東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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State 0.ではストーリーに本格的に入っていくようなことは基本的になく、説明回みたいなものだと考えて頂ければありがたいです。

前作の無限者に関わる描写がありますが、執筆開始当時の自分の無知により決定的な誤りを犯してした為、大きく流れを変えつつ繋げています。

十五年七月五日、本文行間修正
十六年一月十八日、本文傍点形式修正


Favors

 人妖問わず、幻想郷に於いてある程度の()を持つ者は、大抵が何かしらの特殊な能力を持ち、それは『程度の能力』と総称される。

 例えば、輝夜が持つ『永遠と須臾を操る程度の能力』は、無限の時間である永遠と、知覚不可能な一瞬である須臾とを自在に操り、周囲の人間とは別の時間で行動する(擬似的に時間を止める)ことや、変化を停止させる(対象の時間を永遠にする)ことができる。鈴仙は『波長を操る程度の能力』を持ち、あらゆるものに宿る波長を変化させ、位相変位による物質透過、光学迷彩などを引き起こす。

 しかし、小櫃を幻想郷最強の人間たらしめている要因の一つである、彼の『能力』は、『程度の能力』にはカテゴライズされない。能力自体のメカニズムが、他とは全く異なっているのだ。

 

 「…胃にポリープがあるな。直径は目測で約六ミリ…内視鏡で切り取れそうだ」

「相変わらず、便利と云うか、凄い能力だな…その目」

 

小櫃の‘赤い目’。それこそが、小櫃の象徴ともいえる能力そのものだ。

 小櫃は賢者紫の手で西暦二一二九年の地球から連れてこられた『インフィニタス』である。その能力の名は『スキャニング』。

 あらゆる命に巡り、生命の根幹を掌る物質、バイオエナジー。小櫃はそれを、常人には感知不可能なレベルから視認する。筋肉に流れるバイオエナジーを視ればその動きを予測でき、中枢神経に流れるバイオエナジーを視れば感情や思考、記憶を読むことができる。体調が悪かったり負傷していればすぐに流動パターンに表れるし、細菌やウイルスへの感染、遺伝子疾患もお見通しだ。

 即ち、小櫃の視界に入ったあらゆる生物は何もかもを見透かされることになる。スキャニング(scanning)とはよく言ったものだ。

 今回は、定期健診を受けに来た里に住む男の内臓を走査(スキャン)したという訳だ。

 定期健診、という単語からもわかる通り、永遠亭は医療機関である。今彼がいるのは診察室。鈴仙が師匠と仰ぐ月人と共にいる。

 長い銀髪を三つ編みにして束ね、赤と青の特徴的なツートンカラーの衣服を身に纏うその女性。八意永琳。幻想郷では名医として名高く、特に薬物治療に秀でている人物だ。そのせいか、彼女は『あらゆる薬を作る程度の能力』を持つと豪語していた()()()()()()

 

「今日は時間はありますか?」

「はい、独り身なんで時間はいくらでも」

「では今日のうちに治療してしまいましょう。優曇華、松田さんを空いている部屋へ」

「はい師匠」

 

部屋の隅で待機していた鈴仙が、永琳の指示で松田と呼ばれた男を誘導していく。角を曲がって姿が見えなくなった頃、徐に小櫃が口を開いた。

 

 「お前の助手の真似事をするようになってから、直十年になるな…」

「小櫃にはいつも感謝しているわ。貴方が薬を売りに里へ出れば、患者の早期発見に繋がるし、私の仕事も減るもの」

「俺とて感謝はしているさ。衣食住提供に仕事の斡旋、休暇もばっちりときたものだ」

 

小櫃はおよそ九年前から、永遠亭で住み込みで働いている。仕事の内容は、人里での薬売りと能力を利用した簡易診察、カルテ及び薬剤の整理、そして料理を始めとする家事(特に家事は小櫃の来る前は全て鈴仙一人でこなしていた為、鈴仙は大助かり、万々歳である)。患者自体に手を出すことは、素人でもできる応急処置や救命処置以外にはない。

 ところが一度だけ、小櫃が明確な医療行為を行なったことがある。

 

「今でも思い出すわ、貴方が永遠亭(ここ)に来て三日目のこと…」

 

 

 

 

 

 小櫃が自分の弟子に担がれてここに運び込まれた時、永琳は事情を聞いて耳を疑ったものだ。迷いの竹林を突破してここまで辿り着き、しかも道中出くわした妖怪相手に驚くほど善戦していたというのだから。

