東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy. 作:影のビツケンヌ
バリバリ進むと気分もいいものですねw
八坂神奈子は、外の世界から神社ごと幻想郷へやってきて以来、かなり早い段階から幻想郷のエネルギー問題に目を向けていた。幻想郷に合ったやり方でエネルギーを自給できる方法を模索していった結果、外の世界では実現のままならない、つまり‘幻想’である核融合発電が適すると彼女は判断した。勿論それには、神社の信仰獲得という野望があった。
核の力を手に入れて増長した空が異変を起こしたりはしたものの、計画は着々と進行し、一年後には核融合発電の運用試験の為、温泉地帯の地表から地下深くに巨大な縦穴を掘り間欠泉地下センターを建設。空をはじめ地霊殿とも提携しつつ、地下核融合施設のメンテナンスができない場合に備えた常温核融合の公開実験なども含めて稼働データを集めていた。
しかし丁度小櫃が幻想入りしてくる半年前から、妖怪化し人の姿を取ることが可能になった素子が、空に連れられ地霊殿に出入りするようになると、神奈子の計画に暗雲が立ち込め始めた。素子は核融合の制御そのものの不安定性や空によるワンマン運転の危険性、何より計画が信仰獲得の為の餌であることを指摘。核融合に代わるより安全で安定したエネルギー源、モノポールドライブの作成を完全な
気の合うにとりと出会ったことで素子の活動は加速し、同年六月十九日、一機目のモノポールドライブが完成。上々な稼働テスト結果を叩き出していく一方で、神奈子の方は空の過労から出力限界が伸び悩み、モノポールドライブの完成一ヵ月後には地霊殿から一方的に提携を打ち切られてしまう。モノポールドライブ普及の波には勝てず、二〇一九年二月六日の試験を最後に間欠泉地下センターは閉鎖された。
…これだけ聞けば関係が冷え込んでいるであろうとは容易に想像できるだろうが、如何せん幻想郷の住人は異変があろうともその後の宴会ですぐに和解してしまうような性分――少なくとも、オリジンギアが現れるまではそう思われていた――なので、地霊殿に避難している守矢神社の神と巫女は問題なく過ごしている。
ところで。
「邪魔するわよー」
地霊殿の敷地内には、間欠泉地下センターへの連絡通路がまだ残っている。この通路の途上には、建設に協力した河童達が使うことを想定された小規模な研究開発施設があり、にとりはその中で、アルバートの使う新しい生体攻撃兵器の最終チェックを行なっていた。
「ちょ、ちょっと魔理沙さん、勝手に触っちゃ駄目ですよ」
「大丈夫大丈夫、減るもんじゃないだろ」
「貴女は幾つになっても子供ね…」
技術を持つ者はいつも利用される。弾蔵が永遠亭を訪れていたことや、弾蔵の能力、初めて会った時の状況から推測するに、彼はマルチシューターマシンが完成するまで待っていたのだろう。新技術の横取りは何万歩も譲って許したとして、それを
「にとりー、いるんでしょー? 約束のもの取りに来たわよー」
「しっかし機材だらけで視界悪いな…よくこんな中に長期間いられたもんだ」
「貴女の家をにとりが見たら、ほぼ同じ言葉が返ってくると思うわ」
「あーあー聞こえなーい」
科学が起こした問題は、科学の力で終わらせる。にとりはそう決意した。自分には小櫃のような高い戦闘能力も、素子のようなチョウゾからの
「にとりー!」
「…んあ?」
手元に熱中し過ぎ、にとりは部屋に入ってきた者達の話し声に気付かなかった。作業台から離れて振り返ると、電源コードに足を引っ掛けまいとして奇妙な格好で歩いてくる四人が視界に収まった。
一番手前の一人は、袖が肩からセパレートされた紅白の巫女服を着、頭に大きな赤いリボンを付けた黒髪の少女。
そのすぐ後ろには、如何にもな白黒の魔法使いの出で立ちをして、箒を担いだ金髪の少女。
少し遅れて、一番手前の者と同じ、しかし色は白と青を基調としたものを纏った、緑色の髪の少女。
最後尾に、洒落たメイド服に身を包み、木箱を載せた台車を押す銀髪の女性。
それぞれ博麗霊夢、霧雨魔理沙、東風谷早苗、十六夜咲夜。異変解決は博麗の巫女の専売特許ではなく、霊夢以外にもこの三人、また他にも多くの者が異変解決に携わってきた。小櫃や鈴仙も例外ではない。
