遊戯王ARC-Ⅴの世界に廃人がログインしました   作:紫苑菊

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 1年以上お待たせしました。作者本人も話の展開を忘れている小説、再開です。生存報告がてらなので短いデスガ近いうちに続きを書けたらなぁ、と思います。


第3話

 昔から、菊が考えていることはよくわからない。だけど、本質を見抜く、と言うことに関しては人一倍だというのは知っていた。

 

 ハイスペックではあるがどこか抜けていて、でも、人のことをよく見ている。自分のことに関することだけは鈍い、というのが、私たち三人の共通の認識だった。

 だから、そんな菊に対しては、外堀を埋める、と言うやり方よりも、正面切って意見を言ったほうが話は早い。それも、私たちの共通認識の一つだった。

 

「ねえ、菊。」

「凪流、なに?」

 

 今、疲れているんだよ。とでも言いたげに、私を見た。そりゃあそうだろう。さっきまで、アカデミア内部から攻撃を仕掛けて、ほぼ半日間デュエルしっぱなしだった。あれで疲れない人はいない。

 

「聞きたいことががあります。」

 

 聞きたいこと、と言いつつ、実際には詰問に近いことは、すぐに察してくれたようだ。体をこっちに向けて、私の目を見る。

 

「どうして、こんなことをしたんですか?」

「こんなことって?アカデミアのあちこちに火をつけたこと?」

 

 そうだ。ここに来て5日目。菊は大きな行動に出た。

 

 この次元についてからは、菊は情報を集めることに焦点を置いていた。アカデミアがどうしてこんなことをしているのか、それが重要だ。そう言って、初日に手にいれた協力者、麗華という少女アカデミア兵の部屋を拠点に、潜入した仲間たちを使って情報を手に入れていた。

 だが、そんなのはすぐに無意味と化した。3日もすれば、代わり映えのしない情報しか手に入らない。それが丸一日続いた瞬間、菊は意を決したかのように仲間たちにこう言った。

 

「これ以上の潜入は無意味だね。」

 

 まさか、いきなりこんなことを言われるとは思わなかった私たちは、目を点にした。

 

「今まで手に入った情報、まとめたら必要最低限しか入っていない。

 

 1、アカデミアの目的は、次元を滅ぼすものでは無い。

 

 2、アカデミアはプロフェッサーの意の下に行動する。

 

 3、アカデミアの目的は、次元を統合するものであり、それは崇高なことである。

 

 4、次元を統合すれば、この世界のデュエルが数世紀分発展する。そのためのエネルギーは、他の次元から持ってこればこの次元が身を切るようなことはしなくて済む。

 

 5、必要なエネルギーは、デュエリストから集めることが出来る。そのエネルギー源を確保するために一度人をカードにすることで人員を確保するが、後で元に戻るからいいよね、ついでに記憶もあいまいだし無問題(モーマンタイ)無問題(モーマンタイ)。」

 

 こんな程度なら来る前からだいたい察しはつくし、新しい情報は4から5の、動機に関することだけだ。菊はそう言って、他に意見があるか周りに尋ねた。実際なかった。それ以上の情報は、誰も持っていなかったからだ。

 

「こんなことをいつまで続けても埒が明かない。それは全員の共通認識、そう思って差し支えない?」

 

 それもYesだ。全員が頷いた。

 

「なら、ここで一つ提案したい。」

 

 アカデミアに攻撃を仕掛ける。菊は、そう言ってセレナと、捕虜となった情報提供者の麗華を見た。

 

「彼女たちから手に入れた情報、そしてここの地図。何がどこにあるのかは大体が把握できたと言っていい。プロフェッサーの部屋の大まかな場所から、トイレまで。その中でも、一つ注目したいのがここだ。」

 

 菊が指さしたのは、食糧庫だった。

 

「アカデミアは、陸の孤島と言っていい。本土から離れたとこにある、兵士育成施設、軍人学校。その食糧を供給しているのは、僅かに3か所。一番大きい、中央の施設がここ。もう一つが西側にある予備のレーションの保管庫、港にある運搬用の倉庫。港の船から倉庫へ、倉庫から保管庫、そして中央施設へそれぞれ運搬される。」

 

 でも、ここ2日間はそれが滞てしまっている。

 それは、初日にここに来た時に、私たちが彼らをなぎ倒したからだ。

 

「といっても、明日には運航を再開、また食糧が供給される手はずにはなっている。それは、間違いないんだよね?」

「はい、同僚から聞きました。襲撃されたことは噂程度にはなっていますが、だからと言って特別な任務が課された、と言うことはありません。」

 

 少なくとも、私が知っている範囲でですが、と言ったのは麗華だった。

 

「それについては、君たちも大分察しているんじゃないかな?あれだけの事件、20人超ものの人員が行方不明だというのに、アカデミアは意に介していない。

 つまり、この問題をプロフェッサーは問題視していない。プロフェッサーが問題視していないということは、アカデミア兵士たちも問題視していない、と言うことに近い。」

 

