異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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―――――箱庭学園には様々な部活があり、様々な施設がある。
                  そして様々ないざこざがあるのだ――――


異常者との対峙。普通に対処

 自己紹介が終わっても、不知火さんが私への興味をなくすことはなかった。まあ、

そもそも自己紹介が終わっただけで興味をなくすはずもないのだが。そんな益体も

ないことを考えていると、彼女は私に声をかけた理由を説明してくれた。

 

「いやね、アタシのおじいちゃんがこの学園の理事長なんだけどさ、おじいちゃんから

 選考のときはAB型の人間以外をとらないようにしている、って聞いてたの。で、

 海路口はB型でしょ?一体どうしてなのかなっておもってさ♪」

 

 学園長のお孫さんだったのか。まあ、実際そう聞かされているのなら、私の血液型を

知って疑問に思うのも無理はないのだろう。

 

「どうしてって言われてもね。私が聞きたいくらいだよ。それこそ選考ミスでも

 したんじゃないの?くらいしか言えないね」

 

「…そりゃそうか~。いやいや、ごめんね?変なこと聞いちゃってさ」

 

「いや、構わない。気になるのは私も同じだからね。今の言葉でようやく得心がいったよ。

 学校の方針だったら当たり前か」

 

「あ、できればこれ、周囲には言わないでね?やっぱマスコミとか煩いみたいで」

 

「勿論だよ。態々自分の所属する学校を貶めるようなこと、馬鹿でもあるまいし

 するわけがない」

 

 それなら良かった、と不知火さんは笑い、店員さんに追加注文を……まだ食べる気か?

恐ろしい胃袋の持ち主である。私は先ほど運ばれてきたコーヒーとトーストのセットを

食べつつ、目の前の小さな健啖家に少し戦慄を覚えた。

 

 

 

 

 

 

―――――箱庭学園廊下―――――

 

「…一体どうしたのさ、人吉君。自分が間違ってるかのような疑念に駆られていた

 ところを暴漢に後ろから殴られたみたいな感じで血を流して倒れているが」

 

「そのものズバリその通りだよ!」

 

 前日、不知火さんとデート(不知火さん曰く)していた頃、どうやら人吉君は

黒神生徒会長と一緒に剣道場に屯していた不良軍団を更生させていたらしいのだが、

翌日(つまり今日)になってそのことが早速生徒会長の武勇伝として噂になってた。

今日も生徒会長から呼び出されて剣道場に行ったはずなのだけれど、それがどうして

こんなところで倒れているのか、と声をかけてみたのだが、どうやら適当な戯言が

当たっていたらしい。意識の混濁や末端のしびれがないことを確認して、応急手当を施す。

その間に、ある程度の事情を聞いてしまった。というか、勝手に語ってくれた。

 

「―――というわけさ。っと、こうしちゃいられねえ。ありがとな、海路口!」

 

「勝手に話すだけ話しておさらばとかいい身分だね。行ってらっしゃい」

 

 軽い皮肉で答えると、人吉君は少しバツが悪そうな顔をして走っていった。廊下は

走っちゃダメだぞ~、などと声をかけると途端に競歩に変わったけれど。その辺少し

変わってる彼である。…にしても、聴けば聴くほど生徒会長の異常性というのが顕わに

なってくるな。そしてそれに一々付き合ってる人吉君って、文字どおりにお人好しだと

思うのだが。

 

「そのあたりどう思うよ、不知火さん」

 

「にははは♪いきなりどう思うなんて言われてもわっかんないよ、海路口♪」

 

「そこは何故か地の文であるにも拘らずに肯定してくれるところだろう?」

 

「まあ、そうかな。実際お人よしだと思うよ、人吉は」

 

 やっぱり分かってたんじゃないか、という突っ込みは、常識人であるところの

私がするには荷が重いので割愛した。にしても、やはり彼はお人好しで間違いないのか。

人吉君の親友と思われる不知火さんが同意してくれたこともあり、確信が持てる。

 

「にしてもさ、処置受けた途端に走り出すってちょっとマゾいんじゃないのかな?」

 

「そう思うのならあとで保健室にでも連れて行ってあげてくれ。私はそろそろ帰るのでね。

 では不知火さん、ごきげんよう」

 

「じゃ~ね~」

 

 

 不知火さんと別れ、音楽室に寄ろうにもこの状況(人吉君への処置で血がべったり)

であるため、今日は大人しく下校することにした。したのだが……。

 

「今度は日向君か。ボロボロだが、誰かと喧嘩でもしたのかな?」

 

「…ッ!ああ、海路口か。いや、ちょっと転んじゃって…」

 

「因みにさっきまでの悪態は全部聞いているわけだが。人吉君と喧嘩かい?全く、

 若いから有り余る欲求不満をぶつけ合うのは良いんだけれど、ちょっとは治療する

 人間の身にもなって欲しいね。私は怪我をしている人間を見ると、どうしても治療

 したくて仕方がなくなる」

 

 私はそう言い放ち、話しの途中で飛びかかってこようとした日向君を抑え、治療に

かかった。とはいうものの、顔面では流石に消毒以上のことはできないので、早急に

済ませ、早々に保健室へいくように指示する。

 

