異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
臨時とはいえ生徒会長になってしまった以上、全校生徒を目の前にして就任挨拶をする必要がある。たとえ望まれていなくても、である。学生の本分が勉強にある以上、特別行事に時間を割いてしまうのはあまりいいことではない。まあ、ちょうどいい具合に夏休み前の全校集会を使うことが出来たため実際はただでさえ面倒臭い集会が長引く程度ですんだわけだが。
「――と、いうわけで、私が臨時ではあるものの、生徒会長として業務に当たることになった。選任された前会長のように人望があるわけではないが、仕事はこなしていくつもりであるし、生徒諸君等には迷惑をかけないように最大限注意を払うつもりだ。前会長は現在副会長としてなお一層生徒会の業務に励んでもらっているし、ただ少しの失態があっただけなので、ちょっとした反省期間だと思ってほしい。無論前会長の功績である目安箱については今後も設置し続けるので、個人で悩めないレベルの悩みはどんどん相談してきて貰って構わない。私に任せるのが嫌なのであれば副会長を指名してもらっても結構だ。私はあくまでも臨時であるため、前生徒会と在り方は何ら変わらないと思ってくれ。では、本年度一学期終業式を
何しやがるんだ、禊。
「『やあやあ、箱庭学園の皆さん、こんにちわ!』『僕の名前は球磨川禊』『そこにいる黒神めだかちゃんの元彼で』『ここの海路口四方寄ちゃんの今彼でっす☆』」
告白されたこともないんだが。
「『というのは勿論冗談さ♪』『今信じたバカどれくらいいる?』」
一人でもいたらそいつは私が直々に制裁を加えてやる。
「…で、何の用だ?球磨川先輩。いま現在壇上に上がっていいのは生徒会役員だけなのだが」
「『ごめんごめん』『別に四方寄ちゃんに恨みがあるわけでも卒倒させたいわけでもないんだ』『ただね、一寸僕からのお願いを聞いて欲しくてさ』」
まあ、生徒会役員である以上、それは当然聞くわけではあるが。
「『えっとねぇ』『コレなんだけど』」
そう言って提示された書類に目を通す。……なるほどね。
「九十九代生徒会への解職請求か、理由は外部顧問によるマイナス十三組生徒への暴行。日之影先輩がそういうことをした、と?」
「『へぇ』『日之影先輩って言うんだ、彼』『ものすごくおっきい先輩にいきなり殴る蹴るの暴行を受けたんだけど』」
「役職を知っているのに名前を知らないのか、少しおかしいが、まあ良い。それで、解職請求には特別項でもない限り全校生徒の過半数による署名が必要なんだが、これは全員転校生だな?」
「『勿論さ』『みんなちゃんと転校してくるよ』『それとも転校生は差別されるのかな?』」
「…球磨川、貴様という奴は……!!」
「待て、黒神副会長。転校生だとしても差別は許されん。で、私達は即日罷免というわけになるのだが……お前が代理を務めるのか?」
「『当然!』『ちゃんとマニフェストも作って来たのさ♪』『更に無能な先代様みたいなことにならないように』『もうメンバーまで揃えてあるんだよ』」
そう言って脇に控えていた数名の生徒の顔をはっきりと認識する。怒江はいるのか。……?なぜ不知火さんがいるのだろう。疑問に思っている間に、禊は全生徒に自らの公約を読みあげていた。不純異性交遊の努力義務化?直立二足歩行の禁止?……これを本気で言っているとしたら、臨時とはいえ生徒会長として看過出来るものではない。
「…誠に申し訳ないとは思うのだが、その提案を享受する事は出来ん。仕方あるまい。状況が変わった。黒神副会長、黒箱塾塾則第百五十九項を適用するので、手続きを頼む」
「…『塾頭解任請求ニ関スル項目』か!」
「あまりやりたいもんではないのだがな。この前言ってた防具なしのチャンバラだ。正気を疑うような規則だが、過去三度の適用実績があるんだ、文句は言えまい?」
「『…へぇ、まさかめだかちゃん以外に校則を全て網羅している奴がいるなんてね』『しかもそれが四方寄ちゃんだって言うんだから』」
「先に会長として謝っておこう。今回の外部顧問による独断専行は、生徒会の総意では全くない。とはいえ、実際に苦痛を与えてしまったことに、組織の長として謝罪する」
「『…え?』『あ、うん』『…だからってこれを撤回なんかしないよ?』」
