Dragon×strife   作:くるみわりナックル

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 どうも、くるみわりナックルです!
 やっと書けた! やっと書けたよぉぉぉっ!
 忙しいってもうヤダ!
 絶妙に話が進んでないような気もしますが……。
 そんな事は気にせず、今回も、よろしくどうぞー!


悪魔と堕天使と人間=普通とドーナツシートと無慈悲

 IN 一誠

 

 今日はおかしな事だらけだ。

 朝から、今まで特に接点もなかった筈のリアス先輩から声が掛かるし……まぁ、話題は大体霧咲先輩の話なんだけどさ。

 本人のいない間にその人の事を話すってのは、どうにも性に合わないんだけど……まぁ、陰口じゃないしいいか。

 って、それだけなら別におかしな事はないよな、接点が霧咲先輩しかなかった筈のリアス先輩が急にってのはおかしな話ではあるけど……。

 一応許容範囲だよな……だけど、おかしいのはここからだ。

 元浜と松田に紹介したはずの俺の彼女、天野夕麻ちゃんを知らないって言うんだよな……他の人に聞こうにも、元浜と松田にしか紹介してねぇから確かめようがないし……。

 交わしたはずのメールや、撮ったはずの写真すら俺の携帯から消えてる。

 こんな事あり得るのか? 夢? いや、それにしては余りにもリアルすぎた。

 それに、経過した日数にも整合性がないし、もし夢なら俺の記憶は数日抜け落ちてるって事になる。

 

 結局その日は、リアス先輩に声を掛けられた事に、少し浮ついた気分で一日を終えて……。

 耳が聞こえ過ぎたり、明らかに運動能力が向上してたり、俺自身の中にある違和感っていうか……変化みてぇなもんが浮き彫りになって……。

 その変化は、元浜と松田の秘蔵だと言うDVDを見ている時、見逃せない物となって現れてきた。

 暗闇の筈なのに、はっきりと視界が開けてる。

 元浜や松田の顔も、暗くて見えないはずなのに、くっきり昼と変わらない様に……いや寧ろ昼間よりよく見える。

 そこに来て、俺はようやく自分の変化に怖さを覚えた。

 自分の知らない間の変化が、余りにも俺にとっては大きすぎた。

 そう考えた瞬間気分が悪くなって、テンションの上がるエロい映像を見てる筈なのに、そんな事はどうでもいい事にすら思えてくる。

 そんで、帰り道に夕麻ちゃんと来た公園に立ち寄って……。

 

「あ? 一誠じゃねぇか」

「先輩……」

 

 公園の噴水の縁にあぐらをかいて、缶コーヒーを傾ける霧咲先輩と会った。

 多分、この時の俺の気持ちは、誰にもわからないと思う。

 自分の知らない変化が、内にも外にもあって、漠然とした原因のわからない不安が渦巻いてて……。

 それでも、この先輩の目は、いつもと変わらなくて。

 夢か何かよく分からず夕麻ちゃんに殺されかけた時に、見上げた先輩の目が、今この瞬間の目と変わりなく……スゲェほっとした。

 先輩だけは変わらないでいてくれるって、妙な安心が俺の心の中に生まれたんだ。

 

 俺、今ひどい顔をしてるんだろうな、先輩が少し驚いたように目を見開いて俺を見てる。

 その後呆れた様に肩を竦めて溜息を吐いた先輩は、公園の中にある自販機まで歩いて行って、自分のと同じ缶コーヒーのボタンを押す。

 ガタリと音が鳴ると同時に取り出した缶コーヒーを、軽く俺の方に放り投げてきた。

 あっつい! とか思いながらも、普通に受け止めた俺に対して、先輩はいつもの様に小さく笑みを浮かべて再び噴水の縁に座り込む。

 

「どうした? まぁ、座れ」

「……はい」

 

 先輩の言葉に促されるままに、俺は先輩の隣に腰掛けて、先輩と同じ様に缶コーヒーを傾ける。

 あ、これブラックだ、にっが!

