東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy.   作:影のビツケンヌ

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ようやくこの物語の中核を成す部分を書けました。
今回はいつもより字数が少なくなります。

十五年五月二十三日、タイトル修正
   七月五日、本文行間修正
十六年一月十八日、本文傍点形式修正


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 結局、指定された枚数を攻略する前に村紗が気絶して戦闘不能に陥り、小櫃は勝利。

 命連寺に彼女を送り届けてから、十分悩んだ挙句、自分が幻想入りして初めて外食した店『竹光』で少し遅い昼食を摂ることにした。

 

「鉄火丼一つ、飯を多めに頼む」

「はいよー」

 

この店でも、食料プラントから供給される海産物をメニューに加えている。魚介類に目がない彼には堪らない。

 

 「見てたよ、さっきの弾幕ごっこ。凄いじゃないか」

「いや、凄いのは俺じゃない。避ける技術はあっても、本質的な所で妖怪には敵わないからな、アームキャノンのお陰だ」

「いやいや、それにしたって見事だったさ!」

 

快活な笑顔を浮かべる初老の店主をよそに、己の得物を弄り(チューンし)ながら、カウンター席に座る小櫃は思考を巡らせていた。

 未来人である小櫃の武器、アームキャノン・ジェネラルカスタムは、アームキャノンの開発元である巨大軍事企業『Gアームズ』の社長、ハルベルト・フランケンシュタインが(小櫃の為だけに)直々に設計・開発した、この世に二つとない世界最高の携行兵器だ。この幻想郷(世界)に於ける小櫃の生命線で、欠かすことのできない大切な相棒。買い替え後の()()()ではあるものの、故障した一代目(ビツケンヌカスタム)のそれと合わせれば元いた世界の親友よりも付き合いが長い。

 村紗と戦っている時も、彼はその力の殆どをアームキャノンに依存していた。幾ら修行を積んだといっても、インフィニタスであろうとも、身体能力、肉体強度は妖怪のそれに遠く及ばない。人間とほぼ同じ姿形をしているのに、バイオエナジーの流動パターンが人間より効率が良いというだけで、全身の細胞が活性化、驚異的な強靭性と再生力を発揮することになる妖怪。霊撃を扱えない小櫃のような人間には、バイオエナジーの流動にまで作用して再生能を低下させられるアームキャノンだけが、妖怪に有効打を与えられる唯一無二の存在なのだ。

 尤も、小櫃には唯一箇所だけ、妖怪並みの力が出せる部位があるのだが――彼はその程度では妖怪、厳密には殺意を以って襲い来る無数の妖怪を相手取ることは不可能と考えていた。あくまで‘最強’の称号はヒトという種の中でのみ。その脆弱さが、人間離れした能力を持つ小櫃を辛うじて人間の領域に押し止めている。戦う度に、彼はそれを再確認する。

 

 「へい、鉄火丼飯多め!」

「ああ、ありがとう」

 

膝の上でインターフェイスを操作していると、店主が注文の品を小櫃の前に置いた。礼を言って、食事に集中するべくインターフェイスを閉じようと手を掛けた――

 

「?」

 

所で小櫃は思い留まる。今し方開いていたデータベースの最下段に、見知らぬファイルの存在を認めたからだ。ファイル名は、『from Mr.Strange』…変態おじさんより?

 

「まさかとは思うが…」

 

早く食わねば鉄火丼が冷めてしまうが、今はこのファイルへの興味、もとい訝りの方が勝った。アナログパッドでカーソルを動かし、変態おじさんを選択すると、

 

 「やあやあオビツ君、元気にしてるぅ?」

 

無精ひげ――髭、髯、鬚の全て――を生やし、黒縁眼鏡を掛けている中年の男が映った、謎の動画が再生され始めた。

 

「ちょっ、音が大きい…」

「ハハハ、久し振りの再開に驚いて…」

 

突然の大音量は、普段小櫃がシステム音声としているのをそのまま適用したからだろう。彼は急いでタッチパネルを操作し音量を下げる。ほぼミュートになって小櫃にしか聞こえないが、親切にも、動画には字幕までばっちり付いていた。

 この男を、小櫃は知っている。

 

「ハルベルト…」

 

そう、見紛うことなきハルベルト・フランケンシュタインその人だった。

 

 

 

 

 

