東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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State 2.に入りました。
ですが、今回はまだ本題には入りません。

十五年八月十七日、本文修正
十六年一月十八日、本文傍点形式修正

戦闘イメージBGM:メトロイドプライム3より『VS.バーサーカーロード』


State 2. Lost Eden
Detestable combat memories


 風が吹いている。

 高いビルやマンションの間を吹き抜ける強い風。その間に架けられた橋のような構造物は、カラカラと音を立てて中にある風車を回している。波力発電や音波発電と並び、この街の電力源となるビル風発電機だ。

 自分はその上に立ち、連絡が入るのを今か今かと待ちわびていた。

 

「……」

 

今回のミッションは、久し振りに警察が直々に依頼してきたものだ。何度となく頼みを引き受けてきた巡査部長とは、すっかり顔馴染みになってしまった。彼らの目が節穴だと言うつもりはないが、犯罪を未然に防止できていない辺り、この島の警察機能の低下が窺える。

 だから政府は、自分のような民間個人警察――バウンティハンターを正式に職業として認定したのだ。

 電話が鳴った。ポケットに手を突っ込み、防水性、防塵性、耐衝撃性に優れた自分のフィーチャーフォンを引っ張り出して、相手を確認する。『ロバート・マン』。いつも自分の携帯電話からかけてくるので、最近電話帳に登録しておいた。本当は楽がしたいだけなのではないかと、自分の(スキャニング)まで疑いたくなる。

 

「こちら小櫃。キーマン通りで待機中だ」

――オビツ、我々は現在犯人グループを追ってノースプリット通りを南下中だ。あと三ブロックでキーマン通りとの交差点に到達する。

「ん…ああ、見つけたぞ。天然ガス仕様のランドクルーザーとは、相手も全くいい趣味をしている」

 

小櫃は、銀行から盗んだ現金三千万コーカサス円を載せて、パトカー数台に追われ爆走する強盗犯のランドクルーザーをバイオロケーションで捉えた。後部座席に座る者が窓から身を乗り出し、警官との激しい銃撃戦を繰り広げている。走行速度は推定でも百キロオーバーだ。携帯電話を左の肩と耳に挟んで固定し、アームキャノン・ビツケンヌカスタムの動作に異常がないか念入りにチェックしながら、ロバートに尋ねる。

 

生死を問わず(dead or alive)か?」

――いや、できれば殺さずに頼みたい。裏の組織を洗い出す。荷電粒子砲の使用は…察してくれ。

「いつ聞いてもアメリカ人らしくない奴だな。日本に生まれればよかったものを」

 

 犯人の車はスピードを一切落とさず、赤信号の交差点を突っ切ろうとする。通話を終えた小櫃はバイオブースターを最大出力で噴かし、ランドクルーザーとの衝突(コリジョン)コースに入った。

 

――運転手の目を潰す!

 

キーマン通りは車通りが少ない。白塗りのランドクルーザーは難なく赤信号をスルーできるはずだった。が、

 唐突に目前へ迫る人影。それに反応する間もなく、フロントガラスを突き破って運転手の目にバイオバレットが叩き込まれる。

 

「ガアァアッ?!」

 

両目に走る耐え難い激痛。ハンドル操作を誤り、前方のバスに衝突してしまう。それでも尚勢いは収まらず、軽トラックと続いて軽自動車を撥ね、街灯に正面衝突してようやく停まった。

 パトカーから武装した警官が降り、煙を上げるランドクルーザーの周りに続々と集まっていく。小櫃も空から歩道に降りて、無線機を持っているロバートの近くで車にアームキャノンを構えた。艶々した金髪を綺麗に七三分けにしたナイスガイだ。

 

「見事だ。だがもう少し穏便に頼む」

「しかし捕まえたには違いあるまい?」

「逮捕はしていない、ここからが仕事さ」

 

 警官達が車を取り囲む。運転席と助手席の二人は気絶しているらしく、ぐったりとしてエアバッグの上で動く様子を見せない。小櫃の眼には、後部座席の一人も映っている。その男も身動き一つしない。

 

「…妙だ」

「は?」

「後ろの一人…意識があるのに動こうとせん。何か秘策があるのかもしれん、留意しろ」

 

ロバートが小櫃に警告された矢先、彼の無線に連絡が入った。

 

「秘策か…マンだ、どうした」

――現金を運んでいた犯人グループの一人をたった今逮捕しました! すぐに追跡を中止してください!