 俺は砂糖もミルクも必要派です……先輩。

 ……あ、ダメだこれ、わかっててやった顔だ。

 間違いねぇ、だって横目で俺の様子見てニヤニヤしてんだもんよ、楽しんでやってるに違いねぇわこの人。

 

「にげぇ話すんならにげぇ飲みもんだろ」

 

 くっくっくっと笑う先輩は、丸きり悪人面だが、それでも俺はこの人がかっこいいと思った。

 だからかもしれないな、元浜や松田に話して、笑われた話を先輩にしちまったのは……。

 先輩はそもそも俺に彼女がいた事実すら知らないし、そもそも夢かもしれない俺が死にかけた話をされても、先輩は困るだけだ。

 それでも、この人なら、あらゆる意味で常識が通じないこの人なら……。

 そう思っちまったのかもしれねぇなぁ……。

 

 だから、話すのか?

 あぁ話すさ、信じてくれるとか先輩はバカにしないとか、そう言う根拠があったわけじゃねぇ……。

 でもこの人なら、普通の人とは違う価値観の中で生きてるこの人なら、的外れでもいいから答えをくれると思った。

 あの時、死にかけの俺が見た先輩の瞳は、普通の人の価値観や理念を持った目じゃなかった事くらい俺にもわかる。

 そして、今俺の前にいる先輩も、あの時と同じ目だ。

 普通の人じゃたどり着けない狂気とも言える程に強い意志を宿した、そんな目をした先輩がいるだけで、話す価値があると思う……

 きっとこの人は世界全てを敵に回しても、何時も通りの小さな笑みを浮かべて、自分のやりたい事をやり通す強さを持った人なんだよな。

 そんな強い人なら、俺の中に渦巻く不安ごとぶっ飛ばしてくれるかもしれねぇ、そんな打算的な思考があったのは否定しねぇ。

 だけど、純粋に先輩はそうするだけの価値がある人物なんだって、俺の中の何かがそう囁くのも事実なんだよ。

 

 そして俺は、少しずつだけど、俺の身に起こった……のかもしれない出来事を一つ一つ話した。

 天野夕麻って言う可愛い女の子と出会って、告白された事。

 最近デートに行った事。

 そしてその終わりに……俺が殺された事。

 思い出したくもないあの感覚が、俺の体に走って思わず眉が寄って目が細まるのを抑えきれないが、何とか話しきった。

 痛みはないのに血が流れ出るあの感覚……身体中から大事何かが、ずるずると抜け出ていくあの感覚は、出来ればもう二度と味わいたくない。

 そして、俺が腹に穴を開けて倒れた後、先輩やリアス先輩が来て……何故か俺は生きてた事。

 起きて学校へ行ったら、紹介したはずの夕麻ちゃんの事を、元浜と松田が覚えてなかった事。

 俺は覚えてるのに、夕麻ちゃんの存在の痕跡が、何一つ見当たらなかった事。

 

 話が終わるまで、先輩は何一つ言葉を漏らさなかった。

 ただ黙って、ここではない何処かを見ているような瞳をしたまま、静かに缶コーヒーを傾けてただけ。

 この人ちゃんと聞いてんのかな? とも思ったけど、その心配は無用だったみたいだな。

 小さく、でも長く溜息の様な吐息を吐き出した先輩。

 飲みきったんだろうな、缶コーヒーの空き缶を、今じゃ珍しい大口の缶捨てのゴミ箱へと軽く放った。

 綺麗な弧を描いて飛んでった空き缶は……甲高い音共に、ゴミ箱の中へ吸い込まれた。

 スゲェ何この人、絶対アレまぐれじゃない。

 ろくに視線も寄越さないで投げたよね……この人ホントなんなの、超能力者なの……。

 

「そーだな……結論からズバッと言っちまうが……」

「…………ゴクッ」

 

