異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
条件一、黒神めだかは拘束着に身を包まれている。条件二、人吉善吉の基本的な戦闘スタイルはサバットという喧嘩殺法である。条件三、どうやら黒神めだかは本気を出しきれていない。条件四、途中で何か古い記憶を思い出したらしい黒神めだか。以上の事を踏まえたうえで、この戦闘の決着はどういうものか考えてみよう。私が推測するに、黒神めだかが勝つと思うのだが、賢明なる読者諸氏は一体どう予測する?
結果。自分自身を洗脳しなおそうとするも人吉君の説得により何故か人格が元に戻る。……どこぞのラブコメ的な雰囲気は今までの進行を鑑みると些か唐突すぎる気がするが、それもまあ彼らの特性なのだろうと気にしないことにする。というか、よそでやれ、よそで。
「…にしても、どうするんだい?四方寄ちゃん。めだかちゃんの人格が戻った以上、君が臨時で会長をやる理由はなくなったんだけど?」
「…正直なところ、洗脳が解ける可能性を考慮していなかったので、同一人物の再任を度外視した条項を使ってしまいました。どうしたものやら……」
「てことは、もしかして?」
「……ちょっと待ってください。何か抜け道がないかを考えます」
さて、考えろ。黒神めだかを会長職へ返り咲かせるための『規則』を。箱庭学園の今までに制定された規則を全て思い起こす。何かいい方法はないか?……まだこの時点で周囲には広まっていない筈だから、いっそその宣言自体をなかったことに……無理だな。さっきから各所に監視カメラの目があるし、それを通じて理事長が見ているのは間違いない。やはりあくまでも正々堂々と卑怯な手を使わねばなるまい。
「………ん?」
気が付いたら置いていかれていた。なんだよ、人がせっかく真面目に考えていたというのに。おいていくとは酷いじゃないか。なんとなくやる気がそがれたのでこのまま地上へ出ることにする。もうこうなったら私が次の選挙まで生徒会長をやってやる。などとお茶目な思考を巡らしながら、私は地上へ続く階段を上って行った。
「『……あれ?君は誰?』」
数名の生徒が壁に貼り付けになっている光景の中、一人無事な彼は私によく分からない問いかけをしてきた。
「だれ、と言われると非常に困るのだが。最近は『何』としか聞かれてなかったから少し新鮮だな。私の名前は海路口四方寄、一応この学校の現生徒会長だ」
「『…え?』『ここの生徒会長は黒神めだかじゃなかったの?』『ちょっと予想外だなあ』」
「ああ…、先ほどまでは確かにそうだったのだけれども。ちょいと手違いがあってね、リコールの結果私が次の会長が決まるまで生徒会長をすることになってる」
変な喋り方をする人だな、と思いつつ、彼の疑問に応えるべく、簡易な説明を行った。
「『へえ』『君って結構面白い子だね』『うん、君となら友達になっても良いかもしれない』『ということで、今から一緒に本屋に行かない?エロ本を買いたいんだけど』『付き合ってよ』」
「悪いが、これから少し生徒会のメンバー選定が必要なんでな。明日以降なら付き合えないこともないが」
「『……あはは、君、頭おかしいだろ?』『僕みたいな人間相手に普通に接する事が出来るとか』『君も『負完全』なのかな?』」
「言いたい事がよく分からん。まあ、友人になりたいのであればとりあえず握手からじゃないかと思うからな、ほれ、手を出すがいい」
「『………あれ?』」
相手が手を出すのを待っていると、彼はまるで『出るはずの物が出てこなかったかのような』表情をした後、私と握手をした。うん、これで友人である。
「『……ま、いっか。僕は球磨川禊っていうんだ、よろしくね、四方寄ちゃん☆』」
「ああ、よろしく頼む。ところで、この惨状はお前がやったのか?」
「『え?そんなわけないじゃん』『僕が来た時には既にこうなっていた』『だから、僕は悪くない』」
「そうか、ならすまないが手伝いをしてくれ。この人たちの応急処置をせねばならん」
そういうと、またも奇妙な物でも見るかのような表情をして、手伝いを始めてくれた。随分と手慣れた様子で螺子を外していく。