 とはいえ傷は深く、小櫃は右の上腕と脇腹に重篤な裂傷を負っていた。すぐに止血を行ない薬剤を投与、傷の再生を図った。その後すぐに、高熱を出した大妖怪、風見幽香が訪ねてきた。

 呆れたことに、倒れていたところを拾われた彼は幽香の体調不良を見抜き、自分を呼ぶためにわざわざ永遠亭まで走ってきたのだ。しかも彼は未来から来た人間で、元賞金稼ぎを名乗っている。幽香がこの世界のあれこれについて説明しても、「納得は出来ないが、理解はした」と、外来人にしては極めて冷静な反応をし、妖怪であることを明かしても、疑わずにむしろ納得した様子だったらしい。

 三日後の昼下がり、目覚めてからは更に驚かされた。彼は自分と輝夜が不老不死の蓬莱人であることを見抜き、そのせいで、唯の外来人には絶対にしないような話――自分達が月人であることを話す羽目になってしまった。

 療養の為に永遠亭に滞在することとなったが、「体が鈍る」そうで、小櫃は仕事の手伝いを申し出た。流石に大荷物を運ぶような重労働をさせる訳にはいかないので、カルテの整理を任せると、どうしたことか、ばらばらだった書類が嘘のように整頓されていく。

 この頃から既に、永琳は彼に一定の興味を持ち始めていたのである。人に媚びず、見下すこともなく、唯相手を常に己と同じ土俵に立たせる。どんな状況でも、理解(grasp)し、適応(adapt)しようとする。そして自分のやりたいことをするうちに、知らず知らず他人の役に立つ、そんな少年だった。

 そして、それは療養期間三日目の出来事。

 

「永琳」

 

永琳は如何せん朝が弱い。その日起床したのが八時半頃で、同じく起床したらしい小櫃と二人で朝食を摂っていた。主菜の焼き魚を咀嚼しながら空の一点を見つめていた小櫃は、その時急に自分に呼びかけてきて、

 

「何かしら?」

 

永琳はかなり軽い気持ちで応答したのだが、すぐにそれを恥じた。およそそんな態度で受け答えるべきでないシリアスな表情――尤も、小櫃はちょっとやそっとのことではシリアスな態度を崩さないが――だったからだ。そして、その表情の理由をすぐに知ることになる。

 

「俺の隣の病室で眠っている少女…彼女は」

 

小櫃には、点滴を受けているその子供について一切説明していなかった。朝食を摂るという行為によって胸の隅に追いやっていた‘問題’が、改めて自分の心に刺さる。

 

「貴方なら、彼女がどんな状態にあるのか、わかるでしょう?」

「…ああ」

「…後天性免疫不全症候群――AIDS(エイズ)よ」

 

 月の科学技術は、地球のそれとは比べ物にならない程発達しており、物質的な豊かさはとうの昔に満たされている。医療の分野でもそれは変わらない。

 だが、月人とは初めから無縁だったが故に、医療で無視され続けてきた問題がある。

 そもそも月人は地上の穢れ、即ち人間に寿命をもたらす要因とされるものを嫌って月にやってきた超古代文明なのだが、その『穢れ』の内にHIV(ヒト免疫不全ウイルス)も含まれている。これは、穢れの存在しない月に移住した月人が、HIVを黙殺し、特効薬も作らなかった、…否、作れなかったことを意味する。

 小櫃の隣室の少女、翔子は、そんな自分の無力で苦しんでいる。そう考えると、永琳は虚しくなった。何が『あらゆる薬を作る程度の能力』だ、とんだ自惚れじゃないか、と。

 

「…情けないわよね、薬師のくせに」

「気にするな。コーカサスにいた俺の知り合いの医者もAIDSだけはどうにもできなかった」

 

説明を聞いた小櫃の心遣いが、むしろ永琳の痛みを加速させた。沈痛な面持ちのまま、永琳は続ける。

 

幻想郷(ここ)の環境では、完全な無菌室を作ることはできない。日和見感染の症状は悪くなる一方…私が言うべきではないけれど、恐らく彼女はもう――」

 

 しかしその言葉は、藪から棒に障子を開く音と、けたたましい報せに遮られた。

 

「大変だ!! 翔子が…翔子が心肺停止状態に!」

「何ですって?!」

 

青褪めた顔で飛び込んできたのは兎の妖獣、因幡てゐ。彼女の報せに永琳まで青くなる。

 

「今、鈴仙が心臓マッサージをしてる。永琳もすぐに!」

「ええ、わかっているわ」

 

