異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
具体的に何が起きたのか、その場で冷静に判断するのは少々難易度が高かったように思う。私は昨日から自身が通う場所となった一年0組の教室を出て、新しいピアノが納入されたということで第二音楽室へ向かったはずだった。まあ、途中で冥利君に付きまとわれたり怒江と挨拶をしたり志布志さんと話していた時に蝶ヶ崎君が来て志布志さんが不機嫌そうになったりと少し時間を食ってしまったのは間違いないのだけれど、目的地として第二音楽室を設定していたのは間違いない。その途中に会長様がいたところで、その目的地は変わらなかったし、適当に挨拶を済ませてさっさと向かうつもり満々だったのだが………。
「…何故、いきなり殴って来たのか、説明をしてもらっても良いかな、会長様」
その言葉を放った途端、更にもう一回殴られた。その顔には憤怒と悲嘆が入り混じっているように見えるが、少なくとも昨日までの時点でそんな感情を持たれる覚えなどなかったわけで、つまるところ私は今の時点で殴られる理由に思い当たれるはずもないわけだ。いきなりの状況であるということに、私は若干戸惑いも隠せていないし、何より先ほどから右頬にジンジンとした痛みが続いており、思考も痛覚に邪魔されて上手くまとまらない。というか、髪が白い辺りは乱神モードなのか?そこまで怒りを買うような行動をしていたとは思えず、纏まらないなりに考えた結果、私は一つの結論に至った。
「………で、なにがあった」
「……貴様はッ!」
これ以上は流石に殴られたくないのだが、悲しいかな車椅子の身である。まあ、一応歩けないこともないのだが、どちらにしろ足元はおぼつかないわけで、私はもう一度振りかぶった彼女の拳を甘んじて受けるしかないか、と諦めようとしたところで、彼女は私の目の前で泣き崩れた。え?何これ怖い。
「…貴様は、なんで私達にそこまで甘いのだ……!私はそんなに頼りないのか…?私は…私は……!」
「ここで私はキャンディーとかつづけたら流石に立ち直って怒るのか?」
聞かなかったことにされた。
「安心院なじみから聞いた…私を成長させるために、態々悪役を演じ、私が返り咲いても反発が出ないようにしていたと…!」
うわぁ………なじみちゃんかよ。なんだ、私は彼女に憾みを買ったことなんか……あるなぁ、思いっきり。
「で、それがどうしてこの事態に?」
「……どうしても納得がいかない。貴様が…お前が、なんでそこまで悪者になれるのか、どうして私が殴ってきても怒ることなく冷静に対処するのか……!」
ああ、なるほど。つまるところ理解できないと。
「というかだな、会長様。それなりに付き合っている期間が長い私の言葉ではなく、なじみちゃんの言葉を信じる辺りどうなんだ?」
「安心院なじみだけではない!」
なんだって?
「善吉も、喜界島会計も言ってきた!」
「………あっちゃー、やっぱ教えるべきじゃなかったかも知れんな。うん、私らしい失敗だ」
「お前は……!」
「なあ、会長様…。『忘れろ』」
「…!?………?おい、海路口同級生、私は一体なんでここに居る?」
「さあ?大方校舎内の清掃でもしていたんじゃないか?」
私の言葉にいまひとつ納得が出来ないという表情をしつつも、きっとそうだったのだろうと生徒会の仕事に戻っていった。
「………とりあえず、なじみちゃんともがなにはお仕置きだな☆人吉君は……まあ、いいか」
それにしても使い勝手のいい能力だなと思いつつ、私は第二音楽室へと向かったのだった。
「…後継者の育成?」
「『そうなんだ』『安心院さんがフラスコ計画をめだかちゃんの卒業後に再開させるっていったから』『それに対抗するための計画なんだよ』」
この前会長様に二度殴られてから数日、どうやら会長様達はまた新しい企画を始めたようである。あれ以来一回も此方へ来ていないということは、どうやら記憶の改竄は成功しているらしい。もがなには悪いことをした気もするが、流石にあのタイミングでは和解するには早すぎたし、何よりなじみちゃんの思惑に乗るつもりなどかけらほどもない。
「…で、それを何故態々私に?」
「『なんかね』『後継者選びの手伝いをして欲しいんだってさ』『なんだかんだで能力は認めてるからって』」
「ふーん………」
「『………ところでさ』」
「なんだ?」
「『なんで安心院さんは縛られて』『目隠しされてるのかな?』」
「お仕置き中」
「一言ですませないで欲しいね!もう三日もこの格好だよ!」
そうか、数日ではなく四日前と言っておこう。
「そんなどうでもいいことの訂正してる暇があったらこの縄を解いてくれないか!?なんでか知らないけどまったく解けないんだけど!?」
まあ、解けないように縛ったんだから解けるわけないだろう。それこそ鋏で切るくらいしか私には出来んな。
