東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy. 作:影のビツケンヌ
前々から言おうとしていたのですが、自分の書く東方では、バイオエナジーの影響下に置く為に妖怪や蓬莱人達の生物的な側面を強調して描いています。バイオエナジー怖い。
十五年八月五日、前書き、本文修正
八月二十七日、本文修正
八月三十日、本文修正
十二月三十日、本文修正
十六年一月十八日、本文傍点形式修正
四月十七日、本文修正
環境BGM:メトロイドプライム2より『水底に眠る神殿トーバス』(雨天)
戦闘イメージBGM:モンスターハンター4より『唸る一匹狼』
雨。
この日はまだ入梅前だというのに、上空には厚いスレート色の雲が陰鬱に垂れ込め、そこから無数の大粒の水滴が弾丸のように地表へ降り注いでいる。アスファルトでの舗装もされない道は、降り始め数分の時点で既に泥濘だらけになっていた。
「ダスクイーターからブロークンタスクへ、指定ポイントに到着」
魔法の森南側の湿地帯。アームキャノンで武装しガスマスクを被った二十人程の男女が、雨に打たれながら、今まさに森の中に進入しようとしていた。それぞれの右肩には片牙のセイウチのエンブレム、左肩には闇の中に浮かぶ恐ろしげな歯がぎっしり並んだ口のエンブレム。
「…了解。これより、
ブロークンタスクの主力部隊、『ダスクイーター』。ルーミアが隊長を務める小隊だ。
「小櫃が起きる前に、この作戦は終わらせたいわね…」
無限流道場が襲撃され、バイオエナジーの取り扱い技術を持ったオリジンギアが台頭してきてからというもの、幻想郷でスペルカードルールが守られることはなくなってしまった。博麗霊夢の夢想天生がバイオエナジーによる攻撃――生体攻撃に破られ、博麗の巫女の絶対性は完全に形骸化。各地でオリジンギアが暴れ回る今の幻想郷に於いて必要なのは、純粋に戦闘に適した身体と能力、そしてどれだけ強い生体攻撃兵器を持っているかに終始している。
オリジンギアに抗戦するブロークンタスクは、幻想郷にバイオエナジーの概念を持ち込んだ小櫃とその武器『アームキャノン・ジェネラルカスタム』を保有していた。しかし前者は道場襲撃から未だ目を覚まさず、後者もその独特な形状の武器の取り回しを独力で会得するよりない。その反面オリジンギアは、ブロークンタスクの弱みを埋め合わせても尚お釣りが来る程のアドバンテージがあった。源弾蔵が持ち、それを用いてバイオエナジーに関する情報を盗んだとされる『過去を見る程度の能力』は、彼らの技術班に知識を与え、戦闘員がより使いやすい形に改良することを可能にする。ルーミアとチルノの奮闘によって、数と技術で勝るオリジンギアに対しブロークンタスクは何とか拮抗しているものの、戦局は泥沼化し、‘異変’は解決に至らないまま三週間が経過しているという異例の事態となっている。
「皆、ガスマスクはちゃんと締めてある? 森の瘴気は危険よ。私は大丈夫でも、人間が下手に吸い込めば五分で肺が腐るわ」
「
ルーミアの注意に、アルバートが代表して応える。ルーミアはそんな彼に頼もしさを感じつつ、同時に彼女の頭には、そういえば初めて会ったのはこの森だったな、と場違いな思考が過った。
一週間前、霧の湖北端に位置する洋館『紅魔館』が占拠された。紅魔館は、かつて幻想郷中に紅い霧を発生させ太陽光を遮り、またスペルカードルールが最初に適用された『紅霧異変』を起こした吸血鬼、レミリア・スカーレットとその従者達の住む館である。鬼の腕力と天狗のスピードを併せ持つとされる吸血鬼。その館を一体どうやって手中に収めたのか。命辛々脱出したメイド長の十六夜咲夜と門番の
命知らずな子供達作戦は、来たる紅魔館への侵攻の為の布石である。吸血鬼姉妹を仲間に加え、エナジードライブによって吸血鬼の(体質上でなく精神攻撃という意味での)弱点を克服すれば、大幅な戦力増強に繋がると踏んだ、永琳と藍の案だ。森の中に住む魔法使い、アリス・マーガトロイドの自宅周辺は瘴気が比較的薄い為、そこを簡易な中継基地とする。
