Dragon×strife   作:くるみわりナックル

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 やっちゃったー、やっちゃったー。
 原作も読んでないのにやっちゃったー。
 むしろ書く事によって、原作を買わなければならない状況へと自分を追い込む、そんな新しいstyle……。
 はい、すみません。バッチリ見切り発車です。
 お手柔らかにどうぞ。


プロローグ

 見事……免許皆伝だ。

 自身の肉体と魂が跡形もなく消失する直前に、笑みを浮かべてそう言った男が死んで数年。

 暗がりで人一人来ないような場所に、ひっそりと積み重ねられた石の前に佇む青年とも少年とも言える男が、静かに積み上げられた石を見下ろしていた。

 その脳裏に浮かぶのは、遺体すらその下にはなく、名も刻まれていない小さな墓の主の男が浮かべた最後の笑み。

 上司であり師であり、男――霧咲真一にとっては父親のような存在でもあった男の小さな墓を前にして紡ぐのは、軽い調子の言葉だった。

 

「俺、この世界(ここ)から出て行くわ。陽の当たる世界って見たことなかったからさぁ、ちょっと見てくる」

 

 小さく笑みすら浮かべて、軽い調子で語る目つきの悪い男の言葉に、重苦しい雰囲気などない。

 いうなれば、ちょっとその辺に散歩へ出ると言う様な口調だ。

 

この世界(ここ)で色々あったし、学ぶ事も多かったけど、学校ってのにも行ってみたいしな」

 

 後暗い事などない明るい世界の事を、嬉々として語る墓の主の顔と言葉が真一の脳裏に蘇り、小さく浮かべた筈の笑みが更に深く刻まれる。

 黒のジーパンに包まれた、スラリとした長めの足を小さな墓とは逆方向へと向けつつも、顔だけは半分振り返りつつ紡がれた言葉はやはり自然で軽い調子。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるわ……『親父』」

 

 豪快に笑い声を上げる髭面を思い出しつつ、紡がれた言葉を言い終えれば、それ以上は小さな墓へ向けて掛ける言葉などないと言わんばかりに進める足は止まる事がない。

 だからこそ未だにその薄い唇が動いて紡ぐ言葉は、小さな墓の主へ向けての言葉ではない。

 空気を震わせ、虚空に溶けて消えるはずだった真一の言葉に応えたのは人の声ではなかった。

 

「行くぞ、黒歌」

 

 虚空へと消えるはずだった静かな呟きに反応したのか、「にゃあ」と小さく鳴き声を上げた黒猫がどこからともなくふらりと現れ、真一の隣に寄り添うようにして位置取る。

 歩調すらも真一に合わせ、機嫌良さ気に尻尾をゆらりと揺らして歩くその黒猫は、どうやら人の言葉を理解しているらしい。

 その証拠に真一が発する言葉に従い、反応する素振りを見せている。

 言葉の意味を理解し、内容を思考し、行動へ移すまたは反応する。

 人間という理性と知能を併せ持った生き物と同じだけの知能を宿しているとしか思えない黒猫だが、この黒歌と呼ばれる黒猫がその程度で収まる猫ではないと証明する事態が起きる。

 

「具体的には何処に行くのにゃ?」

「学校に通う。一度どんな所か見てみたかったんだよな。場所はそうだな……近いし、駒王学園って所にしよう」

「駒王学園ねぇ……」

 

 不思議な事に、黒歌と呼ばれた黒猫は、紛れもなく言葉を発していた。

 表情の乏しい猫と言う動物の割には、眉を歪めてみたり、呆れた様に目尻を下げてみたりと非常に表情豊かである。

 

 常識的に考えれば、異常事態も甚だしい光景を見た所……いや、聞いた所で真一の態度は変わらない。

 歩調も変わらなければ表情も変わらず、あまつさえ当然だとばかりに会話を成立させている。

 これは真一が突発的な出来事に対し、どんな事でも受け止める性格が影響している……訳ではなく、その答えは単純明快。

 黒歌という黒猫が特別も特別な猫である事を、この時点で真一は知っていた。

 これが答えだ。

 

「何だ? ダメなのか、駒王学園」

「駄目って事はないにゃ。ただそう……あの学園は面倒にゃ。人じゃにゃい奴らが割といるにゃ」

 

 人どころか猫かどうかすら怪しい黒歌に、軽い調子で人じゃない奴らと言い切られる存在が、ただの学園に存在している事実に真一は「何を今更」と呆れてみせる。

 

「別に構わねぇだろ。面倒そうな事には首突っ込むつもりはねぇよ」

「ご主人様がその気がなくても、向こうから来る分にはそうはいかないにゃ。人だろうと人じゃなかろうと、強大な力を持つ存在は嫌でも問題の渦中に巻き込まれる宿命にゃ。私はそんなご主人様のトラブルメイカーに巻き込まれたくないだけにゃん」

「じゃあ何だ。お前、帰るか」

「嫌にゃん」

 

 軽い調子で離別を進言する新一に対し、それこそ考える暇もない程あっさりと黒歌はその進言を切り捨ててみせる。

 ツンと顔をそっぽ向けて、隣を歩く真一の足に尻尾で一撃見舞うおまけ付きだ。

 

「巻き込まれたくないなら帰ればいいだろ」

「何があっても私がご主人様から離れる事はにゃいから、ご主人様にはそれを察してトラブルの震源地に行って欲しくないだけにゃん」

「お前の都合で主人の行動を妨げんのは、お前的にどうよ?」

「妨げてるんじゃないにゃ、私はご主人様の身を案じてるだけにゃん」

 

 あぁ言えばこう言う奴だ……と天を仰ぐ真一だが、その歩みは一定の調子から止まる事なく、人通りの多い方向へと進んでいる。

 埃っぽいというか、空気が澱んでいると言ってもいい路地や建物の横をいくつもくぐり抜け、アンダーグラウンドとでも言うべきそこから抜けた世界は……。

 

「……あぁ、そうか、こんな所だったんだな」

 

 何か眩しい物を見た様に真一の瞳は細められ、何の不足も感じていない生気の宿った表情で歩く人並みを、羨望すら感じている瞳で見渡す。

 はっ……と短く息を吐きだし、真一の心の中に張り詰めていた糸のような物が緩む感覚を、彼自身しっかりと感じ取っている。

 訳もなく意味のない大声を上げたくなった真一の足に、そっと何かが触れる感触。

 その感触の原因を探るために、視線を右下に下げた先には、明後日の方向にツンとした表情を向けつつも気遣う様に真一の足へ尻尾を絡める黒歌の姿。

 視界にそんな黒歌の姿を認めた真一は、一つ大きな息を吐き出し、顔を上げた時にはいつもと同じ目付きの悪さが目立つ笑みを浮かべていた。

 

「わりぃな、黒歌」

「別に……ご主人様がそんな調子だと調子が狂うと思っただけにゃ」

 

 一応普通の人間が歩いているこの状況を鑑みてか、黒歌の発する声は掠れた様な微かな声。

 しかし、真一の聴覚はしっかりとその声を拾い上げており、ますます笑みを深く刻む。

 

「んじゃ、行くか」

 

 独り言の様に声を出す新一に、黒歌は、にゃあと一声上げた。

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