東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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大分期間が開いてしまいましたが、State 3.が始まります。
伏線もどんどん張ります。回収し忘れないようにしないとねw
ただやはり文章の劣化が気になる…


State 3. Creepers into Souls
He calls oneself Nychus


 旧都に限らず地底は昼も夜も薄暗く、昼夜の判断には時計を見るより他がない。遥か頭上を覆う岩の天井には、地底固有の発光性の地衣類――ヒカリゴケに似ているがそれとは異なり、バクテリアと共生して自ら発光している――が蔓延って満天の星空のようである。

 しかしこの状況下に於いて、そんなことを考えていられる程の余裕は、ブロークンタスクにも、ましてやオリジンギアにもなかった。

 

「定時連絡、旧都第五区画異常なし」

 

数は多いとはいえないが、旧都ではそこかしこでオリジンギアの戦闘員が巡回している。占領地域の中では、ここはかなり不安定な部類に入る場所だった。武器をちらつかせて屋内に押し込めておくのが精一杯、というのが実情で、地霊殿に至っては近付くこともままならない。今でこそなりを潜めているが、喧嘩が花の旧都の妖怪は至って好戦的で気性が荒く、ブロークンタスクに入っておらずとも、言い換えれば生体攻撃兵器を持っていなくとも、元々の戦闘能力だけで十分に脅威となり得る。

 この肥満体の蟒蛇(うわばみ)も、そのことを頭に入れながら‘仕事’をしていた。自分が地上の妖怪である分、ここに住む者達に恨みを買いやすいかもしれないとも考えていた。念には念を入れ、自衛用の小火器の他に多数の火器を携行している。

 小櫃が使っていた二丁のアームキャノン――ビツケンヌカスタム、ジェネラルカスタム――は多彩な攻撃方法を持つのが強みだが、裏を返せば機能それぞれの扱いに慣れが必要である。武器の切り替えも戦闘中に素早く(実際にはほぼ無意識に、一瞬で)行なわねばならず、出力調整は勿論各種の設定を適用する必要も出てくる。そこでオリジンギアの技術班は、アームキャノンの、特にマルチシューターマシンの内部構造を単純化して機能を分割、簡略化することで、外の世界に見られるような兵器の外見と機能を持った、より簡便で初心者にも扱いやすい生体攻撃兵器を編み出し、独自の生産ラインで量産化することに成功した。

 このことは副次的に、アームキャノンを身体的理由(腕が太すぎたり短すぎたりそもそも腕がなかったり等)から装備・使用できない者達への福音となった。彼は指が短くてアームキャノンのダイヤルを上手く操作できなかったから、自動小銃型や大砲型を使わせてくれるのはとてもありがたい。

 

 「定時連絡、旧都第五区画異じょ…ん?」

 

いつもの通り、用心しながらの巡回中。彼は路地の向こう側に見える道に、フードを被った男が、服のポケットに手を突っ込み悠々と歩いていくのを認めた。そちらは別の仲間の管轄だが、さてどうしたものか。

 

「…一応報告しておこうか。HQ、こちらパトロール。不審な人物を発見した。すぐに屋内へ戻らせる」

 

向こうの責任だと無視して問題を起こせばとばっちりを食うことになるだろう。彼は面倒事は嫌いだが、幹部の一人である化け狸にネチネチと怒られるのはもっと嫌いだった。老い先短い(直に消滅するだろう)体のくせに、知らぬ間にどこかへ消えては総統の部屋の前に戻って情報を持ってくる、腹の虫が好かない妖獣。いつかぎゃふんと言わせてやる、と意気込みながら、彼は先の男を追った。

 

 「おい、お前!」

 

呼びかけると、男は立ち止まった。意外にも素直な奴だと思ったが、気は抜かない。彼はエナジーコンバーターでバイオエナジーが充填された新しいマガジンを、腰の充填装置から外して自動小銃に差し込み、それを構えつつ男に近付いていく。いつでも取り替えられるよう、予備のマガジンを装置に取り付けるのも忘れない。全てマニュアル通りである。

