東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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今回、大量の独自設定と原作キャラの大量死が登場します。ご了承下さい。
また無限者の設定の改良があります。これもまた自分の無知がもたらした結果であります。

十五年七月十九日、前書き、本文、後書き修正
   七月二十日、前書き修正


Still in a nightmare

 「――意識が戻りつつあるようです。小櫃さん、聞こえますか?」

 

化け猫の少女の声で、小櫃は目覚めた。

 

「え? あ、はい! すぐに行きます!」

 

小櫃が目を開け、その姿を認めるより先に、少女は障子を開けて部屋の外に出て行ってしまった。

 

「……」

 

酸素を求めて浮上するクジラのように、小櫃の意識、感覚が、徐々にはっきりとしてくる。見知った木目の天井、ずっと青々としたままの畳、微かに漂う薬品の匂い。永遠亭の一室で寝かされているらしい。しかし右手には、アームキャノンのトリガーとダイヤルの感覚が残っている気がした。

 夢――実際に経験した任務のプレイバックを見ていたようだ。

 小櫃は日本の埼玉県八潮市で生まれ、七歳になる直前に移り住んだコーカサスで育った。その故郷にも、もう二度と戻ることはない。

 エラーとの戦闘で命を落としたところを、紫の手で幻想入りさせられた。同時に決別したもの、それはバウンティハンターとしての自分、VRANE、身寄りのない自分を受け入れ『四島』の姓を授けた義父と義母、義弟達、同居人、戦友達、自分の師匠、岡部展人、親友、霧崎剣弐、そして自分のクローンの変異体…四島内穂。

 

 「…そうだ」

 

思考が明瞭になるにつれて、小櫃は自分の身に何があったのかを思い出してきた。強化合宿、道場の襲撃、遺体が所持していた小瓶の爆発。そこから先の記憶は途切れている。

 ふと、小櫃は視界の隅に、薬箱の上に置かれたクリップボードがあるのに気付く。何枚ものカルテを纏めて挟んでいるらしいそれを、彼は何気なく手に取り、しげしげと眺めた。

 

 

 

 

 

大妖精 (本名:ストラトゲイル)

発見場所:霧の湖

 

 生命反応なし。

 バイオバレットが腹部を貫通し、出血多量により死亡。エナジードライブ不可。

 

 

小悪魔 (本名:ディプロコ・キル)

発見場所:紅魔館地下、ヴワル図書館

 

 生命反応なし。

 バイオエナジーの爆発に巻き込まれ、皮膚組織と呼吸器を著しく損傷。直接の死因は酸欠による窒息。エナジードライブ不可。

 

 

姫海堂はたて

発見場所:天狗の里地下街

 

 生命反応なし。

 バイオエナジーを伴う打撃により腰椎を骨折、歩行不能に陥り衰弱死した模様。エナジードライブ不可。

 

 

聖白蓮

発見場所:天狗の里地上部

 

 生命反応なし。

 バイオブレードの攻撃により両腕、両足共に欠損。強姦された精神的ダメージによるショック死と見られる。

注:生命活動停止後、老化防止の魔法が解け、過度な老衰から体組織が急速に崩壊したらしく、遺体は原型を留めていなかった。衛生管理の都合上焼却処分する。

 

 

封獣ぬえ

発見場所:命蓮寺境内

 

 生命反応なし。

 エナジーディスチャージャーで拘束された状態で溺死した模様。エナジードライブ処置は間に合わなかった。

 村紗水蜜が脅迫を受け殺害したと自白している。この件については管轄外。

 

 

豊聡耳神子

発見場所:命蓮寺境内

 

 生命反応なし。

 バイオバレットが後頭部に直撃、即死した模様。エナジードライブ不可。

 

 

物部布都

発見場所:人里中央広場

 

 バイオブレードで全方位から刺突され、直立不動のまま死亡。

 エナジードライブによる蘇生が完了、経過観察中。意識回復を確認。

 

 

黒谷ヤマメ

発見場所:旧都郊外

 

 頚部をバイオブレードが貫通し、出血多量と外傷性ショックで死亡。発見時の状況から、自殺の可能性が高い。

 エナジードライブによる蘇生が完了、経過観察中。

 

 

火焔猫燐

発見場所:地霊殿中庭

 

 生命反応なし。

 何らかの人工レトロウイルスに感染、全身の細胞がアポトーシスを起こし、多臓器不全により死亡。エナジードライブ処置を行なうも効果なし。

 

 

風見幽香

発見場所:太陽の畑付近、風見宅

 

