異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
さて、親愛なる読者諸氏に聞きたい事がある。人生に於いて、一番不幸なことはなんだろうか。きっと答えは千差万別だろう。ある人は『死ぬことこそ不幸だ』というだろうし、また違う人は『生まれたこと自体が不幸だ』というかもしれない。『貧困が一番の不幸』という人もいれば、『飢餓感に苛まれ続けることが不幸』という人も、『そもそも不幸なんて存在しない』という人までいるだろう。それぞれが正解だと思うし、他者の意見を聞いても、否定する事はあまりないだろうと思う。なぜなら、『それがその人の価値観』だからだ。因みに私は、『幸せを求められない事』だと思っているのだが、これは流石に卑怯だろうか。
「『僕が『
禊は話を続ける。
「『そんな僕でもね、恋をしたことはあるんだ』『初恋は人吉先生だったかな?』『そして、中学の時に最後の恋をしたんだ。まあ、今のところだけれど』『彼女は僕が会長をやってた頃の副会長、まあ、支持率0%で会長になった僕を、上手くアシストしてくれてたよ』『とにかく魅力的な人でね、人格と心は特に魅力的だった』『僕みたいな『
だけど、と禊は続けた。
「『一つだけ問題があった』『それは、彼女がかわいすぎたということだ』『彼女の外見は僕を悩ませたね』『人格や心が好きだと言いつつ』『結局アイドル好きな同級生と同じように、見た目だけが好きなんじゃないかって』『だから僕は試したんだ。『彼女の顔面を剥がした』んだよ』『結果、僕の思いは少しも変わらなかった』『剥がした皮も!残った肉も!同じに見えた!』『僕の恋は本物だったんだ!』」
だけど、と禊は続ける。
「『直後にめだかちゃんがマジギレしちゃってね』『学校からは追い出され』『結局彼女とはそれ以来『夢でしか』あってない』『まったくめだかちゃんは空気を読まないよね』『きっと、恋を知らないんだ』『あの子は人間が好きなだけで、人が好きなんじゃないよ』『…まあ、結局そこで終わっちゃったから、僕は未だに『
これが僕の全てだよ、とまるで本当に人生全てを語ったかのように結んだ禊。私はそんな禊の人生のほんの一部を聞き、納得した。
「そもそもを間違えていたんだな。」
「『!?』」
「『過負荷』を『良くないもの』として考えていたことが、きっと間違いなんだよ」
どういうことかな、と問うてくる禊を抑え、私は続ける。
「個性に過ぎなかったんだよ。結局のところ、お前のその『大嘘憑き』という『過負荷』も、その破滅的な性格も、所詮は『個性』で片付けられる話だ。無論、他の『過負荷』や『異常』にも同じことが言えるな。千差万別な人となりではあるが、パターンわけはあるだろう?大雑把だとか、繊細だとか。そんなもんなんだよ。それなら、更生するべきは『過負荷』じゃない。性格はやや難ありだが、それも個性だ。というか、更生という言葉もいまいちしっくりこないな…性格を修正する必要はない。ただ、弁えるべきところを弁えればそれで良いんだよ」
「『…僕らの『過負荷』を、ただの個性だって言うのかい?』『しかも、弁えるなんて…そんなこと出来るとでも?』」
「逆に聞くが…出来ないとでも?お前らが今出来ていないのは、やってきてないからではないのか?それこそ、『幸せになれやしない』と、諦めてきたからじゃないのか?」
禊の言葉を待たず、私は続ける。
「つまりだ。お前はなんだかんだで、不安症なんだろう。『幸せになって大丈夫なんだろうか?』『幸せが終わった時に来る不幸は…』…これじゃあ最初から幸せになれるわけがないよな。なあ、ちょっと変えるだけで良いんだ。不安なら、私が無理矢理引っ張り上げてやろう。その時にどう思うかはお前次第だし、もしそれが大丈夫じゃなかったら…私を責めるがいい。友人からなら責められても、先がある」
「『四方寄ちゃん…!』」
「さて、休憩も終わりだ。あちらの結果も仕事として見る必要がある」
