異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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普通に雑談をしよう。内容は異常かもしれないが。

 江迎怒江。一年マイナス十三組に所属し、その『過負荷』は「荒廃した腐花(ラフラフレシア)」。両手を対象につけることで、腐敗させることが出来る能力だ。書記戦に於いて、最後の最後で志布志さんが出してきた「バズーカ・デッド」に影響されたのか、その能力は飛躍的に上がっており、今や『触れることなく』対象を腐らせることが可能である。生じる結果は違えども、ミダス王もこういった『過負荷』を持たされたのだろうか。

 

 

 

 

 

 八月八日。対戦者は江迎怒江。対戦内容は『火付兎』。対決場所は学園内にある、世界でも有数であろう植物園、「木漏れ日」である。私も普段から暇を見つけては整備と癒しを求めにきているのだが、ラフレシアとミヤマキリシマが同時に咲いているあたり、此処も中々ふざけた環境である。なんでも世界に生息する半分以上の植物を展示しているらしく、これが一般公開をされているようであれば、間違いなく世界中の植物学者にとって聖地となるだろう。

 

「ここの植物の保護は出来ているのか?」

 

「ええ。既に採取の難しい植物に関しては避難を終えております。残っている植物は全て採取が容易なものですので」

 

「…まあ、ここで植物が可哀想などという発言はしないが、それでもあまり気分のいいものではないな。丹精込めて育てていた区画は大丈夫か?」

 

「海路口様が育てられていた区画については、全ての植物を避難させていただいておりますので、ご安心を」

 

「…そうか。決してそれさえ無事ならとは思わんが、ありがとうと言っておこう」

 

 さて、今回の相手は怒江なわけだが、「腐らせる」という能力を相手取るのに、これほど面倒臭い場所もないだろう。何せ、行動範囲に制限のある屋内、周囲には有機物たっぷりで、温度・湿度共に菌類に適した環境が少なくとも数か所は有る。そこを拠点に活動された場合、我々生徒会のメンバーがかなり不利になるのは間違いない。しかも今回はペアでの対決になるという。

 

「では、両陣営の代表者は、ペアとなるサブプレイヤーを選出していただきます。このメンバーに関しては、一度既に選挙に参加された方でも構いません」

 

「『…まあ、僕しかいないでしょ』『一応リーダーだし、仕方ないや』」

 

「誰でもいいといわれてもなぁ……人吉君以外選びようがないじゃないか」

 

「待て!四方寄、球磨川が出るならここは私が……!!」

 

 私の言葉に副会長様が噛みついてくるが、そこは既に決定事項であるため、曲げることはできない。

 

「残念だが、意見は聞かんぞ。私なりにちゃんと考えた結果なのでな」

 

「…では、その考えとやらを聞かせろ!いきなり善吉を出してくるなど、理由が解らん!」

 

 やれやれ、どうにも彼女は身内に甘いところがあるようで困る。

 

「まずは、副会長様がこの後、副会長戦に出る必要があるということ。手の内という物は、あまり対戦前から見せるものではない。人吉君は既に終えているからな、サブプレイヤーという肩書なら、一切問題なく参戦してもらえる」

 

「だが…!」

 

「そして、このメンバーの中で『過負荷(かれら)』相手にまともに戦えるのは、間違いなく人吉君しかいない。ああ、名瀬先輩や瞳先生は本来部外者なので、力を借りるなんて発想は元々ほぼないぞ?この前の一戦だって、本当に申し訳なく思っているのだから」

 

「…結局頼らねえのな」

 

「モギちゃん……」

 

「つまり、この陣営の中で、唯一まともに動けるのは人吉君しかいないし、私は人吉君の事を(服のセンスはともかく)かなり高く評価している。何より、凶化合宿を終えていない副会長様に禊の相手など、不可能だと思うし、させたくない。一応女の子だからな」

 

 名瀬先輩の言葉自体は勿論重く受け止めていますよ、と言いながら、私は改めて副会長様に向き直る。

 

「副会長様、私はあくまでも生徒会長としての立場は崩さん。生徒の安全は常に第一義として考えているし、その中には当然副会長様も入っている。貴女とタッグを組むよりも、人吉君の方が安全なんだ。納得しろとは言わん、理解しろ」

 

「…では、サブプレイヤーのお二人にこのブレスレットを装着していただきます」

 

「…長者原先輩、えらく趣味の悪い腕輪だけど、一体これ、なんなんだ?」

 

「はい――――端的に言いますと、爆弾でございます」

 

