東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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弾幕ごっこに於ける小櫃の戦い方をテーマにした話です。村紗がここで使用しているスペルカードは、この作品オリジナルのものであります。
それと、少しだけ例の鴉天狗の道程も進めます。

十五年七月五日、本文行間修正
十六年三月二十八日、本文修正

戦闘イメージBGM:メタルギアソリッド2より『Yell Dead Cell』


How to fight

 幻想郷の風土に合わない為に栽培できない植物、例えばバナナやコーヒーノキは、かつて八雲紫の手で外界から輸入していたが、半年前、遂に人里地下に食料プラントが建設された。シールド工法により掘り進められたトンネルは、その終端の各スペースに於いて、農作物は勿論、水産物、畜産物まで養殖しており、幻想郷の食料自給率をほぼ百パーセントまで引き上げている。ここでしか手に入らない食べ物も多いので、プラントの運営は人間と妖怪の共同作業、立場も対等だ。これにより、人妖の距離は更に縮まりつつある。

 ちなみに、一時期は地表での稲作や畑作もプラントに集約すればいいのでは、という意見もあったが、それでは農家の生活が立ち行かないと農業組合が猛反発、また養殖せずとも収穫可能なものは地表で完結させるべきであるとの指摘を受けた結果、瞬く間にプラントへの依存案は消え去った。

 閑話休題。

 穏やかな春の陽気。人里東側のエレベーターから、鮮魚やフルーツを満載した台車が颯爽と現れ、それを乗り回すプラントの従業員が、商店街の各戸に新しく在庫を提供していく。それについていく形で、小櫃は置き薬の仕事をしていた。

 

「火傷用軟膏と包帯を補充しておいた。料金は普段通りに頼むぞ」

「おう、いつもありがとうな」

「お前は火傷し過ぎだ店主」

 

各戸に置かれた薬箱の中身を確認して使用量を調べ、それに応じて料金を徴収する。永遠亭はさして金に困っている訳ではないので、納入期限は極めてルーズで料金もリーズナブルである。幻想郷内で一定の地位を確立する為の仕事という意味合いが強い。

 台車を追っていくと、丁度人里を時計回りに一周することになり、時刻も正午を回って仕事が終わる。

 そしてこの時間帯は、小櫃に挑もうとする者が現れることもあるのだ。

 

「小櫃ー!! 今日こそ勝たせて貰うわよー!!」

 

昼食を摂る店を空から物色していた小櫃のもとへ、水兵服を着て船長帽を被った少女が飛んでくる。今日こそ、というのはお察しの通り、彼女が何度も小櫃に挑んでは返り討ちに遭っていることを意味する。

 

「寺の仕事はどうした水蜜」

「別にサボりとかじゃないし、悪戯もしてないよー」

「本当か?」

「ほんとだよ!」

 

この村紗水蜜は、小櫃に勝負を仕掛ける(勿論スペルカードルール適用内で)者達の数いる中の一人。船幽霊――幽霊とついてはいるが、生物的な肉体を持った妖怪に近い存在――である彼女は、人里近くに立つ妖怪寺『命連寺』で暮らしていて、人里に買い出しに来るついで、時たま仕事終わりの小櫃に挑戦する。

 彼女のように、小櫃に勝たんとする妖怪は非常に多い。ある者は腕試し、ある者は暇潰し、またある者は八つ当たり――その全てに、小櫃は手痛いしっぺ返しを食らわせる。それも全力で。

 

「スペルカードは三枚でいいな? 昼食がまだなんだ」

「それを言うなら私もそうだよ。ささ、始めよう! 今回のは一味違うからね?」

 

最早恒例となった決闘前のやりとりは、二、三言程度で済んでしまう。スペルカードルールの導入は、こうした決闘の円滑化にも一役買っているのである。空中で五メートル程離れたまま、二者は睨みあい、やがて村紗が先に動いた。

 

 「食らえ! 宙船(そらふね)『墜落艦フリゲートオルフェオン』!」

 

村紗が手にした柄杓を振るえば、頭上に彼女の妖力が収束し、光り輝く水色の巨大な船が形成される。その威容は既に『船』の定義から外れ、『艦』というべきものだ。艦は徐々に砕け、デブリめいた破片を撒き散らしながら、艦首を下にしてゆっくりと落下、小櫃に迫っていく。

 

「なるほど、なかなかに迫力のあるスペルだ」

 

 スペルカードルール下に於ける、弾幕ごっことも通称されるこの決闘方式は、個々人が持つ技、即ちスペルカードを被弾することなく避けきる、或いは破壊、操作の妨害などによって攻略することが主軸となる。

 求められるのは三つ。

 展開される圧倒的物量の弾幕に臆せず向かって行ける精神力。

 様々な形状をした弾丸と弾丸の空隙を華麗にすり抜けられる技術。

 長時間の激しい空中戦に堪えられる持久力。

 