「随分と慣れているのだな、『まるでいつもやっている事であるかのように』」
「『あはは』『そうだね』『これは僕がやりました』『って言ったら君は僕を突き放すかな?』」
「やっていないと言ったり、やったと言ったり、随分と『自分がない』奴だとは思うが、それも最近の若者には多いと聞くし、良いんじゃないのか?」
まあ、この学園の外だったら直に警察の御厄介になるからやめておけ、とだけ言い、私は知人数名と、他人数名、元敵対者一人を治療する。異常なスピードで傷口はふさがっているため、恐らくはメンタル面の治療優先だろうと、鎮痛鎮静薬を投与する。
「それにしても、随分と綺麗に貫いてあるな。螺子という物はその特性上傷口が非常に歪で、治りにくいのが常であるというのに」
「『そりゃあ慣れてるからね』『それに』『そもそも傷なんてなかったんだから、ふさがるのも当然じゃないか』」
「…なるほど、お前も黒神めだかやそこのチビッ子と同系統か」
「『やだなあ』『めだかちゃんみたいなエリートと一緒にしないでよ』『僕は生まれながらにして勝負に勝ったことなんか一度もないんだぜ』」
「それはある意味素晴しいな。お前と敵対した人間は、必ず勝利できるのか。これほど物語のラスボス的な存在はいないだろう」
そういうと、彼は心底おかしそうに嗤った。
「『アハハハハ!』『確かに僕はそうなのかもね』『でもさ』『一回くらいは勝ってみたいんだ』」
「ならばそのうち私が相手をしてやろう。ああ、勿論暴力沙汰はやめてくれよ?私みたいな美しい女の子相手に手をあげたりしたら私のファン一億人が黙っていないぜ?」
「『それは怖いね』『じゃあ、先にその一億人を潰してしまおうか』」
「それは非常にいい手のようで、その実途轍もない悪手だな。なんせ、どこを探してもそんなのはいないんだから」
「『…なんだか君と友達になれたのが嬉しくなってきたよ』『そう言えば、ちょっと用事があるんだ』『残念だけど、治療も終わったし、もう行くね?』」
「うむ、助かった。では、またそのうちに会おう、球磨川」
「『友達なんだから』『禊って呼んでくれよ、四方寄ちゃん』」
そうか、では改めて、禊、また会おうと言うと、彼は満足そうに去っていった。私も彼らの治療は終わっているし、保健室へぶち込んで我が城(生徒会室)へ行くことにした。
「「「生徒会長の再任は不可能!?」」」
「…どういうことだ、四方寄」
「どういうことも何も、校則、生徒会則、念のため各委員会条規全てを確認したが、この第五項を覆せるものがないんだ。正直な話、私としてもなんとか返上したかったからな、がんばって考えてみたんだがどうにも抜け穴がない」
どうやっても無理だな、という私の言葉に食って掛るかのように、人吉君が詰め寄ってくる。
「でもよ!あの時のめだかちゃんは洗脳されてたんだから……」
「それを理由にしての再委任も考えたが、この五項、随分と条件が厳しくてな、一度解任された人間が再度返り咲くには、過去の遺物である塾則を適用するしかないんだ」
「出来るんだったらそれを使えば……!!」
「それが真剣での生死をかけた試合だとしてもか?」
「な…!?」
「しかも、適用例は過去三回……そのすべてで、塾頭側、解散請求者側のどちらかは死んでいる。私は自分が死ぬことに未だ恐怖を抱いているのでな、流石にこんな命を捨てるようなことはしたくないね」
更に言うなら、これを使うと会長様以外のメンバーは私の側につくことになる、と付け加え、どうしたものかと改めて頭を抱える。
「…どうしたもんかなぁ…まさか洗脳を自力で解けるとは思ってなかったし、それこそG計画を潰したところで適当な人間に再委任するつもりだったのだけれど」
「そんなことを言っている場合か!?なんとかしてめだかさんを生徒会長に戻さねば……」
「まあ、どちらにしろ次の選挙になれば解任された元会長様ももう一度出馬する事は出来るが……何をそんなに急いでいるんですか?」
「…君は違う中学だから知らなかっただろうが、今とても危険な人物がこの学園に転入してきている。彼が何をするつもりなのかはわからないが、そんな事態に対処できるのはめだかさんを置いて他にはいない!」
