異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか   作:のろし

8 / 42
異常なまでの執着といっても、モノに執着するのは意外と普通だろう?

 生徒会執行部は、庶務・書記・会計・副会長・会長の五人で形成される。箱庭学園生徒会の常識であり、選挙において選出された生徒会長は速やかに残りのメンバーを集める必要がある。これは、生徒会として基盤をしっかり創るために必要であると同時に、円滑に生徒会活動を遂行していくためにも重要な条件であると言える。

 

 なぜ急にこのようなことを言い出したのかといえば(最早これは定型文として定着させてもいいのではないだろうか)、第九十八代生徒会の現状からふと考えたからである、現在の執行部メンバーは三人。手伝いとして私が所属(するつもりはなかったのにいつの間にか教師陣から正式所属にされていた)しているが、それでも副会長と会計が足りていない。選別を終えた後私がやる作業はほぼこの二つの役職の物である。副会長に関してはそれほど量も多いわけではないため比較的短時間で終えることができるのだが、会計の仕事はつまるところ金勘定であり、予算をはじめとした様々な金銭関係の書類が多く、一部生徒によってよく校舎や備品が壊されるため、書類の量も他の書類と比べれば非常に多いのだ。書記の仕事が減ったからまだ余裕もあるが、正直阿久根先輩が生徒会に入ってくれてよかったと唯一思えるものは私の書類仕事が減ったということだろう。つまるところ何がいいたいのかといえば、執行部のメンバーが(会長様除く)限界を迎えたのだ。

 

 さて、そんな会計の仕事なのだが、計算と決済をすればいい書類のほかに面倒臭い書類が混じっている事がある。例えば遠足などの学園行事に不参加だったので、返金を求めるという苦情書など。だが、いま現在、一番多い書類は、部活動からの予算増額の陳述である。この学園、やたらと部活動が多いのはご存知の通りだが、学園側から与えられている予算はそこまで多いわけでもなく、結果、均等に配分すれば備品や設備に金のかかる部活は予算不足に陥ってしまう。だからと言って金のかかる部活に多く予算を配分することで解消できるかといえばそういうわけでもなく、割り当ての少なかった部活動から苦情が出てしまう。それもこれも学園側の予算不足が原因であるにもかかわらず、苦情は執行部に来るのだから、たまったものではない。ただでさえ仕事量の多い執行部の悩みの種である。

 

「とはいえ、これはなんとかならないものか。既に同じ部活から十数回も陳述書が出ているわけだが。なんかの嫌がらせ?」

 

「それだけ逼迫しているということなんじゃないかな?かくいう柔道部も部費不足には泣かされていたし、第一、部費は一円でも多いほうがいいに決まっている」

 

「つっても、無い袖が触れないのも事実ですよ?流石に今回は追加で予算が出ましたけど、それも分配すればスズメの涙だ」

 

「ふむ…別に私が私財を投入してもいいのだが」

 

「どうしてもやめて!!」

 

「何かいい方法はありませんか?阿久根先輩」

 

「そうだね……だったらいっそ増額分を一つの部活が総取りしてしまえばどうだろう?僕が担当している業務の中にリレー大会があるだろう?本来は交流的な意味合いの強いイベントだけれど、あれで優勝した部活が予算増額とか」

 

「…妙案ではあるが、ただのリレーでは陸上部の圧勝になってしまうな。何か遊び心を入れることができれば……」

 

「…だったら丁度いいのがあるぜ?後で話そうと思ってたんだが、目安箱にこんな投書があったんだ」

 

 

 

 

 

 箱庭学園の特色として、充実した設備というのがある。各部活の練習場があるために、部活同士での場所取りなどはないし、必要と判断されれば新設されることも多々ある。そして、意外なことに必要と判断された設備が活用されないことも間々あるのだ。新設された50Mプールもその一つであり、授業では既設の25Mプールで十分であるために、開放されてからもあまり活用されているとは言い難い。それで何か活用できないかと、目安箱へ投書があったのだ。そこで、阿久根先輩の部活動交流行事と、人吉君の目安箱の投書内容、更に部活の予算編成、この三つを合わせて…。

 

『さあ貴様達、戦争の時間だ!働かざる者食うべからずというが、これは真理に反している。私達はむしろこういうべきなのだ。≪働いたものは食ってよい!≫。貴様達、欲しい部費(モノ)は勝って得よ!!これより、部活動対抗水中運動会を開催する!!』

 

 急な掲示であったにもかかわらず、参加したのは十五の部活。勿論総数と比べれば少ないともいえるが、部費増額の陳述書を上げていた部活動が全て参加している。つまり、私の過剰労働の原因共が集結しているわけだ。なんだかうっかり手が滑って、温水プールのボイラーをフル稼働させる事故が怒りそうである。まあ、常識人であるところの私はそんな真似はしないのだけれど。

