東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy. 作:影のビツケンヌ
そして場面の関係で、今回は普段より長くなります。
十六年一月十八日、本文傍点形式修正
戦闘イメージBGM:メトロイドプライム2より、『VS.スペースパイレーツ』
ボルボレマ高原の乾燥した大地の上で、素子は仁王立ちしていた。
素子のいる残丘の上は木がまばらで、大きめの岩がごろごろしている。彼女は手を銃の形に構え、その岩の内の一つに狙いを定めて――
「…ハッ!」
指の先端から緑色のビームを撃ち出す。着弾した岩は内部から粉々に砕け散った。
「何度見ても、破壊的過ぎる…」
彼女もまた、チョウゾに選ばれた戦士だった。得た
活性化した荷電粒子を超圧縮して発射し対象を燃やしたり、プラズマを収束したエネルギービームで核融合反応を起こし複数の対象を貫きつつ内部から爆散させる。チョウゾが遺した個人用火器としては最強クラスである。その特性上、元々プラズマ生命体であり『磁場を操る程度の能力』を持っている彼女には似つかわしい。
しかしこの恐るべき破壊力を秘めた武器を、彼女は何より恐れていた。
弾幕ごっこにも用いられる妖力弾は非殺傷レベルまで威力を落とすことが可能だが、プラズマビームを使用すれば活性荷電粒子や高密度プラズマの奔流が襲い掛かり、着弾した対象、即ち妖怪は、細胞の一欠片までも一瞬で消し飛んでしまう。この危険極まりないプラズマビームの威力は、並の素材で遮ることなど不可能だ。
素子はスカイフィッシュになれば――原理は不明だが――幻想郷の結界をすり抜けて外の世界に出ることができる。わざわざ地球の反対側までバカンスに来たのは、プラズマビームの危険性を知った紫に目を付けられているから。幻想郷に影響の出ない場所で
「ちょっと、落ち着こう。折角
幸か不幸か、彼女がプラズマビームを実戦使用するのは暫く後になる。
幻想郷最速飛行者にして最強兵器の所持者は、三週間のバカンスと、邪魔の入らない訓練を満喫する。自分のいぬ間に何が起ころうと、知る由もないのだ。
「さて、一日目は普段通りのトレーニングだったが、今日からは俺が師匠と行なった訓練の内容も盛り込んでいく。苛烈で過酷な訓練だ。生半可な覚悟ではすぐに折れるぞ」
五月四日。強化合宿二日目。
「予め知らせておくが、修行の一環として、この合宿中に白狼天狗の小隊が抜き打ちで襲撃を掛けてくることになっている。詳細な日時は俺も把握していない。つまり
門下生達を前に、小櫃は合宿での訓練内容を話していた。
「…まさか武器を刃引きしてないなんてことないでしょ?」
「それ位の心構えでいろということよ」
監督官としてルーミアと共に小櫃の隣にいたチルノが、彼の“グチャグチャの肉塊にジョブチェンジ”という些か過激な表現を聞いて、小声でルーミアに尋ねた。ルーミアの言う通り、小櫃の用いた言葉はあくまで暗喩であり、所謂「練習は本番のように」というのと変わらない。ふーん、と納得し、チルノは再び小櫃の話に耳を傾ける。
「それでは今合宿中のみ適用される新しい班を発表する。第一班、班長永井邦彦、班員中州寧々、オードリー・トイバーン、式竜馬、境壮也。第二班、班長アルバート・ハーヴェイ、班員岡田勇治、リグル・ナイトバグ、…」
のどかな幻想郷で、小櫃の‘本領’が発揮されることは多くはない。が、彼の実力は半端ではない。
曰く、一度に十人の男が襲いかかろうとも涼しい顔で平らげる。
曰く、死角から矢を撃たれても当たる直前で掴み取る。
それを可能にしているのは、何も能力が全てではない。小櫃が幼少時から(具体的には六歳から)続けてきた、血の滲むどころか血反吐を吐くような戦闘訓練の賜物なのだ。それに加え、彼は元いた世界で数え切れぬ
