異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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普通の彼もなかなか異常じゃないか?

 黒神めだかは箱庭学園の第98代生徒会長である。なにをいきなり当たり前のことを、というかもしれないが、まずは私がどうしてそのような分かりきったことを発言したのか説明させてほしい。

 

 黒神めだか、箱庭学園第98代の生徒会長にして、()()十三組に所属している非常に異常な生徒。その才能は多岐にわたり、生徒会長選の際は、なんと支持率98%という圧倒的多数によって当選するという偉業を成し遂げた人物である。と、ここまで語ったところで、既に一部の賢明な読者諸氏は私がなにを言いたいのか理解しているとおもうのだが、つまるところ、会長様は一年生で生徒会長になったのだ。それも、並み居る二、三年生の候補者を抑えて、である。

 

 ここまで語ってしまえば大概の読者には理解できてしまうだろう。その通り、黒神めだかは、自らと争った他の候補者の一部から、恨みを持たれている。更に言えば、2%という、会長様を指示しなかった層がいるということにも注目すべきだと思う。選挙に興味がなく、投票自体しなかった生徒はそもそも数には入っていないが、それでも自らの意思で、指示しなかった人間がいるのだ。かくいう私もその2%に入っているわけだが、そこは別に気にしないでほしい。ただ単に興味がなかったため一番左端の人間に〇をつけただけだなのだから。

 

 話が逸れたが、2%、表記すればたった二文字だが、元々が大きな学校であるため、その数は馬鹿に出来たものではない。会長様曰く、「2%ではなく、人数で話すべき」らしいが、私は一々数えるなんて面倒臭い真似はしたくないため、はっきりと2%と言わせてもらう。その2%の中でも、とりわけ危険な因子が、今回たった一人の男に殲滅されてしまったわけである。その男の名は人吉善吉。本人曰く、「黒神めだかの凶暴な番犬」らしい。私からしてみれば「従順な狂犬ヒトキチ」だと思うのだが。

 

 

 

 

 

 場所は学生食堂、時間帯は昼休み。巨大な学園らしく巨大な食堂の中は、学生でごった返していた。運よく席を確保できた私、不知火さん、人吉君、日向君の四人は、それぞれの昼食をとりつつ談笑に興じていた。

 

「えーっと、昨日ボクシング部に行ったから…格闘技系はこれでコンプリート。じゃあ今度は趣向を変えて格闘球技系に行ってみよっかなー」

 

「お前、どうしてそんなにあちこちで暴れてるんだ?そんなにスポーツ好きだという認識はなかったんだけど」

 

「ん?別に。ただ、俺の中のルールで、一日五リットルの汗をかくって決めてるんだよ」

 

「いや、それは脱水症状で死んでしまうから。ちゃんと水分と塩分補給はした方が身のためだと思う」

 

「あー、分かるわかる。あたしも一日五リットルのラーメンを飲むって決めてるし、似たようなもんだね♪」

 

「不知火、ラーメンはドリンクじゃない」

 

「塩分過多で其方も脱水症状を起こしかねないな。個人の趣向である以上無理は言わないが、体を壊さないようにした方がいい」

 

「シーザーサラダって野菜ジュースだと思うんだよねー♪」

 

「いや、思いっきり固形物だよ」

 

「…ま、それくらいしないとあの黒神(バケモン)には釣り合わないっていうのは分かるけどさ、もうやめた方がいいかもな」

 

「どういうことだ、日向君」

 

「いや、噂になってんだよ。『生徒会の部活荒らし』ってさ」

 

「………」

 

「………」

 

「な、なんだよ」

 

「お前、俺のこと心配してくれんの?」

 

「一度敵対した人間の心配をするとは、君も中々にお人よしだな」

 

「な、別にそんなんじゃねえよ!」

 

「ま、いーんだよ。こちとら最初っから名前売るのが目的でやってんだからさ。……しかし、『部活荒らし』ねえ…。そのニックネームじゃ()()()()な」

 

 というような歓談の最中である。悪人面であるにも拘らず、大胆なまでに小者臭が漂う先輩が人吉君に話しかけてきた。何やら顔を貸せとか言っているけど、尊大な態度のわりに威圧感がないというか、…ああ、会長様で慣れたのか?私がそんな益体もないことを考えている横で、人吉君は導かれるままに彼と共に食堂の外へ出ていった。向かいで不知火さんが人吉君との関係を豪語しているが正直既に知っている事なので興味がわかない。まあ、彼がもし酷い目に遭ったとすれば、その時は応急処置をしてあげるとしよう。

 

 

 

 

 

「黒神めだか襲撃計画?」

 

 生徒会室で書類整理をしていると、会長様がそういう動きがあるらしいので、パーティーの準備をすると言いだした。

 

 ふむ、会長様がやることに一々反応していたら書類の仕事も終えられないので無視して作業を続行させる。その間にも着々とパーティーの準備は整い、最後に垂れ幕が出来上がったようなので、其方へ顔を向けてみる。………こういったモノでも異常性というのは滲み出るものなのだな、と思いつつ、仕事が終わったので、私は部活へ向かうことにした。

 

 

「さて、それでなんで私はとらわれているわけなのかな?」

 

 現在の状況を軽く説明するとしよう。昼間の小者先輩が率いるチンピラ数人に絡まれて、空き教室に縛られた。

 

「おう、そこの人吉君が俺の傘下に入らねえって言わねえように、少し強めに『お願い』するのさ」

 

「そうか。馬鹿らしい」

 

