異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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まったく戦闘色のない最終戦というのもなかなか異常だな。

「さてさて、既に二人が此方へ来て、二人ともギブアップしていったわけだが」

 

「………」

 

「正直私は貴方に対する立ち位置を測りかねている」

 

「………」

 

「貴方の事をあまりにも知らなすぎる以上、どんな言葉も貴方に通用しないだろう」

 

「………」

 

「副会長戦では貴方が黒神めだかに勝ったのだとか。敵対する側の私が言うことではないが、勝利おめでとうと言っておこうか」

 

「………貴女は」

 

「うん?」

 

「私が彼女に勝ったとでもお思いですか?」

 

「結果は勝利だと聞いている。結果だけを見るのであれば、貴方の勝利は間違いないのではないか?」

 

「…違います、違うんですよ。私は理性を失いながら、汚く、醜く、おぞましく相手をねじ伏せただけだ。そして…それは貴女も変わらないのでは?」

 

 

 

 

 

 ふむ、どうやら蝶ヶ崎君は私を論破したいらしい。私が彼の出方を窺っていると、それを何も言えないと誤解したのか、彼は更に言葉を続けてきた。

 

「私が思うに、貴女はどこまでも貪欲だ。『過負荷(われわれ)』と仲良くなろうとしながら、普通科の女の子や十三組の生徒とも仲が良い。特別科にも友人がいる。我々と仲良くしようとする以上、そんな状態が許されるとでも思っているんですか?それともただ単に何も考えていないだけでしょうか」

 

「………」

 

「そもそも『過負荷』という化け物を性格の一種だなんていう貴女は傲慢に過ぎるのではないですか?生まれながらに負けることを定義づけられることを性格、個性だなんて聞いて呆れます。私達の不幸を一笑に付すとはどう云う了見ですか?私達は貴女の想像の及ばないような不幸を経験してきている。それを簡単に切って捨てるなどということは言語道断です。何やら私以外の代表者は貴女に随分と骨抜きにされているようですが、私はそんなことにはなりません。ですから、私は貴女に安易に参ったなどとは言いません」

 

「………」

 

「大体、貴女は臨時の生徒会長なんでしょう?本当なら私達は私が勝った黒神めだかがやっている生徒会を潰す予定だったというのに、貴女の勝手な行動で私達の計画は台無しだ。まったくもって度し難い。貴女みたいに大義名分もない生徒会を潰したところで意味はありませんが、私は個人的に貴女が気に入りません」

 

「………で、言いたい事はそれだけか?どうやら私を論破する事で参ったと言わせたいようだが、生憎それは私の得意分野だ」

 

「そうでなければ意味がない。貴女の得意分野で汚く勝ってこその私です」

 

「残念だが、私を論破する事は不可能だ。なぜなら………」

 

「?」

 

「私は言葉に対して異常なほどの執着がある。別に文法がどうとかいうわけじゃない。口語は曖昧だからこそ美しいと思っているからな。言葉に執着する私を、汚く勝つことしか考えていない貴方が論破できるとでも言いたいのか?」

 

「……所詮は言葉にしか興味がないだけなのでは?」

 

「さて、まずは貴方の意見への反論をするとしよう。いや、肯定かな?…私は貪欲だよ。そして、貴方達と仲良くする事と、他の子たちと仲良くする事、それが許されるなんて…思ってるに決まっているだろう?貴方達がどう思おうが、私の交遊関係は私が決める。貴方達の、いや、貴方の口出しする事ではない。それから、私が傲慢に過ぎるというのであれば、まるで『過負荷』代表とでも言いたいかのように偉そうな口を聞いている貴方は傲慢ではないのかな?私は性格だと判断したが、それを押し付けるつもりなど一切ない。言葉に強く執着してはいても、それを人間関係の上に立たせることはないさ。人間関係を円滑にするための手段という位置づけをはっきり決めているからね。とはいえ、これは勝負だからな。勝ちに行くためには若干強引な手段もとらねばならん。そうそう、勝ちに行くといえば、既に副会長戦の内容は聞き及んでいるし、貴方の能力も知っている。が、私の『日条制活』の前では、貴方の『不慮の事故(エンカウンター)』は意味を為さん。私は対等に戦うと決めた時、出し惜しみはしないのでな。どうせだから教えてやろう。『日条制活』の真骨頂を」

