東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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二ヶ月近く更新が遅れていたことをこの場を用いて謝罪致します。申し訳ありません。
今回は、前作で一度きりの出番だった人達が登場します。

十五年十月十三日、前書き、本文修正
十六年一月十八日、本文傍点形式修正

環境BGM:メトロイドプライムより『フェイゾンマインズ』(無人の人里)
                 『VS.サーダス』(ロクス登場)


Savagery from the boredom

 雨があがったお陰で、氷のバリケードも溶けにくくなった。チルノは少しだけ仕事が楽になることを嬉しく思った。雨の中一々氷を冷やして廻るのは面倒だし、レインコートは趣味ではない。そもそも、藍が配っていた半透明のレインコートはどれも安物――こんなこともあろうかとコンビニで買っておいた、とのこと――で、酷いビニール臭がするから嫌いだ。

 少し歩いてやってきた小さな家屋は自警団の詰所。入ってすぐの場所にある椅子にレインコートを脱ぎ捨てると、丁度その奥から、寺子屋でのかつての恩師の半獣が出てきた。

 

「状況はどうだ?」

「敵襲はないよ、今のところは。気が抜けないのは変わらないね」

 

青のメッシュが入った銀髪を腰まで伸ばし、胸元の大きく開いた青いワンピースを纏う女性。上白沢慧音。人里の教師であるワーハクタクだ。チルノも七年前までは彼女の授業に参加していた。

 

 「…何故、こんなことになってしまったのだろう…」

「……」

 

俯く慧音の嘆きに、チルノは同情を禁じ得なかった。

 妖怪も人間もなく、平和に日々を過ごすことができていた日常は、無限流道場襲撃事件と共に崩れ去った。今や人里の地上部にいるのは、チルノ率いる第九班(合宿中と同じメンバー)『アイスエイジ』と、人妖混合の里の自警団だけ。戦う意思と力を持たない者達は、オリジンギアの襲撃に怯え、空調付きで水と食料の十分な食料プラントに逃げ込んでいる。

 …いや、この世界の‘平和’そのものが、妖怪達の欲望を押し潰した上で成り立つ砂上の楼閣に過ぎなかったのかもしれない。異変を起こしその脅威を人間達に知らしめることさえできれば妖怪は存在を維持できるが、その解決手段はスペルカードルール――非暴力と不殺の規定が設けられた限定的な遊戯(ゲーム)であり、妖怪の多くが生来的に持っている闘争本能、ひいては殺戮本能を満たすことなど到底できなかったのだ。それが博麗の巫女という絶対的な力によって強制され、八雲紫を始めとした権力者達がその爆発寸前の火薬庫に蓋をしていた。

 そしてその危うい均衡を壊したのが、他でもないバイオエナジーの力だったのである。

 

 「全部、あの弾蔵ってのが悪いんだよ。そうに決まってる」

 

チルノは慧音を元気付けようとしたが、口から出たのは異変の首謀者にヘイトを向けるような言葉だけで、酷く後悔した。その一方で、自分の放言を何とか取り繕おうと、適当な理由を探す心もあった。

 小櫃なら、生体攻撃兵器をこんなことには使わない。その気になれば人に仇為す妖全てを撲滅し、人間達を恐怖から解放することのできた力を、彼は自らの正義を遂行する為だけに用いてきた。そのある種利己的ともいえる信念が、この幻想郷を、未来からやってきたイレギュラーを抱えたまま、今日まで生き長らえさせていた。

 だが、弾蔵はその技術()模倣し(奪い取り)、暴力的な者達に与えてしまった。彼らは唯己の低俗で野蛮な欲望の為だけにそれらを振るい、世界を内から腐らせていく。

 考えれば考える程、チルノの脳内には抑え難い憤怒が沸き起こっていった。

 その時、レインコートのポケットに入れたままだったハンディ無線機に通信が入った。

 

――チル姉、応答してくれ! 俺だ、ゴードン・ベネットだ!

 

無線を繋げてきた少年ゴードンは、合宿には参加していない。つまり第九班の人間ではなく、無線の周波数も知らない筈だ。しかしその喘ぐような調子にただならぬ気配を感じたチルノは、大方仲間に教わったのだろうと無理矢理納得してから、慧音と少し目を合わせ、無線機のスイッチを押した。

 

「私だよ、どうしたの?」

――人里南からオリジンギアの妖怪が真っ直ぐ接近中だ! 数は十四、あれは…間違いねえ、鬼だ!!

「鬼ぃ?!」

 

鬼。今の幻想郷に於いて、単独での戦闘能力に恐らく最も長けている妖怪。それが近付いていると知り、チルノは果てしなく震撼した。

 

――あいつらめ、とうとう本気で仕掛けてきやがった!

「狙いは、やっぱり?」

――食料プラントだ! 里の人間皆殺しにされちまう!

「ゴードン、今貴方どこにいるの?」

――南門の櫓だ、丁度いいや、この絶好の撃ち下ろしポイントから蜂の巣にがああぁあ?!