 

「勝手な真似はするな! さっさと家に戻れ!」

「…ヘッ」

「!!」

 

そして、今のように敵が襲いかかってきたような場合もマニュアルに織り込み済みだ。接近戦は避け、離れた位置から火力にものを言わせて無力化する。それがここに棲む妖怪達との戦いの定石だったからである。だが、

 

「何っ?!」

 

それは生体攻撃兵器があることを前提としての話。

 

「玩具は、バラバラだな」

 

狼男――フードが外れて正体を現した敵の黒光りする爪が、自動小銃を真っ二つにへし折ってみせた。蟒蛇が次の武器を取り出そうとするが、狼男は目にも留まらぬ早業でそれら全てを取り上げ、踏み砕いた。これでアドバンテージはなくなる。

 蟒蛇は焦ったが、努めて冷静であろうとした。こちらの不利を、明らかに戦い慣れた向こうに悟られる訳にはいかない。蟒蛇なだけに相手を丸呑みにしてやることもできるが、それはあくまで最後の手段で、半ばやけっぱちに繰り出す悪手だ。普段ろくに使わない頭を捻り、彼はこの状況を打開する策を見つけようとする。その時、

 

 「ガヒュッ…?!」

 

狼男の腹から、唐突に刃渡り一メートル程の刀が生えた。それは極遅い、蝸牛の歩みとでもいうべき速度で腹へと戻っていき、それが引っ込んだ段階で狼男は倒れ伏して、そのまま事切れた。

 先程まで狼男の立っていた場所には、全身を覆う強化外骨格に身を包んだ長身の男が、血塗れた刀を手に佇んでいた。顔も装甲されていて何物かは不明だが、左肩には中央に赤い目を擁した大きな歯車のエンブレムが描かれている。組織の一部の者が勝手に考案し身に付けている、オリジンギアのマークだ。それを見て、蟒蛇は安心した。彼は自分を助けてくれたのだ、と。

 

「ありがとな、助かったよ」

「……」

「あんた、ここの所属じゃあないよな。遊撃隊かい?」

 

蟒蛇の呼びかけに、男は応えない。襤褸切れで刀の血を拭い、左手に持った鞘に収めてから、蟒蛇に向き直った。丁度目の位置に据わったカメラアイが、無感情に蟒蛇の顔を捉える。

 空気が変わった。蟒蛇がそれを察知した時には、手遅れだった。

 

「ガァアッ!?」

 

酷く機械的な動きで突き出された男の右腕が、蟒蛇に突き刺さり、貫く。狼男と同じく、反対側に露出した手が見えなくなるまでは壊滅的な遅さだったが、指先が消えるのとほぼ同時に一挙に引き抜かれ、土手っ腹に風穴を空けた。その手には、グチャグチャに挽き潰された臓物が握られていた。

 

「な、にを…何故、ぐふっ」

 

蟒蛇も、自らの血の海に沈んだ。

 男は暫し左肩のエンブレムを見つめ、広げた右手でそこに血と肉片を塗りたくった。歯車がすっかり見えなくなったのを確認すると、男は通りの先に見える地霊殿を一瞥してから、パルスィが守っていた橋のある方角へと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 「白玉楼に敵部隊が?」

 

同時刻、地霊殿の作戦司令部。

 

「ええ、あいつはそう言っていたわ」

「わざわざ写真まで渡してきたからね」

 

永遠亭から最後の薬を回収してきた二人――輝夜と、白いカッターシャツと赤い吊りズボンという出で立ちの長い白髪の少女、藤原妹紅が、きっかり一時間前に竹林で手に入れた情報を小櫃に報告していた。曰く、強化外骨格を装備した『ニクス』と名乗る男が現れ、白玉楼にオリジンギアの部隊が集結しているという情報をリークしてきたとのこと。