「な…!なんで俺を止められるんだよ!剣道三倍段って知らねえのか!」

 

「いや、剣道三倍段ってさ、竹刀や木刀持ってて初めて通用するもんだろ?それに、

 怪我してる人を止めるくらい、その辺の人なら結構当たり前にできるんじゃない?」

 

 というか、顔面、つまりは頭部に怪我をしておいて、無理に動こうとすることが私には

異常に思えるのだが、などと返答すると、日向君は唖然とした表情で此方を見つめてきた。

いや、早く保健室へ行けって。

 

「チクショウ!人吉善吉の野郎、絶対にこのままじゃおかねえ!いつか俺の手でギッタン

 ギッタンに…」

 

 何故か私の発言をスルーした上に、人吉君へリベンジの宣誓をしている日向君。が、

その後ろで何故か日向君の誓いのポーズを真似ている黒神生徒会長をみて、私は少し

呆れてしまう。その表情を訝しんで、後ろを向く日向君。生徒会長が全く同じポーズを

していることに驚愕する日向君。何やら不穏な応酬の後、先ほど治療した甲斐が全く

なくなるような目に遭わされそうな雰囲気が纏われたところで、私は二人の間に割って入った。

 

「あー、お二方?盛り上がっているところ非常に申し訳ないのだが、一寸待ってくれ。

 まずは日向君、生徒会長が言った言葉がすべて正しいわけではないだろうけれど、実際

 不良なんて後々面倒臭いことがオンパレードなんだ。どうせだからここらで更生すると

 言うのは私からもお奨めするよ」

 

「あ、あぁ…」

 

「それから生徒会長。彼を扱くことで矯正…基、更生を試みるのは別に構わないが、

 今日は勘弁してあげてくれないか?先ほどどうやら君の付き人である人吉君に痛め

 つけられたようでね。怪我をしているときに無理に動かすと、打ち込みたい事にも

 打ち込めなくなるから、今から始めるというのは賛同できない」

 

「ぬ…確かに貴様の言うとおりだな、海路口一年生。では日向、明日から扱いてやる、

 覚悟して待っておけ」

 

 この際頭部の怪我は一日二日で治るものじゃないという突っ込みはしないでおこう。

生徒会長の言葉に絶望感が増したのか、日向君は完全に真っ白になっていた。いや、

比喩的表現でなく真っ白というのは私も始めてみたのだけれど。

 

「それにしても海路口一年生、貴様は何故治療術を心得ておるのだ?特に保健委員会に

 所属しているわけでもなかろうに」

 

「えっと、もしよければ貴様という呼び方はやめてくれないかな?文法上も口語法上も

 間違った表現ではないけれど、正直呼ばれて良い気がしない。あと、治療術なんて

 高尚なものでもないよ。ただの応急処置だ。幼いころから一通りのことは学んでてね」

 

「ふむ、それはすまないな。しかし、これは口癖のようなもので、中々直せるもの

 でもない、不快だというのは分かるのだが、ここは我慢してはくれないだろうか?」

 

「…まあ、それなら仕方がないのかな?けれど、正直不快なのは隠せないから、互いに

 不快感をもたらさないように、私とは距離を置いておくことをお勧めするよ」

 

 そういうと黒神生徒会長は少しさみしそうな顔をしながら、日向君を私に任せ、生徒会室の

ある教室棟へ戻っていった。ああ、やはり不快な思いをさせてしまったかも知れない。

申し訳ないことをしたな、と思いつつ、日向君の手をとる。そのまま肩へ手をやり、

保健室へ連れて行った。

 

 

 

 

 

――――――箱庭学園一年一組――――――

 

「ってことは海路口、お嬢様に啖呵切ったの?」

 

「啖呵って…。ただ単に貴様呼ばわりが好きじゃないだけだよ。それを伝えたって

 いうだけの話だろう?それがどうして啖呵を切ったってなるのさ」

 

「だって、普通はお嬢様目の前にしてそんなこと堂々と言えるわけないじゃない。

 啖呵って言われても仕方ないよ」

 

 不知火さんの言葉に、私はそうなのか…?と疑問を浮かべつつ答える。

 

「だけどね、普通『貴様』と呼ばれて不快な思いをするのはある種当然と言えないか?

 言葉自体の意味は分かっていても用法が今一つネガティブだし」

 

「それはそうだけどさ、あのお嬢様に言ったっていうことがおかしいの。人吉の言葉を

 借りれば、それこそ『人の上に立つことに慣れてる』奴だよ?それに違和感を覚える

 事自体が、いわば『異常』なのさ」

 

 そういうものなのだろうか。だが、人としての礼儀というものは、その人間の優秀さに

関わらず適用されるべきものだとおもう。『先輩だからって敬意を払えない人間には敬語を

使わない』というような人もいるが、それはそれ、これはこれだとおもうのだ。それこそ、

敬語も使えないような人間に、偉そうに高説を述べられたくない。

 