 それは問題だ。菊はそう言った。

 

「だから、攻勢を仕掛ける。」

 

 その言葉に、私たちの反応はそれぞれだった。おじけづくものも居れば、まあ、そうなるな、と思っていたものも、むしろやる気になっている人もいた。

 

「食糧庫を焼く、少なくとも使い物にならなくしてやる。それと同時に、港も駄目だ。兵が逃げる。逃げ場はなくさねばならない。次元を超えれるのは、あくまで一等兵で、二等兵以下、訓練生までそうそう次元移動が出来ないことは把握済み。

 つまり、大半がこのアカデミアに残ることになる。レーションの保管庫はあえて残す。警備を向こうは固めるだろうし、何より死なれたら困る。疲弊をさせても、殺してはいけない。俺たちの目的はそこにはない。」

 

 目的はあくまでカードにされた人たちの奪還。それを交渉で手に入れるためには、相手をこちらのフィールドに引き釣り落とすしかない。そう言って、菊は私たちの顔を見た。

 私たちは反対した。焼く、つまりは放火。そんなことを許してはいけない。でも。

 

「じゃあ、これ以外にあいつらを速攻で戦いのフィールドに降ろせる?」

 

 どこまで言っても数は力。俺だって、大勢に挑まれたら何もできずに終わる。向こうの勝ち方は殲滅。殲滅っていうのは、数があってできるんだ。なら、その数を最も効率的に落とせる方法は?同じ殲滅か、青田刈りか、こうやって兵糧攻めして疲弊させるしかない。それは歴史が証明してる。数人で革命は無茶だ。

 

 そう言って、菊はこの作戦を実行した。私からすれば、顔を顰めながらもこの作戦に同意した協力者たちの存在が不思議でたまらなかった。

 

 だから、こうして直接聞いている。あの事件以降、菊への追手は日に日に増している。そのたびに返り討ちにして、その度に、例外を除いてカードにし返している菊が疲弊しているのは重々承知の上で、私は聞いていた。

 

「理由は3つある。

 

 1、彼ら協力者の大半は、俺たちと同じだから。

 

 2、俺が、疲弊が目的で、あくまで殺すつもりはないことと、その気になったら食糧を提供できる状況を作り出すことに同意したから。

 

 3、俺たちが問題視されていなかったから。」

 

 解説、いる?と私を見る。もちろん、と言うと、上を見ながら言葉を選ぶように話し出した。

 

「まず一つ。ここに来ている『協力者』だけど、赤馬零児が選んだ、と言うには少し違う。」

 

 少し違う?そう首をかしげると、ふっと笑って諭すように話し始めた。

 

「あんな事件の後にすぐ立候補する、っていう人間っていうのはね、俺たちと同じあの事件の被害者関係者ぐらいのもんだ。『仕事で仕方なく参加』なんて言うことを赤馬零児は望まない。最初の『ランサーズ』だって、勧誘こそしたものの、最後は参加者の意志で判断していた。

 

 大半の人間は最初の襲撃の痕でも、対岸の火事かなにかと思って何もしない。知り合いに被害者が出ても、自分じゃなくてよかった、と考えるのが普通だよ。そんな人間は、立候補すらまずしない。

 

 単に正義感に駆られた人間だけなら、最初は躊躇する。既に被害者が出ているのが現状だし、何よりそんな薄っぺらい人間は零児くんが切るだろう。なにより、俺は実力は除外して選んで構わない、って言っているしね。

 

 対岸の火事とは考えず、正義感に駆られた、なんていう理由じゃないなんて人間は、被害者の友人か、家族、恋人なんていう親しい関係くらいだ。そんな人間でも周りに諭されて参加しないことが多いだろうし、いくらかは数合わせが入っているかもしれないけど、それでも被害者関係者が多いっていうのは、最初から分かっていた。」

 

 実際、10人中7人はそうだったみたいだしね、と彼は言った。そのうちの何人かは私も知っていた。そうなれば多数決で有利に動けるのは、多数派(マジョリティ)である被害者側の人間の意見。

 

「被害を最小限にするっていうのは、少数派(マイノリティ)側への懐柔案。事実、俺も殺す気はないし、あくまで疲弊と、敵に自分たちが殲滅する側である、という認識から、自分たちにも大きい被害が出る相手、と認識させるのが狙いだから、そこはどうでもいい。

 一番怖いのは、敵が数に任せて襲ってくること。少しでも躊躇させておきたいから、時間稼ぎのつもりもあった。さっき言った問題視されていない、っていうのもここに繋がる。」

 

 それは、なんとなく理解した。でも・・・。

 

「それだけなら、他にも方法があったんじゃ。なにもこうしなくても。」

「早急な問題だった。

 なあ、俺が赤馬零児にした質問の話はしたよな?」

 

 それは、彼が言っていた『アカデミア兵はどうして戦うのか』という疑問の話だろうか。

 

「ああ。その話。実は、いくつか麗華ちゃんに話を聞いていた時に、面白い意見を彼女が言っていて、思わず納得したものがあるんだ。」

「へ?」

 

 そんな話、いつの間にしていたのだろう。

 

「彼女に、なんでアカデミアが戦うのか、って聞いてみたら、こういってたよ。『周りが戦ってるからじゃないですか?』だって。」

 

 ・・・は?