どうやらあちらも終盤であるらしい。人吉君が怒江の手を握り、何かを伝えている。その両手は腐りだしているが…。
「私がなでると、可愛い犬が腐って死んじゃうの。可愛い猫を抱っこしようとすると、途端に腐り落ちて…死んじゃうの。」
―――――私も、死んだ方がいいのかなぁ――――
「それを決めるのは我々ではないな」
「…四方寄さん!?」
「…なあ、怒江。お前は死んだ方が良いのか?いや、違うな。お前は、死んで、無になって、友人とも、恋人とも会えなくなって、お前が不幸なままで良いのか?」
「…でも、私…」
「江迎、俺達はお前みたいなやつを幸せにするために、生徒会をやっているんだ」
「悩み事があるのなら、生徒会へ投書しても良い。無論、友人に相談しても良いんだ。お前みたいな可愛い女の子からの相談なら、私は解決に全力を注ぐ」
「…私、幸せになっても良いんですか?」
「…『荒廃した腐花』があるからそう思っているなら、禊が素晴しい能力に変化させてくれているだろう?」
全てを腐らせる能力から、腐らせたもので植物を育て、操る能力へ。確かに戦闘に於いて脅威ではあったが、その変化はむしろ我々にとって好ましいものだった。
「…俺の家に、ずっと前から植わってた桜の木がある。かあさんが腐心してたけど、結局今は立ち枯れたままだ。お前なら…あの桜をもう一度咲かせてくれそうな気がするんだよ!」
「そんな素晴らしい能力なら、私がここで育てている植物の管理を手伝ってもらいたいな。友達と楽しく喋りながら植物の世話をする、中々幸せな風景だと思わないか?」
「…四方寄さん、人吉君…ありがとう、私――――!?」
「!?」
「…説明を求めるぞ、禊?」
急に二人の体に突き刺さった螺子を見て、私は禊へと問いかける。
「『……』『善吉ちゃんの両手の腐敗と』『怒江ちゃんの『荒廃した腐花』をなかったことにした』『怒江ちゃんはもう普通の子だから、どうか一組辺りへ引き取ってくれ』『なんで助けたのか、なんて聞かないとは思うけれど…』『僕が人助けをする理由はね、「きにいらないから」だよ。『過負荷』は『過負荷』で簡単に無くせるのさ』『善吉ちゃんの努力なんて意味もないくらいに簡単にね』」
…まあ、人吉君の両手の腐敗はどうしたものかと思っていたから丁度よかったのだが、何か違和感がある。…そう言えば。
「禊、お前、どうして腕輪をはめているんだ?」
「『…なあに』『簡単なことだよ。腕輪を外されたことをなかったことにした』『ついでに鍵穴もないよ!』『外された事実がないんだから、タイムはすすんでる。もう何一つ術はない!』『…四方寄ちゃん、結局僕はこういう生き方しかできない人間だ!』『それではみなさん、ご唱和ください!』」
―――――『It's All Fiction!』―――――
腕輪型時限式爆弾。よくもまあ凝った作りをしたものだとは思ったが、構造自体は手榴弾とあまり変わらない。少量の爆薬に引火させ、爆発を起こすことで周囲を覆っていた金属製の入れモノが飛びちり、ダメージを与える。つまり、この爆弾に於いて重大な問題は、爆風でも、爆熱でもなく、飛び散る破片なのだ。逆に言えば、破片さえ飛び散らなければ、脅威でも何でもないのだ。つまり、何かで覆い隠すことで、その被害は最小限に抑えられる。ある程度の吸収性と、耐久性を持ち合わせたもので覆いかぶせれば良いのは分かっているのだが、生憎周りは植物園であり、覆いかぶせるものがない。その場合にとる策は、これくらいしか無かったよな、と思うわけである、つまり。
「『う、うわあああぁぁぁぁぁぁ!?』」
「……!!なんでだよ…!?なんで…!」
「………え………?」
「「『四方寄ちゃん』さん!!!」」
「海路口!!?」
簡単に経緯を説明させてもらおう。怒江がタイムアップ寸前に、腕輪の施錠部分のみを外し、自らが覆いかぶさろうとした。咄嗟にどう対応すればいいのか分からずに、何も考えず怒江を突き飛ばして自分が覆いかぶさったということだ。流石に短い時間で思考は纏まらない。今ならG先輩の能力で爆弾も止められたろうに、と思わなくもないが、それよりも若干意識がとぎれとぎれになりつつある。