 あぶねぇ……ふざけてる場合じゃなかった……。

 割と身内に甘いとこのある先輩だけど、流石に俺から作り出しちゃったこの真剣な空気をぶち壊したら、ほぼ確実にボコにされるぜ……。

 

「お前が死にかけて、それでも次の日何の支障もなかったってのは、事実だ。だがまぁ、これについては近い内説明があるだろうからな、俺は何も言わねぇ。つーか、正確に言うとよく知らねぇんだよ。とりあえず、そういうもんだと納得しとけ」

 

 先輩の言う事をまとめるなら……。

 俺が死にかけて、でも生きてて傷一つないのはマジなんだけど、怪我一つなかった事とか死にかけた理由なんかはよくわからんから生きてて良かった万歳で納得しろって事か。

 OK! 理解は出来んが納得はした。

 よくわかんねぇって先輩が言うなら、そこで納得するしかねぇ、何故なら先輩がわからんものが俺に分かるはずないからだ!

 この人勉強が出来るわけじゃないけど、妙に不真面目な授業態度な癖に、どうしてか毎回平均点位はきっちり抑えてくるらしい。

 正直、勉強が嫌いで苦手と言ってもいい俺にとっちゃ、そんな上手い点数の取り方を教えて欲しいくらいだ。

 だから多分、この人って機転が利くとか、頭がいいって言われる人なんだと思う。

 そんな先輩がわかんねぇんだから、俺がいくら頑張っても無理無理……いや、勉強したくないとか頭がよくなる為の努力なんてめんどくせーとか思ってないよ?

 ほんとほんと。

 

 先輩の言葉に、うっす! と元気よく答えた俺は、何も悪くない。

 しかし、そんな事とは関係がなく、先輩の言葉には続きがあった。

 それを聞いた俺の頭の中は、文字通り真っ白になった……。

 

「お前、その天野夕麻って奴にもう一度会いたいか?」

「……先輩? な、何言ってるんです?」

「そのままの意味だ。また殺されるかもしれん、いや、今度は本当に死ぬかもな。それでも会ってみたいか?」

「いや、俺は……」

 

 多分、心の何処かで、先輩が知るわけない。

 だから的外れな回答が出てきて、それで笑って流されて……俺も気が楽になって、それで俺もいつも通りに戻れる。

 そんな未来を期待してたのかもしれない。

 だって、こうして問いかけてくれてる先輩に、俺は返す言葉がない。

 

 こんな問いを寄越すって事は、先輩は夕麻ちゃんを知ってるって事で……会いたいかって問うって事は……。

 先輩は、夕麻ちゃんのいる場所を……知っている?

 

「っ!」

「落ち着け、別に俺はあいつの味方ってわけじゃねぇ、かと言ってそうだな……。完全にお前の味方ってわけでもねぇ」

「どう、いう事ですか?」

「俺はいつだって俺自身の味方だ。必要なら誰にだって嘘も吐くし、誰だって殺してみせる」

 

 そう言った先輩の瞳は、鋭い以前に冷たく、金属の様な温度の感じない瞳で……。

 気がつけば俺の身体は震えが止まらず、ガタガタと鳴る膝を、力一杯両手で抑えるのが精一杯だった。

 

 でも、そこでふっと空気が和らぐ。

 

「だがまぁ、ここは嘘を吐く場面でも、誰かを殺す場面でもねぇ。だから嘘は吐かねぇ。その上で、どうだ? 会ってみたいか?」

「そりゃ、もちろ……」

 

 言葉を言い切る前に、あの時の感覚が完全に蘇った。

 体中の血液が、腹に開いた穴から大量に流れ出ていく、不可避の死の感覚。

 言おうとした言葉に逆らう様に、蘇った感覚に対して身体はそれに従った。

 気がつけば俺は、意思とは関係なく首を横に振っていた。

 そんな俺に対して、先輩は呆れるでもなく、叱責するでもない。

 ただ、懸命だな、と肩を竦めるだけだった。

 

 物語の主人公が俺で、ヒロインが夕麻ちゃんなら、ここはそれを乗り越えてでも会いに行って話し合って……。

 そして最後は分かり合って、ハッピーエンドって流れのやつだろ?