「何? どういうことだ、もう追い詰めて…」

 

言いかけて、彼は注意を車に向けざるを得なくなった。ボコン、という大きな音。同時に車の天井が山型に盛り上がる。その場にいる全員に、普段以上に緊迫した空気が流れた。

 

――そのランクルは、

 

ボゴン。更に天井は盛り上がる。小櫃は中にいる男が突き上げているのが判ったが、その男の筋力は車体を変形させるにはあまりに貧弱だった。…男自身は。

 

――囮です!

 

車の上部に、腕が生えた。黒々とした装甲に覆われた無機質な腕。腕は穴を広げ、中に続く胴体を引き上げる。

 

 「あれは…最新鋭の強化装甲だと!?」

 

瞠目するロバート。車体を破壊し出てきた男は、全身を金属製の鎧に包んでいた。内臓された人工筋肉のアクチュエータが、身に付けている本人のひ弱な体格を三回り以上も大きくしている。肩部の装甲プレートには、一本の直剣を地面に突き立て、柄の先に両手を重ねて置く男のシルエットを描いたセルリアンブルーのシンボルマークがあった。

 

「セイバーロードカンパニー製か」

「倒産したのではなかったのか?」

 

セイバーロードカンパニー。かつてはGアームズに並ぶシェアを誇る重工業会社(インダストリー)だったが、同社との価格競争に敗れ、二〇九九年に倒産していた。しかし、男はそんなことを考える余裕を与えてなどくれない。

 

「ロイもミッキーも渡すもんか! てめえら全員ぶっ殺してやる!!」

「くそっ、構わん! 撃て!」

 

()()()()()に備えて仲間を守るのが彼の役目らしい。男は一番近くにいた警官の襟首を掴み上げ、空高く投げ飛ばし、叩きつけ、瞬殺してみせた。ロバートの指示で警官達が拳銃を撃ちまくるが、堅牢な装甲に弾き返されびくともしない。

 

 「ロバート、あの装甲は拳銃弾程度では歯が立たん! フリーズバレットで動きを封じろ!」

 

小櫃が液体窒素銃に兵装変更し、尚も警官を殴りつけようとする男の足元を狙う。ロバートも小櫃のアドバイスに従った。

 

「これよりフリーズバレットの使用を許可する!」

 

ロバートの掛け声で、警官達は拳銃とは別にホルスターに入れていた銃――青い液体が充填されたボトルの付いた銃を構え、小櫃同様男の足元目掛けて発砲する。着弾地点は気化熱が奪われ、急速に凍結していく。

 『フリーズバレット』。液体酸素を弾丸状のカプセルに圧縮封入して発射する銃だ。八年前までは特殊部隊にのみ支給される武器だったが、現在は巡視員も標準装備している。…近年の治安の悪さが大きな理由である。

 

「一箇所に集中攻撃し凍結させて動きを止めろ! そしてオビツ、凍結部位を破壊せよ!!」

 

 言われるまでもない。心中で呟きつつ、小櫃は人差し指でトリガーを押さえ、バイオエナジーを極限までチャージする。男の左足が完全に凍結した直後、小櫃は地面すれすれを舐めるように走り出す。バッタに似た動きで跳び上がり、空中で中指のトリガーを引いて銃口を展開して、

 

「砕け!!」

 

アームキャノンを装備した右手で、正拳突き、同時に発砲。銃の限界まで圧縮されたバイオエナジーが一挙に解き放たれ、拳の勢いに乗って炸裂する。爆発。その衝撃は、堅固な装甲を厚い氷ごと砕く程だった。

 生身の足さえ見えてしまえば、後は簡単なものだ。露になった毛深い足を掴み、まだ装甲に覆われている部分の、身体との隙間に銃口を当てる。ダイヤルを回し兵装を変更、トリガーを引き、隙間の中にバイオエナジーを流し込む。そして、

