東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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今年最後の更新。
今日で東方無限者シリーズは二周年を迎えます。十二月三十一日二十一時三十六分、わざわざ予約投稿を使ってまで二年前の投稿日時に合わせました。w
今後とも、このビツケンヌめの拙い戯れ事にお付き合いくださいませ。

今回の話は、あまり目立った動きのあるものではありません。至ってクールに、シリアスです。

十六年一月十八日、本文傍点形式修正

環境BGM:メトロイドフュージョンより『Sector 1』(占拠された夕暮れの紅魔館)


Go ahead for glorious peace

 地霊殿は、旧都の中央南寄りに位置している。荘厳な佇まいの白亜の洋館は、外壁の各所でバイオエナジーを充填したカートリッジを弾薬とする自動防衛砲台(タレット)が守りを固め、その内側でもアームキャノンを標準装備した歩哨が巡回し、更に屋上にはスナイパーが常駐しており、警備体制は万全といえる。ホワイトハウスもびっくりだ。

 この建物の一室――元々物置だった部屋の中で、女が一人、天井から伸びた粘着質の‘糸’で手首を吊るされていた。顔には麻袋が被せられ、額から伸びた角が突き刺さり飛び出し、そしてその角に刻まれた星型の紋様が、つい数時間前ロクスに破れた鬼の四天王が一人、星熊勇儀であることを寂しげに主張している。

 そして。

 

「ええい貴様ァ、正直に言わぬと焼き尽くすぞ!!」

「ぐっ」

 

様々な道具で勇儀を殴り、突き、はたき、あの手この手で痛めつける女の姿もあった。

 鈍い銀髪のポニーテール、同色の瞳。黄と緑の衣の上に水干や狩衣(どちらも平安時代の着物)に似た白装束、濃紺のスカートを纏い、黒色の靴を履いている。部屋の隅に置いた烏帽子は彼女のものだ。幻想郷に於いても時代遅れな感が否めない服装の彼女は物部布都。十年前に千四百年の眠りから覚め、尸解仙として復活した道士であり、オリジンギアに殺害された聖徳道士・豊聡耳神子の部下である。

 

 「まだ口を割らんのか」

 

扉を開け、水を満たしたブリキのバケツを持った女が入ってくる。錆青磁色のウェーブしたボブカットで、濃緑色のロングスカートのワンピースを着ているが、裾から出た脚は霊体で構成され人の形をしておらず、彼女――蘇我屠自古が亡霊であることを物語っている。

 

「おお屠自古、遅いぞ! こやつなかなかに強情でな」

「あんたのやり方が温いんだよ、どいてろ」

 

言うなり、屠自古は持っていたバケツを力一杯放り、中の水を勇儀にぶちまけた。彼女も部屋の床も一瞬でずぶ濡れになる。それにも鬼は動じない――否、無抵抗というべきか。

 

 「…さて、そろそろ本気を出していくぞ」

 

バケツを置いて勇儀に向き直った屠自古の身体に、バチバチと紫電が這い回る。かの有名な大怨霊・菅原道真がそうであったように、彼女もまた落雷を発生させる力『雷を起こす程度の能力』を持つ。怨霊の持つ怒りや憎しみが、雷という形で現れるのである。

 

「今、私の身体は一千万ボルトの電圧で帯電している」

 

屠自古もまた、布都と同じ境遇の仲間だ。神子は幻想郷の異変を察知して命蓮寺に向かった際、待ち伏せていたオリジンギアの隊員にバイオバレットで頭を撃ち抜かれた。敬愛していた神子を殺されたことへの憤怒、オリジンギアに対する憎悪、それが屠自古の操る雷電を徒に滾らせていた。

 

「こいつはどうだ?」

「ぐぬぅあっ…!」

「さあ、吐け。貴様らの次の計画は何だ?」

「ガアアァッ…!?」

 

屠自古は勇儀に手をかざし、電撃を浴びせつつ問う。だが、

 

「……」

 

彼女は無言を貫き、首を横に振った。

 舌打ち。屠自古の顔が歪んだ。

 

「ゴファアアアぁア?!」

「さあ、言え! 博麗の暗殺か?」

「ドァアガアアゥアアアアアあああ!?」

「それとも八雲を人質にしての取引か?」

 

拳に雷を纏わせ、急所に叩き込む。そして問う。高圧電流と殴打の二段構え。尋常でない苦痛を与えられている筈なのに、勇儀は応えようともしない。

 

「ふん、見上げた根性だ。流石は鬼だと言いたいところだが…いつまで持つんだろうな?」

 「止めなさい!」

 

蝶番が外れそうな程にドアが激しく開け放たれ、ウェーブした空色の髪を持つ法衣姿の尼僧が乱入してきた。

 

「貴方達は何をしているの!」

「事情聴取だ」

「拷問でしょう!!」

 

尼僧――雲居一輪の制止にも耳を貸さず、屠自古は勇儀を殴り続け、布都はそれをいい気味だとばかりに傍観している。

 