 ほぼ同時刻、迷いの竹林。

 竹林が永遠亭への到達を困難にしている要因は、実は地勢やそこに住む妖怪だけではない。

 因幡の白兎をご存知だろうか。離島に渡ろうとサメ(学者の間で正体について意見が分かれるがここではサメとしておく)を騙して島まで一列に並べさせ、その上を跳んで岸まで辿り着いたはいいものの、愚かにも「お前達は騙されたのだ」と口を滑らせたせいでサメの怒りを買い、毛を刈られ丸裸にされた挙句、通りかかった八十柱の神に嘘を教えられて傷を悪化させてしまった、日本神話のウサギだ。勿論、ウサギは荷物持ちで後からついてきていた末の弟の神に助けられ、一命を取り留めたのだが、()()は何と今でもこの地に妖獣として生き永らえている。

 そして彼女――因幡てゐは、サメ達を欺いたその狡猾さを生かし、ウサギという被捕食者の身にありながらトラッパー(罠猟師)として狩りをしている。のだが、彼女のそれはどちらかというとブービートラップというべきもので、捕まえるより獲物の反応を楽しんでいる節がある。

 本人曰く、「人間を獲る猟師」。聖書の一節にかけているようだ。

 

 「……」

 

今回、トラップの定番ともいえる落とし穴にかかったのは、見当違いの場所で小櫃を捜すあの鴉天狗だった。迷わないよう能力で予防線は張っておいたのだが、過去の情報で十分という慢心故に、迷いの竹林に関する情報をよく調べておらず、このような結果を招いたのである。

 

「おお~、今度はまた珍しいのが落ちたねえ」

 

無様に穴に嵌った彼を、てゐがニヤニヤ笑いながら覗き込む。桃色のワンピースはところどころ土で汚れている。この落とし穴は掘ったばかりのもののようだ。

 

 「……」

「わ、分かったよそんな睨まなくてもいいじゃない」

 

それだけで人を呪い殺せそうな程の彼の視線を受け、てゐはびくびくしながら手を差し伸べる。穴の外に引っ張り上げられた彼は、

 

「…似非幼女が」

 

てゐを一瞥し憎々しげに呟くと、

 

「うわあっ!?」

 

後向きに彼女を足蹴にして、自分の入っていた穴に突き落とした。因果応報。

 犯人への報復が済むと、その後は特に何事もなく永遠亭に辿り着くことができた。怪我や病気はない(と思っている)自分が医療機関に立ち入ることは憚られたのか、彼は門前で立ち止まっていたが、意を決してゆっくりと門をくぐった。場違いなよそ者であることを意識してしまい、振る舞いが余計に怪しくなってしまっている。

 森の中でゴミが散乱していればとても目立つように、不自然なものというのはすぐに見つかる。当然彼も例外ではない。

 

「永遠亭に何か用?」

 

偶々庭に出ていた永琳が、彼に声を掛けた。普通こういった状況で、不審者は自分が相手の印象に残ることを嫌う為、その場から立ち去ろうとすることが多い。

 

「…ああ、ここに四島小櫃とやらはいるか?」

 

彼は決してやましいことがあってここにいるのではない。故にわざわざ彼女を見て逃げる必要もない。だが、印象に残りたくないという点では同じであり、できれば用を済ませ次第速やかにここから立ち去りたかった。紡がれる言葉も早口に、手短にならざるを得ない。

 

「今は仕事で人里に出ているわ。というか小櫃()()()って、…まるでつい最近伝え聞いたみたいな言い草ね?」

「隠遁生活が長くてな。世間に疎いんだ。邪魔したな」

「あ、ちょっと待ちなさい」

「何だ?」

 

 呼び止められた彼は、声音や表情から鬱陶しい心持を隠せていなかった。本人に会わねば欲しい情報は手に入らない。()()と話している暇はないのだ。だが、永琳の次の一言で認識を改めることになる。

 

「…背中。寄生虫がいるんじゃない?」

「…!」

 

図星だった。元々拘束力の強い群れで行動する種族である鴉天狗は、背中の嚢の中に取り付いた寄生虫を自力で払うことができない。天涯孤独の身の上である彼はそれにしつこく悩まされていたのである。

 