自分と同じ境地にまで到達させることはできずとも、門下生達をより強く鍛え上げるプログラムを小櫃は練りに練った。かつて自分が経験したことを再編成して。
「うおお…ぉおっとっとととぅわああああぁあ?!」
「臆するな。地面の上でするのと同じだ」
「いってぇ…」
幅の狭い平均台の上での逆立ち。
「ああああああおおお重いいいいいい…」
「失礼ね!!」
「んな何人も乗れば重いって…」
複数人を同時に持ち上げる重量挙げ。
「エンリコ、もっと固い瓶の蓋を捻る位の思い切りだ」
「こ、こうかい?」
「何故あんなに曲がるんだ…? 化け物か…?!」
ヨガの要素を取り入れた柔軟運動。…こんなものは序の口だ。
「ダメだ、跳んだけど上がれない。誰か降ろして〜」
「しょうがないな…」
「いいな、もう少し勢いをつけてだな…」
ガラクタを寄せ集めた不安定な足場でのパルクール。
「…なんか第九班だけ異様に滑るの上手くないか?」
「そりゃそうさ、チルノ直属だし」
「ジェットストリームアタック!」
チルノの『冷気を操る程度の能力』で凍らせた庭でのアイススケート。
「Hey everybody! There's no way you can be tired! Keep moving!」
「アルバート、テンション上がり過ぎ…」
「何言ってんのかわからんし、もう立ち上がれない…」
ヒップホップのリズムで激しいエアロビクス。
後半は一見して戦闘とは何の関係もないように思えるが、これも実際に小櫃が経験してきた訓練の一環だ。そして本来なら、街中でマフィアと命懸けのかくれんぼをしたり、山中に置き去りにされてから数日かけて帰宅したり、機銃の掃射を掻い潜ったりするのだが、間違いなく死者が出るので――小櫃自身、当時生きていられたのは運が良かったとも思っている――訓練過程では扱わない。
そして、その夜。
鈴仙や里の自警団を始めとした、小櫃に協力してくれる有志の者が、彼と共に門下生達の食事を作る。これもまたかつて小櫃が食べていたのと同じ献立で、カロリーとタンパク質を重視しつつ栄養バランスも考慮されている。タンパク源は、食料プラントで養殖されたカマス。
「小櫃、ご飯が炊けたわよ」
「了解した。こいつを捌いたら、次は大根おろしだな」
「あんちゃーん、醤油持ってきたぞ!!」
「馬鹿お前そんな持ち方…!」
九年間道場をやってきて、今年になってようやく強化合宿を行なえたのは、安定した食材の供給源がなかったからだった。永琳の許可を得れば数日永遠亭を離れることはできるが、四十人以上の子供達に一度に食事を用意するのは容易いことではない。食材の問題は食料プラントのお陰で解決されはしたが、それでも量が多いことは変わらず、こうして忙しなく動いている。
そんな時だった。
「小櫃…さん!」
その場の空気を、悲鳴にも似た叫びが破った。同時に、料理が放つ食欲をそそる香りの中に、生々しい血の臭いが混じる。
「椛? …何だ、どうしたんだその傷は?!」
右足を引き摺りながら、現れた椛は小櫃の元へにじり寄るように近付いていく。切れた右足のアキレス腱、左脇腹の何かが貫通したらしき傷、そこから血液が流れ出す程に、料理の香りに不快な臭いを上書きしていく。小櫃らは今にも倒れそうな彼女に駆け寄り、傷を庇いながらその場に横たわらせた。
「どうしたんでぇもみっちゃん!!」
「一体何が…」
「いいから手当てだ! ウサちゃん救急キット頼む!」
「は、はい!」
小櫃が口を出すより早く、行動力のある若者が率先して応急処置に乗り出す。鈴仙が常備していた救急キットを取りに向かった直後、虫の息の椛が呻くように言った。
