東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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今回でState 2.は終了です。
書いているうちに内面描写の不足が見え見えになっていたので幾つも書き足しました。劣化が激しい…どうしちゃったのよもう。


Operation: fighter's honor

 約一時間の仮眠を終え、小櫃は地霊殿の廊下をやや急ぎ足で歩いていた。館内放送に叩き起こされ、集会の前にやるべきことを思い出したのだ。

 永遠亭にてジェイビークから人里襲撃の報せを受けた小櫃だが、援護を素子とロクスに任せ、彼は永琳と共に、迷いの竹林奥地にある地下道から地底に降りた。最早遺体安置所と化し、医療機関としては殆ど機能していない永遠亭だが、そこに保管された大量の薬品を二人で持ち運ぶことは叶わず、まだその場に留まっているジェイビーク、てゐ、輝夜、そして妹紅が、後で残りを持ってくる手筈になっている。

 

「うむ…」

 

 自分の出番まで束の間の休息を与えられた彼は、しかしどうももやもやとした気分であった。

 何か、何かが決定的に足りていない――

 

「!」

 

がばっ、と、それが感覚の薄い左腕に抱き付いて、それこそが不足したものの正体だとようやく理解した。まるまる十秒、ともすると鬱血しそうな程抱きしめた後で、

 

「よぉし、小櫃分充電完了!! おかえりなさい、小櫃!」

 

その人物、鈴仙は満面の笑みでのたまった。それで小櫃も、煩わしい心の空白を埋めることができた。

 再会するなり、彼女はそれまでの自分の状況を矢継ぎ早に説明する。

 ジェイビークが小櫃の覚醒を予知し、そのほぼ正確な日にちは自分にだけ教えられていたこと。アームキャノンを持ち出し、隊員に加わった則夫の能力で大量生産、隊に配布したこと。にとりと共に、空のサイボーグ化手術の助手を務めたこと。その後永遠亭を離れ、ブロークンタスクの衛生兵(メディック)として活動し、戦場を転々としていたこと。

 その一つ一つを呑み込み、小櫃は告げた。

 

「…苦労させたな」

「なんてことないよ。それに、」

 

鈴仙は(かぶり)を振り、右手を銃の形にして上向けてから続けた。立てられた指先は紫色の波動がうねり、蛍光する同色の電気が迸っている。

 

「私もね、チョウゾに選ばれた戦士になったの」

「…ほう…それは、ウェイブビームか」

 

 ウェイブビーム。物質透過エフェクトによって障害物を貫通する波動状のビームや、超高圧電流に指向性を持たせた電磁波のビームを発射するチョウゾテクノロジーである。迷いの竹林に存在する鳥人族遺跡に安置されていたもので、八年前第一発見者のてゐが勝手に持ち出して使っていたが、「君は選ばれし者ではない」と言うジェイビークの手で遺跡に戻された。

 この玉兎は、自らの能力と最も相性の良い力を託されたのである。

 

「今までは私の位相変化じゃ生体攻撃を防げなかったけど、これがあれば大丈夫。私も、小櫃を守って戦えるよ」

「そいつは頼もしい限りだ」

「言ったでしょ、“貴方は私が守る”って」

 

 小櫃の脳裏に、八年前の出来事が去来する。平行世界に住むある半妖の能力で、鈴仙と共に幻想郷の存在しない世界へ飛ばされたことがあった。その半妖の協力で幻想郷に帰る術を見つけられたのだが、帰還直前、二人は小櫃の未来の故郷八潮を訪れた。

 そこで小櫃は初めて、鈴仙に自身の内面的弱さを見せた。元いた未来の世界で、周囲の人間からの過度な期待故に、誰からも守って貰えず、己の正義だけを頼りに孤立無援のまま戦い続ける羽目になっていた――その苦しみを吐露した。

 鈴仙はそれを受け止めた上で、「私が守る」と言った。立ち向かうことを、勇気を小櫃が教えてくれたからこそ、そう誓うことができた。小櫃のように多くを守ることはできずとも、せめて恋人位は守りたい。その想いが、鈴仙を内から強くしていた。

 ところで小櫃が行く先はというと、それは地霊殿の応接間である。眠る前に藍や永琳に協力を仰ぎ、新たな作戦を立案していた。その要となる者達を、予めそこに呼び寄せていたのだった。藍は別室に‘別の者達’を集めて指示している。

 『作戦司令部』の貼り紙がされたドアの前に辿り着く。ドアを開くと、そこはステンドグラスからの色とりどりの光に照らされた豪奢且つ寧静な部屋。素子、チルノ、リグル、橙、空、ルーミア、そしてアルバートが、ふかふかしたソファーに座り茶菓子を頬張りつつ待っていた。

 

 「すまん、待たせた」

「遅いですよ。私はさっきここに戻ったばかりですけど、わざわざ転進して来てくださったお二人のことも考えていただかないと」

 