本来なら、唯アリスの家に行き基地敷設を行なうだけであれば二十人もいらないのだが――二日前、アリス本人からブロークンタスクへの
「…! 師範代」
双眼鏡を覗き込んでいた一人が、ルーミアを呼んだ。
「隊長よ、ここでは隊長と呼んで」
「森の奥から、何者かがこちらに突き進んで来ます。 数は一、単独作戦行動のようです」
ルーミアはその言葉に従い、前方の森に意識を集中する。案の定、こちらに接近する妖力が感じられた。
「ワンマンアーミー…それだけの戦闘能力を持っているってこと?」
放たれている妖力の強さからして、リグル程度の中級妖怪だろう。しかし油断はできない。生体攻撃兵器は、扱い方次第でどんな戦力差も、あらゆる劣勢をも覆す可能性を秘めている。幾らルーミアにチョウゾから授かった能力があると言っても、「当たれば死ぬ」ことに変わりはない。皮肉なことに、アームキャノンのような生体攻撃兵器が、人間と妖怪が対等な条件で戦うことのできるスペルカードルールと同じく、弱小妖怪と大妖怪との力の差をなくしていた。
「…見えました!」
彼が喘ぐような声を上げるのと同時に、それは森の中から姿を現した。
全身タイツに似た灰色のぴったりとしたボディースーツの上から、胸部、腰部、前腕部、脚部に艶のない白色の装甲を身に付けた、長い茶髪の女。頭頂部に尖った耳、腰にはふさふさした尻尾を持つ彼女は、直後に大きく咆哮した。
「うおおおアアァァァアアァ!!」
「っ! ソーニー・ウルフ…今泉影狼です!!」
「皆、少し時間を稼いで! いつもの通りでかいのをお見舞いするわよ!」
ルーミアが騒々しい雨音にも負けない声量で指示を飛ばすと、ダスクイーター隊員達が敵――『
「これ以上我々の邪魔をするな!」
「こっちの台詞だ狼女! 愛国心はどこへ行った!!」
「フン、そんなものとうに捨てたわ!」
隊員の一人が怒りを露にするが、影狼は煽るように鼻で嗤う。
「皆ここで、バラバラになるがいい!!」
影狼が体を丸める。全身の筋肉が強張ると、装甲の随所に配置されたハーモニカ状の装置から、高密度の素粒子で構成された青白い光の刃――バイオブレードが、三十センチメートルにも亘る長さで形成された。彼女がソーニー・ウルフと呼ばれる所以、近接戦闘用攻防一体殻『山嵐甲型』である。
「撃てーッ!!」
「無駄だァ!」
過去に影狼と対峙し生き残った者達の証言の通りだと、隊員達は発砲を始めてすぐに感じた。彼女の鎧のバイオブレードは、アームキャノンで通常展開するものよりも遥かに高い出力で展開されている。体を曲げる度に折り重なるブレードは、全方位から放たれるバイオバレットを悉く弾いてしまう。
「
「馬鹿アルバートっ、前に出るな!!」
苛立ったアルバートが、仲間の制止を無視して走り出した。アームキャノンからバイオブレードを出力全開で展開し、影狼に斬りかかるが、機敏に反応した彼女は力任せに攻撃を撥ね退ける。そこから始まる剣戟。バイオエナジーの‘金属的な’側面の性質からか、刃と刃がぶつかり合う度に火花が散った。
「お前達の目的は何だ!!」
「滅茶苦茶にしてやるんだよ、この
人狼の身体能力を以って繰り出される激流の如き斬撃に、アルバートは的確に反応していなし、それどころか、時々に反撃を入れつつ影狼に問う余裕すらあった。
「博麗の巫女も妖怪の賢者も恐れるに値しなくなった今、我々は囲いの中で与えられる餌のような‘
「自由の意味を履き違えるな!! お前達のそれは、唯欲望のままに生きる
攻撃の応酬は止まるところを知らない。雨中で光線が乱舞する、その光景に隊員達は圧倒され、援護することもできずにいた。
「フーッ、フーッ、…!」
昂ぶるアルバートの身体。心拍数がどんどん上がっていき、血中に大量のアドレナリンが流れ出す。痛覚が鈍り、判断力が向上する。――この力は、程度の能力では分類されない。かつて小櫃の世界にも一人、同じ能力を持つ少女がいた。その名もなき力を、アルバートは持っていた。
左前腕から伸びたバイオブレードが上方から迫ってくる、そのチャンスをアルバートはものにする。自分のバイオブレードの出力を下げて受け止め、