 

「貴女の能力の…真骨頂?」

 

 ようやく聞く耳を持ってくれたらしい。まあ、その時点で貴方の勝ちは最早なくなっているわけだが。

 

「私の『規則性』である『日条制活』は、そもそも私の家系に長く続いた『学蒐』の上位互換版…ではない。いや、だけではないが正しいな。『学蒐』を持っている人間は元々他者の能力に影響を受けないんだが、私の『日条制活』では、もう少し範囲が広いんだ。さっきから貴方も感じてはいるんじゃないか?『私の言葉は貴方の心に残る』と」

 

「!?」

 

「私が『日条制活』を普段使わない理由は、その能力が『常識的』ではないからだ。我が家系ですら異端の、常識的でない能力、そんなものを日常的に使うほど、私は『非常識』ではない」

 

 今度は貴方が押し黙る番のようだな、と言いながら、私は続ける。

 

「『日条制活』、これは私の周り、およそ半径十メートル以内の『常識的でない』能力を無効化する。対象を絞り込むことなく、私の周りで『異常』や『過負荷』を使うことはできない。どうだ?貴方達とは比べ物にならないくらい、私は『化け物』だろう?何せ、『化け物の皮を剥ぐ』化物だ。貴方は最早、ただの『普通な子』でしかない」

 

「……ッ!」

 

「人吉君に聞いた話だと、黒神めだかという化け物の能力を徴税しようとした都城王土は、彼女の化け物ぶりに心が折れたそうだ。さて、正直なところ、彼女以上に『化け物』な私と対峙している貴方は、それもただの『普通な子』の貴方は、一体どうなるのかな――――?」

 

「ひ――――ひいいぃィィッ!!??」

 

「怒江や志布志さんは能力の外で勝負しに来たからな。私も能力は使わず、ただの『私』として応対した」

 

 だが貴方は違うだろう?と私は問いかける。彼は一気に後ずさりし、必死でこの場から逃げようとしている。メタなことを言うのなら書記戦での名瀬先輩と言っておこう。だが、残念ながらそっちじゃない。

 

「『そんなところにドアはないぞ?』」

 

「!!!?」

 

「なぁに、貴方が一言『参りました』というだけで、『ギブアップ』と言うだけでおしまいなんだ。それ以上私は貴方に恐怖を与えない」

 

「参りました!ギブアップです!だから近寄って来ないで下さい!!」

 

 言質はとった。

 

「…さて、貴方が今まで他人に押し付けていた恐怖という感情、理解できたかな?貴方が押し付けたものは、そういうものだ。他人に押し付けることで貴方は楽だったかもしれない。だが、それはそのまま他人が傷ついたということだ。別に恐怖には限らない。痛みも、怒りや悲しみも、全てそうだ。同時に喜びや嬉しさだって、そうなっていたのかもしれないな。幸せになる方向を、エリートの排除に定める前に、まず貴方は他人になすりつけずに自分で全てを受けると良い」

 

 ポカーン、という擬音がこれほど似合う場面もないだろうと思えるほどに、鳩が八十八ミリ砲(アハトアハト)を食らったかのような(瞳先生談)顔をする蝶ヶ崎君。ギャップ萌えは適用されないらしい。残念。

 

「さて、そうは言っても急に変わる必要などはない。ゆっくり時間をかけてやって行け。人間の生は短いなどというが、平均寿命でもあと六十年以上あるんだ、意外と永いものだからな、焦る必要なんかないさ」

 

「…貴女は」

 

「うん?」

 