「…怪我は、ないか…?」
「『なんで!今すぐなかったことに―――!?』」
「私の、能力…しって…、だろう?無理、だよ」
「海路口!今すぐかあさんと名瀬先輩呼んでくるから、喋るな…いや、喋り続けろ!」
「たの、んだ…」
「わ、私のせいで…四方寄さんが……!!」
「気に、しないで……。可愛い、女の、こに…傷ついて、欲しく…ない、だけだから」
腹部に奔る激痛と、口から垂れてくる血に、内蔵がやられている事を自覚する。心臓はまだ動いているということは、恐らく問題は胃や肺、近くの臓器だろう…。
「怒江、お前の…能力、ちゃんと…人の役に…立つじゃない、か……。それなら…きっと幸せに、なれ…るよ」
「僕の能力が使えないばかりに……!ここで使えないなんて!こんな能力…!!!」
括弧つけるのを忘れているぞ?禊。
「…だいじょ、ぶだ。禊、約束した、だろ?…エロ本、一緒に…買いに行く、って」
「今そんなこと言わないでよ!お願いだ、僕が出来ることなら何でもやる!この勝負から手を引いたっていい!だから、…だから…!!」
「大じょう、ぶ。お前との勝負は…楽しい。初めて、お前が、勝つときは……私が、相手をしたいな」
意識が朦朧とし始める。出血過多で意識が上手く繋げないのか…。
「なあ、怒江…。私と、此処の世話をしよう…。きっと…綺麗な、植物園に…なる」
「…はい、はい…!」
「…勝負自体は、此方の負けで、決着はついてる……次に我々、が、勝たなかったら…会長戦だな……そう言えば…、まだ、不知火と…しっかり、話した事…ないなぁ」
向こうから瞳先生と名瀬先輩が駆けてくるのが解る。もう少しの辛抱だ…。
「禊、こんな私でも…±ゼロだと、思えるんだ……。お前はきっと…人生プラスな、側に…入れるよ。私が、言うんだ…。間違いない…」
「四方寄!」
「モギちゃん!!」
「二、人とも…よろしく…お願いします…多分…肋骨が、肺に…あと、内蔵がいくつか……」
「「任せろ(なさい)!」」
「…あと、副会長様に…禊を怒るな、と…」
「…四方寄ちゃん…!僕のことなんて良い!早くよくなって…先生、名瀬さん…!僕が言えた義理じゃないけど!四方寄ちゃんを助けて……!!」
そんな言葉を聞きながら、私の意識は闇へと堕ちていった。
そこにはたくさんのチューブが繋がれ、心電図が傍らに控えている。心臓の動き自体は安定しているが、その隣に表示される血圧、脈拍は少々危険域を超えている。
「…本人の体力で、なんとかここまでもってるが…」
「…正直、会長戦に間に合うかも、そもそも意識を取り戻すかも……」
四方寄を治療した二人が、揃えて絶望的な言葉を吐く。腹部に集中していたため、四肢の欠損などはないが、その分内蔵やろっ骨への被害は甚大だった。常人であればそのまま死にかねない重傷。それでもなんとか命をつなぎ止めているのは、この二人が優秀である事のあかしだといえよう。
「…親友の危機を救えないなんてな…不幸を嫌なもんだと思ったのは初めてだ」
「…それにしても」
「…そうだな」
生徒会長のダウン。当然ながら生徒会に影響を与えるかというと、そうでもない。というか、副会長である黒神めだかが、陣頭指揮をとっているため、普段よりもスムーズと言っても良いほどだ。ただ、その方向が四方寄が考えている方向と一緒なのかは…分からない。
「めだかちゃんは一回も見舞いにこない…」
「人吉や喜界島は来るんだがな。あと、日之影先輩も」
「禊ちゃんは来てないにしても、怒江さんは毎日来てるのに…」
「意識がない状態で…三日か」
「…お願い、目を覚ましてよ、モギちゃん…!」
返事はない。…ただ、彼女の指が言葉に反応するように、ピクリと動いた。それを、二人は見逃してしまった。
副会長戦まで、あと四日―――――。