 

「周りが『アカデミアが正しい。』と言っている。団体における大多数が正しい、っていう考えは昔から変わらない。『アカデミアに入る』と言うのが至高、という世間の風潮から、『アカデミアは正しい』という考えにシフトしていく。その正しいアカデミアに教えられ、その指示に従っていればいい思いが出来るし、孤立もしない。」

 

 でも、それだけでこんな人道に反することをするだろうか。そんな理由で、人をカードにしたり、戦争まがいのことを起こすだろうか。

 

「俺もそう聞いたら、そう言ったことには、免罪符が出来るでしょう?だって。何でもかんでも指示されてやったんだから、私たちの所為じゃない(プロフェッサーが悪い)。それも全部上が悪いと考えるから。

 

 戦っていくうちに荒んだ心は、ゲームだと思い込むことで心の安寧を保ってたんじゃないかとも言ってたよ。そもそもアカデミア側が人員的にも有利だから、そう言ったことを考えてしまう心の余裕を、対象を必要以上に痛めつける、その上でカードにするだけで留めておくことで、罪悪感を少なくさせている、もしくは思い込む。そうなるように教育しているのがこの施設で、会わないと感じた人は、ひっそりと逃げていくんだって。」

「じゃあ、笑ってエクシーズ次元を攻撃したのは?」

「笑わなきゃやっていられないんだろうさ。そもそもがそう教育されて、世間もそれを望んでいる。見事なイワシの頭(トートロジー)だ。日本の戦後教育と同じだよ。

 間違いが正しい。周りもそう言っている。だから自分もそうする。罪悪感はゲーム感覚と免罪符で軽減。正しいことを言えば迫害。そうやって選ばれぬかれたのがアカデミア兵だ。一番戦いたくない、関わりたくない集団。

 

 でもね、そういうのは自分に被害がない一心で出来たものだ。なら、彼らに最も被害がある方法を取るしかない。なんで俺が、どうして、と思わせるには、疲弊させるしかない。

 

 そのうえで、最悪自分たちが被害者になるかもしれない、と思い込ませる。この火事は、恐怖、疲弊、疑念を表面化させる手になると思ったんだ。」

 

 事実そうなった。食糧はしばらくレーションだけになることをアカデミアは余儀なくされた。娯楽の一つ、味覚を潰され、おまけに敵が、自身の脅威が自分たちの中にいることが分かっている。不用意に人員を動かせば余計に事件が生まれるかもしれないから上は動きにくいらしい。

 そうした不平不満はひっそりと現れた。そのことは潜入した工作員からも聞こえているし、協力者であった麗華からも聞いている。

 

「だから、この事件を起こした。やり方が汚いのは自覚している。でも、リターンは大きかった。

 アカデミア兵の中で、プロフェッサーの意志を至高と思わない考えが表面化してきた。俺を狙う人員の質が下がった。これは、俺を狙うことにしり込みしている人間が増えているということ。つまり、滅私奉公するような行かれた教信者が、思ったよりも少なかったことを示している。なにより、上に対する不満が出てきた。これにより、ようやく俺たちを『殲滅対象』から『敵』にシフトした。」

 

 これで、ようやく『交渉』出来るかもしれない。

 

 そう言って、菊は寝そうになる。私としても聞きたいことはまだあったが、菊の体力を考えると、これ以上のことは聞けないとも思った。

 

 そんな時だった。

 

「いたぞ、こんなところにいるぞ!」

 

 倉庫の中にこの声が響いた。コンテナの中を改造したこの部屋を、どうやら敵が気付いたらしい。私たちのところに一直線に向かってくる。

 

「菊!敵に気付かれましたよ!」

 

 だから、さっきから話してるときにも思っていたんだけど。人が真剣な話をしているんだから・・・。

 

「さっさとそのソファから降りてください!」

「無理、動きたくない。」

 

 くそ、こいつ駄目になってやがる。このソファ、菊を駄目にしてやがる。

 

「・・・まさか、その体制の中迎撃するとか言わないですよね?」

 

 そのびっくりするくらいリラックスした姿で。ほら、敵さんも困ってますよ。めっちゃ戸惑ってますから。

 

「大丈夫、あのカード化システムは、こうやってデュエルディスクを向こうに向けていれば戦意あり、と認識して作動しないから。」

「だからってもうちょっと危機感を・・。」

「リクライニングデュエル、リラクゼーション!」

「それ絶対ふざけてますよね?!」

 

 まったく・・・。

 

 これで敵に負けていないんだから始末に置けない。菊の真意を聞けても、不安になるだけだったのが、何とも言えなかった。

 




実はヒロアカ一気見してドはまりして、そっち側の小説考えてたとか言えない・・・。

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