異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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異常な行動をされれば、それに対処するのは普通だろう。

 私には一つ日課がある。生活習慣的に朝起きるだとか一日一時間勉強するというような生産的なものだとか、そういうわけではないのだが、まあこれも自身に課した規則のようなものだ。正直に言えばそこまで厳密に守る必要もないし、そんなに重視してしまうとおかしな奴と思われたりもするのだけれども、そこはあまり気にしないで欲しい。で、いい加減日課とは何かを話さないと読者諸氏がページを閉じてしまいかねないので、そろそろその日課とは何なのかをお伝えする事にしよう。私の日課とは…、学校内の徘徊である。こらこら、変質者だと通報するのは早いんじゃないのか?徘徊とはいっても、別に見境なく女の子を襲っているわけでもないし、会う人会う人をゾンビにしていくわけでもない。ただ単に校内の清掃を兼ねつつ、何かしらの情報(とくに種類は問わない)を集めるのが目的だ。まあ、大抵は可愛い女の子の発見であったり、最近では私の陰口発見だったりなわけだが。

 

「…会長様はそういった光景は知らないんだろうなぁ。自分が陰口叩かれたりしている事はあると知ってても、敵対者が陰口叩かれるなんて」

 

 いや、意外とそうでもないのか、とか思いつつ今日は校舎内の徘徊に興じることにした。

 

 

 

 

 

 つまるところ徘徊によって得られる情報は多岐にわたるわけだが、一時期とはいえ生徒会長を務めていたことや、応急処置の心得があることもあって、普段から怪我人が多い学園である事も貢献したのか、私のあだ名は二つ出来上がった。一つは『普通の子』。最早普通ではないだろうという突っ込みを受ける可能性は十分にあるんだが、そこら辺は気にしないで欲しい。一応普通の延長線上に居るから。で、もう一つのあだ名なんだが…『徘徊する救命病棟(セーヴィングウォーカー)』。何やらホラーじみたあだ名ではあるが、どこからともなく現れては治していくから、らしい。で、そんなどうでもいい雑談は隅に放っておくとして、私がいま現在最も言いたい事はただ一つだ。

 

「………禊、その状況は一体なんだ?」

 

「『…めだかちゃんとかなら絶対に頼らないんだけど』『四方寄ちゃん、ちょっと手を貸してくれないか?』」

 

 そんなこと聞くまでもないだろう、と手を貸し、応急処置を開始する。随分と手ひどくやられているが、一体誰にやられたのか。

 

「…なあ、禊。頭部にゴム弾のような物が当たった跡がある。背中には刺し傷。この顔面から手にかけて広範囲にわたる熱傷のような物は間違いなく酸度の高い溶液を掛けられたものだし、所々の熱傷は明らかに電撃傷だ。ついでに言うなら爪が剥がれているのは自傷行為によるものではないな。傷の出来方に躊躇いがなさすぎることを考えると他者による拷問が考えられる。打撲傷に関しては落下による衝突と人為的な殴打によるものだな。つまるところ、どう考えても他人から暴力行為を受けたとしか考えられんのだが…誰にやられた?」

 

「『………情けないんだけどね』『候補生のみんなだよ』『まさかあそこまでやられるとは、一体僕が何をしたのか見当もつかないね』」

 

「…なるほど成程。ただ可愛いだけの『悪平等』ではなかったんだな。なあ、禊。お前は責任感の強い男だから、無論自分で何とかしようと思っているんだろう。だが、残念ながら今回はドクターストップだ」

 

「『…なにを言ってるんだ?』『可愛い後輩にちょっと悪戯をされただけだよ』『やり過ぎだからちょっとお説教は必要かもしれないけどね』」

 

 これをただの悪戯で済ませようとしている事にいっそ尊敬の念すら覚えるが、そうは問屋が卸さない。禊もまだまだ私という存在をわかっていないようだが、まあそれも今後の相互理解における課題として歩み寄っていくことにする。

 