 

『えー、競技の説明を始めます。参加者の皆さんには、これから四つの種目で競ってもらい、その総得点で優勝チームを決定します。それぞれの競技はおって説明しますが、まず、大まかな枠組みを三つ発表いたします。一つ、代表者三名の参加。皆さんのチームワークを見るため、各部活動三人

で一組の参加とします。二つ、男子生徒へのハンデ加算。各種目は全て男女混合となりますので、男子生徒はハンデとしてヘルパーを装着してもらいます。三つ目なんですが、此方は生徒会長から説明していただきます』

 

『うむ、先ほどは厳しい言葉を述べてしまったが、利を得るのが優勝チームだけでは不満も多かろう。≪参加する事に意義がある≫、私はそんな風にも思ってほしい。貴様達には楽しんでもらいたいのでな。そこで私は、愉快で痛快な楽しいボーナスルールを組み込むことを宣言しよう。…我々生徒会執行部もこの大会に参加し、我々よりも総合点数の高かった部は、その順位に関わらず私が私財を投じ、無条件で予算を三倍とする!』

 

 その言葉に、参加者達は俄かに色めきだった。そうだろう、現在の予算は最も少ない部活動でも五十万を下回る部活はなく、それが三倍ともなれば、部活動の予算は一気に潤うことになる。傍らで人吉君達が膝をついているがそれも仕方ないだろう。私財を投じることは絶対にやめてほしいとお願いしていたにもかかわらずこの暴挙だ。私もこのルールを決定するにあたり、随分と反対したのだけれど。結局個人資産をどう使うかは本人次第だと、折り合いをつけなければいまでもこの水中運動会は開催されなかったかも知れない。

 

『では、最初の競技は玉入れです。なお、生徒会からの参加は、生徒会長の黒神、書記の阿久根、庶務の人吉です。私、海路口は進行として、放送部の阿蘇先輩及び特別解説の不知火さんと共に放送席におりますので、不備等がありましたらお気軽にお申し付けください』

 

 さて、競技の説明を阿蘇先輩がしている間に、放送席へと向かいながら強敵となり得る部活動、競泳部について考えていた。

 

 競泳部、他の学校においては単に水泳部と呼ばれているだろう。名前の通りに競泳種目の上達及び試合での勝利を目指す部活動である。それだけで十分に一般人からすれば脅威であるが、いま現在の部員数は僅か三人。そのすべてが特待生で、水中においては会長様をも凌駕する可能性がある存在だ。不知火さん曰く、『金にうるさい三匹のトビウオ』らしい。その名のとり、噂によれば賞金の出る試合にしか出場しなかったり、裏で八百長をやっているだとか、賭け試合をしているとか、少々物騒な噂で塗り固められている三人組なのだが、実力は折り紙つき。全ての泳法を一定以上のレベルにしている三年、屋久島先輩。男子水泳界事実上の最速スイマー、二年の種子島先輩。そして、その二人が猫可愛がりしていると噂の、一年、喜界島もがなさん。彼女の実力は一年生としては破格で、しかも二人の先輩から直々にトレーニングを受けていることもあって、実質競泳部のエースとして君臨している。通常、特待生同士が手を組むというようなことは、彼らの性格からして珍しいのだが、特待生同士であるが故に、手を組んだ時の実力は相当なものとなっているだろう。三つ目の競技でのポイント如何によっては、生徒会が一番苦しめられる相手になりそうだ。

 

 …まあ、それ以上に柔道部の鍋島先輩が何かやらかしそうな気がするのだけれど。

 

 

 

 

 

 テメエ不知火この野郎。と言いたくなるような、競技中に必勝法を暴露するというミスのおかげで、最初の競技である玉入れは、相当数のチームが最高点である20Pを取得するという結果に終わった。今私は、競技中足を攣ってしまった生徒の応急処置の為、プールサイドに降りてきているのだが、なぜか生徒会と水泳部が不穏な空気を発している。場外乱闘は即失格というルールであるため、確認のために近づいてみた。

 

「…絶息による強制潜水、一歩間違えれば溺死確実の危険な行為だ。貴様達は命がいらんのか!?」

 

 …なんだと?絶息、つまり肺に空気を入れずに潜水?