 「だが、舐め過ぎだ」

 

小櫃は、心技体どれも持ち合わせていた。

 身体から噴き出す漆黒の奔流が一層勢いを増し、浮遊する小櫃を一息に最高速度まで加速させる。バイオブースター自体の噴射角度だけでなく、全身の関節を動かして複雑に向きを変え微調整しつつ、小櫃は弾幕の合間を縫い、村紗に肉薄、反撃に出る。

 

「どこを見ている」

「くうっ!」

 

アームキャノンの銃口から展開された青白い光の刃。どこからともなく取り出された村紗の錨にすぐ遮られるも、鍔迫り合いは長くは続かない。錨は真っ二つに折れて砕け散り、元の妖力になって四散した。集中が切れ、下方で展開していた弾幕も消えてしまう。

 

 「妖力の練りが甘いな。だからバイオブレードの出力を模擬戦用に落としても耐えられない」

 

 バイオエナジーで形成もしくはコートされた刃物をバイオブレードというが、それは刃物の範疇には収まらない謎の武器だ。対象が生物であればその体内のバイオエナジーに直接作用、細胞レベルでダメージを与え破壊する。非生物であればその分子構造の隙間に抉り込み、強制的に自壊させる。

 この破壊原理は他の機能、例えばバイオバレットのようにバイオエナジーを弾丸化して発射したりする場合にも言え、また出力が一定以上だと(非殺傷でも)痛覚を激しく刺激する強大なストッピングパワーがあるので、人間や動物は勿論のこと、ありとあらゆる人外に等しく有効な加害・殺傷能力を秘めている。

 つまり小櫃にとっては、自身の戦闘能力以前に、アームキャノンを所持していることそのものが絶対的なアドバンテージなのである。…逆に言えば、アームキャノンがないと生存率が大幅に落ちることと紙一重なのだが。それならば、小櫃が本気なのも頷ける話だ。

 

 「なら、これでどう?! 棺桶『突撃上陸用ポッド』!!」

 

一つ目のスペルを攻略されてもめげず、村紗はすかさず次を宣言した。円錐形の衝角が付いた箱型の妖力弾が、彼女の周囲に滲み出すように幾つも形成され、小櫃目掛けて加速していく。

 

「…!」

 

小櫃から一メートル半の位置で最高速に達した妖力弾は突如静止、衝角が爆発し、箱の中からは四つの小型妖力弾が飛び出した。

 

「おっと」

 

アームキャノンの銃口から、今度は半球形のバイオシールドが展開される。何も考えず前に構えるだけで、小櫃は続けてやってきた衝角付きの攻撃全弾を難なく防いだ。

 

「ちぇっ、これも駄目かぁ…」

「いいや、なかなかいいフェイントだった。そろそろこちらも仕掛けんと面白みがないだろう?」

 

 構えたままシールドの消えたアームキャノンの中では、カチカチというクリック音が断続している。親指で操作する三つのダイヤル――上から出力調整用、兵装変更用、各種設定適用用のうち、兵装変更用を回転させている音だ。上下に二つ並んだトリガーの、丁度中指の腹に来る下のトリガーを引くと、自動的にディスプレイが開き、画面は直角に回転して小櫃の方へ、立体映像が撮れるよう二つ並んだカメラも直角に回転して前方を向いた。更に銃口が変形して大口径化、実弾が装填される無機質な音が響く。

 ディスプレイには、カメラで撮影された村紗の立体映像が映し出されている。画面上に表示された五つの円形のカーソルが全て村紗に重なった時、

 小櫃の人差し指が、上部のトリガーを引いた。

 

「激符『ウォーズ・オブ・ピースメーカー』!」

「ちょっまたいきなりピースメーカーですかああああぁあああぁぁ?!」

 

消しゴム大の超小型ミサイルが計五発、銃口から同時発射されると、事前にロックオンしていた標的を追い掛け始める。村沙は全速力で逃げようとするが、ミサイル群は極めて高い追尾性で追い縋りそれを許さない。

 小さなこのミサイルは、そのコンパクトさに反して想像もつかない程に高機能だ。それぞれに光学センサーやアクティブソナー等を備え、充填されたバイオエナジーを撃ち出す計六門の超小型高出力バイオレーザー砲を持ち、それらを独立して制御可能な高性能の人工知能が搭載されている。アームキャノンから五発同時発射されると最大で二百の目標を捕捉し、内三十の目標に対し同時攻撃が可能。推進力は固体から気体へ相変化させる高圧ガス噴射であり、通常のロケット兵器とは違い噴射炎がないので、感熱式の迎撃装置を無効化できるし、また統合戦術情報分配システムを応用した、対象を見失おうともミサイル同士の無線通信によってリアルタイムに情報を交換しターゲットを発見する索敵能力は百発百中の命中精度を誇る。

 以上の理由から、今村沙がしているように、幾ら弾幕を張ろうとも撃墜は不可能だ。

 