「なあ、禊?私はね、自分が大事にしている存在を傷つけられることは普通に大嫌いだし、怪我をさせること、人を傷つけることをなんとも思わないような奴らはたとえ可愛い女の子でも許さないんだ。つまり何が言いたいかというと…私は怒っているんだよ」

 

 そういえば最近は怒ってばかりだななどと独り言をつぶやきながら、私は禊を保健室に送り込み、五人組を探しに出た。

 

 

 

 

 

 彼女たちを見つけるのは左程難しくもなく、廊下を五人そろって歩いているところにものの数分で辿り着いた。どうやら禊を倒した(と思いこんでいる)ことで若干の安心と、多大なる思い上がりをしているようであるが、その余裕は長持ちしないことを、私はよく知っている。気配察知、というか高感度センサー搭載のアンドロイドにばれないよう、それとなく近づきながら話を聞いているが、ホントになんとも思っていないらしいな。まったくもって腹立たしい限りである。気付かれないように近づきはしたが、別にここからは気付かれても問題ないな。私はスタスタと彼女たちに近づいた。

 

「―――私の拷問を受けて立ち直った奴なんて居ないんだし、そもそもあのまま二カ月は病院に拘束されてるわよ」

 

「残念だな。禊は回復力も高いし、何より私の処置は十全だ。あの程度の怪我なら三日もあれば完治するし、あのくらいの拷問で折れるほど軟な奴じゃない」

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

「やあ、しばらくぶりだったな、『悪平等』の皆さん。改めて自己紹介をさせてもらおう。箱庭学園前生徒会長にして、球磨川禊の恋人候補である海路口四方寄だ。先程は禊が世話になったようだが、それに対するお礼参りに来たよ」

 

「――!へぇ、意外な情報でした。で、もしかして彼女候補程度の貴女が勝手に復讐しようと?女子中学生のちょっとしたおふざけに本気になりすぎていませんか?」

 

 私の情報を持っていないのか、それともただ単に見縊られているのかは分からないが、財部さんはあくまでも余裕の表情を崩していない。

 

「なにを言ってるんだ?」

 

「え?」

 

「アレを本気でおふざけと思っているんなら、貴女達は私が今からやることもお姉さんのちょっとした冗談として受け止めるに決まっているだろう?そう、()()()()()()()()()()()だ|()

 

「「「「「!!!!????」」」」」

 

 そういうが早いか、私は彼女たちに一気に肉薄した。まずは希望が丘さん…一々名前を呼ぶのも面倒だな。ロボ娘にしよう。ロボ娘を倒しにかかる。

 

「…貴女の情報は既に聞き及んでおります。私を最初にターゲットにしてくることは容易に想像が出来ました。対抗手段は既に講じてあります」

 

「そうか、きっと電磁波の遮断フィールドでも展開したんだろうが、生憎『言葉の重み』は他人の能力でね」

 

 その言葉と同時に、私は彼女の首筋に手を置き、僅かに存在する隆起を押し込んだ。

 

「―――!?………動作ヲ・停止シマス」

 

「私も一応生徒会の手伝いなのでな、既に貴女の仕様は把握している。まさかそんなに分かりやすい場所に電源があるとは思っていなかったよ。製作所に戻ったら場所の移動を検討してもらうと良い…って、もう聞こえていないな」

 

「バカな!?あっさりと……!」

 

「次は貴女だ。鰐塚処理さん」

 

 そういいながら私は彼女に近寄る。当然ながら彼女も迎撃態勢に入っていて、その佇まいにはあまり隙があるようには見えない。

 

「―――だが、甘いなぁ。そんなに甘くては食べきるのにも時間がかかりそうだ」

 

 私の狙いまでは想像できなかったらしい彼女は、その言葉に一瞬体を固くする。それは普通の人間には付け入るほどの隙でもなかっただろうが、生憎私はそんなには『普通』じゃない。

 

「格闘をはじめとするスポーツならあり得ないだろうが、これはあくまでも喧嘩…いや、一方的な暴力行為なんだから、私に規則(ルール)を求めてはいけないなぁ」

 

「ガッ―――!?」

 