 

「…俺達は一円に笑って一円に死ぬのさ!」

 

「不穏な空気立ちこめて対立の空気を醸し出してるところ申し訳ないが、ちょっとそこの先輩お二人、失礼しますよ?」

 

「な、なんだお前!」

 

「…生徒会の小間使い君か、なんだ、お前も何か文句でもあるのか?」

 

「いえ、お金は確かに重要であることは分かりますし、それは個人の意思の問題ですから特になにも思いません。が、絶息していたという会話が聞こえてきまして」

 

「なんか文句でもあんのかよ!?」

 

「失礼」

 

「な、なにしやがる!」

 

「………呼吸音、脈拍共に問題なしですね。失礼しました。屋久島先輩も失礼します」

 

「お、おう…」

 

「…次は喜界島さん」

 

「…なによ?」

 

「…此方も問題なし、ありがとうございました。生徒会主催の催し物で死者が出たら示しがつきませんので。貴方達がどこで死のうが知りませんけれど、この場では絶対に死なせません」

 

「な、おい!海路口!!まるで人の死に興味ねえみたいなことを…!」

 

「特にないが?他人が死んでもその事実があるだけだ。勿論悼みはする、だが、自身の選択によって死んでもそれは自業自得だろう?」

 

「……ッ!?」

 

「だが、この場で死ぬことだけは許さない。私が関わっている案件では、死者は絶対に出さないのがモットーだ!」

 

 驚いている人吉君と、顔をしかめている阿久根先輩、会長様をおいて、私は放送室へと戻った。…命より金、ねえ。

 

 

 

 

 

 続いての競技は、水中二人三脚である。言葉通りの競技だが、不知火さん曰く、普通本命は陸上部だろうが、むしろ競泳部と生徒会の走りが気になるらしい。…出ているのは相性最悪な人吉・阿久根ペアですが?

 

『一位のチームには15P、二位14Pと段々点数が下がっていきますから、

なんとしても最下位の0Pだけは避けたいところです!それでは、位置に

ついて、よーい…どんっ!』

 

 よーいドンの合図を何故放送部の阿蘇先輩自らが担当するのか甚だ疑問であるが、そのあたりは言わぬが花というものだろう。出だしから生徒会が一歩抜きん出ているが………。

 

『ああっとぉ!これは生徒会、二人で協力しているというより、二人で競争しています!何やってんだこの二人ぃー!!』

 

 ………生徒会執行部のメンバー、次はもう少しまともな人が欲しいものだと思う。不知火さんが本命に挙げた陸上部は、ペース配分を気にしてか、二位集団前方程度の位置についている。また、注目の競泳部については…。

 

『おや、不知火さん注目の競泳部、随分出遅れているようですが!?』

 

『あ、うん。そりゃ仕方ないよ。25Mが()()()()()()()

 

 その言葉に首を捻っている阿蘇先輩だが、その意味は競泳部が中間に差し掛かったところで明白となった。息をぴったりと合わせて、二人は全力で泳ぎ始めたのだ。どれだけ危険な行為であるのかは、読者諸君にも理解して貰えるとは思う。隣り合って泳ぐだけでも困難なのに、片足をつないだ状態で同時に泳ぐなど、到底自殺行為としか思えない。そのまま前方のチームをごぼう抜きにして、競泳部はこの種目で一位をとった。陸上部は本命らしく二位、生徒会は後半遅れて(中ほどで遂にケンカを始めた)三位となった。

 

 

 

 

 

 今度は足につけたロープで擦過傷を負ったということで、救護に当たっている私だが、競泳部の先輩二人を見つけたので近寄っていく。先ほどの事もあるのか警戒している二人だが、私からしてみればただの診断行為である。別にそれほど警戒しなくても良いじゃないかと、少し落ち込んだ。

 

「…先ほどの競技、見事な泳ぎでした。流石に競泳部だけあって、美しいフォームですね。今後あんなことはしないで、とは言いません。今後あんな馬鹿な競技は中止させますので」

 

「…別にかまわないんだぜ?次にやる時も俺らが勝ってやるからよ!」

 

「…ああ、もっとも、その頃俺はこの学校にいないだろうがな」

 

「馬鹿ですか?貴方達は」

 

「「んなっ!?」」

 

「別にお二人の事を心配しているわけではないです。むしろ怒りを覚えています。あんな方法があると安易に真似をして、死者が出たらどうするって言うんですか。熟練者なら熟練者らしく、初心者にいらぬ誤解を与えるような方法をとらないでください。迷惑です」

 

「てめ、言わせておけば…」

 

「まて、種子島。確かにあの行為が危険な事には変わりない。海路口だったかな?確かにあんな真似はしない方がいい。あとでルールに明文化しておいて欲しい」

 

「分かりました。では、最後まで楽しまれてください」

 

 そう言って、私は二人から離れた。正直な気持ち、別に死人が出てもそれは自業自得なのだが、運営側に問題があると認識されては困る。そのためにも、叱責というのは必要だった。恐らく余程の事情がない限り、次代生徒会もこの催しは踏襲してくるだろうし、今の内にしっかりとルールを明文化しておく必要があるな。

 

 因みに、柔道部は十三位。今の時点では正直相手にもならないのだが、この後の競技で一気に近づいてくるだろう。まあ、それは柔道部には限らないわけではあるのだが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。