東方孤戦漢 〜Replacing and Revolution of Bioenergy. 作:影のビツケンヌ
モノポールドライブの理論とかその辺は長ったらしいので、興味のある方だけ読んで頂ければ結構です。
十五年五月二十三日、タイトル修正
七月五日、本文行間修正
十六年一月十八日、本文傍点形式修正
バイオエナジーの取り扱い技術は、小櫃の元いた世界――西暦二一二九年の地球でも、Gアームズが完全に独占していたが故に一般に出回ることはなかった。アームキャノンのような製品を売り出す際にも、分解を検知すると技術的に重要な部分即ちバイオエナジーの取り出しから形成・射出までを担当するマルチシューターマシンが自壊するようプログラムされており、その秘匿性は国家機密レベルであった。
何故そこまでして隠そうとするのか、記者団の取材にも社長ハルベルトは頑なに黙秘を貫き、付き合いの長い小櫃も分からず終いだった。
だというのに。
「…なるほど、つまり要点をまとめると…」
「そのハルベルトさんが、アームキャノンにビデオメッセージを隠していて、それでマルチシューターマシンの設計図を公開してくれた訳だ」
「そうなる」
彼は、小櫃に企業秘密を託したのだ。
小櫃は、仮にアームキャノンが故障した時などを想定して、何とか幻想郷で修理に必要なものを集めることはできないかと試み続けていた。今回はまさに渡りに船。自分より機械の扱いに一日の長があるにとりに報告し、解析を依頼しようと、彼は玄武の沢まで文字通り飛んできたのである。居合わせた椛も、二人の会話に加わっている。
「面倒くさいなぁ」
「わざわざこんなことする位なら、始めから小櫃に教えればいいのに」
「あいつはあんな顔して疑り深い奴だからな…」
ハルベルトがひた隠しにしてきたマルチシューターマシンの秘密とは、使用されている金属だった。
「確か、カスミウムだっけ? そんな金属聞いたことないよ?」
「当たり前さ。カスミウムは俺のいた世界で火星探査機が発見した金属元素だからな」
「じゃあ、それって火星で見つかったってことですか?」
「その通りだ。これがアームキャノンの根幹を成している」
火星でNASAの探査機にカスミウムが発見されたのは西暦二〇四九年、当時中小企業規模だったGアームズがアームキャノンを試作したのはその五年前だと、ハルベルトはビデオの中で吐露していた。つまり、NASAが探査機を打ち上げるより前に大量のカスミウムを地球に持ち帰っていたことになる。多くは語られなかったが、ハルベルトの前に社長を務めていた彼の祖父が、非人道的な方法で宇宙に人を送り出していたらしい。NASAが地球に一グラム以下しか持ち帰らなかったカスミウムの回収が公になれば、すぐに祖父の愚行も白日の下に曝されるだろう。彼はそれを恐れたのだ。真実を告げる時の表情は、およそ小櫃の見たことのない真面目なものだった。
「本来なら原子番号一一三番はジャポニウム…いや、ウンウントリウムというべきか、それが当てはまる筈なんだが、安定なカスミウムの質量数はそこに当てはまる。しかもビスマス以降の元素でありながら、放射能を持たないんだ」
「放射能を持たない重金属元素…夢が広がるね」
「そうだな、だがここからが本題だ」
一拍置いて、小櫃は続けた。
「バイオエナジーが周囲の電磁場に左右されないのは、にとりには前に話したな?」
「うん。だからどうやって体外に取り出しているのか分からなかったんだよね」
バイオエナジーは、どんな強力な磁場で以っても引き付けることができず、また体外へ取り出す際、アームキャノンで機械的に取り出す手法と、インフィニタスが能力を用いて取り出す手法とでは、その色が異なる(前者は青白く、後者は赤黒くなる)、つまり反射・吸収する電磁波の波長が変わるという不可思議な性質を持っているという、電磁的性質も特異な存在だった。
「…ハルベルトの弁によれば、カスミウムとニッケルの合金――カシュークの磁場は、例外的にバイオエナジーを引き付けることができるそうだ」
「なんてこと…ということは、そのカシュークを使えば」
「バイオエナジーを取り出して、扱えるようになる、と」
ハルベルトの説明はこうだ。
アームキャノンのグリップはそれ自体マルチシューターマシンの一部で、カシュークを芯にした小型電磁石を少しずつ角度をずらして積み上げ――DNAの二重螺旋構造に似ている――内蔵した装置となっており、それにより皮膚の細胞からバイオエナジーを無限に吸収する。バイオエナジーは一度バイオダイナモを経由してからカシューク製のマルチシューターマシンに戻り、内部で電磁的に圧縮形成・展開・射出等操作を行なう。
「うわへへ、ワクワクするなあ!」
