異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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異常な事態や不測の事態の為に何かを常備するのは普通だろう?

 さて、私が覚醒状態にないことは読者諸氏にもよくお分かりであると思う。腕輪型時限式爆弾によって、恐らくは外傷性ショック、詳しく言うと出血性ショック或いは心原性ショックにより、意識レベルの低迷が起こっている…つまり、意識不明の重体といったところだろうが、その状態になっているわけである。ちょっと待て、だったらお前は何故こうやって語りかけているんだ、と疑問に思う読者も多いとは思うのだが、私の方が聞きたいくらいだ。何故かは知らないが、私は今、いつだったか見た覚えのあるような中学校の教室に居る。まったく知らない学校であるのは間違いないが、それでも見た覚えがあるのは何故だろうか。あたかも他人が自分の中に無理矢理入れ込んだ世界を無理矢理見せられているような感覚と、決してそれを初めて見たわけではないという感覚が一緒になっている環境。そんな世界に私はいた。

 

 

 

 

 

「…さて、夢の世界であるにしろ、死後の世界であるにしろ、どうやら私は学校という場所にやたら思い入れでもあるのか?…いや、仏教に於いて死後の世界は来世の事だから、実際には臨死の世界か?」

 

「態々そういう微妙なところを訂正するあたり、きみは結構変わっているといわれるんだろう?」

 

 その声の源を探し、周囲を見回したところ、そこには可愛らしい女の子がいた。セーラー服を身にまとい、長い髪を黄色のリボンで結んでいる。セーラー服にどことなく見覚えがあったので、自らの記憶を思い返してみると、確か真黒さんの棲み家である旧校舎管理人室に飾ってあった写真で、副会長様の着ていた制服だ。写真の下に「めだかちゃん、十四歳」と書いてあったのを思い出し、この子が中学生である事を認識する。或いは懐かしい中学生時代に思いを馳せる高校生かもしれないが、所詮は私が見せている幻なのだろう。

 

「失礼だな、きみは。僕は幻でも夢の住人でもないよ。僕は誰の心の中にでも居る…とはいえ、きみの心の中に居るとはいえないんだけどね。近くに球磨川くんがいたから、順序立ててお邪魔しているだけさ。きみがこの光景に違和感を感じるのも、きみの意識にここが存在しないからだよ」

 

「いまいちよくわからない説明をありがとう。で、貴女は禊の意識下からやってきた御客人という扱いで良いんだな?では、質問をさせてもらうが、良いか?」

 

「どうぞ?」

 

「私の体の現在の状態はどうなっている?骨折や内蔵の損傷、血液量などは?」

 

「…ここはどこだ、という愚かしい質問をしてこないのは凄いね。たとえ説明しても、理解しない子だっているのに。人吉くんみたいに」

 

「質問の答えを貰っても良いか?可愛らしい女の子を目の前にしてこんな対応をするのは申し訳ないが、此方としても選挙の最中だからな。意識を早いところ現実に戻さねばならん」

 

 そんなに褒められると照れちゃうぜ、と目の前の女の子は言う。本当ならこの場で愛でたいところではあるのだが、自重して続きを促す。

 

「…今のきみの状態ねぇ……まあ、一言で言うなら、『死にかけてる』かな。あくまでも死んだわけじゃないけど、未だに快方に向かっているとは言い難い。体のダメージとしては、主に肋骨が肺にささっていたことだね。意外なことに内蔵はそこまで深刻なダメージを受けていない。血液量はなんとか足りているが、出て行ってしまった血の量が多すぎて、意識を取り戻すには至っていない。何より、頭部へ血液がいかなかった時間が三分半……まあ、そんなところかな?」

 

「そうか。で、今は何月何日だ?」

 

「外の時間としては八月十六日。副会長戦の翌日だよ」

 

「…間に合わなかったか……」

 

「因みに出場者は挑戦者側、蝶ヶ崎蛾々丸くん、生徒会側は言うまでもなく黒神めだかちゃんさ。試合形式は『狂犬落とし』、鉄骨の上で戦い、相手を地面に落とした方が勝ち。結果なんだけど……」

 

「いや、大丈夫だ。その組み合わせなんだったら、結果は見えている」

 

「へぇ?どういうことかな」

 

 私は興味津々といった様子で此方を見てくる彼女に、一呼吸置いてから言葉を紡いだ。

 

「―――今の副会長様が、残った『過負荷』側の人間と分かり合えるはずはないのだから」

 

 

 

 

 

「それはなんでか、と聞くよ?」

 

 随分と当たり前のことを聞いてくるなぁと思いつつも、私は答える。

 

