異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

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普通や異常の他に特別がある。特別(笑)

 柔道。元の流れは十二世紀以降に興った武家社会における戦場技芸、武芸十八般の中の一つである、柔術の流れを汲み、日本における武道の重要な一角を担う存在だ。元の武術である柔術を、明治以降に嘉納治五郎が編成して、新しい体系として組んだのが現在の柔道となっている。元々は百以上の流派に分かれていたのだが、いま現在主な流派となっているのは日本伝講道館柔道という、前述の嘉納治五郎が開祖の流派である。諸外国においても人気は高く、オリンピックの正式種目として登録される、といった具合に国際的権威も高くなっている。

 

 柔道の技については、主に三種の技に大別される。投技、固技、当身技で、その他寝技と立ち技に分類するなど、細分化すればかなり多くの系統に分かれる。日本では勿論、世界的にも評価の高い競技であるために、経験者はかなりの数にのぼるため、正確な競技人口は測れないといわれるほどに多いらしい。さて、なぜこのような説明をしているかというと(何やらこの入り方にも随分と既視感を覚えるが)、いつもの通り目安箱への投書が原因だ。今回の投書の差出人は柔道部部長、鍋島猫美(なべしまねこみ)先輩。曰く、『自身の引退も近く、後継である部長を選出したいので、その手伝いをして欲しい』とのこと。珍しく会様長自ら投書箱の確認に行った為、まだこの場に人吉君は来ていない。なんでもちょっとしたお悩み相談の為に遅れるんだとか。それを私に伝えてきたため、会長様へ連絡も兼ねて早めに書類整理に来たわけである。ちなみに現在会長様は柔道着に着替えるべく服を脱いでいる。あ、丁度人吉君が来たようだ。

 

「善吉、今日は柔道部に行くぞ」

 

 その言葉を聞き、その恰好を見た途端、人吉君は目にもとまらぬ速さで(実際は私でも目で追うことができるのだが、比喩表現として流してほしい)生徒会室の戸を閉め、鍵をかけ、カーテンで窓から入る日光を遮り、部屋の電気をつけた。

 

「鍵をかけろ!カーテンを閉めろ!人目をはばかれ!何遍言ったら分かるんだ!」

 

「?何遍言われても分からん」

 

「海路口もなんで何も言わないんだよ!」

 

「なんでも何も、私が言って聞くとでも思うのか?どうせ目の保養になるからって放っておいたが」

 

「テメエ!」

 

 どうやらお怒りのご様子である。どうどう。

 

「大体、練り上げられたこの肉体を衆目に晒すことに一体何を躊躇う必要がある!」

 

「むしろ見せたいみたいな事言ってんじゃねえ!あと海路口も拍手するな!」

 

 おだてる事でどこまで馬鹿になるのか見てみたかったのだが。残念だ。

 

「…で、柔道部?なんだってそんなとこから…」

 

「うむ、柔道部部長の鍋島三年生は知っているな?彼女から目安箱に投書があったのだ。なんでも次期部長の選抜を手伝ってほしいとか」

 

「へ?鍋島って、特待生(チームトクタイ)の鍋島猫美さんか?あの有名な。柔道界の反則王(キング)と呼ばれたあの人?いま部長だったのかよ?けど、話し聞く限りあんまり悩むタイプの人とは思えねーぞ?」

 

 一つの会話に一体どれだけの疑問を挟む気なのか。人吉君は人に質問するのが好きで仕方がない人なのではなかろうかと考えてしまう。

 

「まあ、なんにせよ行ってみるとしよう。柔道部といえば、懐かしい顔にも会えると思うしな」

 

 懐かしい顔?一体誰の事だろうか。どことなく嬉しそうな会長様に対して、かなり複雑そうな事情があることを推測できるほどに顔をゆがめた人吉君。この間のリストで、柔道部だけ終了していないにもかかわらず格闘技系はコンプリートしたと言っていたことと、関係があるのだろうか。そして。

 

「いつものように私も連れていかれるわけか。書類整理が残っているわけなんだが」

 

 まるでそれが完全に当然であるかのように、私は会長様に引きずられて、柔道部へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

「やあやあ、ようこそいらっしゃいませ。ウチが差出人、柔道部部長の鍋島猫美です。今日はよろしくしてな?」

 

 柔道部部長で、異名が反則王というから、どのような人物が出てくるかと思えば、出てきたのは非常に可愛らしい女性だった。若干小柄で、猫目が特徴の、名は体を表すという表現がよく似合う。まあ、この可愛らしさはある意味反則と言ってもいいのかもしれないが、そんな理由で異名がつけられるはずもないので、恐らく異名の由来は競技での反則が多いといったところだろう。