 まてやこら、いくらなんでもそこまで直接的な暴力はないだろう。

 

「時限爆弾内蔵式のブレスレット…作動から丁度一時間で起爆する仕組みでございます」

 

「…で、今回のルール説明を頼む。まさか相手の腕輪を起爆させろというわけでもあるまい?」

 

「はい。江迎様には人吉様の、海路口様には球磨川様の腕輪の鍵をそれぞれお渡しします。どのような手段を用いても構いませんので、相手の持つ鍵を奪い、パートナーのブレスレットを外して下さい」

 

 それだと一方は絶対に爆死するだろう!と副会長様が言っているが、それに対し説明を続ける長者原選管。要は、片方の爆弾の解除と同時に会計戦終了、連動してもう片方の爆弾も動作を停止するのだとか。

 

「そうか。ということは、爆発するのはあくまでも引き分けに終わった場合…タイムアップのみ、か」

 

「その通りでございます」

 

「死者が二人に増える分悪質ともいえるだろう!球磨川、いくら貴様だってこのようなルール、受け入れるわけが―――」

 

「『早速始めようじゃないか、長者原くん!』『めだかちゃん、あまりわがままばかり言うものじゃないよ!』『ホントに自分勝手なんだから』『決められたルールは人として!』『最低限守らなきゃいけないんだから』『長者原くんを困らせちゃダメじゃないか!』」

 

 急にやる気が出たことに関しては突っ込まないほうが吉か?副会長様の意見を封殺し、我々四人は植物園の中に入っていったのである。

 

 

 

 

 

「…なあ、海路口」

 

「なんだ、人吉君」

 

「お前さ……めだかちゃんの事、嫌いなのか?」

 

 コイツはいきなり何を聞いてきてるのか。

 

「…質問の意図が解らんな。副会長様はあくまでも副会長様だ、それ以上とも、それ以下とも思ってないぞ?」

 

「いや、そうじゃなくてさ……めだかちゃん個人を、どう思ってる?」

 

「…仕事上の関係でなければ、積極的に関わりたいと思う人間ではないよ。嫌い、というわけではなく、私には少々、眩しすぎる」

 

「……」

 

「私の存在は常に規則と共にあり、規則の中で生きていた。社会的規範に則っていなかった教師は辞職するのが当然だったし、人気のないところで暴行を加えてくる男子生徒は紛れもなく犯罪者だった。結局のところ、私は自分の規則と、社会の規則でしか、物事を測れない人間だ。だから、ああいった人間は眩しいよ。私には絶対辿り着けない場所に居る人間だからな」

 

「…だったらよ、なんであんなにめだかちゃんの意見を聞かねえんだ?苦手だからって聞かなくて良いことにはならねえだろ?」

 

「それは私に対する侮蔑だぞ?私の役職は生徒会長だ。トップに立つ存在が、一方の意見ばかり聞けるわけはないだろう。そもそも、私は意見を聞かないわけじゃない。聞いた意見を判断しているだけだ。まあ、流石に聞くまでもない意見まで聞く必要性は感じないから、聞こうとしていないというわけでないことは分かってくれ」

 

「そうか…。あとさ、俺の事を評価してるって、どういうことだ?」

 

「ああ、確かに私は君に対してバカだとかアホだとか間抜けだとか言っていたな。だが、それとは別の問題だ」

 

「そこまで言われてたのか!?」

 

「聞いてない面もあるだろうな。まあ、とはいえ私は君を高く評価しているさ。副会長様への在り方について、な」

 

「質問の意図が解らねえぜ?」

 

「君は黒神めだかという人間を、どう思う?」

 

「どうって……」

 

「私はな、彼女の正しさが、ひどく危うく思える。正しいということと、平等である事は、共立し得ないからな。それこそ、今回のようなケースに於いて、彼女はあちらの言い分を聞けなかった。そうだろうな。彼女にとって、いや、恐らく大多数の人間にとって、彼らは『正しくない』のだろうから。だが、それは少数を切り捨てることとなんら変わらない」

 

「…おれは、めだかちゃんの事を、正しい人間だと思ってる。ただ、お前が言うように、正しさだけでどうにかなる世界じゃないことも、俺は理解してる。だからこそ、俺はそういう部分を背負いたかった。それこそ、汚れ役だっていいとおもってるよ」

 

