異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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普通に最後の仕事を終えたら、さっさと居なくなるべきだ。

 さて、二学期も始まろうかという八月最終週のある日、解任の正式な決定は二学期初日になるため、夏休みの間に出ていた書類を一斉に処理していたのだが、理事長から直接の呼び出しがあった。またあのキチg……偏屈老人の相手をせねばならんのかと思いながら向かってみたところ、夢の国の住人がいた。いや、ネズミもどきとか言うわけではなく、私が死にかけてた時に出会った女の子……安心院なじみちゃんである。まあ、それはそれとして老害…爺…理事長に用件を聞かなければならない。今の私は仕事で来ているわけだからな。そう思いながら、私はなじみちゃんの頭をなでていた。…仕方ないだろう?髪の色は変わっていたが、ものすっごく手触りいいんだよ、この子の髪。

 

 

 

 

 

「……………で、何か申し開きは?」

 

「お前が可愛いからいけないんだ!………とストーカーやら痴漢やらの論理を展開してみようかと思ったが倫理に反するのでやめておく」

 

「きみって本当に………」

 

 いつまでもこうやって戯れていたいのは山々なのだが、そうなるとやはり理事長からの呼び出し、という仕事を果たせないので仕方なく、しかたなくジジ…糞…理事長の話を聞くことにする。

 

「…で、何か御用ですか?それこそ今回は叱責の可能性も考えていますが」

 

「まあ、こう何度も短期間で生徒会執行部の代替わりが続いては流石に叱責の対象にもなりかねませんが……今回は叱責ではありませんよ。自覚しているのなら尚更私が言うようなことでもありませんし」

 

「では、何の御用で?」

 

「…実はですね、此方に居るお二方が、貴女とご同類の可能性があったもので……いえ、むしろ貴女がこのお二方とご同類と言えば宜しいでしょうか」

 

 聞かれても答える術はないのだが。

 

「このお二方なんですが、貴女と同じ立場にあると言っても過言ではないほど貴女と近しい存在なんですよ。貴女と同じく、全てを平等に見ている、そんな存在です。貴女にはぜひともこのお仲間に入っていただきたいと思いまして………」

 

 ……………。

 

「なあ、なじみちゃん。この呆け老人が何を言っているのか理解できるか?もし理解できているようなら私は急に日本語の聞き取り能力に齟齬が生じたというあり得ない事態に対処しなければならないんだが」

 

「…僕は彼側の立場だからね、彼が言っている事は理解できるよ。まあ、きみが理解できるような内容かと言えば、彼の話し方で理解できるとは思っていないけれど」

 

「そうか、つまりはこの糞爺の言語能力の低さが故だな」

 

「…なんで当人がいる前でそこまで罵倒できるのかが気になる」

 

「別に当人に向かって言ってるわけではないし、良いと思わないか?」

 

「ダメだとしか思えないけど?」

 

「………もう少し平易に説明させていただきますので、少々待って頂けますか?少し目から汗が………」

 

 

 

 

 

 耄碌爺(もう訂正するのも面倒くさい)曰くもう少し平易な説明は、今度はなんとか理解できるものだった。曰く、此処に居る二人は共に『悪平等(ノットイコール)』という存在で、『異常』も『過負荷』も『特別』も『普通』も何もかも、全て平等だと考えている…らしい。ああ、未だにもう一人への描写がなかったので、此処で紹介しておくとする。なじみちゃん曰く『ただそこに居るだけの人外』こと不知火半纏君だ。因みになじみちゃんは『平等なだけの人外』であるらしい。なんでも能力もとんでもないんだとか。で、それと私が同類だと。

 

「バカか」

 

「うわ、ついに面と向かって……」

 

「私の能力の根幹は私の家系にこそある。それに、私はただの人間で、人外じゃない」

 

「い、いえ…それは言葉の綾という物でして……」

 

「仲間になれ?私は他者から強制されて人間関係を作るのは大嫌いなんです」

 

「そ、それは……」

 

 なんとも馬鹿げた話を、それも態々呼び出してまでしてくれたものだ。

 

「し、しかしですね、これは黒神さんを成長させることにもつながるわけでして………」

 

「『黙れ』」

 

「―――!?」

 

 必死で言葉を紡ごうとするも、一切声の出せない理事長。ああもう、これだから愚か者は困る。私も決して賢しいとは思っていないが、一緒に居るだけで反吐が出るような愚か者というのは本当に嫌になるな。