「私は少なくとも、三人の『過負荷』と対峙している。江迎怒江、志布志飛沫、球磨川禊の三人だ。みんなそれぞれが違う『過負荷』を持っていて、個性を持っていたが、その中で理解したことがある。彼らの性格と、副会長様の性格は、さながら磁石のN極同士だろうな。同じであるがゆえに、反発しあう。私の中での理解ではあるのだがな」

 

「…で?」

 

「反発しあうのは人間同士だ、仕方ないこともあるだろう。だが、問題は副会長様のスタンスが、天敵ですら好む、という物であるからこそ、反発しつつも諭そうとするだろうということだ。そして、相手の事を呑みこめずにただ諭すだけでは、相手は更生しない」

 

「そんなことはないんじゃない?実際、彼女に諭された人たちは敵でありながらもめだかちゃんの言葉で更生してるんだぜ?」

 

 やはり誰でもそれは勘違いするんだろうな。

 

「個人的には更生自体しなくても良いと思ってるんだが…アレは更生じゃないよ。アレはただの矯正で、強制だ」

 

「………」

 

「それで事案は解決しているし、それ自体に問題があるとは……言わなくても良いだろう。ハッピーエンドであればだれも文句は言わないさ。だが、彼らが相手なら話は別だ」

 

「というと?」

 

「言っただろう?反発しあうって。黒神めだかがいくら諭そうとも、彼らはその言葉を良しとしない。それどころか、どんどん遠ざかるだろう。彼女があのままである限り、彼らがあのままである限り、互いに分かり合うことも、矯正されることもないんだろうさ」

 

「そうだね、その通りさ。結果を一応伝えておこうか。蝶ヶ崎君の『過負荷』は『不慮の事故(エンカウンター)』。自分に与えられたダメージを全てどこかになすりつける能力だ。めだかちゃんはそれを理解した途端、全方位への同時攻撃を行ったんだけれどね。一体どこでそんな技術を身につけたのかと思えば、なんでも日之影空洞とか言う人がこれくらいしか出来ないって教えてあげてたらしい。態々自らの『異常』を変えてまで教えていたその技は、だけれどまったく通用しなかった」

 

「………」

 

「彼はそのダメージをあろうことかその場にいた全員に均等に押し付けてね。めだかちゃんが繰り出したとんでもない威力の拳は、憐れ味方に届いてしまった。めだかちゃんはそこでリタイアだよ。『過負荷』と分かり合えると思っていた彼女にとって、その気持ちすらどこかへ押し付けてしまう蝶ヶ崎君の『過負荷』は、相性が最悪だったようだね。幸い、人数が多かったこともあって、全員の怪我はそれほど酷くもなかったけど」

 

「…ということは、現時点で二勝二敗か。条件はイーブンだな。会長戦の三日前までに意識が戻ればいいが………」

 

 私の不安は、しかし目の前の彼女が解消してくれた。

 

「…それなら大丈夫さ。僕に会っているということは、もうすぐ意識は戻るってことだからね。きっと明日には目が覚めるんじゃないかな?」

 

「…そうか。なら、それまで貴女とゆっくり話でもするとしよう。どうせ時間はあるのだろう?」

 

「それなら、自己紹介でもするとしよう。僕は安心院なじみ、親しみをこめて安心院さんと呼びなさい」

 

「そうか。私は海路口四方寄だ。しばらくの間、相手を頼むぞ、なじみちゃん」

 

「…人の話を聞いてたか?」

 

「勿論。で、なじみちゃん。貴女が私の目の前に現れたことは、何か意味でもあるのか?個人的にはこういう可愛い女の子が目の前に現れると、とりあえず愛でるのが信条なんだが」

 

「………」

 

「とりあえずここは現実の世界ではないわけだから、若干の常識はずれな行動も許されると思うわけだ。というわけで―――覚悟はできているか?」

 

「一体何をするつもりなのさ!!!???」

 

 

 

 

 

 さて、なじみちゃんと(で)遊ぶこと数時間(体感時間であるため、正確ではないかもしれないが)、なじみちゃんのギブアップにより、私はそろそろ意識を覚醒へ持っていくことにした。まあ、その気になるまでそれだけ時間がかかったというだけで、同時に体が覚醒を望める状態になったということでもある(となじみちゃんは言っている)。

 

「中々に有意義な時間だったよ。出来ればまた夢の中ででも会いたいものだな」

 

「絶対にお断りするよ!現実世界で僕に会ったとしても、絶対にあんなことしないでよね!!」

 