「はや…く、逃げて…奴、らが…」
「何?」
その内容を小櫃が理解したのと、
「きゃああああああぁあああぁ!?」
道場の庭からリグルの悲鳴が聞こえたのと、ほぼ同時だった。
「っ!!」
何者かに襲われた椛。「早く逃げて」「奴ら」という言葉。門下生の悲鳴。最早考えるまでもなく、この道場に危機が迫っているのは明白。小櫃はバイオブースターを噴かし、信じられない程の高初速で走り出した。靴など呑気に履いていられない。到着すると、そこには既に惨劇があった。
「……」
「あ、あああぁ…」
相手は六人だった。黒ずくめの装束を着た白狼天狗。身の丈を超える巨大な剣、堅固な盾と長大な槍、妖怪の骨から削り出された大槌、棘付きの棍棒、毒に塗れた短剣、そして二振りのクナイをそれぞれ所持し、そのどれもが鮮血に染まっていた。彼らの足元に‘人間の門下生だったもの’が複数転がっているが、武器に付着した血液細胞に残存しているバイオエナジーの幽かな流動には、椛と同じ白狼天狗のものも視える。黒い白狼天狗達は各々の得物を手に、門下生達にじりじりと近付いていく。
判った。こいつらは、ここを襲撃する筈の椛の仲間達を殺したのだ。
「…許せん…!」
小櫃の中に、怒りが燃え上がった。その気高き義憤は黒い炎となって、小櫃の身体から噴き上がるようだった。
…否。錯覚などでは決してない。
揺らめく黒色の火炎。それは、小櫃の皮膚から噴き出た、高密度のバイオエナジー。あらゆる生命を蝕み、焼き尽くす、飢えた焔。
「今すぐ消えろ!!」
小櫃の最後の能力『バスター』が、その牙を剥いた。
小櫃に加勢して子供達を守るべく、チルノとルーミアが裏に出てきた。幾ら取り扱いについてある程度の説明を受けているといっても、子供達はまだ‘試し撃ち’位にしかアームキャノンを使っていないからだ。が、二人は戦いに手出しできなかった。
「…駄目だ、あれに入っていっても足手纏いになるだけだよ」
「強過ぎる…」
「ぐうぉらああッ!! ふんっ、でやぁあああ!!」
赤い目をした黒い人型が、白狼天狗達を蹂躙する。バスターの真髄を引き出した
バスターとは、バイオエナジーを自力で体外に取り出し、形成・射出を行なう能力だ。アームキャノンの、ミサイル以外の基本的な機能を生身の人間が使えると表現すればわかりやすいだろう。
しかし、バスターにはアームキャノンにはない利点がある。アームキャノンは、取り出したバイオエナジーを銃口からしか発生させられない。一方のバスターは、体表面ありとあらゆる部位から(極端に言えば目玉からでも)バイオエナジーを取り出し、扱うことができるのだ。
無論バスターにもアームキャノンに劣る点はあり、バイオエナジーの温度を変えるTCエフェクターと、発電を行なうバイオダイナモの機能に相当する特性は持っていない。前者は『パイロン』と『クライオス』、後者は『スパーキッド』の能力に譲ることになる。
話を元に戻す。
「ルーミア、小櫃のあの状態…アルバートはなんて呼んでたっけ?」
どんな部位からでもバイオエナジーを展開できるということは、全身からバイオエナジーを放出・形成できるということに他ならない。
「何だったかしら、確か、ええと…」
高密度のバイオエナジーは、それだけでどんな矛も通さぬ盾にも、どんな盾も貫く矛にもなり得る。今の小櫃がそれだ。
「そうそう思い出した、あれは…」
盾であり、矛である。鎧であり、鎧通しである。まさに攻防一体。完全無欠にして難攻不落。完成されたそれは、最早異常と言ってもいい。
「
ゼノトロピックシェル。バスターを極めた究極奥義だ。
