異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
さて、世界には常にIFが存在する。何かしらの選択をしたときに、選択しなかったもう一方の世界と分岐していくというのは、SFに限らず多数のジャンルで用いられることが多く、同時に些か繁雑になっている感は否めない。ある種のゲームでエンディングが多数用意されているのも、ある意味選ばなかった未来を形として残していると考えられるだろう。バッドエンドだとか、トゥルーエンドだとか。そして、現実世界でもそういうことは起こり得るというわけだ。たった一つの選択が、その後の進み方を大きく変えてしまう可能性は十分にある。例えば私の場合、会長様とコイントスの勝負をしたとき、もしも私がどちらでもないと選択していたら?私が会長様をリコールせず、唯々諾々とフラスコ計画に加担していたら?会長様が副会長戦で勝っていたら?など、選択肢が存在する場面は多々あるわけだ。そんなことをいちいち言ってしまったらそれこそ私が辿らなかった世界は無限にあると言ってもいい。さて、今日はそんな、本編では辿らなかった世界の一つを紹介しようと思う。今日のIFはごく最近の出来事だ。つまるところ何が言いたいのかというと。
「時計塔のルート選択を替えた場合だな」
「お前はいきなり何を言ってるんだ?」
「気にするな。気にしようがするまいがここでは何の意味もなさないからな」
「………お前がどこに向かいたいのか、俺はよく分からねえよ」
「分かったら分かったで大変だと思うぞ?人吉君の脆弱な精神で耐えられるかな?」
「ナチュラルに罵倒するのはやめてくれ!」
「それにしても、赤先輩以降まったくと言っていいほど手ごたえのない相手ばかりだな」
「お前………それはただ単にほぼ全部俺に押し付けてるからだろうが!?さっきの関門なんてお前殆ど動いてなかっただろ!?」
「いやぁ、私が出るまでもなく人吉君がデビルカッコよく蹴散らしてくれることを確信していたからな(笑)」
「声が笑ってんだよ!!」
中々に注文の多い男である。そんな狭量だと女の子にもてないぞ?いや、もてないでくれるとかえって有り難いが。
「…けどまあ、確かにさっきの赤先輩みたいな難しい関門じゃなくなってるな。俺一人で十分通れるレベルだったし」
「まあ、頭を使う関門はそんなになかったし、あってもせいぜいが簡単な記憶力テストだったしなぁ」
「実際最初の暗号文で詰まらなければ、それなりにいけたんじゃねえのか、って感じだな」
「第二関門の読書対決でほぼ全裸になっておいて何を言う(笑)」
「………ごめんなさい」
とはいうものの、実際問題少し難易度の低い関門ばかりでさっさと十二階まで来てしまった。この分だと結構早めに先行組に追いつけるのだろうか、などと思いつつ、扉を開ける。そこで目にしたものは………。
「大量の猫でした。気持ち悪い」
「お前は猫に恨みでもあるのか………?」
十二階の関門を守っていたのは飼育委員長の上無津呂杖先輩だった。彼女のことをあまり知っているわけではないのだが、なんでも会長様と互角に戦える、数少ない人間なのだという噂がある。人吉君がその噂について無言で肯定してきたので、噂は今私の中で事実になったわけだが。そんな彼女が出してきた課題は(彼女自体はまだ現れていないが、動物を介して腹話術のようなもので伝えてきた)『
「困ったな」
「あ?それこそ海路口にとっては得意科目なんじゃねえのか?」
「犬の調教ならできるし、他の動物もやりようによっては可能だ。特に檻に入れ、というのは結構初期に覚えさせるものだからな」
「じゃあなんで………?」
「私は猫が大嫌いなんだ」
「ああまあ確かに言葉の端々からそれは分かるよ!」
苦手ではないが、大嫌いなのである。理由は単純明快なのだが、そんなことは恐らく気にする奴もいないので語る気は一切ない。
「…で、だったらどうするんだ?」
「一瞬で終わらせる方法はある。が、それを使うと人吉君の出番が一切なくなるんだよなぁ…」
「はぁ?」
「唯でさえ影が薄くなっている人吉君の活躍場面を奪ってしまうと、このまま人吉君という存在がなくなってしまわないかと心配で心配で………」
「一応一話から登場してんだよ!いくら影が薄くなっても存在がなかったことにはならねえっての!!」
まあそんなことは置いておくとして、つまるところこの関門、簡単すぎるのだ。某G先輩の能力を使えばその場ですべての猫どもを檻の中に収監する事は容易であるし、力自慢なのであればそれこそ檻を倒して猫が出られない位置に扉を持ってくることも可能だろう。人吉君なら後者でも容易だと思う。人外組に片足突っ込んでるし。