 ソファーに座した小櫃が手に取って見ている三枚の写真には、確かに広大な日本庭園を持つ冥界の屋敷、白玉楼と、そこに集まる人妖混成の戦闘員達が写っていた。しかし彼は、それがこちらを誘い出す為の虚偽のものである可能性を捨て切れないでいた。

 

 「確証はあるのか? 強化外骨格はオリジンギア製だったんだろう?」

 

小櫃が疑うのも当然だった。彼は調査報告を読んだに過ぎないが、天狗の里はオリジンギアの大胆且つ卑劣な作戦で陥落している。里出身の戦闘員数十人を‘人質’に仕立て上げ、要求を呑ませた上で人質返還と偽って戦闘員を送り込み、油断した天狗達を悉く虐殺したのだ。

 

 「確証なら二つあるぞ」

 

部屋の中に藍が入ってきて、小櫃の二人への問いに代わりに答えた。その後ろに隠れるように、少女が一人続く。

 

「藍? そいつは?」

「証人だ」

「証人? その妖精が?」

「その子だけに言えた話じゃないけど…何だか頼りなくない?」

 

カゲロウを思わせる四枚の透明な翅。白い半袖のワイシャツ、濃緑色のベストとスカート。儚げな印象を受ける空色の瞳は、ミディアムマッシュの茶色い髪に半分程隠れている。妹紅の言う通り、彼女の控えめな雰囲気は些か説得力に欠けるものがあった。

 

 「彼女はセイカというらしい。オリジンギアの戦闘員の一人、グリプテルと同じ元木から採った苗が生長したものから生まれたそうだ。双子、という関係が近いだろうな」

「苗というと…素子が持ち込んだメタセコイアか」

 

八年前、素子は外の世界でメタセコイアの苗木を買い、霧の湖北東の岸辺と博麗神社の参道入口に一本ずつ植えた。双方驚異的な速度で十メートル弱にまで育ち、今もまだ生長を続けている。しかしそこから妖精が発生していたというのは、小櫃は初耳であった。

 

「そういう訳で、セイカとグリプテルの間には――今はどういう訳かセイカが覗き見するだけの一方通行になっているが、微弱ながら一定の精神リンクのようなものがある。グリプテルは七人の幹部(コードネーム持ち)程ではないが、一隊を任せられるだけの地位に就いているようだと、彼女が教えてくれた。そして、グリプテル率いる一隊が何らかの作戦行動に入っていることも」

 

 オリジンギアには、弾蔵にコードネームを与えられた七人の幹部がおり、それはブロークンタスクにとって最重要撃破目標となっている。

 魔法の森でルーミアらに倒されたのが、『ソーニー・ウルフ』こと今泉影狼。ダスクイーター隊員によるアリスへの聞き込み調査で、彼女(ウルフ)はそこに展開していた新兵の部隊を撤退させる為、自ら殿を買って出たことがわかっている。

 自分を慕う鬼達を率いて人里に殴り込みをかけ、現在ブロークンタスクの捕虜となっているのが、『マイティー・テイガー(豪力の鬼)』こと星熊勇儀。かなり最近、入隊した直後に(しかも扱いづらい鬼達を纏めるためだけに)幹部となったらしく、実際は下っ端同然にしか組織内部に通じておらず、本人もそれをよく理解していた。

 そして、正体が掴めていない五人の幹部。

 強力な発電能力を持ち、バイオエナジーを纏わせることのできる二振りの巨大な剣を操る『エレクトロ・カープ(電撃のコイ)』。

 侵襲式の強化外装でサイボーグ化され、バイオエナジーを原動力とした多数の火器を用いる『メカニカル・クロウ(機械仕掛けのカラス)』。

 浮遊する複数の‘ファンネル’を使い、自身の奇妙な能力と併用することで敵を眩惑する『リバース・ラバーボア(裏側のパイプヘビ)』。

 特別な力こそないように見えるが、妖怪でありながら銃火器のスペシャリストであり、特に回転式拳銃を愛用する『バレット・エイプ(弾丸のサル)』。

 幹部の中でも例外、唯一専用武装を持たず、変幻自在の変身能力があるとされる『メタモル・ラクーンドッグ(変態するタヌキ)』。

 組織は基本的に彼らによって統制され、ウルフやテイガーの例など直接出向く場合を除いて、各実働部隊にはそれ程地位の高いリーダーがいる訳ではない。となれば、グリプテルがコードネームを与えられないにも関わらず部隊長或いは指揮官の座に収まっているのは、何かしらの‘特別な事情’があるということ。