「まあ、不知火さんが言わんとすることも分かるよ。ああ言った言葉遣いに違和感を覚えない

 ような風格がある人っていうのもいるっていうことは、私も理解できる。だけどね、

 彼女がそれに値するとは、私はどうしても思えないんだ」

 

 私が彼女に対してそういう感情を抱くのは、恐らく彼女に偏見を持っているが故だと思う。

どうにも周囲の人の彼女への認識は、完璧超人、或いはそれに準ずるものだ。だが、実際に

対峙した私としては、彼女は『欠落者』である。

 

「とにかく、私はあの呼び方は嫌いだし、あの二人称も不快なんだ。まあ、それこそ彼女と

 今後つながりができるとは思わないから、別に良いのだけれどね」

 

「…ふーん。けどさ、海路口。それはちょっと甘いんじゃないかな?」

 

「はい?どういうことさ」

 

「こういうことだな」

 

 後ろからの声には聞き覚えがある。人吉君が幼馴染と言い、不知火さんがお嬢様と嘯く、

我らが生徒会長様である。

 

「…さて、どんな用かな、黒神生徒会長」

 

「うむ、私の二人称をおかしいといったのは、貴様が初めてだったのでな。興味が湧いた、

 と言えばいいだろうか。善吉は既に入ってくれるそうなのだが…」

 

 嫌な予感しかしない。逃げ出そうにも扉側には黒神生徒会長が陣取っている。

 

「海路口一年生!貴様、生徒会に入れ」

 

「お断りだ」

 

 速攻で断った。即断で断った。即決で断った。いっそ清々しいほどにきっぱりと。

だが、そんな些末事、彼女にはどうでもいいらしい。

 

「勿論同好会との掛け持ちをしてもらって構わんし、正規の役職に入ってもらうというわけ

 でもない。庶務と同等の扱いにはなるが、客員的な位置にポストを用意させてもらった。

 早速なのだが、今日の放課後からよろしく頼む」

 

「厭だと言っている。というか黒神生徒会長、人の話は聞け。人吉君、これはどうにか

 ならないのか?」

 

「…どうにかしてやりたいとは思うんだがな、なにしろめだかちゃんは人の話を

 聞かないもんで」

 

 それは生徒会長としてどうなのか。

 

「なあ、めだかちゃん?海路口も嫌がってるわけだし、そんなに無理強いをすることも

 ないんじゃないのか?」

 

「いや、だがな善吉よ。私が納得しかけるような理路整然とした意見を言ってきた。

 これは中々できるものではないぞ?生徒会の一員として、ふさわしいとは思わんか?」

 

「いや、確かにその話は俺も驚いたけどよ…」

 

 人吉君、そこで納得しないでくれ。私は普通に普通なことを普通の対応として話した

だけなんだ。正直私は長時間彼女と一緒の空間にいる事に耐えられないと思う。

 

「…まあまあ、海路口も諦めた方がいいよ?このお嬢様、かなりの頑固者だからね。

 絶対自分が言いだしたことは曲げないし、意見も聞かない。それこそ犬にでも噛まれた

 …いや、サメにでも喰われたと思って諦めな?」

 

「最高に不穏なセリフを有難う。だが、本人が納得していないのに、ましてや、彼女に

 投票したわけでもない私が、正規ではないとはいえ生徒会に入るなど、あっていいこと

 でもないだろう?そもそも、生徒会役員なんて、せいぜいが内申書に水増しされる程度の

 ことだ。進学先がもう決まってる私にはメリットなんてない」

 

「…ならば、ゲームをして決めようじゃないか」

 

「は、ゲーム?」

 

 発言の意図が分からないために聞き返すと、彼女は何故かルール説明を始めた。

 

「なに、ただのコイントスだ。ここにある百円硬貨の、表が出るか裏が出るかを賭け、勝敗を

 決める。私は絶対にイカサマをしないし、疑うならばコインを貴様が持っている物に変えて、

 トスを第三者に任せても良い」

 

「いや、ゲームの内容に疑問を呈したわけではなく、何故そんなメリットのないゲームを

 しなければならないんだ、という意味で聞き返したんだが。いいか、黒神生徒会長。

 貴女がどれだけ熱心に私を誘っているのかは推察しかできないが、私は嫌だと言ってるんだ。

 何故引き下がらない」

 

「それだけ貴様が欲しい、という理由ではいけないか?」

 

 男前だった。男前だったっ…!

 

「…で、そのコイントスで私が勝てば諦めてくれるのか?」

 

「勿論。厳正なる勝負の結果だ。従うに決まっているだろう」

 

「…分かったよ。乗ろう。それで貴女の気が済むのなら。私は裏だと宣言する」

 

「では、私は表だ。コインは変えなくていいのか?」

 

「貴女はイカサマをしないといった。それなのに疑うのはフェアじゃない」

 

 そういうと、彼女は満足そうに頷き、ならば此方からも勝負に乗ってくれた礼として

善吉にコイントスをさせよう、とコインを人吉君に渡した。人吉君はしばし私達を交互に

みながら、やがて思い切りコインを弾いた。空中でコインがくるくると回り、やがて地に

落ちる。しばらくコインは地面を跳ね、やがてその動きも止まった。

 

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