 

「生徒会長の黒神めだかだ。今日はできる限りのことをさせてもらうぞ」

 

「うんうん、頼りにしとるで、めだかちゃん。いやー、ウチは部長ゆーても名前だけのようなもんやったし、誰に後継がせればええのか決めきらんでなー!」

 

 そういいながら握手をする二人。いままでにないキャラクターだったことと、異名と実質のギャップもあってか、少し驚いた様子の人吉君。なんといえばいいのか、彼の三白眼は少し怖いため、ぜひとも私の前でその顔にはならないでほしいのだが。

 

「あー、そや。その前に!ジブンに挨拶したいゆー奴おんねん。阿久根!阿久根クン」

 

 鍋島先輩の呼び込みに、奥の更衣室から一人の生徒が現れた。端正な顔立ち(笑)に流れるような金髪(大笑)、緩やかに笑う様子はまるで貴公子(爆笑)のような男子、既に学園でも有名な柔道部期待のホープ、柔道界のプリンス(酸欠)であるところの、阿久根高貴(あくねこうき)、二年十一組に所属する特待生である。

 

「…どうしたんだよ、海路口。腹を抱えながら死にそうな顔して」

 

「い…いや、これは…反則…ククッ…まさか…ホントに…そんな…バカみたいな…」

 

「?」

 

 …失礼、取り乱した。状況説明に戻るが、阿久根先輩は他の部員や人吉君、私には目もくれず、一直線に会長様の方へ向かい、その場で―――傅いた。この人はどうやら、私を笑い死にさせたいらしい。

 

「ご無沙汰しております、めだかさん。生徒会立ち上げの大事な時期にお気を煩わせてはいけないと控えておりましたが、ずっと貴女のお顔を拝見することができる日を心待ちにしておりました」

 

「海路口、突っ伏してどうした!?」

 

「いや…も、だめ…」

 

「………堅苦しい真似はよせ、阿久根二年生。他の者が見ておるぞ。貴様ほどの男がそのように振る舞っては示しがつくまい」

 

「いえ、誇りこそすれ、貴女に傅く姿を恥とは思いません。今の俺があるのは貴女のおかげなのですから」

 

「海路口、なんだか顔面が蒼白になってるぞ!?」

 

「――――――!―――――!」

 

「めだかさんにはいくら感謝してもし足りない―――!?」

 

「私に感謝しているというのならば、頭を下げるな!胸を張れ!!」

 

「は…、はいぃッ!めだかさんのっ、御心のままにッ!」

 

「海路口、保健室へ行こうぜ!?今のお前は絶対に危険な状況だ!」

 

「――――――!!!!」(フルフル)

 

 ………腹筋が痛い。さて、なんとか落ち着いたため、また説明に戻らせてもらうが、いまの会話だけで十分に分かってもらえたかと思う。阿久根先輩は会長様に心酔しているらしく、その様子はさながら臣下のそれである。会長様はそんな態度をとられることが気に入らないようで一喝したものの、余計に心酔する原因になってしまった、といったところだ。

 

「おっと、それはそれとして生徒会を執行せねばな。後継者、つまりは新部長の選定だったか。…とりあえず貴様は特別枠だ、阿久根二年生。善吉と談笑でもしておいてくれ。貴様たちは貴様たちで積もる話もあるだろう」

 

 会長はここに赴いた本来の案件を思いだしたようで、阿久根先輩を人吉君の方へ行くように…つまりこちらに来るようにと言って、自らは試合場の中央に向かった。…阿久根先輩はどこまでも心酔しきっただらしない顔で此方へ向かってくる。

 

「海路口、ホントに大丈夫かよ…?」

 

「すまない、取り乱した。大丈夫だ。…さ、君も阿久根先輩と積もる話もあるだろうから、私は少し席をはずすよ。鍋島先輩とお話しして来る」

 

 そう言って私は人吉君から…というか、阿久根先輩から距離をとった。実際別に鍋島先輩に用事があるわけでもないのだが、言ってしまった手前、其方へと向かう。私がその場を離れた途端、二人は険悪な空気を辺りに撒き散らし、いがみ合うように談笑していた。

 

「えっと、君は…」

 

「はじめまして、鍋島先輩。色々と複雑ながら安易な事情によって生徒会の手伝いをしている、海路口四方寄です」

 

「そーかそーか。君があの『普通の子』か」

 

 一体何だそれは。

 

「たとえめだかちゃんの前でも『普通』に行動できる子やて、一部で噂になっているんよ。君のことは」

 