 

「眠れ」

 

トリガープルと同時に、装甲内部で爆発が起こる。それきり、男はぴくりとも動かなくなった。

 走り出してから男を沈黙させるまで、六秒。それだけだ。

 

 「…殺したのか」

「いや、全身火傷しているだろうが、命に別状はない」

「なら良かった」

 

今回も、依頼は成功といえるだろう。

 

「報酬は幾らだ?」

「三十万貰おうか」

「分かった、明日にでも口座に振り込んでおこう。皆、無事か? 犯人を拘束するぞ」

 

 ロバートが部下達に指示を出していく傍で、小櫃はぼんやりと、空を見上げた。

 これが本当に自分の求めた正義なのだろうか。バウンティハンターとしての活動が、バウンティハンターであることが、本当に自己の正義を実現する道なのだろうか。バウンティハンターは、治安の悪さにつけ込んで、報酬という名の腐肉(恩恵)を貪るだけの腐肉食者(スカベンジャー)なのではないか。…あの女が言ったように。

 

 「小櫃さん」

 

背後から声を掛けられ、小櫃はゆっくりと、体全体で振り向いた。外はねの癖のある黒髪を背中まで伸ばし、肩アーマー付きの防弾ローブを羽織った少女――小櫃の弟子、徳嵩(とくたけ)奈菜子(ななこ)だ。

 

「どうした」

「のどかさんに頼まれて、迎えに来ました」

「わざわざ済まないな。では、行こうか」

 

 二人で自宅に歩き出しても、彼の苦悩は消えない。

 どこか…どこか違う場所、違う世界で、‘正義’をやり直せれば――

 

 

 

 

 

 西暦二一〇三年。地球環境の改善の為に予てから計画されていた火星への移住計画『プロジェクトヘヴンズスルー(Ploject Heavens-through)』の一環として、太平洋上に総面積九十六万五千平方キロメートルの巨大人工島兼大型マスドライバー施設『コーカサス(Koe Cusus)』が建造されていた頃。米軍二個大隊程の規模にまで拡大したイスラム原理主義者の過激派が、現地政府に対し本格的武装蜂起を開始。これを切っ掛けにして起きた、後に『第五次中東戦争』と呼ばれる戦争は、中東地域のみならず、アフリカ大陸全土を巻き込んだ大戦争となり、二一〇八年に終結した時点で、アフリカの人口は六十五パーセントも減少していた。

 更に追い打ちをかけるかの如く、過激派に裏で資金提供と煽動を行なっていた謎の反社会組織『VRANE(ヴレイン)』が、二一一一年、アフリカの黒色人種を率いてケニアを拠点に全世界に向け宣戦布告。世界各地の軍事大国が多国籍軍となり総力を挙げて鎮圧にかかるも、高機動多脚戦車(ハイマニューバレッグドタンク)や生体兵器など、その圧倒的な技術力の前に為す術もなく敗れ去る。

 しかし、後に『ブラスト・ハンドレッド(Brast Hundred)』、即ち‘百を爆ぜさせる者’と称えられるある少年の活躍によって、事態は急速に好転する。

 VRANEに抵抗するべくアフリカ各地に結成されていたレジスタンスの一員、アメリカ系ソマリア人エリオット・ウォーカーは、リーダーであるジン・アーカーズにVRANEへのスパイ任務を命ぜられていたが、敵の罠にはまって捕虜となり、自身も生体兵器に改造されかける。

 彼は洗脳される直前に脱走、同時に当時VRANEが開発中であったロボットアーム型新兵器、『ハイドラRX-2』を奪取する。生体兵器としての常軌を逸した身体能力と、左腕にはめたハイドラの力を借りて、エリオットはVRANE本部に単身潜入、破壊。これにより統制を失った組織は全世界からの総攻撃を受けて、二一一四年に崩壊する。かくしてエリオットはブラスト・ハンドレッドと呼ばれ後世まで語り継がれる伝説的英雄として、ある種神話のように語られることとなった。