橙の言う「お二人」とは、ダスクイーターの隊長と隊員、ルーミアとアルバートのことだ。アリスの無事を確認できたことで彼女の部隊の作戦は滞りなく終了し、二人は隊員達を森に残したまま、このブリーフィングの為地底に来ていた。ただ、

 

「……」

「……」

 

二人は傍から見ても様子がおかしい。双方若干顔が赤く、無言のままチラチラと相手を見、目が合うと気まずそうに視線を逸らしている。

 

「…どうした?」

「ああそれね、ここに来る時アルバートがルーミアと一緒に飛んだ訳だけど、お姫様抱っこで胸」

「Nooooooooooooooo! Hush now, fuckin' ice!」

「誰が糞氷(fuckin' ice)かッ!」

「はいはーい、デリカシーのない発言しなーい、チルノも噛み付かなーい」

 

危うく乱闘に突入しかける少年と氷精の間にリグルが割って入り、手馴れた様子で両成敗(デコピン)する。額を押さえて悶える様子から見て、かなり痛いらしい。小櫃は先のアルバートの反応から、‘触れてはいけないもの’を感じ取り、それについては捨て置くことにした。

 ルーミアとアルバートの様子から「察し」、会話に入らなかった傍観者達がニヤつく中で、唯一人()()()()()()()に疎い空だけが、何のことかわからずに首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 三分程して。

 

「さて、落ち着いたところでブリーフィング開始だ。集会まであまり時間がないからな」

 

ちょっとしたいざこざもあったが、それもすぐに普段の調子を取り戻し、皆が小櫃の話を聞く態勢になった。空気が切り替わる。

 

「鈴仙と一緒に地霊殿(ここ)を守ること位はできるだろうが、知っての通り俺はまだ本調子でない。そこでしばらく、お前達には俺一人でできることからできないことまでをやって貰いたい」

「All thingsじゃねえか…」

「普段なら、って意味だよ」

 

永琳が診た小櫃の腕の状況、橙が集めてきた各地域の情勢、ジェイビークを始めとした有識者達の意見を鑑み、藍が大綱を発案した後、小櫃と共に練り上げた作戦。これで名誉を挽回する。

 

 「まず、アルバート。お前にはHALO(ヘイロー)降下で紅魔館へ潜入活動をして貰う」

「HALO?」

「ああ、これについては後で個人的に詳しい説明が要るだろうが…」

「ちょ、ちょっと待って」

 

アルバートへの指示の途中、ルーミアが突っかかる。

 

「敵の巣窟に忍び込むなんて正気じゃないわ! それにアルバートはまだ十一よ、それ位なら私が行けば――」

「この中で適任はヒトであるアルバートだけだ。他の者には別にロールがある。お前とチルノは妖気が大き過ぎて潜入任務には向かん。それぞれ部隊を率いて紅魔館へ正面から攻撃を仕掛けろ。潜入完了まで注意を惹き時間稼ぎしてくれればいい、その後は速やかに撤退だ」

「何だよそれ…典型的なfeint operation(陽動作戦)じゃねえか…」

「何の為のODC(命知らずな子供達作戦)だったと思っている。誰かがスカーレット姉妹を助けねばならん。そしてそれにお前が選ばれただけだ」

 

小櫃はルーミアの反対をいなしてチルノにも併せて指示する。アルバートの文句も受け流した。

 

 「リグルは白狼天狗の詰所に向かえ。既に占拠されてはいるが、お前の能力で虫を使えば生存者の発見もできるだろう。可能であれば救助も頼みたい。妖怪の山周辺では無線での通信状況が極めて悪くなっている。発見時の連絡も虫を飛ばして行なえ」

「わかった。確か霧の湖に近い方の谷だったよね」

「橙は玄武の沢担当だ。通信障害は妨害電波の可能性もある。お前の調査で原因が判明し次第、増援の技術班を派遣しよう」

「了解です」

「空、お前は地上から間欠泉地下センターに行くんだ。モノポールドライブの普及で現役引退しているとはいえ、オリジンギアが利用しないとも限らん。自爆装置で吹き飛ばせ」

()()唯のおふざけだと思ってた…」

 

小櫃は続けてリグル、橙、空にも指示を出す。三人はルーミアやアルバートとは違い、異論なく自分の命を受け入れた。

 

 「そして素子、お前の任は冥界行だ。冥界との連絡が途絶えているらしい。藍が指揮する別の四人と共に状況確認し、幽々子と妖夢の身柄を確保してくれ。今のところ、これが最重要課題となっている」

「ラジャー!」

 

素子もノリノリで諒する。ブロークンタスクへの参加は今朝帰ってきたばかりの彼女が一番最後ではあるが、既に問題なく溶け込んでいた。

 

 「今それぞれに下した指令は、全て同時進行で並行して行なわれるのが本作戦の特徴だ。藍や永琳、ジェイビークや天魔等の指揮系統は忙殺される。情報伝達は可能な限り簡潔に纏めろ。ブリーフィングは以上だ、集会が始まるぞ」