「なんか失礼なことを考えられた気がする!?」
「勘が鋭い餓鬼は嫌いだよ」
「フルメタルなアルケミーネタはいいよ!!」
それはともかくとして、このような終盤の関門で、こんなに簡単な課題を用意してくるだろうか?むしろ他に何かしらの課題があるのではないだろうか、と勘繰ってしまうほどの難易度の低さである。
「…とにかくよ、俺らは早いとこ先行組に追いつかなきゃいけないんだぜ?さっさと終わらせなきゃな」
「………まあいいか。じゃあ、人吉君は檻の扉を開けてくれ。私はあそこにいる毛の生えた悪魔どもを檻に入れるから」
「どんだけ猫が嫌いなんだよ!?」
「アイツらを檻の中に入れるために禁忌と言われた能力を使いたくなるくらい?」
「猫にどんな恨みが!?」
「まあ実際禁忌といわれる能力があるかというと………」
「ないのかよ!?」
「まあいいじゃないか。さて、『檻に入れ』」
私の、というかG先輩の能力によって檻の中に次々と入る猫畜生………と上無津呂先輩。どこから湧いてでた。
「…え?あれ!?」
「「…………」」
「な、なんで!?」
「………なあ、海路口?」
「………いや、流石に予想外だ」
完全に予想外な事態に、私は少し混乱を隠せなかった。私が入るように命令したのは猫だったつもりなんだが………。
「…まさか」
「なんだ?」
「私の裏側の願望が発露したとでも言いたいんだろうか?いや、確かに私は常日頃から可愛い女の子を監k………」
「言わせねえよ!?」
流石に冗談だって。
「冗談だよ。可愛い女の子を愛でるならまだしも、そんな鬼畜な所業は………」
「しないんだよな!?別に黙ったことに他意はないんだよな!?」
人吉君は本当に弄ると楽しいなぁ(笑)。まあ、そんな話はとりあえず置いておくとして、である。
「………ああ、そうか。猫に限定してなかったからだ」
「え?………あぁ、なるほど」
「どういうことなのか説明してくれないか!?」
つまるところこういうことである。G先輩の能力を使ったわけだが、条件指定をしなかったために、周囲にいた生物が巻き添えになってしまったわけである。
「じゃあなんで人吉君は無事なのさ!?」
「恐らくはこの能力を使うことを事前に知っていたことと、元々ある程度の耐性がついていたことが原因だろうな。本気でやったときには無機物すら従うという話は人吉君から聞いていたし、この程度だったら殆ど意識せずに耐えられたんじゃないか?で、貴女の場合は耐性がないことと、いきなりだったから心の準備が出来なかったことが重なったんだろう」
「ぬぅ………」
それにしてもである。この状況………。
「なあ、これで課題はクリアーしたわけだし、丁度いい具合に私が鍵を持っている。このまま放って次のステージへ行っても問題ないんじゃないか?」
「いや、ダメだろ。まあ、さっさと次のステージに行きたいのはそうだけどさ、一応クリアーかどうかの確認はとらなきゃ」
真面目だな、人吉君は。と答えてから、私は檻の中にいる上無津呂先輩にクリアーかどうかの判断を求めた。
「で、これでこの関門はクリアーなのか?」
「………いや、むしろここからが本来の関門だったんだけどね。『
「断る。そんな危なっかしいルールの課題なんかやりたくないからな。貴女を此処に閉じ込めたまま扉を開けて進むよ。どうせ貴女が最初に言った条件はクリアーしてるんだから、問題ない」
「問題だらけだ!?」
そうか?と人吉君に聞くと、当たり前だろ、と返答が来た。既に関門の番人を無力化しているわけだからして、関門突破と考えてもいい気がするんだがなぁ。
「…だがなぁ、上無津呂先輩。私も人吉君も、スポーツマンシップにのっとったスタイルでの格闘技は本分ではないぞ?人吉君は瞳先生直伝のサバットがスタイルだし、私に至ってはスポーツ格闘技なんて修めていない。相手を無力化することはできてもその過程で怪我人が出ることは必至だ」
つまり、上無津呂先輩が言うようなスポーツ格闘技に則った課題を達成する事は不可能なわけだが、というと、それには人吉君も同意してくれたようだった。
「…まあ、確かに明らかに素人なきみにこの課題は厳しいと思っていたところだ。分かったよ。もうちょっと簡単なルールに変更しよう。そうだな………私に一撃有効打撃を与えたら勝ち、っていうのはどうかな?ああ、勿論君たちのスタイルでやってくれて構わないよ。私は一切攻撃をせず、ただ君たちの攻撃を受け流すだけ。制限時間はそれぞれ五分間」
そういって悠然と構える上無津呂先輩。その様子は流石会長様と対等に渡り合える存在と言われるだけのことはあると思う。ただ………。
「檻の中で格好をつけても猛獣がポーズをとっているだけのようにしか見えないんだが」
