の強制的改変である。歴史的にもそういった事象が起こっている以上、洗脳という手段自体は私にも有効だ。但し、本来洗脳というのはあくまでも自身の陣営に引き入れるのが主目的だ。だからこそ、自身の陣営へ不信感を与えないために、長い時間をかける必要がある。記憶制御薬を使いそこへ記憶の刷り込みをすれば短時間での洗脳も可能だが、コストパフォーマンスの面であまり得策とは言えない。そして何より、その刷り込みをしようにも、私の体力は十全であるため、抵抗は必至、ぶっちゃけ不可能である。というか、私を連れてきて解剖したところで、『
まあ、なにが言いたいかといえば、結局のところ私はなんの役にも立たなかったし、会長様への洗脳も止められなかったわけだ。
「で、なんだってここに連れてきたのか」
「正直、興味が尽きねえんだよ、俺らとはまた違うお前って存在に」
「それなら別に地下十三階なんて辺鄙なところへ連れてくる必要もなかっただろうに。どうせなんだから放課後にお茶でもしに行こうじゃないか」
「…残念だけど、名瀬ちゃんはもう私とお茶しに行く約束してるんだから、諦めてよ」
「別にかわいい女子二人になっても構わないさ。なんなら私が奢っても良い」
「後輩に奢られるなんて正直勘弁したいな。…で、そんな話のはぐらかしはどうでもいいんだ。質問をしていくから、出来る限りこたえてくれ」
「いやだと言ってもどうせ聞いてくるんだろう?構わないよ。私は可愛い女の子からの質問には答える主義なんだ」
「じゃあ、まず最初に……お前の分類は『規則』でいいとして、お前個人の能力は一体何なんだ?」
「名づける必要もなかったから考えてもいなかったな。まず、私の分類である『規則』なんだが、我が家系に必ず発現するものなんだ。規則には絶対服従というのが私達の家系でね、そして、家系としての元々の能力名は…確か曾祖父が名づけたんだったか?『
「……とんでもねえ『異常』じゃねえか」
「『異常』等というものではないと言ってるだろう?ちゃんと条件がある。『見る』、『知る』、『理解する』。この三つをクリアしないと覚えられないし、そもそも覚えたくないものを覚えることは出来ない。取捨選択は個人の感情にまかされる」
「それで?」
「覚えた物を発展させることはできない。もしより深く理解する必要があるとしたら、その都度他者から『覚える』必要がある」
「俺らの『異常性』は覚えることが出来るのか?」
「無論だ。人類の持つ全ての物を覚えると言っただろう?三つの条件さえ整えば、使えるようになる。そこにいる似非王の能力なら、もう少しで再現できるだろうな」
「もう少しってのは?」
「あと少しだけ『理解』が足りない。恐らくは電磁波を操り、他者へぶつけることで人体操作を出来る能力だと思うんだが……」
「あー…ほぼ間違っちゃいねえよ。ただ、それに付け加えて、他者の精神も操作できるってのがある」
「……いや、それでも無理なようだ。まだ欠けているようで、覚えられない。本当にそれだけか?」
「むしろオレが聞きたいくらいだ。俺が知ってる都城先輩の情報はそこで打ち止めだぜ?」
「なら、まだほかにも有るというところだろうな。さて、どうしたものか……『知る』の条件が整っていないことが判明してしまったな。また改めて見直さなければならん」
「…めんどくせー能力なのな。で、お前個人の能力ってのは?」
「ああ、話していなかったな。私の能力は…」
「…マジかよ、そんな反則じみた能力なのか?」
「まあ、これでもウチの家系では一番の『規則性』を持ってるのでな。未だ扱い切れているわけではないのだが、それでもどこぞのゲームなら裏ボスレベルの能力だよ。まったくもっていらないものをよこすものだな、ウチの家系は」
「…お前にとってそれは恵まれたものじゃないのか?」