随分と切羽詰まっているらしい。とは言う物の、今すぐ再委任が出来るものではないし……。
「…なあ、副会長にめだかちゃんを選任する事は出来ねえのか?」
「何を言ってるんだ、人吉君!そんな事……」
「元会長様はそれで構わないと思うか?」
「…私が会長職をやっているのは、全ての人を幸せにするためだ。そのために必要だから会長になったのだから、それさえ約束できるのなら、役職にこだわることではない」
「めだかさん!?」
「そうか……出来ないことはない」
結局のところ、問題なのは解任された人間が『生徒会長に』戻ることなのだ。それ以外の条項などないし、『規則』がない以上文句も出ないだろう。
「では、今から書類を作る。職員室に届け出た時点で、第九十九代生徒会の発足になるだろう」
「そうなると、お前が新しい会長になるのか……」
「私は投票で選任された会長ではないのでな、色々と制約はつく」
その制約について、メンバーおよび親愛なる読者諸氏に説明しようと思う。生徒会則別項、『臨時執行員が生徒会長を解任し、臨時生徒会長になった場合の処遇に関する項目。もし学校則第四十五条第五項の適用により、臨時執行員が代理で生徒会長を務めることになった場合、投票によって選任を受けたものでない為、解任した生徒会長以外の会長職経験者を一定期間外部顧問として選任する事。尚、この条項が正当な理由なく履行されない場合、選任した役員共々理事長の決裁により解任されるものとする』
「正直なところ、会長職経験者を引っ張り出すことがまず無理難題なんだがな」
「元会長……?」
「ほら、やっぱりみんな忘れてる。あんな存在感大きい先輩を忘れる辺り、やはり『異常性』というのは人間離れしているよな」
「!?」
「日之影先輩の処へ行ってくる。私は普通に見えるから、あとは元会長様がついてきてくれれば少しは和やかに話も進められるだろう」
ああ、自分でまいた種とはいえ面倒臭いものだな、と思いつつ、私は元会長様を引き連れ、三年十三組へと向かった。…ところで、名瀬先輩もついてきてるのはどういった理由だ?
前から三列目、右から三列目、席替えがあろうとも必ずその位置にいる日之影先輩。表記で言うならばセンチではなくメートルを使うべきだとか考えているだろう名瀬先輩を差し置き、私は朗らかに彼へ手を振った。
「お!黒神に四方寄じゃねえか!よぉ、久し振りだな」
「お久しぶりです、日之影先輩。中々学校でも会えず、申し訳ありません」
「なあに、いいってことよ。俺の事を常に覚えててくれるお前の事が大好きだぜ」
「ありがとうございます。それでですね、今回は非常に申し訳ないのですが、此方の勝手なお願いに参りました」
私がそういうと、お前の頼みだったら出来る限りは聞いてやるよ、と頼もしい言葉。心苦しいのだが、お願いする他ない以上、此方としても最低限の礼を尽くさねば。
「誠にお恥ずかしい話、先輩から再三誘われていた生徒会への勧誘を断り続けていた私が、此方の黒神めだかさんのお願いと、周囲の教師陣の早とちりにより、生徒会の臨時役員として執務に加わったことが、そもそもの発端なのですが…」
「……なるほどな、大体分かったぜ。黒神の奴がへまをしちまったから、お前さんがしりぬぐいをした結果、予想以上に黒神が収拾しちまって困ってるってことか…」
「そうなりますね。しかも、どうやら元会長様達の知り合いでとんでもないのが転入してきてるらしいんですよ。勿論我が生徒会のメンバーに不備があるとは思えませんが、規定は規定ですし、何より、私は貴方の助力を必要としています。だから、空洞にいさん、手を貸してください!」
私が純粋に頭を下げている事に驚く二人。日之影先輩はゆっくりと席を立ち、私の頭に……手を置いた。
「頼んできたのが黒神で、そのよく分からん転校生の為に助力を頼むってんだったら別だがな、ほかならぬ妹分の頼みだ、聞いてやらんわけにはいくまいよ」
「……ありがとう、にいさん。…では、これを持って、第九十九代、箱庭学園生徒会の発足とします!今から職員室へ書類を持っていきますので、生徒会室で待ってて下さい!」
思えば、この時に一緒に行ってもらえばにいさんは『