「だったら早く出してくれないかな!?」
どこぞのジャパニーズソードな物語で守りに全て意識を割くから攻撃と守り両方に意識を割いている主人公が勝てないという存在がいたのだが、どうやらこの課題に於いても似たような状況が生まれるらしい。人吉君が先程から蹴り技を多用して上無津呂先輩に有効打撃を与えようとしているのだが、すべてかわし、いなし、受け止められている。既に試合開始からは二分が経過しており、残り三分の間にいかに有効打撃を加えられるか……というか、無理ゲーな感じがする。
「………人吉君はここでリタイアになるのかね。そうなったら私が態々進む意味もなくなるわけだが………」
「ほらほら、めだかちゃんと一緒にいる割にきみはあまり強くないみたいだね!そんなのでめだかちゃんの傍にいられるのかい?」
「まだまだ!俺は負けちゃいねえ!」
お熱い事である。それにしても私が前に言った忠告は一切効果を為していないようだ。まあ、いきなり気をつけるというのも無理があるんだろうけれど。
「………人吉君、彼女は防御しかしないんだぞ?」
「ンなことわかって………そうか!」
分かってなかったじゃないか。
「………此処だぁッ!!!」
「ンなっ………!?」
その瞬間、人吉君は今までと比べ物にならない速さで上無津呂先輩の側頭部に蹴りを放ち、寸止めした。これは誰が見ても間違いなく有効打撃だろう。綺麗な回し蹴りである。………その後見事にこけていたけれど。
「つまりは残心の必要がねえわけだから、構えに戻ることは度外視していいわけだ。ちょっとしまらねえが、これで一撃だな」
「……いやいや、負けたよ。見事な回し蹴りだった。ちょっと彼女の助言のおかげな感は否めないけれど、それでも一撃は一撃だ。合格。………さて、次はきみだよ、海路口さん」
「………はてさて、どうしたものか………」
「言っておくが、私にはスタイルという物が存在しない。つまり、どういう攻撃であれ有効打撃になるわけだ」
「それは構わないよ。素人さんに空手のルールに則った有効打撃を求めるつもりはない」
「それは重畳。では、始めるとしよう」
私達は若干の距離をとりつつ対峙する。とはいうものの、私は元々戦闘向きの人間ではないからあまり距離をとる理由もないのだが。相手は防御しかしないというのだから、距離をとるのは別に攻撃を恐れてのことではない。
「さて………有効打撃を与えるまでの時間は五分、なら、その間に思いっきり………」
「…………?」
「愛でることが出来る」
「ンなっ?ひゃッ、あぁっ!?」
「私はそもそも戦うつもりがないからなぁ、所謂殺気という物を出すことがない。つまり貴女に気配察知するだけの気配を与えることがないわけだ。当然打撃をする際には僅かながら殺気が発生するため、その前に貴女を無力化すると有効打撃も簡単に与えられるのではないかな、などと私は思うわけなんだが」
「や、ちょっ、どこ触って………!」
「人吉君には前もって『気絶しろ』と言っておいたからなぁ。一時は目を覚ますまい。私は元来可愛い女の子が大好きなわけだが、そこを行くと貴女は充分に条件を満たすわけだ。何やら別世界では私の役得が人吉君に阻まれたようだし、どうせこの時間軸は本編になんにも影響を与えないわけだから何をしたって構わないと思うんだ」
「構うッ……し、それに…何メタな……んッ、こと言ってるんだ……!?」
「さて、私は女の子を愛でる方法を数十通り持っているわけだが………そのすべてを五分間の間、楽しんでもらおうと思う。………覚悟はいいか?」
「い、いやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
「………ん?俺は一体………」
「やあ、漸く気がついたな、人吉君。さっきは素晴らしかったぞ?着地こそ失敗して気絶してしまったようだが、見事に上無津呂先輩へ有効打撃を与えていた。いやぁ、あの蹴り技には私も感服の限りだ」
「…え?あ、そっか。勝てたんだ………あれ、上無津呂先輩は?」
「ああ、先ほど私との戦闘を終えてな、最大限時間を使ってしまったが、最後にお情けのようなもので有効打撃を入れさせてもらえてな、ちょっと疲れたからとそこで休んでいるよ?」
「………えっと、なんか顔が赤いみたいなんだが………?」
「がむしゃらに攻撃を続けていたからなぁ、素人の攻撃は意外と躱したりするのに神経を使うだろう?それでちょっと息が上がったらしい」
「……そう、なのか………?」
「さて、見事二人とも通行権を得たことだし、先に行こうじゃないか。先行組にも早く追いつかなければならないしな」
「あ、………ああ」