 いきなり何を言い出すかと思えば、どうせならもう少し賢いやり方を考えることをお勧めする。私をこういう状況にする意味が一切分からない。

 

「な!?どういう状況かわかってんのか!?」

 

「縛られて、身動きが取れない状態だが?」

 

「なら言葉遣いに気をつけろ!痛い目に遭いたいのか!?」

 

「別に遭いたいとも思わないし、貴方達がしてくるはずもないと思っている」

 

「あぁ!?」

 

 さて、どうやら私は人吉君から受けた制裁の恨みを晴らすための人質になる、ということか。いやいやいやいや。

 

「なんで私なのか理解に苦しむな。人吉君と仲のいい子なら他にもたくさんいるし、そもそもこういうことに私を使っても、意味はない」

 

「どういう意味だ!?」

 

「こういう意味だ」

 

 そう言って私は縛られていた縄をほどき、一路部室へと向かった。

 

 

 

 

 

 縄抜けというものは、遁走術の一つとして有名であるが、これは別に特殊な技能であるというわけでもない。必要なのは日ごろから鍛錬された腕である。鍛えられた腕は手首と手を丸めた時の太さがほぼ同じなのだ。軽めに握ればコブシは大きく見え、縛りにそれほど力を入れたりはしない。ましてや私は調律をする人間である。普段から重い物を持ってトレーニングをしているのと同じ状況だ。簡単に腕を抜き、その後ポケットに入っていたカッターで縄を切って脱出、である。さて、今日は何をしようか………。

 

 

 しばらくピアノをいじっていると、先ほどいた教室から悲鳴が上がった。どうやら人吉君が先輩方を制圧したようである。丁度いいところまで出来たし、今日はここで戻るとする。片づけをして音楽室を後にし、悲鳴の上がった教室へ向かう。そこでは案の定人吉君が無双をしており、ノックアウトされた生徒にとりあえずの応急処置を施し、保健室へ向かわせる。人吉君が全てを片付け終わるころ、私も全てを終わらせていた。

 

「…ん?海路口、怪我はないか!?」

 

「そもそもこの場に来たのは君が狂犬モードに入った後だ。おかげで包帯が心もとない数になってしまったな。今日の帰りにでも買って帰ろう」

 

「お…おぅ」

 

「あ、それと人吉君」

 

「な、なんだ!?」

 

「あまり暴力というのは感心しないな。どんな理由であれ、ルールがある以上はそれを守ろうとしなければいけない。正当防衛だろうと、しかけた側がいようと、応じた時点で同じ穴の狢だ。まあ、それでも君の中で結論は出ていると思われるし、私はこれ以上何もいわない。君の信じる道を勝手に突き進んでくれたまえ」

 

「……おぅ」

 

「ああ、後ね」

 

「まだ何かあるのか!?」

 

「啖呵の切り方は格好よかったと思うよ。会長様の番犬は君にこそふさわしいのかもしれないね」

 

 そう言って、私はそのまま帰宅の途につく。あ、人吉君にパーティーの準備が出来てることを伝え忘れてしまったな。まあ、構わないだろう。きっと誰かが行ってくれるだろうから。

 

 

 

 

 

 事の顛末。

 

 あの小者先輩、いや、鹿屋先輩のたくらんでいる事は失敗に終わり、会長様の有り難いお説教もなく、ただ人吉君による粛清という結果で幕を閉じた。

 

 あの先輩、女子生徒にかなり強引に票を入れるよう迫っていたらしく、全ての候補者の中ではダントツに得票率が悪かったらしい。そしてその迫っているところを運悪く会長様に見られたらしく、上から目線性善説に基づき、制裁を加えたという流れらしい。逆恨みも良いところである。

 

 人吉君は前にもまして下僕根j…生徒会の庶務としての自覚が出てきたようで、まるで犬のように従順に会長様の指示に従っている。まあ、実際は従順と言うより、上手い具合にサポートしているので、その辺彼自身の能力もかなり高いんじゃないのかと、日に日に評価が改まっていく。

 

 なお、鹿屋先輩率いるグループは、よく治る代わりにとても痛い治療法を保健室の先生が教えているらしい。これで暴行事件が減れば御の字だ、とは保健委員長の赤先輩の談。

 

 そうやって生徒会は案件解決の合い間に、本来の仕事をしているような状況だ。我々だけでは正直まだ心もとないので、誰かいい人材でも居ないのだろうか。そうすれば晴れてお役御免になるわけだが。

 

 

 

 

 

「結局ウチには来んかったなあ」

 

「ビビったんすよ。ほら俺達一応全国区だしぃ」

 

「だぁほ。そりゃ個人戦での話や。ちゅーかそれ言い出したらあの子はなんのためにあんな部活に喧嘩売るような真似しとったんかいな?」

 

「………黒神めだかの近くにいていいのは俺だけだ、という必死な虫の警告ですよ。そのために、ありもしない強さをひけらかしてる」

 

「………なーんや、阿久根クン、その一年生のことしっとんのかいな?」

 

「ええ。…人吉善吉は小さな害虫(ムシ)です。そして黒神めだかは…俺の花です」

 

 こんな会話が学園内の某道場で行われていたわけだが、それについてはまた次回ということで。

 

 

「…………誰も来ない!」

 

 パーティー準備を整え、私が鍵を生徒会室に返す時間になるまで待っていた会長様をみて、あ、やっぱこの人馬鹿だ。と思ったのは、決して間違いではないのだろう。

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