 ツケが廻ってきたのだ。永琳はそう確信した。解決出来ずにいた問題を先送りにし、間に合わせの施術しかしてこなかった自分の愚かさ、無能さのツケが。本当なら、技術力のある河童に頭を下げて機材や環境を調えて貰うことだって可能だったろうに、自分はそれを保身の為――幻想郷に於ける『永遠亭』の地位の為にしなかったのである。

 そうして己を呪おうとも、状況の打破には至らない。永琳は取る物も取り敢えず、着の身着のまま敷居を越えようとした。

 

「永琳、待ってくれ」

「え?」

 

それを、立ち上がった小櫃が腕を掴んで止める。

 

「俺のアームキャノンはどこにある?」

 

アームキャノン。正式にはアームキャノン・ジェネラルカスタムというその携行兵器の詳細は、所有者たる小櫃本人から聞かされていない。とにかく危険なので一時的に預かっていたが、一体何故それを今要求するのか。

 

「診療所の一番奥の棚にあるけれど…何をするの?」

「説明している暇はない! 早く翔子とやらの所へ!!」

 

その意図を理解する間もなく駆けていく小櫃を、永琳は自分も翔子の部屋に急ぐ尻目に見送ることしかできなかった。

 翔子の元に辿り着き、額に汗を浮かべた鈴仙に代わって心臓マッサージを開始。胸骨下半分を、両手を組んだ掌の下で、断続して垂直に圧迫する。三十回目で中断し、人工呼吸を開始。翔子の鼻を摘まんで、大きく開いた自分の口で翔子の口を塞いだ上で、一秒かけて息を吹き込む。二回行なったら再び心臓マッサージ。

 このサイクルに自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator)――AEDを挟めないのは殊更悔やまれた。それこそ河童に作成を依頼すべきだったのだ。医者なら地位より患者の命を優先すべきなのに、取り返しのつかない事態になっている。

 

 「何が月の頭脳よ、大馬鹿者!」

 

永琳が必死の心肺蘇生以外にできることは、自分を罵る位なものだった。

 

 

 

 

 

 結論から言えば、永琳は翔子の心肺蘇生に失敗した。

 

「まさか貴方が翔子を生き返らせるなんて思わなかったわ。しかもAIDSまで全快させて」

「よさないか、それにAIDSの方は想定外だったんだ。唯のまぐれだろう」

「でも貴方が翔子を救ったことに変わりはないわ。そうでしょう?」

 

小櫃はアームキャノンの機能を利用し、翔子を蘇生させたのである。

 幻想郷に於いて現代のような臓器移植は行なわれた前例はない為、永琳は所謂死の三兆候――自発呼吸停止、心拍停止、瞳孔散大――を翔子から確認し、遺体の隣で死亡診断書に「午前九時五三分」と記入しようとしていた。鈴仙とてゐは翔子の荷物を纏め、親元に引き渡す準備中だ。

 

 「待て」

 

そんな折に、右腕にアームキャノンを携えた小櫃が現れた。

 

「死亡判定にはまだ早い」

 

小櫃は言って、アームキャノンの左上部――丁度右腕にはめた時に内側に来る部分、長方形に溝が入っている所の中央を押す。途端にそこが五ミリメートル程度せり出し、旧式のガラケーよろしく上方にパカッと開いた。現れたのはカメラと有機ELディスプレイ、そしてアナログパッドとタッチパネル。

 彼は操作を続ける。ディスプレイに表示された項目から『特殊プログラム』を選択。アナログパッドでカーソルを移動し、『疑似エナジードライブ』を選択。

 すると、アームキャノンの銃口からおよそ十センチメートル程度の場所にぐるりと走る溝を境に、銃口側が四つに分割、後方にスライドした。更にアームキャノンの内部機構の一部が前方にせり出し、それに合わせて、分割した部分の先端がまるで花のように開く。

 

 「何をするっていうの?」

 

永琳は問うた。単純な疑問としての意味、そして「今更何ができるのか」という悲観じみた意味を込めて。小櫃はそれには答えない。

 

「ヒトは蘇る。寿命を迎えて死なない限り、何度でも――」

 

息のない翔子の傍らに膝を突く小櫃。そして彼は、

 翔子の額を左手で押え、展開された銃口を彼女の胸部に押し当てた。

 

「ちょ、ちょっと?! …!!!」

 

近くにいたてゐが思わず止めようとするも、ドスの利いた小櫃の一睨みに竦み上がってしまう。静かな部屋の中に、小櫃がアームキャノンを操作しているらしき微かなクリック音だけが木霊する。

 するとどうだろう。先程まで青白かった翔子の肌が赤みを増し、徐々に生気を取り戻していくではないか。

 