「こんなことをしていては、貴方達も奴ら(オリジンギア)と同じよ!」

「だからやってんのさ。因果応報…元は仏教用語だし、あんたもわかるだろ?」

「そうともよ。我らもお主らも、敬い慕った方が殺されたのは同じであろう?」

 

何を、と反駁しようとする一輪だったが、言葉が出ず、口を小さくぱくぱくさせることしかできなかった。実際、命蓮寺を纏める住職だった聖白蓮は、生体攻撃への対抗手段を持たぬ他の信者達を守る為、自らオリジンギアの虜囚となり、死んでいったのである。

 それを再び思い出した彼女の中に、後ろ暗い不信感のような何かが芽生えた。オリジンギアの真の狙いは、本当は幻想郷の上位に位置する者達への叛逆などではなく、むしろその手段こそが目的なのではないか、と。

 実は密かに、一輪は弾蔵という妖怪に対して、ある種畏敬の念を覚えていた節があった。種族も考え方も違う数え切れない程の部下達から、‘総統’と呼ばれて崇められ慕われるそのカリスマ性に、聖と似たものを感じたのかもしれない。

 故に、彼女は考えてしまう。

 スペルカードルールというぬるま湯に浸かってふやけた世の中を、再び混沌の世界へと誘うこと。紛争が紛争を呼び、更に新たな怒りと憎しみを生み出していく負の連鎖の中で、例えば勇儀のような、戦うことでしか自分を表現できない者達の生態圏を拡大させていくことが、源弾蔵の真意なのだとしたら――

 

 「無駄です。その人は口を割りません」

 

しかしそんな一輪の懐疑も、藪から棒に部屋に入ってきた化け猫の少女の声に途絶させられてしまう。

 

「む、八雲の化け猫…」

「鬼は約束を守る生き物です」

 

赤い前掛け以外は主人と同じ中華風の服。緑色のZUN帽の下から、焦げ茶色のセミロングヘアーと尖ったネコの耳を出し、腰からも二本の長い尾を生やしている。八雲(ちぇん)。永遠亭で小櫃が目覚める直前彼の定期検査をしていたのも、人里に援軍を率いてやってきたのも彼女だ。

 

「そもそも、その人は情報を持っていない」

「貴様、こやつの肩を持つのか?!」

「貴女の方こそ、私を疑うというのですか?」

「っ! …いや…」

 

布都が食ってかかるが、橙にずかずかと詰め寄られてたじろいだ。自分より二回りも小さな妖獣の少女、それが放つ気迫に気圧されたことに、布都は動揺した。十年と経たぬうちに、この小童(こわっぱ)はここまで成長したのか、と。

 元々橙に八雲の姓はなく、藍に使役される一介の式神兼中小妖怪でしかなかった。ここ数年間で、式神として精神的・肉体的・能力的に成長して初めて、彼女は紫に八雲の姓を与えられ、八雲家の仲間入りを果たしたのだった。

 

 「…その人は、ここに来た時古明地さんと会っています。読心(リーディング)に間違いはありません。重要な機密というのは、始めから下っ端には教えられないものなんです。知る必要(need to know)の原則で…」

 

知る必要の原則。知る必要のある者だけに情報を開示する、言い換えれば知る必要のない者には情報を与えないというもの。例を挙げれば、「このコンテナを守れ」と命令された兵士は、コンテナの中身を一切知らされない、ということだ。

 オリジンギアが台頭する以前から、幻想郷には、人里の人間達に知らされない様々な‘機密事項’があった。妖怪達の‘食料事情’を始め、天狗の里の近代的地下街、二十年前に起きた『永夜異変』の真相、そして十年前の『輝針城異変』以降行方を眩ませている天邪鬼・鬼人正邪が捕らえられたというカバーストーリー…管理者は、小さな世界一つの均衡を守る為に嘘を吐き続けねばならなかった。橙は、そう藍から聞かされていた。

 

 「そうでしょう、星熊さん」

 

橙は振り返り、力なくぶら下がる勇儀を見やる。程なくして、鬼は小さく頷き、そして微かに(わら)いながら問うた。

 

「あんた…本当に橙かい?」

「…ええ、橙です」

 

化け猫は微笑み、返答する。「そうか」と勇儀。自分の知っているのとは違う、大人びた雰囲気を感じ取ったのか、嘆息と共に感慨深げに漏らした。

 

「…しばらく見ない間に、立派になったもんだねえ…」

 

 廊下に設けられたスピーカーが、部屋の中に情報を届けてくる。眼前で繰り広げられるやり取りに見とれ、影の薄くなっていた一輪が、はっと我に返った。

 

――臨時拠点中庭にて、緊急集会を行なう。現在任務に就いていない者は大至急集合せよ。任務中の者については、報告用周波数にてライブ放送する。通常作戦規定に基き、以降その周波数は…

「集会だそうです。お二人共…」

 

緊急とあらば是非に及ばず、先程とうって変わってどこか酷薄な橙の視線を受けた布都と屠自古は、しぶしぶといった風に部屋を後にする。扉が閉じた直後に、ガスッ、と、壁を殴る音が聞こえた。