「もう、毎度毎度思うけど、弾幕が弾幕避けるとかどういうことよ~!!」

「そういうプログラミングをしているからな」

「そんなことは聞いてない~~!!」

 

ミサイルの各種センサーが妖力で構成された弾丸と弾丸の僅かな隙間を即座に見出だし、精巧なプログラムでその合間を縫って村紗に迫るルートを弾き出す。噴射口のスタビライザーの角度を細かく変え、変化する間隙を分析して適格にルートの微調整を行い、避け切れない弾幕は水鉄砲のようなバイオレーザー砲で撃ち貫くことで相殺しながら、じりじりと村紗との間を詰めていく。

 

 「ガス欠になる前に次を使おうか。こいつのプログラミングには苦労した」

 

だが小櫃の狙いは、単にミサイルを当てることではなかった。彼がインターフェイスを操作すると、ミサイルの内四発が、村沙を中心とした正四面体を作るように彼女を取り囲んだ。

 

「このスペルカードはまだ試作段階だ。お前には実地試験に付き合って貰おう」

「な、何?」

 

ミサイル側面に等間隔で並んだ極小の砲塔が動き、それぞれのミサイルが互いをロックオン。一つの砲塔が一つのミサイルを狙う為、各々三つの砲塔が必然的に余った。それらは全て明後日の方向に向き、バシュバシュと青白いバイオエナジーを噴き出してミサイルを宙に静止させている。

 

「監獄『プリズンプライム』!」

 

 砲塔から放たれたバイオレーザーがぶつかり合い、拡散したバイオエナジーは、レーザーで構成された正四面体の『面』へと姿を変え、村沙をその内部に封じ込めた。

 

「閉じ込められた?!」

「言っておくが、そのシールドは単位相生体防壁(モノフェイズバイオシールド)だ。外からの攻撃は通しても、中からの攻撃は通さない。そら避けろ避けろ」

「いやそれ反則じゃないのおおおおおぉぉおお?!」

 

残ったミサイル一発が一辺四メートル足らずの正四面体の空間の中で暴れ回り、小櫃もその周りからバイオバレットをこれでもかと撃ち込む。外から入った攻撃がシールドの内面で反射する為、村紗にとっては全方位から攻撃を受けているようなものだ。

 

「あぐっ!!」

 

一発被弾して動きが止まれば、

 

「のひゅぉおるひぎゃああああぁああぁああああ?!」

 

残りの全弾が彼女の体中にクリーンヒット。ギャグ漫画にでも出てきそうな断末魔は、人里全域に響き渡ったとか、そうでないとか。

 

 

 

 

 

 その光景を尻目に、あの鴉天狗は自分の能力で得た情報を元に、迷いの竹林に向けて飛んでいた。されど哀しいかな、目的とする『永遠亭』に夢中になるあまり、捜していた小櫃はつい先程通り過ぎてしまった。彼はしばらく無駄な努力をすることになりそうだ。

 そんなこととは露知らず、彼は口を開けては歯を打ち鳴らす動作を繰り返す。コンッコンッカッカッと、風の唸りにも掻き消されない小気味良い音。癖のようなもので、特に意味はない。

 

 「…もうすぐか」

 

数十分の飛行の末、彼の前方に広大な竹林が見えてきた。

 長いこと地底にいたとはいえども、幻想郷の地理に疎い訳ではない。しかし最近(ただし妖怪基準)になって明らかになった地区、例えばかつては竹林に阻まれ人の手が届かなかった永遠亭などは彼の認知外だ。迷いの竹林にそんな建物があるとは思ってもみなかったのである。

 幻想郷南南東から南南西を覆う迷いの竹林は、竹ばかりで目印のない単調な風景、時折発生する濃霧、さらに地面の僅かな傾斜が平衡感覚を狂わせ、真っ直ぐ進んでいるつもりでも元の位置に戻って来てしまい、その上妖怪も多数生息する為、幻想郷でも名の有る危険地帯として知られている。

 彼の常識では、そんな場所に居を構えるなど狂気の沙汰だ。すぐに下級妖怪に嗅ぎ付けられて襲われてしまうだろう。実の所、永遠亭周囲の地形が最も迷いやすくなっているのが、妖怪の襲撃を困難にしており、彼はそこまでは知ることはできなかった。

 

 「立ち入ったことはなかったが…行くしかあるまい」

 

 竹林に続く道は、分け入るにつれてフェードアウトしてしまう。こうなれば、後は自身の方向感覚を信じるより仕方ない。永遠亭の所在が不明である以上、上から探すことはできないからだ。

 だが彼の足取りは、まるで永遠亭への道を知っているかのように、酷く確実なものであった。

 彼の能力、そして目的意識が、そうさせていた。




小櫃とこの鴉天狗が実際に顔を合わせるまでは、名前は秘匿し続ける予定です。
引っ張りまくってすいません。
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