「な…どうして…」

「ほ、ホントに()()させた…の?」

 

バイタルサインが復活し、鈴仙もてゐも驚きを隠せない。そのうちに、翔子が薄らと目を開けた。

 

 「あ…れ…」

 

周囲をゆっくり見回しながらも自分が置かれた状況を把握できない彼女に、小櫃が説明する。

 

「アームキャノンのエナジードライブでお前のバイオエナジーを強制循環させている。後小一時間も続ければ、お前は完全復活するだろう。それまで安静にしているんだ」

 

 小櫃曰く、生物は寿命以外の要因、特に怪我などで死亡すると、体内にバイオエナジーが残存したままになり、これを強制的に循環させてやると、その流動に引っ張られて個体は生命活動を再開、ある程度外部から力を加え続ければ、損傷した身体機能も一定分回復し、後は自励ダイナモのように勝手に動き続けるという。

 

 「私ができなかったことを容易くやってのけるんだもの。感謝して当然よ」

「それならまあ、そういうことにしておくが、…しかしどうも納得がいかない。何故‘あれ’でAIDSまで治ったのか…」

 

想像の域を出ないが、生命活動を停止した個体内部にいたHIVが、外部からのバイオエナジーの強制流動に何らかの化学反応を起こし、たんぱく質やRNAの構造を連鎖的に自壊させてしまった結果、免疫細胞たるヘルパーT細胞が機能できるようになり、AIDSが全快したのでは、と二人は考えている。

 あの日自分の自惚れに気付かせてくれた、そして自分の無能で苦しみ死んだ翔子を死の淵から救ってくれた小櫃に、一生掛けて(勿論、蓬莱の薬を飲んだ自分のではなく小櫃のである)恩を返そう、そういう思いから、永琳は小櫃を永遠亭に住まわせているのである。

 

「これからも宜しくね、英雄さん」

 

幻想郷の英雄は、例えば永琳個人にとっても、また英雄なのである。

 

 

 

 

 

アームキャノン・ジェネラルカスタム

 

 この筒型携行兵器は、バイオエナジーを腕から体外に取り出し、それを様々な形態に変化、展開及び射出を行なう精密機器であり、正確には銃器ではない。バイオエナジーの弾丸(バイオバレット)、バイオエナジーの剣(バイオブレード)、バイオエナジーの盾(バイオシールド)、そして大量の目標を一度に攻撃するマルチロックオンマイクロミサイルシステムを基本機能として、他にもプログラミング次第で様々な利用方法を確立できる。

 この内部は、マルチシューターマシン(バイオエナジーの取り出しから射出までを担当)、TCエフェクター(バイオエナジーの力荷と温度の変化を担当)、バイオダイナモ(バイオエナジーを内部で循環させて発電)、ミサイルタンク(ミサイルポッドを格納)、光CPU(プログラミングの要)で構成されていることが判明しているが、中でもマルチシューターマシンの構造に関しては、データベースを幾ら精査しても情報の記載があるファイルが見当たらない。やはり製造元Gアームズの社長ハルベルト・フランケンシュタインは、どうしてもこれを企業秘密にしておきたいようだ。

 ともかくプログラミングさえできれば、この兵器を扱う上でその真価を発揮することは十分可能だ。ここには、先に挙げた機能以外に発見或いは作成した機能を列挙し、簡便に纏めておくことにする。今後も増えるかもしれない。

・バイオエアコンディショナー

・擬似AED

・擬似エナジードライブ

以下、スペルカードとして使用

・バイオロジカルグラップル(搾生『バイオロジカルグラップル』)

・バイオロジカルボア(穿孔『バイオロジカルボア』)

・スピットプロミネンス(吐焔『スピットプロミネンス』)

・インスタントギガブリザード(即凍『インスタントギガブリザード』)

・グラトニーウィンドイーター(餓迅『グラトニーウィンドイーター』)

・バイオロジックスーパーノヴァエクスプロージョン(爆誕『バイオロジックスーパーノヴァエクスプロージョン』)

・ジャッジメントサザンクロス(万死『ジャッジメントサザンクロス』)

 

アームキャノン・ジェネラルカスタム データベース内極秘ファイル壱より抜粋




前作をお読みになった方ならお分かりでしょうが、小櫃が擬似AEDを使用せず、翔子の死亡確認後に部屋にやってきて擬似エナジードライブを行なっています。
活動報告にもある通り、AEDだけで心肺蘇生はできないことを知らずに執筆したことが、このような事態を招いたものであります。

この場を借りて深くお詫び申し上げます。
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