 そして同年、遂にコーカサスが完成し、移住船での人口移動が始まった。

 ところが翌年の三月二十四日、コーカサスはダーカーク地区にて、突如として正体不明の生命体が現れ、人々を襲い始めた。誰が言ったか、それはやがて『エラー』と呼称されるようになった。

 急遽設立されたエラー対策本部の研究の結果、幾つもの不可思議な事実が判明する。

 普段は全長三〇センチメートル程度の白いヘビのような姿をしており、何らかの方法で空間を切り裂き別次元から出現、周囲の無機物を摂食・吸収してその形質を様々に変化させ、変異後の巨躯で以ってあらゆる生物に暴虐の限りを尽くした後、再び元の次元へと帰っていく、という行動パターンを繰り返す。

 体表に纏った真っ白な鱗は元素周期表にない未確認の物質によって構成され、その小ささ、軽量さに反して、既存の全ての兵器を無効化し得る驚異的な強靭性を持つ。

 都市部にしか現れず、陽動による郊外への移動もした前例がない為、強力な兵器は使用できない。

 八方塞の状況を、一人のマッドサイエンティストが打破してみせた。その名はリディア・ロイド。

 バイオエナジーの取り扱い技術を独占していた巨大軍事企業Gアームズとの技術提携(癒着)で生み出されたその対エラー用最終兵器『バイオドライブ』は、エラーの鱗が持つある弱点を突いた画期的なものだった。エラーの鱗は、生物の角質やエナメル質に触れると、それを触媒に急速に酸化し性質を失ってしまう。

 着用者(バイオドライバー)が個々の機に対応する雄叫び(ワイルドシャウト)を上げることによって起動(バイオバースト)し、内部に組み込まれデータ化されたDNAを体内に注入、バイオエナジーを超高速循環させて新陳代謝を異常なレベルにまで高め、注入されたDNAを元に体組織を一瞬にして再構成することで身体能力を著しく増強、着用者に眠る野生の闘争本能を呼び覚ます。「戦える兵器がないのなら、自分が兵器になればいい」のコンセプトで作られたバイオドライブはつまり、爪と牙でエラーと直接格闘し、できる限り小規模な戦闘でエラーを駆除するのが目的であった。

 リディアは開発中のバイオドライブ第一号・Nychusを弟のアルカの体内に埋め込み、彼の協力のもと、五年の歳月をかけて完成。二一二九年、対策本部に公開された基礎任務(ベーシスミッション)でバイオドライブの有用性を示し、バイオエナジーの取り扱い技術を頑なに秘匿し続けたGアームズ社長ハルベルト・フランケンシュタインも、昔からの付き合いだったリディアからの頼みで、幾つかの条件を呑ませた上でそれらを対策本部に公開した。そうして同年五月一日、アルカの他にバイオドライバーとなることを志願した5人と、戦闘向きの能力を持つインフィニタスの少年三人が正式に部隊として迎えられ、『エラー対策本部第26号独立機動小隊』、通称『Bio Force』が結成された。

 ようやく見え始めた希望の光。

 だが、人類が一つ島の上に住み、共通の敵が現れても尚、人類全てが真に団結することはなかった。

 二一二一年に人口移動が完了するまでの間に、オセアニアにて戦渦を逃れていたVRANEの残党が移住船に密航、コーカサスの裏社会で糸を引いていた。彼らはギャングや暴力団組織への武器提供と引き換えに莫大な資金を得、英雄への復讐、そして組織の再建を目論んでいたのだ。

 結果、コーカサスは国連直轄の地球最後、最大の国家にして、最悪の犯罪多発国家となっていた。食い潰した低所得者がギャングや暴力団となって暴れ回り、彼らを相手にバウンティハンターはハゲタカのように功を競う。

 ヒトはどこまで行ってもバラバラな生き物である。それを、この島の有様が証明していた。




コーカサスにいた頃の小櫃の仕事風景、そして小櫃のいた西暦二一二九年の地球の世界観設定を描写しました。
次回から、前回の話のちゃんとした続きになります。
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