「なんででしょうね。彼女と一緒にいても平気な人なんて、たくさんいるのに」

 

「いやいや、平気な子はおっても、『普通』な子はおらへん。人吉君には元々かなり興味あってんけど、君も中々興味深いやん。さ、君ももう笑いの波は治まったやろ?人吉君にもちょっと話聞きたいし、あっちへ行こうやないか」

 

 そう言って鍋島先輩は、私の制服の襟を持ち、あちらで未だ険悪な空気を放っている二人のもとへと向かった。

 

 

 

 

 

 途中経過を少しお伝えする事にする。会長様が選別をするにあたって選んだ方法、それは彼女との乱取りであった。『乱取り』。柔道をはじめとして、日本の武道においては一般的な対人修行である。その形態は実際の試合とほぼ同じ形で行われる。つまりは内輪での練習試合のようなものだ。まあ、会長様がやった乱取りは、通常の方法とは随分違うのだが。

 

 まず初めに、現副部長の城南先輩が不純な動機に満ちた理由で先陣を切って勝負に行ったのだが、あっけなく投げられて一本負け。技については詳しくないため、特に描写はしないが、まさに秒殺といった趣であった。

 

 城南先輩が綺麗に投げられた後、会長様は全員に「纏めてかかってこいと言った」と思いきり挑発。柔道部の沽券に関わると思ったのか、自尊心を傷つけられたと考えたのかは知らないが、一気に全員が向かっていく。正直に言って…。

 

「馬鹿だなあ、彼らは」

 

「なんや、海路口君なら勝てると言いたいんか?」

 

「まさか。私は柔道なんてやったことありませんし、やりたいとも思いません。ああ、別に柔道を馬鹿にしているわけではなくて、自分が将来就く職業柄、指や手を怪我する可能性のあるスポーツはやりたくないだけです」

 

「ああ、別に構わへんよ。で、なんでバカやと思ったん?」

 

「一気に掛るというのは、基本一対一を想定した武道において有利とはいえないから。柔道は常に一対一の形をとる武道でしょう?一気にかかっていっても実際に戦えるのは一人だけ。残りの人は動きが止まってしまい、会長様には有利な状況にしかならない」

 

「ほうほう、それでそれで?」

 

「ならばやるべきことは、一対一をずっと続ける事ですね。相手が疲れるまで、延々とやり続ければ、いくらなんでも人間だ。勝機は必ず出てくる」

 

 けれど、と付け加えて、私はさらに続けた。

 

「会長様にそんな手が通用しないのは、間違いないでしょうけれどね」

 

 そんな会話をしつつ、会長様がいっそ清々しいほどにあっさりと全員を投げて落して刈って返して払っていく様を眺める。横でヘブン状態になってる阿久根変態、いや先輩をスルーしつつ、鍋島先輩は今度は人吉君に話しかけていた。

 

「人吉君はどない思う?」

 

「あ?…別に、アイツは中二で赤帯佩くような奴ですからね、今更なにしても驚いたりしませんよ」

 

「…ククク、そーかいそーかい。いや、実はな、ウチも同じ意見なんよ」

 

 そう言って楽しそうに会長様の考察を述べる鍋島先輩。その内容はまあ、此方としても特に反論をすることもないような意見だったため、割愛。

 

「…それに比べたら、凡人のくせに天才(バケモン)に付き従っとうジブンの方が、よっぽど凄いてウチは思うで。なあ、『部活荒らし』の人吉善吉クン?」

 

「………付き従ってるってのは語弊がありますね。俺はアイツに振り回されてというだけで、生徒会だって無理やり入れられたようなもんです」

 

 いや、君の場合は無理やりという言葉こそ語弊があるだろう。

 

「…そうか、無理矢理だとほざくのか」

 

 そう言って、いつの間にやらヘブン状態から復帰した変た…阿久根先輩が、人吉君に険しい顔で喰って掛っている。人吉君も人吉君でそれに面白いほど反応しており、そのまま皮肉と悪口雑言の応酬が始まった。が、鍋島先輩にケンカはよくないと止められ、何故か阿久根先輩と人吉君の交換勝負を持ちかけてきた。曰く、

 

「ウチな、人吉クンみたいな頑張り屋さんが、めっちゃ好きやねん☆」

 

 とのことである。どうやら、ここで人吉君の今後の身の振り方を決める、重要な試合が始まるようだった――――。

 

 

「って、ちょっと待て。それって人吉君が負けたら阿久根先輩が生徒会に入るということなのか!?人吉善吉、絶対に勝て!勝たないと私の命に関わる!!!」

 

「……なんや、君も結構おかしな人やな」

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