新技術を前ににとりは興奮冷めやらぬ様子。作業場の隅には、一つしか存在しない筈のアームキャノンの残骸が山のように積み上がっている。人里に住まう外来人の加崎則夫が、『量産する程度の能力』でコピーしたものだ。分解する度内部機構が跡形もなく壊れてしまい、スクラップになるのを待つばかりだったが、マルチシューターマシンの作成に必要な金属を回収する位はできるだろう。
「でも試作品を沢山作るんでしょう? カシュークは足りるの?」
「あう…」
部品の山の脇で小躍りしていたにとりは、椛の言葉で痛いところを突かれたようだ。分解したアームキャノンは全部で二十三丁。彼女の見積もりでは、試作だけで使い果たしてしまいそうだった。そこで小櫃が提案する。
「…霊夢を当たってみるか」
「霊夢さん?」
「正確には金山彦に頼むことになるが…なに、鉱山の神だ、火星の鉱物とはいえできないことはあるまい。霊夢はかなり前にもパラジウム合金を神降ろしで作ったようだしな」
霊夢――博麗霊夢。彼女の名を知らぬ者は、世間知らずと言っていい。彼女こそ現在の博麗の巫女である。
「ああ常温核融合だっけ? 笑っちゃうよ、結局素子と私のモノポールドライブの方が採用されてるじゃない。所詮はトンチン神様ってとこか」
「ハハハ、可笑しな話だ」
「ちょっ、にとりそんな罰当たりなこと言わない! 小櫃さんも笑わない!」
一九八九年三月二三日、イギリス・サウサンプトン大学のマーティン・フライシュマン教授とアメリカ・ユタ大学のスタンレー・ポンズ教授が、重水を満たした試験管(ガラス容器)に、パラジウムとプラチナの電極を入れ暫らく放置、電流を流したところ、電解熱以上の発熱(電極の金属が一部溶解したとも伝えられた)が得られ、核融合の際に生じたと思われるトリチウム、中性子、ガンマ線を検出したとしている。これが常温核融合だ。
しかしその後、現象を再現するべく多数の実験が行なわれたものの、その再現性は低く、「核融合」ではなく「核変換」現象だったとする論文まで発表され、小櫃のいた未来に於いても、エネルギー源たり得る規模での常温核融合は言わずもがな、教授らの実験のような結果は観測されていない。実際、霊夢製パラジウム合金を用いた守矢神社主催の公開実験でも、仮に神の加護を受けていたとしても、エネルギーとして利用するにはお世辞にも適しているとは言い難い程に非効率的だった。
「だって、ねえ?」
「山の電力は地熱発電で間に合っているし、それ以外の地域の電力もモノポールドライブで賄っているだろう? 守矢の連中もこの方面からは手を引いた。エネルギー問題は解決したも同然だろうに」
幻想郷のエネルギーは、かつては外界のおこぼれを貰う形だったが、素子とにとりの尽力で解決された。発明品の名は、先程から出ているモノポールドライブ。
磁石にはN極、S極の二つの磁極が必ず存在し(磁気双極子)、そのそれぞれを単一で取り出すことはできない。棒磁石を半分にしても同じく両端がN極とS極になっている磁石が二つできるだけに過ぎず、電磁石の場合でも、巻き数が半分になった電磁石が二つ生まれるだけだ。マクスウェルの方程式――電磁場の振る舞いを記述する古典電磁気学の基礎方程式――に代表される古典電磁気学はこの前提のもとに構成されている。
だが一方で、電気には
モノポールドライブの方に話を戻すと、それは磁気単極子が陽子崩壊の触媒作用を持つことを利用したものだ。周辺の原子を電子、陽子、中性子に分割、中性子は電子と陽子に分割変化、陽子や中性子のクォークを磁気単極子の磁力によって引き付け、それを中心付近でレプトンに変換、陽子崩壊を引き起こし、陽電子、光子、ニュートリノやその他のフェルミオンを取り出した後、大量の電子、陽電子、光子をエネルギーに変換する、という半永久的エネルギー供給システム。それがモノポールドライブだ。
現在、全七機のモノポールドライブが稼動し、幻想郷の電力大半を賄っている。
「まあ確かに、モノポールは触媒でも核融合は燃料が要りますからね…」
「話は逸れたが、カスミウムについては後日俺が霊夢に交渉してみよう。設計図は写したから、にとりは加工を頼む」
「OK! さあさあカシュークちゃん、私と一緒に炉に行ってメルトダウンしようじゃないかぐへへへへ…」
「……」
それはさておき、小櫃のアームキャノン修復可能化計画はようやっと動き出した。大量の部品を担ぎ上げ、変態的な笑みを浮かべて炉に向かうにとりを、椛が呆れながら見送る。
「そうだ、椛にも頼みたいことがある」
「へ?」
小櫃は自分のアームキャノンを操作していた手を止め、椛に向き直った。