「貴女は、本当に…狡い。貴女の貪欲さも、恐ろしさも…全て私達には心地良すぎる。貴女になら変えられても良いとさえ思える。…本当に狡いですね」

 

「否定はせんよ。他人の目からどう映るかなんてその人その人で違うんだ。貴方がそう見るのなら、私はそういう人間なんだろう」

 

 どちらにしろ私の負けですから、と彼は生徒会室を出ていった。次の相手は不知火さんか、それとも禊か………。

 

 

 

 

 

「不知火ちゃんでした~☆」

 

「いらっしゃい。お茶とお菓子はそこに用意してあるから、自由に食べてくれ」

 

「うっわー、海路口ってば準備良い~♪って、これ熊本の陣太鼓に長崎のカステラ、福岡のひよこ饅頭に宮崎の日向夏ゼリー、大分のザビエルに鹿児島のしろくまアイス、更には佐賀のまるボーロに小城羊羹だと!?」

 

「何故か知らんが名字に九州の地名が多いのでな、取り寄せてみた」

 

「うわ~♡」

 

「これを食べたければ『ギブアップ』と言う、それだけで「ギブアップ!」早いな、おい」

 

「美味しそう~、これ全部食べていいの!?」

 

「…ああ、構わないよ。で、不知火さんは何か私と勝負する予定はなかったのか?」

 

「ぶっちゃけ適当なところで参ったって言おうと思ってました!多分対等に戦おうとするが故に私とは戦おうとしないと思ったから!」

 

 正解である。何この子怖…いや、やっぱり可愛い。

 

「まあ、一つだけ聞くとしたら……お嬢様の事、どうするつもりなのかな☆ってくらい?」

 

 …それはどうやら後ろの二人も聞きたいらしい。丁度いい、ここで話してしまうか。

 

「既に不知火さんにも連絡は来ていると思うが、私の解職請求を求める署名活動が水面下で起こっている」

 

「きたきた~。確か人吉が廻してるんだよね?あたしに何人分か集めてくれってお願いされたよ」

 

「アレを請求するのは現生徒会側の副会長以下四名による連名だ。今のところ動いてくれているのは人吉君だけだが、そこは上手く焚きつけるつもりだよ」

 

 その手筈ももう考えてある、と言いながら、私は三人の表情を窺う。うん、二人は疑念、一人は理解か。

 

「まあ、なんで今のタイミングなのか、と聞かれたよ。瞳先生にね。今の副会長様を会長にするのは時期尚早じゃないか、とね。だが…」

 

「むしろ今が限界ぎりぎりなんでしょ?」

 

「その通りだ。今を逃してしまうと、恐らく私は生徒に生徒会長として認められてしまう。夏休みの生徒会戦挙を戦い抜き、この学園を守った立役者としてね。だが、この学園に必要な生徒会長になるわけじゃない。この学園で、ただ次の選挙を待つだけの生徒会長になるだろう。私は成長が出来ないからな、それこそ成長株である彼女こそ、この学園に必要な生徒会長だと思うよ」

 

 私とは比べるべくもないだろう?と自嘲気味に語りかける。

 

「…よく見てるよねぇ。それで?態々お嬢様を会長に()()()()()()()()()お膳立てを今までしてたの?」

 

「彼女が知らなかったことを体験させるには、この選挙は都合がよかった。いや、勿論私はしっかりまじめに対応したつもりだが、同時に副会長様を育てるための行動も含まれていたな」

 

「やっぱりね~。日之影先輩を外部顧問にしたり、副会長戦を棄権させなかったり…」

 

「それもあるが、むしろ私自体が彼女の知らないことだっただろう」

 

「「………」」

 

「彼女と分かり合うことのない人間、彼女が理解できない人間、彼女が感心しながらも、影響を受けたいと思わない人間、内部での対立。これだけの条件が揃っていた。フラスコ計画ではないが、私は彼女が生徒会長としても一人の人間としてももう一歩上にあがるためのお膳立てをしていた。まあ、予想外の過程はあったが、最終過程にようやくたどり着いたよ」