「ゴードン!? 返事してゴードン! ゴードン…!!」

 

無線機は、それきり沈黙した。

 

 「敵襲か!」

「…エレベーター前の広場を固めて。私の部隊で、戦力を削ぎながら時間を稼ぐ位ならできる筈」

「わかった。団員を集めて警固にあたる。脱出ルートの確保も急ごう」

 

仲間が殺されたとて、悲しみに暮れる時間などありはしない。一刻を争う事態だ。チルノも慧音も、一隊を率いる‘長’としての自覚故、今はその痛みを押し殺す。

 

「…武運を」

「大丈夫、昔はよく言ってたじゃない。“あたいったら最強ね!”って」

 

 

 

 

 

 幻想郷がまだ外界と物理的に繋がっていた時代、チルノは妖怪の山の頂上にある万年雪から生まれた。

 溶けない氷雪から生まれただけあって、妖精としては桁違いな力を持っていた彼女は、少女然とした妖精特有の幼さ故に孤独を嫌い、誰もいない山頂から単身麓に降りてきた。一緒に遊んでくれる‘仲間’を求めて。

 だが、彼女は仲間に受け入れられなかった。

 暖気を好む妖精達にとって、氷の妖精チルノは――『冷気を操る程度の能力』は天敵そのもの。その有り余る力をまだ制御しきれなかった彼女は、常に身体から冷気を溢れさせており、妖精達には近付き難い存在だった。

 どこに行っても、仲間を探して海まで出ても、山頂にいた時より孤独だった。

 「あたいったら最強ね」。孤独を孤高であると偽り、口癖のように言うようになったのは、この頃からだ。

 そんな折、独りでカエルを凍らせて遊ぶようになったチルノの元へ、一人の妖精がやってきた。長い時間を生きたことで他の妖精達より力が強くなり、いつしか‘大妖精’と呼ばれるようになった少女――天の突風、ストラトゲイル。

 「一緒に遊ぼう」。ストラトゲイルはそう言って、チルノを自分から仲間に誘った最初の妖精になった。

 チルノは嬉しかった。初めこそ素直にはなれなかったものの、彼女はストラトゲイルを大妖精からとって‘大ちゃん’と呼ぶ程の仲になり、そして位が高いが為に耐性があるとはいえ、ストラトゲイルに不快な思いをさせないよう、必死に能力制御の特訓をして、冷気は体から漏れなくなった。

 そのお陰かチルノの友人は増え、ストラトゲイルに加えて、ルーミア、リグル、そして夜雀のミスティア・ローレライの五人でつるむようになったが、やはり‘大ちゃん’の存在は特別なものだった。チルノがチョウゾの力『アイスビーム』を授かり、大妖精の更に上を行く精霊クラスの存在になってからも、ストラトゲイルはそれまでと同じように彼女と接した。

 最早親友などというありきたりな言葉では言い表せない。恩人だなんて他人行儀が過ぎるし、恋人ではベクトルが明後日の方向を向いている。

 兎にも角にも、チルノにとってストラトゲイルは、‘大切’という言葉の意味以上に大切な人だった。

 

 「…どうして」

 

だからこそチルノは、

 

「どうしてこんなことばかりするのよ、あんた達は!!」

 

そんな‘大ちゃん’を殺したオリジンギアを、許すことができなかった。

 今、彼女の目の前には、人里の警備に協力してくれていた妖怪達の亡骸が転がっている。十四人の鬼を相手に果敢に立ち向かった彼らは、例外なくその命を散らした。このままでは、彼女の後ろのアイスエイジ隊員らも、同じ道を辿ることになりかねない状況だ。

 チルノに愛国心は解らなかった。ルーミアの抱いている、チョウゾに選ばれた戦士としての自覚や覚悟も、いまいち実感が湧くものではなかった。極単純に、唯ひたすら自分の守りたいものの為に戦えばいいとだけ考えていた。

 名誉の死などなく、唯死をもたらした者を憎んだ。

 大切な‘大ちゃん’を奪ったオリジンギアを、恨んだ。

 自分の作る氷も溶けてしまうのではと錯覚させる程、鬼達を睨むチルノの形相は憎しみと恨みの熱気を放っていた。

 

 「どうして、だって?」

 

一番後ろにいた鬼の一人が前に出、他の鬼達は()()に道を開ける。粗暴ながらも恭しいその所作からは、彼らが彼女に絶対の信頼を置いているのが見て取れた。

 ギラギラした長い金髪、額からは黄色い星が彫られた赤い一本角が生え、動きやすそうな体操着様の服と、赤いラインの入った青い半透明のロングスカートを身に付けている。そして全身の至る所の筋肉が山脈のように盛り上がり、女性らしからぬ隆々としたフォルムを形作っていた。

 星熊勇儀。‘語られる怪力乱神’の異名を持ち、かつての妖怪の山に於いて四天王と呼ばれた鬼の一人。京都大江山では‘星熊童子’の名で恐れられていた、古文書にも記述の残る最強クラスの鬼だ。

 