 橙は足音が遠のいてから、「それでは」と勇儀に丁寧にお辞儀し、ドアノブに手をかける。そしてそれを回す前に、

 

「雲居さん」

 

一輪に向けて言った。

 

「源弾蔵は敵です。ですが、このような戦いは本来彼の望むものではない。目的の為に手段を選ばなかったのではなく、選べなかったのでしょう。彼の為にも、私達は襲い来る脅威に立ち向かわねばなりません。…終わらせましょう、この戦争を」

 

橙は静かにドアを開け、先の二人が向かったのとは逆の方向に去っていった。

 

 「あんたも行きな。私は逃げやしない。ここでゆっくり、自分の罪と向き合うとしよう」

 

勇儀に促され、一輪もおずおず部屋の外に出る。

 

「…ふっ」

 

橙の言葉の意味を十数秒かけて理解し、一輪は自嘲した。自分よりずっと年下の妖獣に見透かされる程、弾蔵という人物への思いが表出していたことを。

 聖の為、あの男の思いの為、そしてこの世界(幻想郷)の為――。彼女はこれからの戦いに向け自分を奮い立たせ、布都らを追うように一歩一歩踏踏み締め歩き出した。

 窓から見える中庭に、ブロークンタスクの隊員達が続々と集まっていた。

 偉大な英雄の帰還を、皆で出迎える為に。

 

 

 

 

 

 「…リバース・ラバーボアとメタモル・ラクーンドッグからの連絡だ。白狼天狗の詰所の攻略・占領に成功。魔法の森部隊は予定通り撤収完了。ソーニー・ウルフが戦死、マイティー・テイガーその他十数人が捕縛されたとさ。抵抗の意思はないらしいぜ」

 

ところ変わって、ここは吸血鬼の館、紅魔館。山の稜線の向こうに消え行く太陽が、その名に恥じない紅色で塗られたレンガ造りの壁に、その日最後の光を投げかけている。

 日光を嫌う主の為小さく作られた窓からの西日を浴びながら、コートを羽織ったあの妖怪と弾蔵が、並んで廊下を歩いていた。

 

 「そうか」

「今のところ戦果はまずまずってとこだな。奴ら拠点を守矢神社からどっかに移したらしい、早急に見つけてぶっ潰すぞ」

「まだだ」

「は?」

「まだ泳がせておけ」

 

弾蔵の言葉に、妖怪の足が止まる。気にせず歩みを続ける弾蔵に置いて行かれそうになると、彼は慌てて元のポジションについた。

 

「泳がすって親ぶ…じゃなくて総統、何言ってんだ? せっかく技術班に()()()()開発させたってのに、宝の持ち腐れだぜ?! 今度だってこんなデカイの…」

「ゴンザ」

 

手に持った設計図のような紙に指を突き付けて弾蔵を問い質すが、静かに強く名を呼ばれ、彼は押し黙る。

 

「…いや、バレット・エイプ。勘違いしているようだが、これからは()()()()のような快進撃は見込めないと思え」

「何で?」

「恐らく、既に四島小櫃が目覚めている頃だ。戦力は格段に増大し、戦術・戦略もより高度化、相手の士気も上がるだろう。まずはここの守りを固めるんだ」

 

苛立たしげなゴンザに、至って冷静に対応する弾蔵。腕を組み、赤い目に太陽光線が突き刺さるのも厭わずに窓の外を睨む。

 

「それに、例の‘忍者’のこともある」

「忍者っつーと…ああ、あの強化外骨格の」

「正体は知らんが、作戦の支障になっているのは間違いない。邪魔な時はジグを躍らせてやれ」

「…言われるまでもねえさ」

 

 すぐ先の角から、粗雑に調理された食べ物を載せたサービスワゴンが現れた。それを押しているのは、傷や痣だらけの妖精メイド二人。服はあちこち破れ、申し訳程度に体裁を為している。それらが妖怪二人の横をよろよろと通り過ぎた。

 

「…幾らなんでもやり過ぎじゃねえかな、ありゃ」

「仕方のないことだ。敗者は、踏み躙られる…」

 

含みのある言い方をする弾蔵。それがゴンザの胸に、小さく刺さった。

 

「だから…戦いを始めたからには、俺達は勝者を目指す。求めたものを実現させる為に」

「…そうだな総統、あんたの言う通りだ」

「俺は部屋に篭って次の作戦を練る。バイオシールド発生装置のメンテナンスを怠るな」

「合点承知の介」

 

指示を受けたゴンザはのしのしと歩いて、妖精メイドの出てきた角を曲がる。弾蔵は立ち止まり、塀の内側を警備している戦闘員達を見下ろした。コンッと一発、歯を鳴らす。

 

「……」

 

 戦いは、まだ始まったばかり。

 その中で、幾つもの思惑が動こうとしているのを、彼は直感していた。




次回でState 2.終了、ようやく鈴仙が出ます。
ここまで空気のメインヒロイン、活躍なるか?!w
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