「それは別問題だ。貴方達のマニフェストは大多数の人間が賛同している規則と真っ向から対立する。未だそれは受理されていない状況なら、我々生徒会は断固そんなマニフェストを認めるわけにはいかない」
なので、と私は続けた。
「『黒箱塾塾則第百五十九項、塾頭解任請求ニ関スル項目』に基づき、生徒会役員の再選任を行う!ここにいる生徒全てが証人だ。言い逃れはせんし、させん」
「『……それは』『僕達と敵対するってこと?』『なんでだよ』『ついこの間友達になったばかりじゃないか』」
「友達なら喧嘩もするだろう。それにな、仕事に私情をはさんでこようとするなよ、ひねくれ者」
「『―――!!』」
私の凄みが珍しくも仕事をしたらしく、少したじたじとなる禊。その後、流石に内容が銃刀法などの規約に違反するため、現代版にルールを改正する事にしたり、期日を決めるために場所を変え、内容を両代表及び関係者にて詰めたりする。結果。夏休みを使い、五人の代表による役職争奪選挙となった。
「………で、空洞にいさんが理由もなく生徒に暴行を加えるはずもない。お前たちの差し金だな?」
日之影空洞は英雄である。これは別に比喩的表現でも何でもない。その体躯と強さ、そして正義感あふれる心から、この箱庭学園における『害悪』を実力行使で殲滅してきた存在だ。そして、
「……四方寄よ、貴様はアレを知らんから分からぬのだ。私達はアレを知っている。そして、アレを放置する事は絶対にできないことを理解してくれ」
「それについては先ほどの対立で理解している。この学園に対し『害悪』となり得る存在だ。だが、『生徒会』として動いてしまったこと自体が、私には許容できるものではない」
「…だから!そんな悠長なこと言ってられるような子じゃないの……」
「確かに悠長なことも言ってられないでしょう。だが、本当にそれは相手のせいなのか?生徒会役員からの暴行で解任請求をするのは、至極真っ当な要求ではないのか?」
「それは…それを笠に着てこの学園をぶち壊そうとしているだけだとしか思えない!」
「まあ、その可能性は高いだろう。だが、空洞にいさんが行動した時点で、その兆候は見られたのか?そして、会長である私に許可もとらず独断で行動したことに対する正当な理由はあるのか?」
「それはすまないと思っている。だが、一刻を争う様な事態だと考えるには十分な相手なんだよ」
「だからといって規範たる」
「…まて、四方寄。結局は俺が独断専行した結果だ。あまり黒神たちを責めないでやってくれ」
「責める責めないの問題ではないんですよ、にいさん。生徒会という組織に所属している以上、規則には一般生徒以上に厳しくあらねばなりません。生徒の規範として上に立つ以上、それは当然のことです。この人たちはその感覚に乏しい。能力こそあれ、人格が未熟なんですよ。結果的に害悪を見過ごしていた私が言えた義理ではないが、もう少し自身に厳しくあるべきだ」
全員が口を噤む。
「…自分が人の上に立つべき存在でないことなど私が一番理解している。だが、それが副会長に盲従して良い理由にはならん。黒神副会長、このような結果になってしまったこと、その責任が貴女にもあることを理解しろ」
「…まったくもってその通りだとは思う。だが、あくまでも生徒会役員として、間違ったことをしたとは思わん!」
「そうか、結果的に不穏分子を燻りだしてくれたことは間違いないのだから、それについては感謝する。だが、貴女の起こした行動で、学園と生徒会の存亡を脅かしたことだけは深く理解しろ」
役員に対する叱責はこれくらいにして、戦挙の対策へ話しを移行する。
「正直なところ、この戦挙は現生徒会役員に随分と不利な条件がそろっている。期間は五週間、つまり夏休み全部を使う。やり方は挑戦者側に選ばせ、総合で引き分けた場合は私達の負けだ」
「対峙した時に思ったんだが、ありゃあはっきりと『話にならない』って感じの奴らばっかりだった。生徒会メンバーでアイツらに対抗できるかどうか…そうだな、人吉、不合格、阿久根、不合格、黒神、断トツ不合格、喜界島、不合格、…って、四方寄除けば全員か」
「!?」
「どういうつもりですか!喜界島さんはともかく、俺たちまで不合格だなんて!しかもめだかさんが断トツ!?」
「私も気になります。何故四方寄が合格なのかも含めて、説明していただけませんか?」