 「私だって、つい最近までは無益な殺生はしてこなかったし、スペルカードルールにも従ってたさ。だが上が言うには、それじゃ妖怪全体が弱っちくなるんだと。こいつらも暴れたくてうずうずしてたしな、参加させて貰ったよ」

「それだけの理由で?」

「十分な理由じゃないか。私達妖怪、いや…精神体(マインドフォーム)にとっちゃ」

 

そうだそうだ、と鬼達から野次が飛び、チルノは唇を噛んだ。悔しいが否定できない。強大な力を手に入れたとはいえ、自分も(あやかし)の端くれ。人間に存在を信じて貰うことができねば、それは‘種としての死’に直結する。()()()としては強くとも、精神に依存し過ぎた彼らは、他の知的生命体(バイオフォーム)による信仰の喪失に伴う消滅の危険性と常に背中合わせでいるのだ。

 

「それに、さ」

 

男勝りな勇儀のその顔に、ふっと影が差す。彼女は両手を左右に広げ、自虐的な笑みを浮かべてチルノに問うた。

 

「私達みたいな暴れ者が、他に何をすればいい?」

 

 その一言で、チルノは気付いた。自分達の繁栄が、安寧が、幸福が、全て彼らのような誰かの不幸の上に成り立っていたことに。

 全てが仮初めで、虚偽のものだった。その点でいえば、初めから成り立ってすらいなかったのだ。彼らは幻想郷の制度に不満があったのではなく、元は幻想郷の制度によって抑圧されてきた被害者だったのだ。

 ならば、自分のしていることの意味は何だ? この抵抗さえ賢者達の思惑の一環で、自分はそれまでと同じ欺瞞に満ちた平和を取り戻す為に戦っているのか?

 チルノはその巨大な矛盾を知り、石膏で固められたかのように動けなくなってしまった。自分が守ってきたものの意味や根拠が、目の前で音を立てて崩れていくのを感じて、力を失ってしまったのだ。

 

 「さあて、無駄話はここまでだ。私と戦いな、氷精。どちらがより強いのか、決めようじゃないか」

 

一足先にそれまでの調子を取り戻した勇儀は、その場に仁王立ちし、チルノに勧告する。勇儀には、目前の強者と戦うことしか眼中になかった。

 そう、目前だけ。

 

 「ほう? では最強の座を賭けて、拙者と決闘するというのも吝かではあるまい?」

 

地の底から来るような、それでいて頭の中に直接響くような、重々しい声。その正体を知る者は、ここにはチルノしかいなかった。

 

「…ロクス…!」

 

はっと顔を上げたチルノがその名を呟いた瞬間、勇儀との間の地面から、握り拳大の石が飛び出し、ピアノ線で吊られたような動きで宙に浮かび上がった。

 刹那の静寂。

 誰もがその場で凍り付いたその時、彼らの踏み締める地面は低く唸り震えて、チルノと勇儀、その両者の間に向けあちこちから大小様々な岩が飛んできた。あるものは家の庭から、またあるものは土の中から、それらは渦を巻いて立ち上がり、互いに寄り集まって、五階建てのビル程もあろうかという岩の巨人の姿をとる。

 

 「何だあれは?」

「巨人…?」

「岩が動いてやがる!」

 

鬼達が口々にその正体を思案する中、巨人の左肩に、セーラー服姿の少女――素子が現れた。

 

「全く、久々に帰ってきてみればこの有様とは…少しお灸を据えてやらないとねぇ」

「素子…帰ってきたのね」

 

窮地に躍り出た友人に、チルノは胸を撫で下ろす。そんな彼女と勇儀との先の会話を一部始終見ていたらしい素子は、顔は勇儀に向けたまま、チルノを諭すようにゆっくりと話し始めた。

 

「チルノ、確かに勇儀さん達は紫さんみたいな人達に抑え付けられてきたのかもしれない。でも、だからってオリジンギアとして犯した罪が消える訳じゃない」

「拙者とて勇儀殿と同じ妖。故にその思いの程は身に染みて分かる。されど、今はこの外道に鉄の拳を!」

 

素子の言葉に、ロクスと呼ばれた岩の巨人が――姿を見せる直前に轟いたのと同じ声で――励ましを込め付け加える。そして言うが早いが、素子はロクスに命じた。

 

「ロクス、行動の責任は取るから、貴方の主として命じます。この者達に、大地の力を以って鉄槌を下しなさい!!」

「了承したぞ、主よ」

 

 素子の命令に応じてロクスが半歩にじり寄り、鬼達が思わず後ずさる中で、勇儀だけが仁王立ちの姿勢を崩さずにいた。彼女はロクスに問う。

 

「決闘なら受けて立つよ。私は星熊勇儀、あんたは?」

「…我は地。全ての下にて全てを支え、灼熱の憤怒で以って試練を与えし父也。我が名はロクス、推して参る!」




わかる人はわかると思いますが、ぶっちゃけロクスはサーダスのオマージュです。というかモロパクリに見えるかもしれません。
フェイゾンがないからパクリじゃないもん!(詭弁)w
でも放射線とかを抜きにすれば、間違いなくロクスの方が強いですね。その辺の設定とかは次回明らかになる予定です。
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