 

 「お願いします、姉を…グリプテルを止めてください! あの人は、恐ろしいことをしようとしている。きっともう動き始めている…大変なことになってしまう!!」

 

幻想郷の実力者達を前に緊張していると思しきセイカの声は小さく、掠れて聞き取りにくいものだった。それを補って訴えかけようとしているのか、無理に多くの言葉を紡ぎ出そうとしているきらいがあった。

 

「落ち着け。そのグリプテルが、白玉楼にいることは確かなのか? 偽の情報を送ることも不可能ではあるまい?」

 

小櫃はそれを制し、セイカと藍に同時に問うた。それにも藍が答える。

 

「それが、もう一つの確証だ」

「どんな?」

「理由は不明だが、セイカからの情報が入ってすぐに、橙が独断で冥界へ確認に向かったらしい」

「彼女には仕事を任せた筈だぞ」

「すまない、私の指導不足だ。だが橙は実際に敵部隊を発見して裏を取った。こちらの作戦開始までは潜伏するつもりだという」

「ふむ…」

 

顎に手を遣り、作戦成功の蓋然性を高められる案を、小櫃は考えた。

 

「…藍。冥界に向かう者だけ、作戦の開始時間を早めるのはどうだろう。幾らお前の式とはいえ、長時間の潜入は骨だ。それにできるだけ不安の芽は摘みたい。永琳達に通してくれ」

「わかった。すぐに協議しよう。セイカ、お前も来てくれ」

「は、はい」

 

 藍は入ってきた時と同じく、セイカを伴って出て行った。

 小櫃がそれを見送った後で、それまで静観していた二人が動き出した。妹紅はドアを開けて廊下を見回し、誰もいないことを確認してから、部屋の外に出、ドアの脇に陣取った。そして輝夜が、既に二人の動きから不審な臭いを感じていた小櫃に話しかける。

 

「小櫃」

「何だ、まだ()()あるのか」

「ニクスから伝言よ。小櫃以外には聞かれないようにして欲しいって言ってたから、私も妹紅も藍がいなくなるまで待ってたの。その真意の程は量りかねるけど…」

 

小櫃は眉根を寄せ、ソファーへの座りを浅くする形で身を乗り出し、その動作によって続きを促した。輝夜は真剣な顔で、ゆっくりと口を開く。

 

「“お前も俺も同じだ。たとえどんなに仲間を集めても、自分の求めるものの為に戦うその時は、いつも独りだ”」

 

小櫃ははっとしたが、それが表情に出るのを無理矢理に押さえ込んだ。

 

「…どういう意味だ?」

「わからないわ。私と妹紅にわかるのは、オリジンギアも一枚岩じゃないってこと位ね」

 

 ニクス――Nychusと書き、ラテン語で『鉤爪』を意味する名の人物の、自分を知っているかのような物言いに、小櫃は内心戸惑っていた。知っていることそのものにではない、相手が自分との間に共通点を見出していることにである。特に、“いつも独り”という点。

 自分の正義が茨の道であることなど百も承知である。それが正しいと信じて生きてきたが、それによって周囲にもたらされる結果がどんなに善いことであっても、その正義を真に理解し、同じ道を辿る、同じ文化的遺伝子(ミーム)を持つことのできる人間など一握りもいないだろう。

 だがニクスは“同じだ”と言った。それは即ち、双方が似た正義(ミーム)を持っているということではないか。まさかそんな奴が――

 戦場で遭えるだろうか。小櫃は不謹慎だとは知りつつも、淡い期待を寄せた。

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