 

 ぞろぞろと皆が部屋を出て行き、小櫃の脇に立ち話を聞いていた鈴仙が最後尾となる。

 小櫃の背中を追いながら、鈴仙はブリーフィング中に感じていた‘違和感’の正体を、腹の内で探っていた。

 まず小櫃は、基本的には人に指図するようなことはしない。そして無論、誰かの命令で動くようなことも絶対にない。それが今、彼は指揮系統即ち上層部からの指令で動き、上層部からの命令を彼女らに下している。彼が眠っていた三週間という時間が何らかの影響を及ぼしたのか、と考えたが、答えには至らない。

 そして能力で分かったのがもう一つ、ここ最近地霊殿では、ある一つの‘波長’が現れたり消えたりしていたのだが、それは橙の波長であった。波長が消えるなど並大抵のことではない。八雲家の者は、紫の能力を擬似的に再現し別の場所へ移動する術式を込めた札を所持しており、それを使っている可能性があるが、どうにも気に食わない。

 

 ――ちゃんと隊員全員の顔と波長を覚えておくべきかしら…

 

 「…あ」

 

思考に没頭し過ぎて足が止まっていたことに気付き、鈴仙は歩調を速める。

 追い付いた小櫃の横顔は、別段変わりないように見えたが、矢を番え引き絞られた弓の弦のように、キリキリと張り詰めた波長を感じた。

 そして更に前方の橙の方は、何食わぬ顔で、何食わぬ波長で、リグルと談笑しつつ歩いていた。

 

 

 

 

 

 平素は古明地姉妹のペットの動物達がのんびり過ごす場所である地霊殿の中庭には、ブロークンタスクの隊員達が犇めいていた。そこだけでは収まりきらず、四方を囲む建物の二階や三階から身を乗り出している者も多数見受けられる。

 北の端にある五メートル四方のスペースの中央には、真新しい朝礼台が設置されている。どこからか小櫃が現れ、そのステップを登り始めると、がやがやと騒がしかった中庭が急速に沈黙していく。

 英雄の帰還。

 

 「…まず、何も知らずにのうのうと眠りこけていたことを謝罪したい」

 

待たせたな、と。小櫃が続け、どっと歓声が上がる。

 偶像化されている。小櫃はそう感じた。

 

 「新たな作戦だ。この世界を、罪無き者達に等しく与えられた平和を取り戻す為の。俺達が光、俺達が正義だ」

 

 チルノや素子、ロクスから聞かされていた。オリジンギアの中には、それまでスペルカードルールに従っていても、潜在的に()()()()()を持ち得ていた者達がいると。

 

 「ダスクイーター及びアイスエイジは紅魔館へ総攻撃を仕掛けろ。拠点警備担当と技術班以外は可能な限り援護するように。指示があり次第撤退、態勢を立て直し各地域に散らばってオリジンギアを遊撃する。実行は明日の十時だ」

 

 彼にとってそれは、自分の正義の面でも看過できないものだった。しかし今は、それをどうこうできる訳ではない。それ以前の問題が山積みである。

 

 「いいか、俺達は戦士(fighter)だ。それぞれに戦う理由がある。命令に従って任務を遂行するだけの兵士(soldier)ではない」

 

 紫がこの世界に自分を呼び込んだ理由が、自分の管理する箱庭を守るのに必要な(刺客)としてのものに過ぎなかったとしても、第二の人生を歩み、己の正義を実現できるこの世界を掻き乱す行為を見逃すことはできない。

 

 「故に、これは俺達の名誉、尊厳の為の戦いでもある。血の混じった戦場の泥を舐め、仲間の屍を越えてきた、その雪辱だ」

 

 ならば今は、今位はイコンにでも何にでもなってやろう。幾らでも賢者達に利用されてやる。その中に、そしてその先に自分の真の目的があるのだから。

 

 「ではこれより、『戦士の名誉作戦(Opration: fighter's honor)』の発動を、ここに宣言する!」

 

 己の正義が、それを選んだ。

 小櫃は決意を再確認する。()()()()()()()()()()()()為に。

 

 「セイウチのマークに従え…」

 

ここにいる者達は、皆己の正義を右肩に縫い付けたエンブレムに求め表した。牙を折られた哀れなセイウチ――小櫃はそれを指し示す。そして数瞬の後、アームキャノンを頭上に高々と掲げ、

 

All hail Lotus Land!!(幻想郷万歳!!)

 

絶叫。

 

「All hail Lotus Land!! All hail Lotus Land!! All hail Lotus Land!! ……」

 

 小櫃が館内に戻っていくまで、ブロークンタスクによる幻想郷への讃辞が、木霊するように繰り返されていた。




どこか不穏なものを残して。

え? 自機組の出番はないのかって?
そんな焦らずとも…
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