「何故、判った」

「医者の目を甘く見ないことね。前にもちゃんと手入れせずにびっしり付けてたお馬鹿がいるから」

「…代金は」

「払える時でいいわ。その様子だと身一つでしょう? まずは入浴してきなさい、貴方ちょっと汚いわよ」

 

 断ることもできず、なし崩しに大きな浴槽を持った風呂に連れていかれ、彼は実に一月振りに熱い湯に浸かることになった。彼はこの時、妖怪の山の麓から地中のパイプラインを通って幻想郷中に温泉が引かれていることを初めて知ったのだった。

 もうもうと湯気が立ち込める浴室の中、浴槽の縁にもたれて天井を見上げながら、ここまでで集め、解析した‘四島小櫃’の主観的情報を簡単に纏めてみる。

 四島小櫃。年は二十五――次の六月で二十六になる――、性別は男。とある異変を解決するべく八雲紫の手で未来から連れてこられた。インフィニタスなる特殊な人間で、類い稀な戦闘センスと、バイオエナジーを媒介とする多数の特殊能力を持ち、強力な筒型携行兵器を用いてあらゆる人妖を蹂躙する。ベストコンディションなら風見幽香とも互角以上に渡り合い、大妖怪にも匹敵する実力者である。

 気になったのは二つの点。一つは小櫃の能力及び武器に関係しているバイオエナジーという物質。もう一つは小櫃が関わった異変。最初は後者に興味を持ってここまで来たが、今では前者の方が自分の頭の多くを占めている。

 

「…バイオエナジー」

 

今まで聞いたこともないその言葉の響きを噛み締めるように、掠れた声で口に出した。人間や妖怪の区別なく、あらゆる生命に巡る力。幻想郷では、唯一小櫃だけがバイオエナジーを認識しアームキャノンを利用することで扱うことができる。

 何となく、ではあるが。

 彼は、その物質が何らかの可能性を孕んでいる気がしてならなかった。扱い次第で、それまでの妖怪の在り方を根本から覆す何かを。

 

 「…知りたい」

 

バイオエナジーとは何なのか。どうすれば認識できるのか。どうすれば扱えるのか。いつの間にか、彼の思考は脇道に逸れ、バイオエナジー一色に染まっていった。

 とにかく、その情報を得るには四島小櫃とコンタクトを取る(少なくとも視界に収める)必要がある。彼の記憶を情報として取り出し、保存して、寝ぐらに帰ってじっくりと洗い出そう。

 能力の一つ――過去を見る程度の能力で。

 

 

 

 

 

 「え? 自由電子レーザー銃を作れって?」

 

 所変わって、玄武の沢。

 幻想郷の技術担当とも言える河童達が住み着くここは、洞穴や水中に彼らの研究施設を兼ねたアジトがある。

 河城にとりは、世の為人の為、親友の素子と一緒に様々な発明をしてきたエンジニアだ。

 

 「うん。地底からかつての裏切り者が現れたって。天魔様から天狗の暗部に抹殺の指令が下ったらしいよ」

「その抹殺の道具を作れっての? やだね。私の発明をそんなことに使われてたまるかってんだい」

「でも、今回のは凄く手強いらしくて…」

 

にとりは壊れたラジオのビスをドライバーで外しながら、伝達に来た友人の白狼天狗、犬走椛に目もくれずに会話を続ける。

 

「だから携行できる強力な兵器が必要なのよ」

 

椛が言い終えるか終えないかのタイミングで、にとりはドライバーを作業台の上に置き、椅子を回して振り向いた。

 

「仲間内の尻拭い位自分達で解決させたらどうなの? 今に始まった話じゃないけど、天魔様の無茶振りはどうにかならないのかね?」

 

 その瞬間。

 

 「にとり!!」

 

バタン、作業場の戸が勢いよく開け放たれ、ドタドタと男が駆け込んできた。突然の来訪者に二人は呆気にとられてしまうが、どうにか調子を持ち直して問うた。

 

「お、小櫃さん、どうしました?」

「口に海苔付いてるけど…大丈夫?」

「遂に分かったぞ! ハルベルトがやってくれた!」

「は?」

 

小櫃は竹光から、大慌てでここまで飛んできたらしい。彼の不明な発言に、椛とにとりは顔を見合わせた。

 

 「マルチシューターマシンの内部構造だ!!」




能力判明。
なろうで鋼鉄雲を読んだ方は、もう鴉天狗の正体が分かったかもしれません。
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