「現実世界で出来ないからこそ、夢で逢いたいと言っているのだが……」

 

「きみは性質が悪すぎないかい!?」

 

 失礼な。純粋に女の子を愛でたいという気持ちだけしかないのに、性質が悪いとは……。

 

「その純粋さも性質が悪いよ!なんだってんだ、僕にここまでやれる人間なんか居なかったってのに!」

 

「ほう、つまり私はなじみちゃんの初めての人というわけか……」

 

「そこで顔を赤らめないでくれよ!そしてその言い廻しは非常に誤解を招きやすいからね!……もう」

 

 この子、意外といじめてると楽しいぞ、と思いつつ、いよいよもって意識が覚醒へと向かっているのか、私の足は自然と教室の扉へと向かった。

 

「……最後に一つだけ聞きたいんだけどさ、きみにとって世界ってなんだい?」

 

「…おかしな質問だな。世界ねえ…答えになっているかどうかは分からんが、世界は世界だ。それ以外の何物でもないと私は思うよ」

 

「…ひねくれ者」

 

「どっちが」

 

「「…ハハハハ!」」

 

 その応酬を最後に私は扉を潜り………見覚えのある天井を見ていた。

 

 

 

 

 

「………見知った天井だな。名瀬先輩の研究室か?」

 

「おう、その通りだ。………ちょっと寝坊じゃねえのか、四方寄」

 

「モギちゃん!良かった………!」

 

 傍らには名瀬先輩と瞳先生がいた。周りには生徒会のメンバーもいる。が、全員顔色が良くない。

 

「……今日は何日で、副会長戦は終わったのか、終わったのならその結果を教えてくれ」

 

「………今日は八月十七日、副会長戦は二日前に終わったよ」

 

「結果は……めだかさんの敗北、二勝二敗で追い詰められた形だ」

 

「ごめんね、海路口…会長戦無しで終わらせるつもりだったのに……」

 

「…私が不甲斐ないばかりに…すまないと思っている」

 

 副会長様の言葉を皮切りに、口々にすまないと言ってくるメンバー。しかし、その後に私が紡いだ言葉によって、それは一転した。

 

「まったくもってその通りだ。おかげで私は怪我をしている身体で会長戦に臨まねばならん。まったく、こんなに不甲斐ないと知っていたら黒神めだかを副会長に推したりはしなかったよ」

 

「「「「!?」」」」

 

「本当に追い詰められたな。次に誰が出てこようとも、私が勝てる見込みなど薄い。それもこれも、全ては副会長様が負けたからだ」

 

「おい!海路口さん、そんな言い方は………!!」

 

「黙れ、生徒会選挙自体に出られなかった役立たずはひっこんでいろ」

 

「―――――ッ!!?」

 

「というか、そもそもは副会長様が空洞にいさんを唆して『過負荷』に一方的な暴行を加えたことが原因だったんだよな。その時点で気付いていればよかったんだ。私の責任だな」

 

「…海路口!なんでそんなこと―――!!」

 

「黙れと言ったはずだぞ?役立たず」

 

「おい!」

 

「お前らはもう帰れ。役立たずの顔など見たくもないし、そんな奴の味方をするバカな男の顔も見たくない。会長戦は私一人で臨むから、その日は登校してくるな。役立たずがいたところで、なんの意味もないからな」

 

 私は全員に辛辣な言葉を放ち、さっさとここから出ていくように促す。阿久根先輩は怒りに満ちた表情で、副会長様は驚愕と疑念、喜界島さんは怒りと悲しみの表情で出ていく。人吉君は………。

 

「…お前、なんであんな心にもないこと言えるんだ?」

 

「…既に他のメンバーは聞こえない位置に居るか?」

 

「ちょっと待てよ……おう、もう居ない」

 

 そうか、と私は一息つく。

 

「…すまないが、名瀬先輩も瞳先生も、今から私が言うことは外部に…特に生徒会のメンバーには絶対に漏らさないでいただけるだろうか?」

 

「……分かったわ」

 

「仕方ねえな。俺もお前があそこまで言った理由に興味あるしよ」

 

「ありがとう。………人吉君、頼みがある――――――生徒会選挙が終わり次第、生徒会役員への暴言行為を理由とした、生徒会長への解職請求を出してくれ。この音源を使って、生徒の過半数に署名をしてもらってくれ。私は即日受理する」

 

 

 

 

「『………』『好きなこの前では括弧つけたいとはいえ』『流石にこの状況で出ていくのはちょっとまずいかなぁ………』『というかそのボイスレコーダー』『一体どこから出したのさ』」

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