体表面に纏った漆黒のバイオエナジーは、そのエネルギー密度によってあらゆる危険をシャットアウト。しかも直接触れた生物は、その部分の細胞が激しく損傷し急速に壊死してしまう。質量の増大はそのまま破壊力の上昇に直結し、バイオエナジーによる破壊原理と合わさってあらゆる物質を粉砕する。
そしてその最大のアドバンテージは、『程度の能力』の無効化にある。
ゼノトロピックシェルの発動中は、バイオエナジーに体内、体外の区別がなく、即ち皮膚表面のバイオエナジーは皮膚細胞内のバイオエナジーと連結・連動している為、小櫃の身体は、程度の能力では干渉できない純粋なバイオエナジーの流動(或いは塊)に限りなく近くなり、八雲紫が『境界を操る程度の能力』すら無意味なものにしてしまうのだ。
「せいっ!」
斬られ、撃たれ、砕かれた天狗達の死体が、血の海に浸った武器の残骸と共に累々と横たわるその上で、小櫃は残った最後の一人と交戦していた。大槍と大盾の持ち主だ。
「…ふむ」
この相手は、どうやら小隊長のようだった。武器は何らかの方法、恐らくは能力で、‘壊れる’ことを防止しているらしく、どんなに傷を付けても砕ける様子が見られない。
右手に盾を構え、左手の槍を隠す。何者をも寄せ付けぬ鉄壁の奥、必殺の牙が覗く。
「……」
敵は語らない。断末魔さえ上げようとしない。どんな時も唖者のように黙りこくったままだ。誰よりも一撃の重みを知る妖の身体は、唯黙々と機を待ち続け、殺意もない攻撃を、自然現象の如く繰り返す。
小櫃は既に、彼らが死んでいる身であることを見抜いていた。生命反応がない。
バイオエナジーが見えないとなれば、自身の身体能力と反射神経が頼みだ。幸いにも、彼の持つスキャニングには、鷹並みの視力と蝿並みの動体視力、杆体細胞を錐体細胞に超高速で作り変えることによる優れた暗視能力をもたらす副次効果がある。モスアイ構造になった角膜は光の反射を極限まで抑え、弱光下での活動も可能にする。
よってここでの戦闘には、何ら支障をきたすことはない。
「……」
「ッ!」
小櫃は相手が防御から攻撃へと転じるその瞬間を見逃さなかった。視線は武器の動きに集中しつつ、バイオロケーションで敵の全体的な動きを見る。脳内に描き起こされた『感覚地図』の上で、相手は槍を突き出しながら、重心を真下から前に出していた右足へと移動する。そのまま左足の踵が僅かに地面から離れたのを感じ取り、小櫃は“突進してくる”と確信した。彼我の距離はおおよそ四メートル、天狗の足なら一秒もかからないだろう。
「ふっ」
それでも、彼の慧眼は天狗の攻撃を確実に捉えた。左足が上がり、踏み出される前に、自分の眉間ど真ん中を貫かんとする銀閃を見切り、その側面に左手をかける。
「とうっ!」
迫る盾の上辺を右手でむんずと掴み、自分を引っ張り上げる腕力で跳躍。空中で体を捻り、左の掌で圧縮したバイオエナジーを盾の内側に投げ込んだ。一回転、着地。そのタイミングで、お手製の爆弾が起爆し、襲撃者の最後の一人を一撃のもとに地に伏せる。
だがまだ終わらない。仰向けに倒れた天狗に、小櫃は更なる追い打ちをかける。天狗に向け走りながら、真っ黒な右腕を重機のように巨大化させ、肘からは等間隔でサッカーボール大の球体が刺さった棒のようなバイオエナジーを伸ばす。
「終わりだ!」
再度跳躍。助走と重力加速度を乗せた巨塊を腹部に叩き込んだ。その衝撃は一度ではない。二度、三度、四度…球体付きのバイオエナジーの長い棒が二の腕の直線に沿って高速で降りていき、球が肘に吸収されるその度に、ガツン、ガツン、ガツン、と、パイルドライバーさながら連続する。
最後の‘杭打ち’が終わる頃には、天狗は今朝の小櫃の言葉通り、“グチャグチャの肉塊にジョブチェンジ”していた。沈黙を確認し、彼はやおら立ち上がった。
「…はあっ」