「ああ待ってたよ四人とも。咲夜、台車はそこでいいからこっち来な」
小櫃の言っていた“藍が指揮する別の四人”とは彼女らのことだ。生体攻撃兵器の登場というイレギュラーはあれど、幻想郷に於いては異変であることに変わりはなく、この道に詳しい者が抜擢されるのも当然といえた。
彼女達がにとりの元にやってきた目的は、各々の為に作られた専用の武器を受け取ることだった。オリジンギアに倣い、ブロークンタスクもアームキャノン以外の生体攻撃兵器を開発し、完成に漕ぎ着けた。それがこの四人の武器だ。
全員が自分の前に並んだのを確認して、にとりは作業台の下から真新しい木箱を二つ取り出して机上に置いた。
「さて、面倒な前置きは省くよ。一人ひとり、武装の確認をするからね」
「うん」
「おう」
「はい」
「ええ」
霊夢、魔理沙、早苗、咲夜の短い応答。にとりは頷く。
「まず、霊夢。『モノクロームサテライト』」
にとりが一方の『イチ』と書かれた木箱から取り出したのは、太極図がそのまま球形になった、マットな光沢を放つバレーボール大の二つの金属球、そして腕時計に似たチョーカーだった。
「霊夢が持ってきた陰陽玉をコアにして、生体攻撃に必要な機構を外付けしたから、普段通り周りに浮かせられるよ。でも霊夢は霊力操作を意識してやってないから当てにならなくてね。攻撃はボイスコマンドに限定させて貰った。だからバイオエナジーの送信装置を兼ねたこのマイク付きチョーカーと必ずセットで使うこと。マニュアルはちゃんと読んでね」
霊夢は自分の得物を手に取ろうとしたが、予想以上の重さがあったのか、抱えると腕ががくんと沈んだ。
「説明書とかって苦手なのよね…それにこれちょっと重くない?」
「そう言わないでよ、時間さえあれば霊夢の霊力パターンとかを分析できたけど、生憎今はそうも言ってられないからさ」
「…まあしょうがないか」
霊夢は観念して、得物を台車の上の木箱に入れるべく、来た道を数メートル戻っていく。
「魔理沙のはこれ。『オクタドライブ』」
次に『イチ』の木箱から姿を現したのは、丈の低い八角柱の形をした物体。蛍光灯の光を煩い位に反射するそれには、上面に丸い穴が開いており、そこを中心に八卦の先天図が描かれている。
「魔理沙の持ってるミニ八卦炉をCTスキャンにかけて、内部構造を分析してから、それをマルチシューターマシンに組み込んだんだ。魔力の注入の仕方で機能を切り替える機構は同じだから、ミニ八卦炉では魔力を使ってた攻撃がそのままバイオエナジーに置き換わってるだけだって考えてくれていいよ」
魔理沙は説明が始まる直後から、オクタドライブをひょいと掴み取っていた。穴から中を覗き込んだり、上に軽く投げてみたり、遊んでいるように見えて、かなり真剣な表情である。
「ふむ…少し重いが、支障がある程じゃないな。ありがとなにとり」
「どういたしまして。作るのは案外簡単で一番早く完成したんだ。
「それはよかった」
魔理沙はオクタドライブを台車には運ばず、エプロンドレスのポケットに大事そうに仕舞い込んだ。
「そして早苗。『バイオニックサモナー』」
続いて出てきたのは、三つのボタンが付いた三十センチ程の金属棒の先に、細かいギザギザのある両刃の鋸の刃に似た板の付いた、幣のようなもの。
「流石に木と紙でできた早苗の幣を改造するなんて無理があるから、それに似せてバイオブレードにする位しかできなかったね。操作は簡単、ボタンぽちぽち、刃がブワァン。刃は見ての通り鋸状になってるから、ストッピングパワーは普通のバイオブレードの比じゃない。勿論幣だから、今までと同じ使い方もできるよ」
早苗は目をきらきらさせてにとりの説明を聞いていたが、ふとバイオニックサモナーを見やり、にとりに問うた。
「え、幣に似てるだけじゃないんですか?」
「中に守矢の神様謹製の御札が貼ってあるんだ。…これが一番
「はあ…?」
“トンチン神様”などと言っていたことによる神二柱への後ろめたさから、護符を作成してくれるよう頼み込んだにとりの味わった大変な気苦労は、幸か不幸か、早苗に伝わることはなさそうである。早苗は霊夢と入れ違いに、台車の方へ歩いていく。
「で最後に咲夜。『リッパーズハイ』」
刃渡り十五センチ弱のナイフ、剃刀の替え刃のようなバイオブレード発振機を先端に備えた短い金属棒、柄の端で回転する円盤上に三つの尖った杭が先を揃えて並んだ奇妙な物体が出てきて、『イチ』の箱は空になった。