 

「理事長先生、はっきり言っておきますが、私はそこまで気が長いわけではない。あまり此方を挑発するような馬鹿げた言動をするようでしたら、私は今時の子供らしく、突拍子もない行動に出かねませんよ?」

 

「―――――!!!」コクコク

 

「………不知火くんにここまでやれたのって、今までそうはいないんだけどね…」

 

「…そうそう、なじみちゃん。別に私は貴女と友達になりたくないわけでも何でもないぞ?ただ単に、強制されるのが大っ嫌いなだけだ。貴女が良いというのなら、私は喜んで友達にもなるし、友達以上の関係でもどんと来いと思っているからな?」

 

「最後の台詞はあまり嬉しくないよ!?」

 

「無論、そちらの…不知火君と呼ぼうか。貴方とも友達になっていいと思っている。未だに声を発するところを聞いていないが、いつか声を聞かせてくれ。では、生徒会の仕事が残っているので失礼します。…ああ、喋れないんでしたっけ。『解除』」

 

「―――ッ!?貴女は!」

 

「理事長先生、貴方が私と話すだけの賢しさを持つまで、私はここに来ることは今後ありませんので」

 

「ま、待ちなさい!まだ話は―――」

 

「終わりですよ。私は今聞く耳を持っていませんからね。では、失礼します」

 

 

「………まさかあそこまで怒らせてしまうとは思わなかったよ、不知火くん、意外とバカなの?」

 

「…まあ、他に方法がないわけではありません。なんといっても私は理事長ですからね、少々無茶をやっても問題視されることはない。彼女も中々に素晴らしい才能を持っているようですが、思い上がってしまっているのはいただけませんな。少し大人からお灸を据えることも必要かと思いますよ。ほっほっほ」

 

「………まあ、僕は何も言わないよ。…どうなっても知らないけど」

 

――――そんな不穏な会話を最後に、長い長い夏休みは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

―――――海路口四方寄 前記の者、二学期初日より新設クラス、一年0組へのクラス変更を命ずる―――――

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「『…………』」

 

「………………なんだ、これ」

 

「四方寄さん…一体何をやらかしたの………?」

 

「…よく分かりませんが……取り合えず命じたのは間違いなく理事長でしょうね」

 

「…なあ、四方寄…顔、偉いことになってるぞ?」

 

「『ねえねえ』『一体何があったのさ?』」

 

「………良いだろう、ならば戦争だ…フフフフフフフフフフ」

 

「ッ…………!」

 

「「怖ッ………」」

 

「『僕らすら怖がるとか』『四方寄ちゃんって最近人間辞めてない?』」

 

「ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ………」

 

「『周りに思いっきり人のいない空間が出来上がってるんだけど……』」

 

 

 

 

 

 さて、戦争だとは言ったものの、私は積極的に理事長室へ向かうつもりは一切ない。その結果黙認は容認だなどと言われてもそれはそれで構わない。私が気にするのはあくまでも「あちらが行動した事実」であり、「あちらが行動した結果」ではないからな。どうせ大人の怖さを教えてやろう的な子供じみた発想なのであろうが、売られた喧嘩は敵対的買収が私のモットーだから思いっきり買い取ってやろうじゃないか。まずは情報の操作から始めるとしようか。影響力の比較的高い生徒で仲の良い人間に理事長の悪評を流してもらい、生徒からの不信を買うところから始めよう。その後に優等生組である特別科の知り合いを通じて教諭陣への悪評の流布だな。

 

「フフ、フフフフフフフフフフフフフフ………」

 

「………きみって結構攻撃的だろう?」

 

「やあ、なじみちゃん。貴女はこのクラスなのか?0組などというバカげたクラスなのだが…ああ、理事長の差し金か。まったくもって子供じみた真似をしてくれるなぁいや此方からしてみれば可愛い女の子と同クラスというのは嬉しい限りではあるのだが理事長の差し金というのは気に入らないなまあ見ていてくれそのうちにあの耄碌爺を辞任に追いやってやるからその後には私ともっと積極的に仲好くなっていこうじゃないか勿論同性である以上身体的接触もある程度はあっても良いと私は思っているわけだがそのあたりなじみちゃんはどう思うっていうかそもそも貴女の髪が綺麗で仕方がないから今すぐにでも触りたいんだか良いかそれと不知火君もおはよう今日も良い天気だと思わないかそれで貴方はあまりしゃべらないようであるが私が一方的に喋るような行為が好ましくないようであれば首を振るなどで構わないので辞めて欲しいという意を示してくれるとありがたい限りであるわけで……」