 

「…結局、それはモギちゃんの申し訳なさからなのかな?」

 

「…ないとは言わない。が、それ以上に必要とされているのが彼女だと、身をもって知った」

 

「…え?」

 

「職員室でも、教室でも。必ず言葉が聞こえてくる。『黒神会長は――』ってね。彼女は恐らく理屈じゃなく、この学園に必要な存在だ。そして、私を形式的に会長と認める前に、このリコールは完成しなければならない。解職請求者の名義トップは黒神副会長。解職請求をしたら、彼女が会長に元通りだ」

 

「…確かに、今が限界ぎりぎりってのは分かったよ。だが、もう最終過程にたどり着いてるんだろ?だったら―――――」

 

「最終過程、それは私を蹴落とすことだ。私という悪を蹴落とすことで、彼女は晴れて解職された元会長という汚名を返上し、返り咲くことが出来る」

 

 その言葉に、言葉を返すことが出来るものはこの場に居なかった―――――。

 

 

 

 

 

 

「さて、最後の挑戦者はお前だったか、禊」

 

「『そうだね』『僕が最後の挑戦者で、君が生徒会長として対峙する最後の敵だ』」

 

「いつ聞いたのかは敢えて聞かないぞ。その口調は?」

 

「『それなんだけどね、四方寄ちゃん』『僕さぁ…この間最後の恋を中学時代にしたっていったじゃない?』『アレが最後の恋じゃなくなったんだよ』」

 

「ほう?それはそれは。恋愛というのもまた、人生の幸・不幸の一部だろう。で、相手は誰なんだ?」

 

「『………四方寄ちゃん、僕と付き合ってくれない?』『好きな娘の前では、やっぱり括弧つけていたいんだ』」

 

「……私はなんといってもかわいい女の子が大好きなのは知ってるよな?」

 

「『…勿論さ』『断られることだってちゃんと考えてる。その時は良い友達でいて欲しい』」

 

「…いいよ、付き合おう」

 

「『……!?』」

 

「私は可愛い女の子が大好きだが………別に男が嫌いというわけじゃない。それに、お前はなんだか、好ましい」

 

「『…またこんなバカげたことをするかもよ?』」

 

「そしたらまた私が対峙して、退治してやるよ」

 

「『僕って女好きだから、浮気するかもよ?』」

 

「ぜひとも紹介しろ。そして私はその子をお前から奪ってやる」

 

「『君をなんとなく殺すかもしれない』」

 

「残念だが、私を殺して良いのは志布志さんだけだ。全力で抵抗して、説き伏せてやる」

 

「『……ダメだなぁ』『やっぱりこれでも参ったって言ってくれない』」

 

「なんだ、参ったと言わせるための方便だったのか?」

 

「『いや………』『むしろ僕の方が参ったよ』『ねえ、こんな僕でもいいなら、』付き合って下さい」

 

「………喜んで。私が精一杯、幸せにしてやろう。括弧つけないお前の言葉は、私にもちゃんと響く」

 

「………ダメだ!やっぱり今のなしにして!」

 

「どうした?」

 

「今の僕じゃあ絶対に四方寄ちゃんとは釣り合わないや。だから、僕が釣り合うようになるまで、がんばることにする。頑張って頑張って、それで君を堕とすことが出来れば、きっとそれ以上の幸せはないだろう?」

 

「……ハハっ。待っているぞ、球磨川禊。いや、早くせねば可愛い女の子を根こそぎとってしまうかも知れんぞ?だから…」

 

「頑張れ」

 

「頑張る」

 

「『……じゃあ、これで僕らの負けだ』『参りました』」

 

 こうして生徒会戦挙は終わりをつげ、きっちり二十四時間後の八月二十三日、午後一時に、副会長様率いる生徒会メンバーが、私に解職請求を突き付けてきた。

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