 生命反応なし。

 全身にバイオブレードによるものと思しき大小無数の切り傷が見られる。頭蓋骨が陥没、脳組織を損傷し死亡した模様。エナジードライブ不可。

 

 

 

 

 

 何の冗談かと思った。

 脳が受け付けなかった。

 だが、自分が小さな部屋にいるのではなく、襖を取り払った大部屋にいること、そしてその一番端にいる自分の周囲に、数十人が布団の上で顔に白布をかけていることに気が付くと、その無機質な報告書じみたカルテがいよいよもって現実味を帯びてきた。

 

「…何だ、これは」

 

 小櫃は起き抜けの身体を無理に起こし、一番近い死体のすぐ脇に上体を持っていった。左腕の感覚がないが気にならない。左肘で体を支え、視界の中央にそれを捉える。

 

「…っ」

 

意を決し、顔を覆う布を、少しずつ、少しずつ、下から捲っていく。青白い肌、首筋、そして緑色の髪。

 

「?!」

 

風見幽香。幻想郷に於いて最強クラスの大妖怪として名を連ねる存在。彼女は今、小櫃の目の前で物言わぬ屍と化していた。

 見回せば、死体、死体、死体。

 全て死んでいる。カルテに載っている分だけでは足りない。

 

 「気が付いたか」

 

障子を開け廊下から入ってきた人物の声で、小櫃は振り向いた。

 

「藍、これは一体どういうことだ?! 教えてくれ!!」

「待て、無理もないが落ち着け! 今から話す…」

 

立ち上がり、肩を掴んで詰め寄る小櫃を、その妖獣の女性は制した。八卦の萃と太極図を描いた中華風の服は、色こそ違えど賢者紫と同じもの。頭頂部の耳の形が判るZUN帽を被り、髪と同じ金色の尻尾を九本腰から生やしている。八雲藍。八雲紫の式である九尾の狐だ。

 小櫃を元の布団に座らせると、藍は彼の正面に座り、数拍後に口を開いた。

 

「…三週間だ」

「は?」

「小櫃、お前が強化合宿で襲撃を受け気絶してから、今日覚醒するまでの時間だ。きっかり三週間経っている」

 

小櫃は唖然とした。自分はそれ程の時間を無駄にしたのか? 藍の言う通り、この部屋にある遺体は全て小櫃の意識がないその間に死んだものばかりだ。だが、今の彼にとって優先すべきは、「自分のいぬ間に何があったか」であった。

 

「…藍、もう一度、単刀直入に訊く。何が起きたんだ」

 

尋ねられた藍は僅かに俯き、そしてすぐに小櫃に視線を合わせ直して、告げた。

 

「クーデター…いや、侵略だ」

「侵略だと?」

「幻想郷全域で、バイオエナジーの取り扱い技術を有する大規模な武装集団が展開し、破壊活動と殺戮を繰り返している。バイオエナジーの特性上、霊夢ですら歯が立たずに彼らの横暴を許してしまい、…この様だ」

 

 バイオエナジーの恐ろしさは、小櫃自身が一番よく知っていた。バイオバレットを受ければその痛みに耐えることなどできないというのもあるが、バイオエナジーは即ち不死殺しの力でもあるからだ。

 輝夜や永琳、そして竹林の掘っ建て小屋にすむ藤原妹紅は、不老不死の秘薬『蓬莱の薬』――その正体は人為的に合成された特殊な内分泌攪乱物質の一種――を飲んだことで『蓬莱人』になっている。細胞分裂の度にテロメアが延長される為無限に細胞分裂を行なうことができ、細胞やその機能は劣化せず癌化も起こらない。しかも外的要因によって体組織が損傷すれば、周囲の細胞が急速に脱分化、全身に分布する全能性幹細胞と共に増殖、再分化し、イモリやプラナリアのように再生してしまう。

 しかしバイオエナジーによる攻撃は、このプロセスにまで干渉・阻害し、蓬莱人の異常な再生能力を人間並みにまで弱体化させてしまう。小櫃のアームキャノンでふざけて遊んでいたてゐを輝夜が止めようとした時、誤射されたバイオバレットで輝夜の手首から先が千切れ飛び、永琳に薬を処方されるまで暫く再生しなかったことがある。妖怪に対しても通常の人間と同じように有効なのは、これと同様の理由である。

 そしてそれより恐ろしいのは、博麗霊夢の持つ『空を飛ぶ程度の能力』を無視して攻撃できる点にある。

 空を飛ぶ程度の能力は、既存の常識や物理法則などから「浮く」ことで、その影響を受け付けなくなるという、幻想郷に於いてはほぼ最強といえる力だ。特にその真髄『夢想天生』は、物体やエネルギー体、能力からの影響を受けなくなる、スペルカードとして制限時間を設けなくては勝負にならない無類の防御能力がある。境界を操る程度の能力が論理的創造と破壊の能力だとすれば、空を飛ぶ程度の能力はあらゆる道理を無視して行動する超越的な神の能力と表現できるだろう。