「今度道場で強化合宿を行なうつもりでいる。その時にお前と仲間数人で、抜き打ちで襲撃をかけて欲しいんだ。修行の一環としてな。暇な時に合わせてこちらも予定を組む。頼めるか?」
小櫃は永琳の助手であると同時に、道場の師範でもあった。アームキャノンが直せるということは、アームキャノンを造れることでもある。門下生達に増産したアームキャノンの扱いを学ばせ、必要な知識、技量を叩き込んで、彼らの自衛能力を一層強化することが、小櫃の計画の第二目標だった。
「うーんどうだろう…哨戒のシフトがない日が重なるのは、多分一月は後になりますよ?」
「構わない」
「わかりました、詳しい予定は追って連絡しますね。そろそろ休憩時間が終わっちゃうっ」
小走りに作業場から出て行く椛を、小櫃はゆったりした歩調で追う。
事は何もかも順調だった。
上機嫌で永遠亭に帰ると、当然ながら恋人の鈴仙が出迎える。
「おかえり。何だか嬉しそう。何か良いことあった?」
「ただいま。まあな、カモがネギを
ここでいう‘カモ’は、ハルベルトが隠していた情報の発見、また‘ネギ’は、にとりの近くに偶然いた椛のこと。…念を押しておくと、小櫃はハルベルトをカモにするような輩ではないし、椛は妖怪といえども如何せん白
「そろそろ夕飯の支度をせねばなるまい」
「大丈夫、後はハンバーグを焼くだけよ」
「それは良かった。ありがとう」
「どういたしまして」
玄関から靴を脱いで上がり、二人並んで談笑しながら仲睦まじく歩く。小櫃と鈴仙の仲の良さは、幻想郷全てのカップルの中でも最高峰と云われる程だ。だが九年間もずっと‘恋人’のままであり、素子に限らず二人を応援する者達は痺れを切らしている。曰く、「お前らさっさと結婚しろよ」。
それでも二人からすれば、この関係は十分に満ち足りたものである。鈴仙が小櫃の心の拠り所なのは知っての通り、鈴仙にとっての小櫃はまさにヒーローそのもので、何事にも迷わず、恐れず、諦めない様は憧れの対象だ。…たとえ彼のその行動原理が、どんな異常性を孕んだものであったとしても。
「そういえば、小櫃に会いたいっていう人がいるの」
「俺に?」
会話の最中、鈴仙は小櫃に話題を切り出した。
「ぼさぼさ頭の鴉天狗なんだけど」
「鴉天狗…?」
彼の頭に浮かんだ疑問は、そのまま警戒を含んだ疑念へと変わる。文などの鴉天狗は新聞を作る報道部隊であり、その情報収集・拡散能力は半端ではない。幻想郷で生活し始めて早九年、普通なら自分の行動パターンなどすでに把握している筈だ。鴉天狗のスピードならば、自分を追いかけて取材する方が遥かに早いだろう。ネタを横取りされまいとせっかちな者の多い彼らが、それをわざわざ永遠亭で待ち伏せするというのはどういうことか。
「取材か?」
「いや、そうじゃないみたいよ」
「……」
「…どうしたの?」
取材でない。ますます小櫃は警戒を強めた。何にという訳ではないが、
「師匠、小櫃が今…あれ、あの人は?」
そうこうしているうちに診察室まで来た。が、どうやらここにいたらしい鴉天狗は影も形もない。
「それが、ついさっきまでいたのにちょっと目を離した隙に忽然と…」
「ああ、名無しの権兵衛なら小櫃をちらっと見るなり帰ったわよ」
「えー…名前も明かさないまま消えちゃいましたね…」
奥から出てきた輝夜が、鴉天狗が帰った旨を伝えた。そこから始まる女三人の会話に入らず、小櫃はひたすら訪問者について思索し続ける。
自慢ではないが、小櫃には自分が幻想郷ではかなりの‘有名人’であるという自覚があった。にも拘らず、そしてあまつさえ鴉天狗でありながら相手は相当な情報弱者と見える。余程の隠者か、或いは外来の者に違いない。
どちらにしても、それが人々の安寧を崩すような輩であれば容赦はしない。
悪を砕き、邪を退け、不条理に食らい付く。
悪事を働き他人を不当に傷付ける者全てを、地の果てまで追い詰め、塵も残さず撃滅する。
それが、小櫃の信じてきた己の正義なのだから。
「…悪は滅びる。正義に勝てぬから」
「…よし」
彼は遂に情報を手に入れた。予定通り、ねぐらに帰ってゆっくり解析しよう。
彼の見立てでも、四島小櫃は大した男だった。アームキャノンは強力だろうが、鍛えられた体躯はそれに頼りきりという風には見えない。きっと日々のトレーニングも怠ってはいまい。
「…強いな」
できることなら、敵に回したくはない奴だ。
その強さを裏付ける元賞金稼ぎの努力を、彼はいつかは知ることになる。
とんちん神様w
『ペンギンズfromマダガスカル』でのコワルスキーの台詞「マッチョなとんちんかんり局員」を参考にしました。
勿論自分は守矢陣営が嫌いな訳ではないのであしからず。
とんちんかん主さんとか考えてしまって心底ZUNさんに謝りたいです。w