異常者が集うこの学園で、普通であることは異常なのか 作:のろし
第三競技は鰻のつかみ取りである。元々生徒会の独走態勢を崩すために設けられた競技で、一匹1P。代表者一名が制限時間内に捕まえた数だけポイントになるので、生徒会から出す代表者は最初から会長様になっていたのだが、今の状況を見るに、そこまでする必要もなかったのではないかと思えてくる。競技終了まであと五分、競泳部の喜界島さんは、水着の中にも鰻を入れて、独走態勢を築いていた。しかし。
「あの光景、中々にエロティックだと思わないか?」
「たしかにねー☆代表じゃない男子生徒は前傾姿勢になってたりしそう♪」
「ふ、ふたりとも、まじめに解説をお願いします!」
阿蘇先輩はあまり下ネタがお好きでないらしい。仕方がないので解説をすることにした。
「まあ、競技も残り一分を切ったところだし、構わないかな。鰻というのは本来、閉暗所を巣にする魚だ。つまり、光を遮り、体がどこかに密着している状態を好む。一旦捕まえた鰻が逃げ出したりしているのは、閉所、暗所のどちらかの条件が出来ていない事が原因だな。つまり、水着の中に入れるというのは中々に良い作戦ではあるのだ。…まあ、正直良い手だからって使いたい手ではないが」
「確かにねー♪それこそ変な所に入ったら競技どころじゃないし☆」
「不知火さん!!」
「ごめんごめん。…ところでさ、あの鰻どうすんの?」
「捌いて鰻重にするつもりだ。競技が終わった後に全員の昼食にするつもりだが?」
「あたしも貰っていいの?」
「成功報酬として既に別枠で三十尾用意している」
「ありがとー!海路口、愛してる!」
「私も私を愛している!」
「「「「「(気持ち悪いほどの仲の良さが気持ち悪い!)」」」」」
と言っている間に競技も終了、またしても競泳部が一位、13Pという大量得点を叩きだした。ついで二位には柔道部。鍋島先輩が途中から水着を使いだしたために、胸囲、いや、驚異の追い上げを見せた。流石鍋島先輩汚い。なお、生徒会のポイントはあえて語らない。強いて言うなら、会長様は今日も会長様だったというところだろうか?まあ、いずれにしろコレであとは最終競技を待つのみとなった。
「…え、なに?最後の競技はあたしが決めていいの?」
「わたしはあまり詳しくないですから。どういった種目が良いか分からないんです」
「ご無理を言ってしまい申し訳ありません、阿蘇先輩」
「いえいえ、楽しませてもらってますから♪」
阿蘇先輩が不知火さんに競技の選択権を譲ったことで、不知火さんは随分と張り切った様子で最終競技を何にするか考え始めた。…目を輝かせながら。どうやら碌でもない事を考えているようだ。
プールに残った鰻を回収し(おかげで全身がヌルヌルである)、水を張りなおしている間に、どうやら不知火さんは最後の競技を決めてくれたらしい。曰く、騎馬戦だそうだ。…ところで不思議に思っていたんだが、このプール、さっきから自在に深さが変わっていないか?玉入れのときは水球でもできそうな深さだったのに、二人三脚のときは足が付く程度の深さ、鰻のつかみ取りの際は水をある程度抜いたからまだ分かるが、一体どうして深さが変わるというのか。個人的箱庭学園七不思議に登録しておこう。
さて、水上騎馬戦である。ルールは騎馬戦とほぼ同じ、騎馬が崩れて水中に落ちるか、騎手の頭に巻かれている鉢巻をとられたら失格、下位チーム救済案として、いま現在の順位に応じてポイントが入る形式とし、上位チームの鉢巻ほど高ポイントに設定する。一位16P、二位15Pという具合だ。各チームの結束力と判断力が試される、中々に良いゲーム内容である。
ルール説明をしている最中に、またも生徒会と競泳部が不穏な空気を醸し出したので、スタート前に改めて場外乱闘禁止、とアナウンスし、少しの冷却期間をおいてスタート。この競技、いまは生徒会対競泳部という形を為しているように見えるが、その通りで、一位である競泳部の鉢巻をとれば生徒会は勝利に限りなく近づき、競泳部が生徒会の鉢巻をとっても同じである。何より、どうにも両者が随分と熱くなっているようで、他の部活の様子を見るような余裕はないようである。会長様、ぜひとも周りをよく見てほしい。既に柔道部の鍋島先輩が自身の本領を発揮しているから。だが、私は生徒会所属である。自チームに有利になるような情報は流さない。……あ、現時点でもう柔道部の優勝が決定した。私は阿蘇先輩と不知火さんにその事を伝え、後片付けの準備を始めた。なにしろ、この会場恐ろしく広い。会場内に出されたモニターの撤収や、プールサイド等の清掃、更には掲示されたポスターの撤収など、やることは山積みである。幸い制限時間内まではまだ随分時間もあり、また、ポイントの集計などもあるので、今の内に撤収できるものは撤収してしまいたいのだ。
そういうわけでとりあえずはプールサイドに掲示されていた掲示物をはがしていると、盛大な水音が聞こえた。どうやら生徒会対競泳部の決着がついたらしい。まあ、どっちが勝っても既に柔道部が優勝を決めているため、出ていくのは会長様の私財ばかりなり。…ん?なんだか騒がしいな。状況把握のために人だかりの方へ行ってみれば、どうやら喜界島さんが水を吸い込んでしまい、呼吸が止まっているらしい。人吉君と種子島先輩が水を吐かせようとしているが、それに割って入る。