「知ってるとは思うけど、相手にダメージを与えられる出力で展開されたバイオブレードは使用者にも触れないから、そのことを逆手に取って三種類のバイオブレードを用意したよ。纏式、展開式、回転式。投げる時は柄の方を持ってね。手から離れると当然起動時間にも限りが出てくる。そのことを肝に銘じておいて」
咲夜はにとりの説明にはあまり耳を傾けず、それが終わるなりすぐさま、
「頼んだ数は揃えてあるんでしょうね?」
「揃ってるよ、こっちの木箱に。正直それが一番大変だった。後で則夫さんにお礼言っときな。部屋でバテてると思うから」
「そうね」
彼女は机上の得物を『イチ』の隣の『ニー』の木箱に放り込んでから、すいすいと台車までそれを抱えて持っていき、台車に載せて、早苗と一緒に戻ってきた。
最初と同じく、にとりの前に四人が並ぶ。皆、武装の確認以外に、にとりが話したいことがあるとわかっていた。
「…ここからは、私個人からの話。
歴戦の勇士達は、一同力強く首肯した。
しかし彼女達は後に言うのだ。あの時心のどこかに、「今回も無事に解決できるだろう」という安っぽい楽観があったのだ、と。
冥界、白玉楼。
美しい枯山水を拝むことのできる畳張りの部屋で、グリプテルは満足気な笑みを浮かべた。彼女の足下には拘束された亡霊――冥界の管理者、西行寺幽々子が転がり、自分に銃口を向ける四人の戦闘員に忌々しげな視線を送っている。
「こんなことをして、ただで済むと思ってるの?」
「おっと、能力はなしだよお嬢さん。でなきゃズドンだ」
「くっ……!」
幽々子の能力は、『死を操る程度の能力』。その気になればここにいる全員を文字通りあの世行きにできるが、今の彼女にはそれができない。
「試してみる? そっちが能力で私達を殺すのと、私達が引き金を引いてバイオバレットが着弾するのと、どっちが速いか、ってね」
反応速度の問題だ、照準は既に定まっているのだから。能力を使用する兆候が見られたなら、戦闘員達は能力行使までの僅かなタイムラグでトリガーを引く。ネガバイオの流動のみで構成された亡霊の身体に、ポジバイオが弾丸となってぶつかれば、力荷を失った箇所から崩壊する危険がある。
幽々子はグリプテルの足の間から、枯山水の奥の硬い地面に刺さった、二本の折れた刀を見やった。刀の持ち主であった半人半霊(人間と幽霊のハーフの種族)は、怨敵オリジンギアを相手に敢然と戦ったが、多勢に無勢、結局は主である自分が前に出、彼女を逃がした。
それがこの有様だ。体術の面でいえば自分の方が劣っていた、それが勝敗を分けたのだ。彼女のように弾幕ごっこに慣れ親しんだ、悪く言えばそれで平和ボケした者には、オリジンギアの兵器やそのやり口に対抗できない場合が多いのである。
彼女は安全な場所まで逃げられただろうか。自分のことを棚に上げて、そう従者の身を案じる幽々子の目を見て、グリプテルは舌打ちした。戦闘員に見張りを続けるよう指示し、縁側に出て歩き出した。警備の目を離れ、誰もいない方角へ。
――準備完了だ。すぐにそちらに向かおう。
彼女の懐の無線機が、沈黙を破った。
「遅い。もう隊員を集めちゃうところだったよ」
――すまんね、だが舞台に上がるのは役者だけで十分だ。観客には大人しく観ていて貰わなければ。
丁寧であるような、気取って馬鹿にしているような、無線の相手はそんな調子で話す。
「私だって焦ってるの。唯でさえ一週間前からセイカとのリンクが途絶えてるんだし」
――安心したまえ、情報を手に入れるのは君が考えるよりずっと簡単なものだ。誰の仕業かなど後からでも遅くはない。それより、あの力は気に入ったかい?
「ああ、それはいい感じ。よく馴染むし、性に合う。所詮新参者の遺伝子、個体が長く生きてきたって、六千万年以上連綿と続いてきた遺伝子には敵わない」
――喜んでいるなら何よりだ。傍受される前に切ろうか。
上手く丸め込まれた気もしたが、これから起こる事を考えて、グリプテルは幽々子を見下ろしていた時の顔に戻った。
彼女の視線の先には、根元から引き倒され、美しい日本庭園を南北に分断して横たわる、枯れたサクラの大木があった。
「私に逆らう奴は、皆こうなるのさ」
ようやっと自機組登場。
伏線もどおんどん張ってますよお。