全能力を解除し(スキャニングは目を閉じれば効力を失う)、その場にうつ伏せに倒れこむと、忘れていた疲れがどっとのしかかってくる。小櫃は体質上、筋組織に乳酸が蓄積しやすい。その為長時間の戦闘は得意ではなく、本来なら弾幕ごっこをするだけでも疲労が溜まる。久方振りの生死を賭けた戦いは、小櫃を精神的にも肉体的にも疲弊せしめていた。
「小櫃!」
「大丈夫?!」
待ち構えていたかのように――実際待ち構えていたのだろう――チルノとルーミアが駆け寄ってくる。
「怪我は?」
「ある訳なかろう…子供達は無事か?」
「問題ないわ。全員退避済みよ」
「そうか…それは、よかった」
門下生の安全確保に安堵し、同時に守れなかった数人を悔やむ一方で、小櫃の頭には襲撃者達の、正確には彼らをけしかけた者の目的に関する疑念が渦巻いていた。
「…状況整理がしたい。先に中に戻っていてくれ」
「わかったわ」
「りょーかい」
「……」
人里の絶対不可侵は、知能を持つ妖怪の間で締結された遵守せねばならぬ条約だ。それを侵せば直ちに害悪と見なされ、博麗の巫女は勿論、幻想郷中の勢力から報復攻撃を受けることになる。何かしらの目的があっての行動には違いないが、だとすればリスクが大きすぎる。…第一、紫がこんな勝手を見過ごす訳がない。
そもそも
そう、これはテロだ。目的はどうあれ、スペルカードルールを無視したテロリズムだ。
「…食い止めねば。これ以上、犠牲者を出す訳にはいかん」
不満を漏らす身体に鞭打って立ち上がる。まずは現状の記録を行なうのが先決だろう。小櫃はそう判断し、置き去りにしたアームキャノンを取りに行くべく、眼前の‘白狼天狗だった’肉塊を飛び越えようと――
できなかった。
最後に天狗に止めを刺した後も、何故か腰に付けていた黒塗りの瓶だけは割れなかった。その瓶が突如、目も眩むような閃光と共に爆ぜ、
「がはっ?!」
小櫃を吹き飛ばした。
意識が暗転した。
「…本当にこれでいいの?」
「ああ。第一段階は成功だ。本当は死人が出る前に小櫃が出てくると思っていたが…」
「ちょっと顔見ただけだっていうのに、随分信用してるのね? またお得意の能力? だったら
里外れの極小さな林。男女が肩を並べて話す。
「…本来
「…それがあんたの
「誤解しないでくれ。そんな生易しいものじゃない。これから俺達は、世界の敵になる。それでも成し遂げなければ、人間も、妖怪も、守れない」
ふと、二人の後方から近付く足音。
「…来たみたいよ。どうするの」
「何、心配はいらん。話はすぐに終わる…」
「どうだかね。ああ妬ましい…」
女は去り、足音の主――また別の女は、男と二人きりになる。
「久しいわね」
「ああ…一一七二年振りだ」
「早速だけど、今人里で起こった事件は貴方の差し金ということで間違いないわね?」
「察する通りだ」
「なら――」
言いかけた女の言葉を、男が強く遮る。
「だから何だというのだ?」
続く彼の声が、女の発言を妨げる。
「人間も妖怪も関係ないと、そう最初に言ったのはどこのどいつだ? 仲間だと信じていた、思想に命まで捧げた、そんな者達を見殺しにした裏切り者は誰だ? 騙り偽り素顔を見せず、他人を自分の操る盤上の駒のように弄び、挙句謳い唱えたユートピアがディストピアにも近い箱庭に過ぎなかった、」
台詞の間の静寂が、口出しを阻む。
「…クズ野郎は?」
動揺し始めた女に向けて、男は言い放つ。
「俺はこのみすぼらしいシェルターを、ここが提唱された時と同じ楽園に作り変える。外界から切り離されたその時から止まってしまった時計を再び動かす。その為に、俺達はこの世界で最初に動き出す原初の歯車となる。お前は精々、特等席で見ているが良い」
――八雲紫。
今回でState 1.は終了。State 2.に入ります。