「私は人生でチートをしたいわけではない。まあ、能力がある以上有効活用してやろうくらいには折り合いも付けてるが、それでも恵まれてるとは思わんな」
「………」
「ならばその能力、偉大なる俺に使わせてみるがよい!」
「…!?」
さて、そんなわけで、思いっきり背中に穴が開いた。だが、おかげで『見て』、『知って』、『理解』出来た。まあ、死にかけの身としては正直いらないのだが。
「フハハハハ!これで偉大なる俺は完全なる能力を……!」
「…んな、わけな…だろ。私のせつめ、…きいてなか…」
「………おいおいおいおい、一体何してんだよ都城先輩。俺の大事な実験動物を思いっきり傷つけてくれちゃって……」
「ふん、所詮は徴税されるだけの憐れな愚民だと言うだけだ。最早そいつに『異常』等残っておらん。もう捨ておけばよいのだ」
好き勝手言ってくれるじゃないか。とりあえず止血をしつつ……。
「さて、黒神めだかの洗脳も終わった。どうやら上にヒトキチとやら一行も来ておるらしいし、早速行くとしようじゃないか。黒神は置いておけ」
正直ここでほっとかれると死ぬ確率がぐぐいとアップしてしまうわけだが。
「……先に行っといてくれ。コイツの情報をもうちょっと仕入れなきゃいけないんでね」
「ふむ、構わん。さっさと来るのだぞ?」
ああ、どんどん体温が下がっていくわけだが。仕方がないので『使う』事にする。どうやらゴキブリ王先輩も上へ行ったようだし。
「……チッ、これじゃどうあがいても……!?」
「…死ぬかと思った!!」
「な…!?おま、一体どうやって……!?」
「『私の規則性』その一、ギャグ漫画では死にかけた人間も一コマで治癒する!」
なんだそれ……とやけに疲れた風に呟いている名瀬先輩と古賀先輩をしり目に、私は本格的な治療を始めた。
「なに、その名の通りだ。人の創造物であるところの漫画の規則性だって、立派な規則だろう?それなら『学蒐』することなんか容易い」
「で、なのになんで必死に治療してるんだ?」
「当然、表面上の止血だけしか終わってないから、他の『異常』を使うっきゃないんだ。かなり疲れるんだがな」
それよりむしろ、いつの間にか会長様がいなくなってることが気がかりだ。
「――――『黒神めだか(改)』です」
そんな発言の最中に、私は生徒会メンバーのいる場所へ来た。どうやら随分と暴れまわっていたようで、壁も天井もボロボロである。先ほどのチミッ子は大丈夫かと少々気になったためあたりを見回すと、王様型金色ゴキブリの横にいた。手を振ってみると振り返してくれるあたり、付き合いがいい。
「「「…って、海路口
「やあ、何やら随分と面白い場面じゃないか。というか申し訳なかったね、自分の保身で精一杯だったため、会長様の洗脳は阻止できなかった」
「……ほう、貴様、あの怪我でよく立っていられるな」
「あんなのギャグ漫画では怪我の内に入らんのだ。私がどんな思いでギャグ路線を突っ走っていたのか分かってるのか?ゴキブリ野郎」
絶対楽しんでただろ、と総突っ込みが入った。うん、正解。
「だが、遅かったな。最早お前はただの
「私は洗脳などされていません、ただ、『目が醒めた』だけです。人吉善吉庶務、阿久根高貴書記、喜界島もがな会計、海路口四方寄臨時執行員、我々生徒会はこれよりフラスコ計画に全面協力します。私は『
なるほど、洗脳されている。
「生徒会をあげてフラスコ計画に加担!?バカも休み休み言えよ、めだかちゃん!」
「めだかちゃんではありません、めだかちゃん(改)です」
「自分が何を言ってるか分かってるんですか!?フラスコ計画は全校生徒を犠牲にしかねない危険な実験なんですよ!?」
「それが何か?箱庭学園生は生徒会長たる私の完成に役立てることを誇りに思うべきです」
「………鍋島先輩たちが今どんな気持ちで戦ってると思うのよ!?みんな黒神さんを助けようと頑張って…!!」