 けどあの死の感覚を味わって、その感覚が実際に俺自身が味わった感覚なんだと、先輩の言葉から現実のものだったとわかる。

 その上でそれを乗り越えて会いに行くだなんて、正直どうかしてる。

 少なくとも、俺には無理だ。

 行ってはいけない。

 今度こそ本当に、死は避けられない。

 俺の中の何かが、そう叫んでいる。

 そうなっても先輩は絶対に助けてはくれない、最初に死にかけた時は話が別だ。

 何故なら俺に殺される意思はなかったし、先輩は偶然その場に居合わせただけ、だから結果的に助けてくれる事になった。

 でも、俺から会いにいくと言えば、話は別。

 先輩は他人が決めた事に対して、絶対に手を貸してくれない。

 勿論目的の為に先輩の力が必要だったら、よほど嫌われてない限り、頼めば力を貸してくれると思う。

 だけど、一度言った事を覆す事は認めてはくれないし、それをしたら絶対に先輩はこの先そいつの事を頼らない。

 頼めば力を貸してくれるし、今まで通りに接してくれるだろうな……。

 けど、先輩が誰かの助けを必要としてる時、絶対に退けない場面の時。

 そう言う時に頼られる存在になる事は、多分もう二度と無くなってしまう。

 今まで通りに接して、今まで通りに助けてくれて、でも絶対に大事な事は話す事はない。

 そんな存在に成り下がってしまう。

 

 だったら俺は、そんな存在に成り下がってまで、結果的に先輩の信用を失うやつになりたくない。

 いつか、そんな時が来るのかどうかすらわかんねぇけど、先輩に頼られる存在になる可能性をこんな所で潰したくねぇ。

 

「まー、何か、アイツも色々考えてるみてぇだが……。そんときゃ適当にぶん殴っとけ」

「簡単に言いますよね……。俺夕麻ちゃんに殺されかけたんですよ? そう簡単に対峙してぶっ飛ばせないですって」

 

 苦笑と共に、先輩の言葉を否定し、ようやく俺も苦いコーヒーを飲み終わった。

 ほんと、苦い話だった。

 でも、俺じゃあ夕麻ちゃんに会いに行けないって事を、比較的冷静に見詰められたと思う。

 こう言う理性的な判断って、多分俺一人じゃ下せないんだよなぁ……止めるにしても、先輩みたいに身体中から何か変な怖さが出てるような人じゃないと俺も多分止まんないだろうし。

 別に人の言う事を聞きたくないとか、そう言う反社会的な思想なんて持っちゃいねぇ、けどこの人の言う事だけは聞かなきゃいけない。

 そんな感じがあるんだよな先輩って、つーかそんな人じゃないと、俺も止まれないし止まりたくない。

 多分先輩は、最後の最後で俺の暴走を止めてくれるリミッターみたいな、そんな人なんだな。

 ホラ、よくあるじゃん?

 いつもはのほほんとしてて、大抵の事には動じない、何してもいいよって言って結局許してくれる人。

 でもさ、そんな人が、真剣にやめとけって停止を強制してきたらどう思うよ?

 あ、この人がここまで言うんだから、それ相当やばいな……やめとこ……みたいな感じにならねぇ? 俺はなる。

 ギャップって言うのかな、とにかく先輩は大体そんな感じの人なんだよな。

 ……従わなきゃ、後がマジで怖いってのもあるけど。

 具体的にどうなるかがわかんないとこが、先輩の一番怖い所だよな……。

 

 さーって、とりあえずの結論も出たし、先輩に話も聞いてもらったし!