 短く悲鳴を上げ、崩れ落ちる鰐塚さん。なんのことはない。彼女が示した構えは、体の中心線ががら空きだった。つまり、人間の急所がほぼがら空きだったのである。私はそこにスーパーボールを弾き飛ばしただけ。まあ、当然ながら普通のそれではなく、冥利君から貰った特別製なのだが。人中・眉間・水月に当てれば、当然ながら激痛に苦しむことになる、ついでに肩と股関節も弾いておいたから、動くことは容易ではないだろう。

 

「次は貴女だ」

 

「にゃー!これは困っちゃうな~」

 

 そう言われても此方は既に怒りのボルテージが上がりきっているわけで、つまりは攻撃力も最高だ。喜々津さんは前の三人に比べそこまで戦闘能力が高いわけでもないようで、あっさりと私の蹴りを正面から受けてくれた。残念ながら手加減も足加減もしていないので、そのまま数メートル吹き飛ぶ彼女。ああ、無駄に威力を殺そうとするからそうなる。

 

「―――ガハッ!ゲエェェ―――!!」

 

「後ろに飛べば威力が弱まるというのは間違いないな。だが、素人考えにそんなことをしては、気絶出来ずに余計苦しむだけだぞ?素直に喰らっておけばいい物を」

 

喜々津(ツッキー)ちゃん!?」

 

「おっと、友人の心配も良いが、自分の心配をしたらいいんじゃないか?与次郎次葉さん」

 

「―――!?」

 

 まあ、そんな暇を与えるほど私は優しくないのだが。慌てて何か液体の入った瓶を取り出そうとしているが、もう遅い。

 

「…それが禊の顔を焼いたものか。濃硫酸だな。そんなものをどこから入手したのかは敢えて聞かないが、そんな物騒な物を使わせるほど優しくもない」

 

「キャッ!?」

 

「ところで電子レンジという物を知っているか?電磁波によって対象物に含まれる水分を振動させて加熱するという原理なのだが…私は電磁波を操る能力が使えてね。さて、それを貴女に使った場合、どうなると思う――――?」

 

「い、イヤアァァァァァ――――!?」

 

 その一言を聞いた途端に気絶するあたり、妄想力逞しい子である。実際にやるわけないだろうが。いくらなんでもお仕置きの度を越しているに決まってるだろうに。

 

「さて、一人勝手に気絶してくれたが、此処で漸く貴方の番だ。今回の首謀者的な存在なんだろう?財部依真さん」

 

「………ッ!」

 

「ここで禊なら『謝ったら許してあげる』なんて甘い事を言ってくるだろうが、残念ながら私はそんなに甘くない。さて、私は治療術を心得ているわけだが、それはつまりある程度人体の構造にも詳しく、逆に人体を壊すことも容易にできるわけだ。ああ、心配しないでくれ。ちゃんと壊したあとは治すからね。まあ、人体は治せても、精神を治せるとは思えないが………体が無事ならそれでいいだろう?」

 

「…良いわけないでしょう!それに、あなたみたいな人に謝る気なんてない!」

 

 それはそれは随分と嫌われたものである。まあ、まだ仲良くなれていない女の子と禊だったら禊をとるけれども。

 

「…そうか。じゃあ、貴女がどこで『殺して下さい』というか予想してみるとしよう。私は恐らく、手足の骨を全て折られて、更に肋骨を三本ほど折ったあたりだと思うがね。じゃあまずは一本目だ」

 

「ひぃッ―――ああアアぁぁァァ――――!」

 

「意外と良い声で啼いてくれるじゃないか。私は可愛い女の子を甚振るのも大好きだからね。せいぜい良い悲鳴を聞かせて―――」

 

「『とりあえずそこまでにしてくれないかな』」

 

 ………どうやらタイムリミットであるらしい。

 

「禊か。まさかここまで早く完治するとは思わなかった。ちょっと待っててくれ。もう少しでこの子の心も折れるだろうから―――」

 

「『もう良いよ』『もう十分だ』『というか、やりすぎだよ、四方寄ちゃん』」

 

「なにがやり過ぎなものか。これくらいではまだ足りないよ。人を傷つけるということがどれほど恐ろしいものなのか……それを分かって貰わないとね」

 