「他人の気持ちに興味などありません。というかなんですかあなた達は先ほどから文句ばかり。私の思想に賛同できないというのなら、分かりました。人吉善吉庶務、阿久根高貴書記、喜界島もがな会計、あなた達三名を生徒会より解任します!」
「「「!?」」」
「私の役に立たない人間は、要りませんから」
おう、普段の会長様なら絶対に言わないようなセリフである。一体全体どのような洗脳を施せばそんなことになるのやら。
「…そこの海路口四方寄臨時執行員も、私の意見には賛成出来ませんか?」
「いや、仕事だからな。そう言われれば『はいはい』と頷くさ。ただ…」
「ただ?」
「後ろの奴らはその解任には賛同できないそうだ」
口々に変わり果てて欲しかったわけではないとか、なにがあっても生徒会は辞めないとか、その状態の会長様は悲しくて見ていられないとか、そんな善人バリバリの発言をしている三人。まあ、この変わり果てた姿の会長様に、思うところがないとは…言う。が、それ以前の問題だ。
「『跪きなさい』」
おう、見事に突っ伏している。ゴキブリ野郎のそれよりも随分と強力に見えるな。さて、判断材料は完全にそろった。では、『規則』に基づいて動くとするか。
「『箱庭学園学校則、第四十五条第五項に基づき、黒神めだかを生徒会会長から解任する』」
「………なんですって?」
「列記とした校則だ。第四十五条は生徒会役員の罷免に関する条項。第五項は特別項だ。『監査役である臨時執行員は、生徒会長が重大な免責事項に抵触した場合に於いて、生徒会長に限り罷免する事が出来る。尚且つ、次期生徒会長の選任まで、臨時で生徒会長職を執行するものとする』この条項、他の生徒会役員の罷免に対する条項に対して最優先になるから、貴女がどうあがいたところで完全に貴女の役職はなくなる」
「…私がいつ免責事項に抵触しましたか?」
「生徒会会則第一条第一項、『生徒会役員は常に全校生徒の安全と平和な生活の為に全力を尽くし、全校生徒の大多数に悪影響を及ぼすような行為に及んではならない』という条項に、しっかり抵触している。なので、貴女は最早会長様ではない。ただの黒神めだかだ。そして私が代理で会長となる。私の最初の仕事は、役員の選任だな。丁度そこに三人の生徒がいるが、あなた達は生徒会に入り、このフラスコ計画の廃絶に助力してくれるか?」
「「「……当然!」」」
「そして、副会長不在であるため、臨時の執行員として、黒神真黒氏を選任します」
「……分かったよ」
「さて、正直に言えば、私にとって障壁となり得る存在は黒神めだか、あなただけだな。なので、とりあえずあなたは……『平伏して動くな』」
「!!!???」
うん、使えるようになっている。
「どういうことだ!?海路口、お前、『異常』じゃないって……!」
「『異常』じゃないさ。『普通』でもないらしいけど。我が家系のスキルは『学蒐』。そして私個人のスキルは…『
「……嘗めた口を……!」
「あ、でも戦うのは私ではないぞ。それは幼馴染の人吉君が買って出てくれるはずだ」
「俺かよ!?……いや、ありがとよ、海路口!」
「なに、礼には及ばん。『これが仕事だからな』。それに、私は個人的にこの人類ゴキブリ化計画を阻止したいだけだ!」
…うん?なんだみんな固まって。そんなにこのネーミングがいやなのか?
「やめてくれ、海路口……」
「ちからがぬける……」
「そんな馬鹿げた名前の計画相手に本気になりたくない……」
「四方寄ちゃん……そんな計画じゃないんだってば……」
「………私が天井を歩けるからなの!?」
「落ち着け、古賀ちゃん」
「…アハハ、やっぱり彼女は面白いな!」
「………無礼であるな。既に俺に能力を盗られた分際で。残り滓だけであろうに」
「崇高なる私の完成をゴキブリ呼ばわりとは、断じて許せるものではありません」
なんだか総スカンをくらってしまった。なんだよ、冗談だっていうのに。あ、チミッ子は普通に楽しんでくれてるようだ。ならよし。