 モヤモヤはするけど、問題を置いておく事は出来た気がするぜ。

 

「先輩、ありが……っ!? 何だ!?」

「はぁん? 黒い羽?」

 

 話に付き合ってくれた礼を言って、帰ろうとしたその矢先に、突然俺達の頭上に広がる……何だあれ? 魔法陣……でいいのか?

 浮かんだ魔法陣は一瞬で消えたけど……代わりに出てきたのは、紫の膜の様な何か、それが公園全体を覆う様に薄く広げられた。

 同時にいくつも舞い落ちてくる、先輩の言った通りの……黒い羽。

 そして俺はその光景を、知っている。

 一瞬で記憶がフラッシュバックした俺が、口から発したのは、呆然とした声だ。

 

「また、羽……」

 

 でも、今回落ちてきたのは羽だけじゃない……って言うか、落ちてきたじゃなく『降りてきた』が正しいのかもしれない。

 長いロングコートに黒い手袋、黒い帽子。

 あの時見た夕麻ちゃんよりも更に、黒の印象が強い黒の羽を持った男だ。

 その男から出てきたのは、妙に仰々しくも明らかに俺達を見下している色が強い声で、上品な服と合った様な口調かもしんねぇ。

 だけど、その調子には下品な品性が滲んでいる様にも感じた。

 

「ほう? 珍しいな、こんな所に悪魔……と人間? 悪魔と契約している者か? 不浄な存在め」

 

 やばい。

 アイツはやばい。

 夕麻ちゃんの時はわからなかったけど、今回は何故だかその事がはっきりとわかる。

 感情よりも先に、体の方があいつに対する恐怖を抑えきれない様に、ガタガタと意思とは無関係に震える。

 クッソ! どうしたってんだ! 俺の体は!

 

 俺が自分の体の変化に焦っている間にも、この場に現れた黒い男は、羽を一度大きく羽ばたかせて地に舞い降りた。

 俺の焦りはどんどんと大きくなり、恐怖も右肩上がり、くそくそっ! 動けよっ! 俺の体!

 強くそう念じた瞬間、俺の体は意識がついて行く前に後方へと『吹き飛び』地面へと着地。

 なんだこりゃ……おかしいとは思ってたけど、もう明らかに変だ。

 一度地面を蹴っただけなのに、明らかに走り幅跳びの世界記録超えてねぇか!?

 俺が後方に跳躍した瞬間、黒い男の鋭い眼差しが俺の体を刺し貫き、同時に男の手にはいつの間にか輝く光の槍。

 あれは……夕麻ちゃんと同じ……。

 

「随分弱腰な悪魔の様だな。そちらの人間の方がよっぽど肝が座っていると見える」

 

 俺を小馬鹿にしたようにせせら笑う男の言葉に、俺は思わず自分の前にいる先輩へと視線を送る。

 えー……この状況で欠伸カマしてらっしゃる……あ、いや待て、何する気だ先輩。

 おもむろに大股で歩いて、向かった先は……自販機!? 間違いねぇ! この人この状況でコーヒー買う気だ!

 先輩!? せんぱーい!? と、止まらねぇ!?

 そしてちゃりんりゃりん、金入れて買ったのは……さっきと同じコーヒーじゃないですか! 先輩コーヒー好きすぎ!

 マイペースにコーヒーを買い、プルタブに指を掛けて、カシュッ! マイペースに中身を飲む先輩の姿に俺は驚愕するしかない。

 同時に、超尊敬もした。

 先輩、あんた、ほんとスゲェ人だよ……。

 

 流石の黒い男も、ここまでされれば、肝が座っているとかではない事がわかったみたいだな……。

 完全に超然としたような仰々しい雰囲気はなくなって、物凄い形相で先輩を睨んでる……先輩、あんたって人は……。

 明らかに相手にしてない雰囲気の先輩に、黒い男が鼻息荒く声を荒げるのも仕方ない事だと思う。

 

「貴様っ! 舐めているのかぁ!」

「あ? 何だ? 自己満足の寸劇は終わったのか?」

「せんぱーい!?」

 

 歯に着せぬ物言いってレベルじゃねぇ! この人!