「シッ!」
「っ?!」
影狼の右腕のすぐ脇をすり抜けて、ダイヤルを回しながらたったの二歩で背後に回り込む。狙うは、後背部に装着された半球形のバイオエナジー取り出し装置『エナジーコンバーター』。兵装が切り替わり、銃口が変形したのも確認せずに、
「
その場所へ猛烈な勢いで
「がっ!? しまった、ブレードが!」
パンチと共に浴びせられたバイオエナジーの小爆発は、山嵐のバイオブレードに用いるバイオエナジーの供給源を断つには十分だった。宙に溶けるようにバイオブレードは消え、薄い装甲に覆われただけの無防備な体が露呈する。勿論生体攻撃なら、出力さえ上げればその程度なんの障壁にもならない。
しかし止めを刺すのは、アルバートでも、ましてや二人を囲む隊員達でもない。
「
影狼は気付いていなかった。周囲の気温が下がっていることに。
「こっちよ、オオカミさん」
「上?!」
彼女がルーミアの声に上を向いたその時には、彼女の敗北は確定していた。赤熱した‘闇’を纏うルーミアは、もう既に発射体勢を整えていたからだ。
ルーミアの授かったグラップリングボルテージは、対象を捕縛し引き剥がしたり投げ飛ばすことのできるグラップリングビームの、対象物とのエネルギーのやり取りを行なうという拡張機能でしかなかった。意外にも、この機能はルーミアが元々保持していた『闇を操る程度の能力』と併用されることで、全く新しい使われ方をしている。
闇を操る程度の能力は、聞いただけでは強そうに思えて、実際には可視光線を吸収し発生した熱を妖力に変換するコロイド粒子を自分の周りに展開するというだけの、中小妖怪と比較しても強いとはいえないものだ。闇の中では自分も視界を失ってしまい、妖力への吸収・変換効率も悪かった。この能力にエネルギー吸収特性を持つグラップリングボルテージが加わったことで、ルーミアは熱力学第二法則に逆らって、つまり周囲の温度が低い状態でも、大気中の熱エネルギーを展開した闇から直接吸収できるようになったのだ。
そして吸収した熱エネルギーは、
「サーミックブラスター!!」
闇とグラップリングボルテージを介し、妖力と合わさって、強力な極太のレーザーとして放つことができる。
「ぎゃぁあぁあああぁああああああぁぁああああああああああああぁ!!」
劫火の柱が立ち上がる。降りしきる豪雨の中に、一匹の獣の断末魔の叫びが、雷鳴のように轟いた。
「人里に?」
コンクリートで塗り固められた閉塞的な灰色の部屋の中、革張りの長椅子に座った女と、トンボのような翅を持つ赤毛の妖精が話していた。
「そうだよ。人里及び食料プラントの制圧が目的らしいけど…」
「体のいいストレス発散って訳かい、そりゃあいい。あっはっはっは!」
女は笑い、自分の長い金髪を掻き揚げつつ酒瓶を呷る。数秒もせずに空になった。
「紅魔館は外と繋がってるからねー。スカーレットデビルがどうやって食材を賄っているのか不思議だったけど、供給源は外だった。押さえられやすいプラントではなく吸血鬼の館を乗っ取り、食料を確保する。流石は我らが総統だね! 考えることが違う」
「でも人里襲撃は道場の時みたいな総統の命令じゃないんだろ? 私は暴れられるからいいが」
「ならいいじゃん別に、細かいことは」
部屋に一つだけある扉が、油を差していないのか、ぎいいぃ、とかなり耳障りな音を出して外に開いた。扉を開けた妖怪が、外からしわがれた声で女を呼び出す。
「技術班が専用装備を完成させました。確認をお願いします」
「おう。じゃあグリプテル、私の星隈杯ちゃんと洗っておいてくれよ」
女は長椅子から立ち上がり、のしのし歩いて部屋を出て行った。グリプテルと呼ばれた妖精が、その場に一人取り残される。
「…脳筋は手間がかかるねえ」
彼女は呆れたように呟き、そのまますうっと消えていってしまった。
ラケットコワスター様の作品『東方幻想絆』とのコラボが決定しました。世界観上、無限者や及び孤戦漢と幻想絆が融和した幻想郷(海生によりシミュレートされている)が舞台となります。
これを機に『春夏冬海生の依頼状』シリーズを投稿できればと思っております。