「…私はな、その考え方こそを高く評価しているんだ。副会長よりの立場でありながら、そうやって盲従しきることなく考えることのできる存在は、今後の副会長様にとって大きな存在になると思うよ。もし今後、君と彼女の関係が敵対関係になったとしても、心まで敵対しようとは思うな。君に敵対されたとき、彼女は手がつけられなくなる」

 

「…どういうこった?」

 

「さて、もう話している暇はないらしい。流石にこの空間は彼女の独壇場と言っていいところだな。人吉君、いつもは副会長様に使う君の力、今日は私に貸してくれ」

 

「…別にめだかちゃんだけの為に使うわけじゃねえよ!お前も友達だろうが!困ってるんだったら、手伝うに決まってんだろ!」

 

 

 

 

 

「球磨川さん、逃げられちゃったみたいです♪」

 

「『逃がさないよ』『今日ばかりは小細工抜きで』『正々堂々と引き分けに行く』」

 

「やはり引き分け狙いだったか」

 

「『!?』」

 

 そこまで驚く必要もないだろうに。至って普通に登場したつもりだったのだが。

 

「『嘘!?』『善吉ちゃんに僕の気持ち悪さを全身で感じるって言われたから』『気配を無かったことにしたのに!?』」

 

 説明御苦労さま。おかげでなんで目の前に居るのに分かりにくいのかが分かった。

 

「禊、よくもまあこんな選挙ごときで一生付き添っただろう気配をなくせたものだな」

 

「『気配なんてなくても死にはしないからね』『…でも、ホントになんでなのさ!?』『って、なんで善吉ちゃんと離れてるの!?』」

 

 疑問の多い奴である。えいっ。

 

「『!!??』」

 

「そんな引き分け狙いだなんて言われて鍵を奪う気になんかなれるかよ。さっさと鍵を開けてやって終わりだ。お前が鍵を無かったことにする前にな」

 

 そんな手を実行されてはたまったものではない。それくらいなら一勝を献上するくらい、わけもないな。

 

「『……君は』『ホントに僕の邪魔をしてくれるね』」

 

「まあ、正直あまりいい気分じゃないさ。お前と戦おうとしてない気がするんだからな。だが、私は怪我人なんか好んで出したいと思わん」

 

 だから、と私は続ける。

 

「ここからは個人的に、怒江ちゃんとの交流タイムにさせてもらうぞ?どうやら彼女は、唯一幸せになりたいと言った『過負荷』らしいのでな」

 

「『…何を』『する気なのかな?』」

 

「ただ、話すだけだ。幸せになりたいって願望がどこから出てるのか、彼女の根源にあるものは何なのか…まあ、私ではどうにもならん部分はあるから、人吉君にしばらく頑張ってもらうことにした」

 

 私はそう言って、周りにあった植物を保護しつつ、床にブルーシートを敷き、その上に座った。禊に座るよう言葉を向け、私達二人の雑談が始まる。

 

「…さて、あちらの二人は少し置いておこう。私はお前と話がしたいんだ。禊」

 

「『…そんなこと言われたら』『突っぱねるわけになんかいかないじゃないか』」

 

「つまり会話してくれるということだな?ありがとう。どんなことにも会話は大事だ。では、始めるとしよう。あちらはあちらで、きっと上手くいくだろうから」

 

 私が女の子との会話を蹴ってまで来たのだから、ぜひとも有意義な場所にしたいところである。その先に、コイツらの希望が見えているとなお良いだろうな。そんなことを考えながら、私は植物園内のハーブで作ったハーブティーと持ってきていたクッキーを並べ、禊に向き直った。

 

「『…このお茶も』『このクッキーも手作り?』『あまり僕を甘やかすと惚れちゃうぜ?』」

 

「男からの恋愛感情はお断りしているが…お前なら別にいいか、とも思うよ。どうだ、このクッキー。凝った形を作るとお前は破壊しそうだからな。シンプルな形のクッキーだが」

 

「『…オイシイ』『ねえ、このハーブティーはどうやって?』」

 

「うん?ここのハーブは良いものが揃っている。紅茶葉に少しだけ乾燥させたハーブ…カモミールを混ぜたりしたわけだが、気に入ったか?」

 

「『ハーブティーまで自作なんだ…』『凄いね』」

 

 まあ、こういうヌルイ会話も中々好きではあるのだが、今回は此方としても、別に主題がある。私はその、主題を禊に投げかけた。

 

「…なあ、禊よ。お前が『過負荷に(そう)』なったのって、一体何が原因なんだ?」

 

 その言葉に、返答が来るまで五分かかった――――。

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