「待った。水を吐かせるな」
「何言ってんだ海路口!早くしねえと死んじまうかも…!」
「そうだ、いくら敵だからって、ほっとこうとするなんざ…!」
「馬鹿ども、少し黙れ。自発的に吐かせようとすると、気道が傷ついてしまったり、余計呼吸が上手く出来なくなる。吸い出すとするなら……!」
そう言って私は喜界島さんの口に自らの口を押し付けた。接吻等といった洒落た真似ではない。純粋な人工呼吸である。まあ、息を吸わせるのではなく、此方が吸い込んで中の水分を吸いだしているわけだが。彼女の口から結構な量の水が出てくる。私はそれを一旦吐きだし、更に吸い出すために口を押し付ける。数回それを続けたところで、彼女は自発呼吸を再開した。さて、淡水溺水は浸透圧の関係などから予後が心配されるのだが、今回は救命措置も早く行われたため、後遺症などはほぼないだろう。とりあえず安心だ。
そのまま、会長様と競泳部の応酬を聞いていたのだが、なるほど、会長様はどうやら子ども心に満ち溢れた人であるらしい。そして競泳部の三人も。中々に笑える内容が含まれていた。
「ッ……!!ちょ、おま……。…マジか…」
「海路口!また顔面蒼白になってるぞ!」
「…ああ、失礼。そこの四人に質問したいのだが、良いだろうか?」
「「「「なんだ?」」」」
「札束のプールって、潜れるのか?泳げるのか?」
「「「「……あ」」」」
私はもう駄目だった。
『さて、集計が終わりましたので優勝チームの発表をさせていただきます!優勝は…鍋島猫美率いる柔道部チーム!おめでとうございます!』
「「「「「「は?」」」」」」
どうやら気付いてもいなかったらしい。さっきの話しを聞かせてもらったのだが、この2チーム以外にも多数チームはある事を失念しており、柔道部が暗躍していた事も知らなかったのだとか。
『全チーム103Pの鉢巻をゲットし、見事ぶっちぎりのトップになりました!いやあ、集計が楽で助かりましたよ!』
((((((え、そんなんアリィ!?))))))
「綺麗な相手に汚く勝つ!ウチの信念貫かせてもろうたで、黒神ちゃん!でもまぁ、次は直にやろうや。今回はウチの勝ちや!クビ洗って出直して来いや!」
((((((うわぁ、卑怯なのにカッコいい………))))))
「アハハハハハハハハハハハ!!!!」
「そしてお前は大笑いしてんじゃねえよ、海路口!」
いや、まさかここまで熱中しているとは思わなくて。正直此方が被害者だろう、と思うのは間違っているのだろうか?だって、気付いてないとか…クク。
とりあえず、第1回水中運動会は成功裏に終わったのであった。
事の顛末。
追加の部費総取り及び予算三倍という快挙を成し遂げた鍋島先輩なのだが、こんなに大量にあっても使い道はない、とそれぞれの部活に適当に配分したらしい。勝ちへの執着は有っても、価値への執着はあまりないらしい鍋島先輩であった。完全ではないにしろ、各部活の財政も潤い、陳述書の量はかなり減ったことを書き記しておく。仕事量が減る事は喜ばしいことである。そんなこんなで全体からすれば若干ではあるが、仕事が減って少々余裕のできた生徒会執行部に、更に余裕が増える出来事が起こった。
「まあ、今回のイベントで私財を投じてしまった事には流石に先生方からもお叱りを受けたのでな、やはり公私混同はよろしくないだろうということで批判も結構な数受けた。そこで、だ。やはり今後このような事がないようにするためにも、生徒会にお金の専門家を入れることにした」
「………」
「………」
「それは良いな。やはり専門家がいた方が助かるし、何より私の仕事が減ってくれる」
「うむ、貴様には苦労をかけたな、海路口よ。これからはもう少し業務の量も減るだろう。さて、紹介しよう。これから生徒会で会計職を任せる喜界島同級生だ。競泳部からのレンタルなので丁重に扱うように!」
「…荒稼ぎに来ました。無駄遣いしてたら売り飛ばすからそのつもりで!…あと、君にはこの間のお礼。ありがとう」
「いや、構わないよ。アレは私の仕事だったからね」
「みんな仲良くしてくれ!因みに、レンタル料は一日320円!」
「「驚きのお値段!!?」」
「アハハハハハ!」
「だからお前は大笑いするなと!」
まあ、そんなわけで、新しいメンバーが入ったわけである。緊張からかしばらくは少し動きがぎこちなかったものの、人吉君と抱擁している事件(ずっと見ていた)を機に、徐々に打ち解けてくれたらしい。今では放課後にデートをする程度の仲である。まあ、競泳部の先輩二人も同伴なのだが。
――――この事件からしばらくたったころ、私は初めて黒神めだか以外の異常な人間を見る事になるのだが、それはまた別の話。
「ところで、日当320円は低すぎるのではないか?労働基準法に違反する可能性が…」
「それは、お手伝いしてもらうお小遣いだと思ってくれれば……」
「なるほど、納得だ。だが、この生徒会は正直320円では割に合わない。個人的ではあるが、一週間に二回ほど、お礼も兼ねて喫茶店でスイーツでも奢らせてくれ。私も少しあの仕事量は限界だったんだ」
「…海路口は良い人だね。うん、良いよ!」
(この子結構チョロイぞ、情操教育はどうなってるんだ、九州離れ島トリオ!?)