 ところが、この理不尽極まりない能力には、バイオエナジーが干渉できる致命的な抜け穴がある。博麗の巫女は代々人間、つまりヒトが務めてきた。ヒト以外が博麗の巫女になることはあり得ない。ということは、博麗の巫女がヒトという一種の生命体であるという大前提から逃れられない以上、「生命の根幹そのものへの直接攻撃」を防ぐ術などありはしないのだ。

 幻想郷の均衡を保つバランサーである博麗の巫女が、小櫃の操るバイオエナジーの力で調伏される。それは紫が描いていた最悪のシナリオだった。一介の外来人である小櫃が、幻想郷でも名のある巫女を倒しでもすれば、「博麗の巫女の何たるものぞ」と、その評判、地位は地に落ちることになろう。ましてやバイオエナジーという‘攻略法’を見つけたとなれば、こぞってそれを手に入れようと画策し、そしてそれが全てに行き渡れば最早誰も博麗の巫女を恐れなくなってしまう。その時こそ幻想郷の崩壊の時だ。

 だからこそ紫は、たとえそれが判明したとしても、バイオエナジーの取り扱い技術が流通しないよう、関わりが深く口の堅い素子やにとりなどの技術者以外には口外しないことを小櫃に厳命し、小櫃もそれを徹底していたのだが――情報は漏れていた。

 

 「博麗の巫女の抑止力は、最早機能していない。彼らは自らを『オリジンギア』と呼んだ。そして彼らを率いているのが、」

 

藍はそこで区切り、どこからともなく一枚の写真を取り出して、小櫃に渡す。

 

「源弾蔵だ」

 

 写っていたのは、横顔だった。眼光ばかり炯々とした、あの特徴的なやつれた欧米人のような顔が、薄暗い森を背景に、変わらぬ天狗装束の全体像と共に写っていた。

 

「…まさか」

 

小櫃の口から、殆ど独り言にしか思えない口調の否定が出た。本人も全く意図せずに。

 

「ん?」

「あ、いや…何でもない」

 

小櫃は慌てて首を横に振り、首を傾げる藍に対して自身の不用意な発言を取り消した。自分の失態から気を逸らすかのように、小櫃は自分の疑問を投げかける。

 

「だが、何故こうも長引いているんだ? 紫は動いているんだろう?」

 

それに対し藍は、悔しさを滲ませた表情で答える。

 

「紫様は、…敵に捕らえられている」

「何?!」

 

 再び狼狽し始める小櫃。藍は続けた。

 

「紫様が冬季に冬眠するのは知っているな?」

 

藍の主たる紫は、毎年冬になると自宅の一室に篭り、布団から出てこなくなる。後はそのまま春まで寝たきりだ。その頃には体重が半分近く減っている。

 

「今は初夏だぞ、冬眠などする筈が…」

「紫様は、寒さに弱いのだ」

「…寒さに?」

「冬期中、紫様は代謝を抑える形で眠っている。それこそヤマネのように。紫様はその弱点を突かれ、オリジンギアの手で人工的に冬眠状態に置かれているのだ。尤も、弾蔵本人には紫様をどうこうする意思はないようだが…」

 

八雲紫という妖怪は幻想郷でも最強の一角に数えられる存在だが、彼女は低温には極端に弱い。寒冷環境下では運動能力及び反射神経の不活性化に伴い、摂氏十度以下で身体能力の低下、更に氷点下に於いては基本的な生命維持に必要な器官以外の活動が完全に停止してしまう。

 管理者の不在――事実上の人質。

 

 「紫様がいらっしゃらない以上、我々だけで何とかするしかない。私は八意殿に協力を仰ぎ、オリジンギアに対抗する組織『ブロークンタスク』を結成した。現在、ルーミアとチルノの統べる門下生と有志の妖怪の部隊が、解放の為尽力している」

「……」

 

三週間。自分が眠っていた間に失ったものは、あまりにも大きかった。小櫃は俯き、苦々しく歯軋り、自らの無能に怒り嘆いた。

 今の幻想郷に、かつての秩序はない。泥沼の如き戦場だ。

 小櫃の悪夢は、終わっていなかった。




設定変更
蓬莱人:全身が全能性幹細胞→全身に全能性幹細胞が分布


※項目削除
この箇所にとんでもないネタバレを書いていたようです。申し訳ございません。
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