「『…だったら』『もう十分わかったよね?財部さん』」

 

「ッ……はいッ…!もう十分…ッ、分かり、ましたからぁ……!」

 

「しかしなぁ…口だけならなんとでも言えるぞ?それこそこのまま一生暴力を振るえない体にしてしまった方が…」

 

「―――――ッ!!」

 

「『やめろ!』『これ以上は僕が許さない』」

 

「………そうか、分かった。被害者本人である禊に止められた以上、私がやる義理はないか」

 

 私は財部さんから離れ、そのまま禊とすれ違ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

「――――で、諸悪の根源、何か反論はあるか?」

 

「いだだだだだだだだ!?僕が、僕が悪かったってばー!もう許してぇ!」

 

「私は未だに怒りが収まってないからな、却下だ」

 

「実は結構本気で怒ってる!?」

 

「大切な人を傷つけられて怒らないような奴は基本的に常識人じゃない」

 

「だったら君は絶対――――痛い!痛いから!」

 

「いっそのこと快楽に溺れさせるのも在りか――――?」

 

「無しだよ!それはダメだから首筋に舌を這わせないでくれ!!」

 

「まったく―――好きな奴に嫌われるのは苦手なんだぞ…?」

 

「あー、痛かった。…って、意外と本気で気に病んでる!?」

 

「禊に嫌われるとか………私は結構メンタル弱いんだからなー?」

 

「嘘つk――――――ごめんなさい!だからその顔はやめて!」

 

「痛たたた…ところでさ、本当に骨を折ったの?」

 

「まさか。言葉のおかげで少し痛みが大げさに感じられただけだよ。他の子も打撲以上の怪我は負わせてない」

 

 

 

 翌日。校門が開いてからしばらく、大体午前七時半くらいに私は登校しているのだが、珍しく禊の方が先に来ていた。

 

「…やあ、禊。やはり昨日の件では甘かったな。そのあたりも嫌いではないが………」

 

「『おはよう』『大丈夫、態々嫌われようとしないでよ』『傷つくなぁ』」

 

「…!ハハっ、やはりお前は好ましいな。で、ちゃんと手順どおりに再起動してくれたのか?」

 

 私が昨日、禊とすれ違って離れた理由。それは当然ながら全員の効率的な治療を教えるためと、希望が丘さんのデータをとりこぼしの無いように再起動させるためだった。

 

「『勿論』『でもさ』『四方寄ちゃんがやってよかったんじゃないの?』」

 

「バカ。私がやってもかえってトラウマを植え付けるだけだろうが。…もったいないが、仕方ないさ」

 

「『…うーん』『そんなことはないと思うんだけど……』『…あ』」

 

「…おはようございます、球磨川せんぱい、海路口せんぱい」

 

「『おはよう』『みんなもおはよう』『今日も朝早いんだね』」

 

「「「「「……すいませんでした!」」」」」

 

「『…なにについてなのかは良く分からないけど』『いいよ、許してあげる』」

 

「………今後あんなことをしないように気をつけてくれ。軽い気持ちで怪我をさせてはならない。自分の人間性を貶める行為はするな。あまり指導はできんが、これだけは私からの指導だと思って受け取ってくれ」

 

 当然ながら嫌われている…もしくは怖がられている…と思うのだが、よくもまあ謝れたものである。その精神力は評価できるんじゃないのかな、と思いつつ、私はその場を離れ……ようとして、禊に捕まった。

 

「『ねえ』『別にこの子たち四方寄ちゃんのこと怖がってるわけじゃないんだから』『あまり空気読んでいなくなろうとしなくて大丈夫だよ』」

 

 ………禊は本当に私と波長が合うらしい。

 

「…しかしなぁ…怒りがあったとはいえ、あんな真似をした以上私も居づらいというか……」

 

「『大丈夫だよね?みんな』」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 …本当に、禊が私に釣り合う良い男になるのも近いんじゃないだろうか。そんなことを思いつつ、今日の午後四時に行われる研修の準備のため、私は今度こそその場を離れたのだった。

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