「『…なんだか』『別に四方寄ちゃんがいるだけで十分対抗できる気がしてきたんだけど………』」
「対抗云々がそもそもおかしい気もするが、一応クラスメートだぞ?愛でこそすれ、なんで敵対せねばならん」
「『…うん、そうだね』『四方寄ちゃんはそういう子だ』『そういうところに惚れたんだし、改めて惚れたぜ☆』」
「そんな懐の深さに潜り込んでみたいな」
「『僕は四方寄ちゃんに潜り込みたいけど?』」
「二人ともそのまま溺れ死んでしまえ!」
だが断る。
「…で、何人くらい集まるんだ?」
「『さあ?』『でも急な募集だからね』『そんなに人は来ないんじゃないかな?』」
「――――と、禊は言っていたんだが、会長様の感覚でこれはそこまで人は来ていない、になるのか?」
「……いや、多分めだかちゃんもそこまでおかしな思考はしてないはずだぜ?」
更に数日、急遽告知されたにもかかわらず、校庭には数百名の中学生が集まっていた。その光景に違和感を覚えるも、流石にこの大人数である以上、選考は免れないはずだから問題ないか、と考え直し、めぼしい生徒をあらかじめチェックしておく。
「あ………おはよう、海路口さん。今日はよろしくね?」
「うむ、しばらくではあるがよろしく頼むよ、喜界島さん」
「え、えっと……私、まだ人数の確認があるから、またね!」
さっさと逃げていった辺り、どうやらちゃんと私の本意を知らない状態に戻っているらしい。正直申し訳ないことをしているとは思うが、これでいい。
「…で、さっきから一切喋ろうとしないこの胸を前面に押し出した露出魔先輩は一体何なんだ?」
「ブハッ……!」
「き、君ねぇ……!」
ああ、口はちゃんと動くらしい。なら良いや。
「口が動くならそれでいい。さて、要らん時間を使っていた間に、どうやら定刻のようだな。カウントした限りに於いては六百名ちょっとといったところかな。よくもまあこんな急な告知で来れたものだ」
「全部で六百三十七人、急な告知の事を考えれば、十分すぎるほどに集まってるよ」
「…私は一旦席をはずそう。生徒会の邪魔をしては申し訳ないからな」
「あっ………」
どうやら始めるようだし、私は若干離れた位置に陣取った。此方を気にする中学生も若干名いたが、どれも男子だったので気に留めない。私がそこに佇んでからしばらく、禊が壇上に上がり、なんとも『残酷な』選別を始めた。モブキャラ扱いは確かにきついだろうな、一応自身の中学では主人公的な立場の人間もいた筈だろうし、そうでない子にはそのものズバリ指摘されたような物なんだからな。
「…何やってるんだか、アレはフォローに廻らんぞ、自業自得だよ、禊」
「へえ、過保護ってわりには結構厳しいじゃないか」
「私の上に乗るのは感心しないな。上に乗るのは私だろう?なじみちゃん」
「きみに言われると本気で怖いからやめてくれ!…で、なんだってきみはそうも自身を話しの輪から外そうとするんだい?」
「まあ、私は本来全編終了後のおまけ的な扱いだからな、能力的に。それに、村人Aは普通そんなに出張って来ないだろう?『既に村人Aは出しゃばり過ぎている』」
なじみちゃんはしばらく黙り、残っている五人をどう思うか訪ねてきた。
「…そうだな、個人的にはヘッドフォンの子とどこからどう見てもアンドロイドの子が好みだ。ちっさいメガネっ子は裏表がありそうだし、眼帯娘はバカっぽい。茶髪の子は……現実味がないな。まるで自分の世界をもう一つ持っているみたいだ」
「…きみの観察力には脱帽だぜ」
「因みになじみちゃんはここに居る子達の中ではダントツに可愛いと思うわけだが、その辺どう思う?」
「僕に聞かないでくれよ。答えがどうであれ自意識過剰みたいになるじゃないか………」
「まあ、そういうことが聞きたいわけじゃないんだろう?彼女たちはどう見ても……普通の子だ」
それがどうして禊のアレを切りぬけたのかはわからないが、まあ何らかの理由はあるんだろう。態々聞いてきたあたり、なじみちゃんがらみで。
「さて、一次面接は生徒会が全部受け持つんだそうだ。私は二次面接だからな、しばらく時間つぶしに第二音楽室のピアノを整えてくる」
普通に考えて、生徒会のメンバーが面接を終えた時点で、私が面接をする必要はないんじゃないかと思いながら、私は最初に入ってきたヘッドフォン少女………喜々津嬉々ちゃんに席に着くよう促した。
「さて、既に一次面接で生徒会の人とは話したと思うが、もう少し付き合って頂く。ああ、私はこの学園の前生徒会長、海路口四方寄だ。なんで借り出されているのかは生徒会長様にでも聞いてくれ。…さて、早速だがこの輝かしい経歴、まったくもって素晴しいものだな。よっぽど才能に恵まれていたようだ」
「ありがとうございまーす。もう一次面接の内容は伝えられているんですかー?」