空洞にいさんの説明はこうだった。仲間の腕を平気でへし折り、しかも圧し折られた方は礼を言う、そんな『気持ち悪い』奴らと『戦いたくない』。そう思っている時点で『心が折れている』。それは全然弱さでも何でもないし、むしろそんなのをなんとも思わない奴の方がどうかしている、と。
「わりと普通に私の悪口言いますね、空洞にいさんは」
「ああ、お前は別口だ。そもそもおまえ、やつらを『気持ち悪い』だなんて思ってないだろう?」
「何が気持ち悪いのかはよく分かりませんね。『異能』を持っているという一点に於いて、私も彼らも貴方達も変わりませんから」
「だからだ。コイツはアイツらさえも『平等に』見ている。その精神力こそが合格の理由だ。まあ、ただ単になんも考えてないだけとも言えるが」
失礼な。
「…でもどうするんですか?」
「それなんだよ。『凶化合宿』をするって手はあるが、どれだけ短時間でやったとしても二週間はかかる。つまり、どうあがいても庶務戦には絶対間に合わないことになるんだが……」
凶化合宿、それは黒箱塾時代から受け継がれてきた、メンタルトレーニングの事である。元々はフラスコ計画の一環で、その苛酷さから現理事長、つまりあの老人が廃止を決定したという話しだが、やり方を知っているとかにいさんマジ半端ねえ。
「まあ、やるって言うんだろうがな、全員」
「「「当然!」」」
うん、そういうところの団結力っていうのはホントに高いと思う。その団結力の高さを、ぜひともこの生徒会で発揮してほしいのだが。
「私はやらなくても良いでしょうから、とりあえず通常業務と私用をこなしますね。…ところで、人吉君はどうするんだ?副会長様に一番近いといえる彼にも凶化合宿は必要なんじゃないか?と言うか、真黒さんも瞳先生、名瀬先輩に古賀先輩もいるのに彼はいないってどういう事態なんだ?」
「人吉君なら、終業式が終わった途端に食堂の方へ行ったよ。まあ。誰に会いに行くつもりなのか分かりきってたから止めるに止められなくてね…」
「…そうか、不知火さんがあちらにいたものな。どういうつもりなのか、親友なら気になるのも無理はあるまい」
「……ところでよー、お前は体力面を鍛えなくていいのか?会長戦までにちょっとくらいは動けるようになっとかねえと、最終戦までもつれこんだらヤバいぜ?」
「なんなら名瀬ちゃんに頼む?特別に、特別に!名瀬ちゃんがコーチしてあげても良いんだよ?」
「…そうね、球磨川君に志布志さん、蝶ヶ崎君がいる時点で、ただでさえ三敗は確定してるようなもんだわ。モギちゃんがいかに『過負荷』の影響を受けないとはいえ、ある程度の戦闘技能は必要よ?」
…まったくもっていつからこの学園はバトルに特化した場所になったのだろうか。そもそも関わり合いになってしまったこと自体が間違っていたのか?まあ、とはいえ戦挙、という以上は戦闘技能が必要であろうことくらい分かる。仕方があるまい。
「分かりました。なんとか戦闘技能をある程度のレベルまで引き上げましょう。古賀先輩、名瀬先輩、お気持ちはありがたいのですが、私には専属のコーチがいますので」
「「専属のコーチ?」」
「まあ、気になさらず。その人からの教えが一番私にはわかりやすいから、その人に頼みます。では、今日は解散!」
私の有無を言わせぬ解散宣言に、不承不承といった様子で帰途につく面々。仕方ないだろう。他人に教えたくない人の一人や二人はいるもんだ。私は携帯を取り出し、電話をかけた。
「……ああ、母さんか。ちょっと面倒なことになってな――――」
「―――こうやって指導をするのは久し振りかしら?」
「確かに、最後に指導を受けたのは『学蒐』を上手く使えるようになるためだったから…もう六年になるか」
「おかげでよっちゃんと久し振りに親子の触れ合いが出来るわ?」
「私も中々母さんとふれあえなくてさみしいよ☆」
「「………やめよう、キャラじゃない」」
「…で、今回は戦闘技能?貴女、前に覚えておけって言った時は突っぱねたじゃない」
「仕方なかろう。その時は法治国家で暴力が必要になるなんて思ってなかったんだから」
「まあ、それは私も前から思ってたわよ。でもね、ウチは『そうなっちゃう規則』なの」
「…では」
「「よろしくお願いします!!」」
――――――あ、当然面倒臭い修行パートは描写しないので、あしからず。