 

「分かったからとりあえず一気呵成に喋るのを辞めてくれないかな!?きみの背後に鬼気迫るオーラが映っている気がして僕でも怖いと思えるレベルなんだよ!」

 

「……………!」コクコク

 

 …失礼、取り乱したようだ。

 

「…で、とりあえず聞きたい事があるんだが………貴女達は一体何を起こそうとしてここに来た?まあ、この学園で今年の転校生は必ずフラスコ計画関係者なわけだが」

 

「関係者、というかねぇ……」

 

 そうだね、改めて自己紹介をしようか。となじみちゃんは言い、自身の紹介を始めた。

 

「僕は安心院なじみ、平等なだけの人外で、『7932兆1354億4152万3222個の異常性と4925兆9165億2611万643個の過負荷、合わせて1京2858兆519億6763万3865個のスキル』を持っている謂わばチートキャラだ。フラスコ計画並びにこの箱庭学園の創始者だよ。そしてこの子は不知火半纏くん。ただそこに居るだけの人外で、彼は『スキルを作るスキル』の持ち主だ。僕が持っているスキルの内百個くらいは僕が彼にお願いして作ってもらったんだ。大体百五十年くらい前からの付き合いさ」

 

「…そうか。確かに二人とも人外という言葉がしっかりと当て嵌まる存在のようだな。どうやらクラスメート扱いのようだし、改めてよろしく頼む」

 

「ってそれだけ!?もっと気味悪がったりは!?」

 

「それだけ膨大なスキルを人間が処理できるとは思えん。()()()()()()()()()()()()()()。だったら人外という言葉に納得しこそすれ、気味悪がる必要などなかろう?」

 

「………きみの事を本当に平等に見れるのか、僕は若干心配になってきたよ。確かにこれは僕ときみ両方を知っている人間が同類だと思っても仕方がないくらいのレベルだぜ」

 

「私はあくまでも人間だからな。人外ではないと改めて言っておこう」

 

 そういう意味合いじゃないんだけどね………と言いながら、なじみちゃんはケータイをいじり始めた………足で。

 

「両手が動かないから足か。中々によく動くようだが、それでは画面が見にくくないか?」

 

「………実は結構」

 

 

 

 

 

 新生生徒会は会長様率いるフルメンバー五人によって今日から動き出す。今日は形式ばかりとはいえ申し送りの為のセレモニーをやる必要があったため、私は車椅子を押しながら生徒会室へ向かった。いつもより若干時間もかかり、すれ違う生徒すれ違う生徒全てに好奇と侮蔑の入り混じった表情を向けられているあたり、どうやら噂はしっかり機能してくれているらしい。まあ、一部生徒…事情を知っている生徒に近しい生徒は流石に聞いているらしく、むしろ憐憫の視線を送ってくるのだが、むしろそれの方が辛いと感じるのは私だけだろうか。

 

「………前会長、海路口四方寄だ。すまないがドアを開けられないので開けていただけるか?」

 

「お、おう。海路口、待ってたよ」

 

「ふむ、海路口同級生、それでは早速で悪いが、簡略で申し送りのセレモニーを始めよう」

 

 言われなくてもさっさと終わらせるよ、面倒臭い仕事と早く別れるためだからな、と口に出し、若干空気が悪くなる。私は生徒会長用の席に座り、引き出しから鍵束を取り出す。この鍵は書類などを入れておく金庫をはじめとした、生徒会の執行に必要な場所の鍵だ。これを渡すことで、正式に次代の生徒会に権限を移すことになる……まあ、そんなことしなくても普通に前代なわけだし、場所は知ってるんだからやらなくて良い気もするが、それはどうやら様式美とでも言う奴らしい。

 

「……さて、これで貴女達新生生徒会に実権も移った。それでは敗残兵はさっさといなくなるとしよう。今後の貴女達の一層のご活躍を祈念する。せいぜい私を頼って来ないでくれよ?」

 

 その一言をもって、私は生徒会室を後にした。………それとほぼ時を同じくして、なじみちゃんが生徒会室に出没したらしいのだが、まあそれは私の仕事とは関係ないので描写しない。

 

――――と、言うわけで、私は一切その後の事は知らなかったのだが、翌日思いっきり会長様に殴られた。理由は次回にでも語るとしよう。

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