「まあ、なんだかんだでたった五人だからな。何をしたいといったことはなく、ただ難しいゲームにチャレンジしたいという感覚…分からんでもないよ。が、若干思慮に欠ける言葉ではあるな。今回はたかが生徒がやってる安易な面接だが、実際の就職面接や入試の面接ではもう少し自身の功績を前面に押し出したアピールをするといい」
「………はーい」
「さて、私からの質問はたった一つだ。きみは彼女はいるか?」
「………は?」
「きみは付き合っている特定の女子はいるのか、と聞いたんだが?」
「いや、いるわけないじゃないですか……」
「そうか、以上で面接を終わる。今回の育成プログラムで、その才能を大いに発揮してくれ」
「………は、はぁ…」
「次はきみか、鰐塚処理さん。自己紹介は必要かな?」
「いえ、自分は特に興味もありませんので。自分が此処に居る理由も知っているのでしょう?」
「まあ、あんな変態先輩にあこがれていたとは少しびっくりだが、それも人の好みだからな。さて、まるで人が創った経歴をそのまま書き写しているかのように綺麗な履歴書、見ていて惚れぼれとしたよ。ぜひとも本番の入試や採用試験ではこんな感じの自分の経歴を書いてくれ」
「………はあ」
「さて、私からの質問は一つ。きみは現在、付き合ってる女子はいるか?」
「…………居ないでありますが?」
「そうか。では、面接を終える。きみの強さを、このプログラムで大いに発揮してほしい」
「…失礼するであります」
「続いてはきみだな、財部依真さん。私は前会長の海路口だ。では、早速面接に入る。…何故だか知らないがこんな育成プログラムにも成績証明書が必要だというのが面白いな。国語と英語のに教科の成績が特に素晴しい。言葉に深い思い入れでも?」
「はい。美しい言葉という物を使える人間になりたくて、出来る限りの語彙を覚えるために読書を小さいころからしていたので」
「そうか、例えば美しい日本語、という本があるが、アレは読んだことがあるか?」
「ええ。非常に素晴らしい本だと思います」
「そうか。私の見解とは違うが、それもまた人の曖昧さの一つだろう。まあ、当然綺麗な言葉ばかりではないが、本を読むことで語彙が増すのは間違いない。今後も続けていくと良い」
「ありがとうございます!」
「では、最後に一つ質問をしてこの面接を終わろう……きみは今、付き合っている女の子はいるか?」
「………いいえ、居ないです」セクハラとかいきなり何考えてんだ、バカかお前は
「うむ、そうか。建て前と本音の線引きが出来ているようで何よりだ。このプログラムで、きみが持つ言葉の力を最大限活用してくれ」
「はい、ありがとうございました」なにいきなり良い事いったみたいな感じにしてんだよ、死ね呆けが!
「さて、次はきみだな、与次郎次葉さん。ああ、既にこの名前が世を忍ぶ仮の名前だということは聞き及んでいるが、それなら尚更私はこの名前を使わせてもらうよ」
「えっと、なんでか訊いても良いですか?」
「世を忍んでいるのなら、あまりこういう場でそれを公言してはいけないな。いつ悪の組織に聞かれているかもわからないんだから」
「は、はい!確かにそうですね!」
「うん、分かってくれて何よりだ。それで与次郎さん、きみに対する質問はたった一つだ。…彼女はいるか?」
「…いいえ、魔法少女には友達は居ても、彼女や彼氏はいないです!」
「そうか。では、これで面接を終わろう。このプログラムで、きみがさらなる能力を開花させることを期待しているよ」
「はい!頑張ります!」
「…さて、はじめまして、自律式人型アンドロイド二十三番試作機『ホープ』、戸籍名希望が丘水晶さん。一次面接で既に大体のことは聞いているらしいのでな、特に改めて聞く必要もないだろう」
「ウィ、箱庭学園前生徒会長、海路口四方寄せんぱい。では、面接はもう終了でしょうか?」
「ああ、一つだけ質問をしよう。…彼女はいるか?」
「ノン、私は女性体として作られていますので、彼女という存在は作れませんし、同時にアンドロイドであるため、現時点でそういった感情は持ち合わせておりません」
「そうか。では、面接を終わる。このカリキュラムを通して、きみが学ぼうとしている心、その一部でも理解できれば御の字だと思っているよ」
「………」
「「「「『どうだった?』」」」」
「全員彼女なしとか、それなんて私得だろうと思ったが、何か?」
「「「「『………………』」」」」
「ああ、彼女たちがなじみちゃん率いる『悪平等』かどうかか。…確かに分かりはしたが、それを教える義理はないぞ?私の仕事はあくまでも生徒会のカリキュラムを滞りなく済ませる手伝いだからな。彼女たちの個人情報まで明かそうとは思わん」
後ろから非難の声は聞こえてきたが、私は気にせず所見を提出し、自身の割り当てられた……久し振りの臨時執行役員席に座った。