 明らかに人間じゃない感じの黒男に向かって、この態度、憧れる!

 そしてこの黒男もスゴい……何がスゴいってあれだ、先輩を目の前にしてのこの、物凄い小物感がスゲェ。

 

「たかだか人間風情がふざけおって……」

「その人間にすら舐められる堕天使風情が、何をえらそーに」

 

 意趣返しスゲェ!

 何時も通り小さく不敵な笑みを浮かべての先輩の挑発に、黒い男の顔はもう凄い事になってて、見てる分には超面白い。

 皮肉には皮肉、悪意には悪意、挑発には挑発で返す先輩の姿は味方って視点からすれば心強い事この上ない。

 この人なら大丈夫って、態度で教えてくれている。

 

「馬鹿にするのも大概にしろよっ!」

「この程度の挑発で激昂とは……器が知れる。呆れてものも言えねぇ、ってやつだな」

「ほざけ! 人間風情が!」

 

 明らかに馬鹿にしたような先輩の溜息と共に、肩を竦めるその姿が勘に触ったのか、持っていた光の槍を全力で投擲。

 はえぇっ!? 目で追いきれねぇ!?

 

「先輩!?」

 

 その一筋の光の軌跡は、俺の一言よりも速く、先輩の下へと到達する……。

 俺が見たのは、その光の槍に体を貫かれる先輩の姿……じゃなくて、不思議そうに手に持った光の槍をしげしげと観察している先輩の姿だった。

 

「これ、前にも見たが、どう言う原理なんだろうな……」

「な……に?」

 

 黒の男が驚愕した様に声を上げてるけど、正直驚愕したいのは俺の方だぜ……今のは明らかに人が肉眼で捉えきれない程の速度だった。

 それを止めて、尚且手に持っている事に驚愕もするけど……それ以上に驚いたのは、先輩が何をしたのか『全くわからなかった』事だ。

 俺自身、変わった事を受け止めてからは、以前よりもモノがよく見えるようになった。

 そんな視力をもってしても、今の一撃は完全には捉えきれてねぇ……にも拘わらず、先輩の動きはそれ以上に捉えられない動きだった。

 それこそ、気がつけばと言う程あっさりと、先輩の手の中には槍があったんだ。

 

「ま、どうでもいいか、俺には使えねぇ代物だしな」

 

 軽く言い捨てて、先輩は手に持った槍を、ぽいっと投げ捨てる。

 その事に黒の男は驚愕以上の怒りを覚えたみたいだな、今ので既に先輩が普通じゃないってわかったのに、名乗り上げてまで先輩へと肉薄してる。

 

「我が名はドーナシーク! 貴様らを滅するものだ!」

「ドーナツシート? 油でも吸うのか?」

「ぶふぅっ! せ、先輩、それ、ドーナツシートって名前じゃないですから……」

「あ? そうか、ま、それぐらいてめぇはどうでもいい存在ってこった」

「っ!?」

 

 もはや怒りで言葉も出ない状態みてぇだな、バカ正直にまっすぐ先輩に突っ込む黒男――ドーナツ……違ったドーナシーク。

 怒りとプレッシャーを纏って、高速で接近するその姿にも、先輩は動揺一つ見せる事はない。

 再度生み出した槍を携えて、先輩へと肉薄したドーナシークは、槍を振り上げ――地面へと叩きつけられていた。

 うっすらと笑みを浮かべてドーナシークを見下ろす先輩と、呆気にとられながらも怒りの視線で先輩を見上げるドーナシーク。

 ……い、今、何をやったんだ?

 何て思っている間も、先輩の動きは止まらない、容赦しない。

 起き上がろうと上体を起こしかけたドーナシークの腹に飛び乗り、振り上げた拳を打ち下ろす。

 ただひたすらに浮かべた笑みのままドーナシークを見下ろし、打撃(パウンディング)打撃(パウンディング)打撃(パウンディング)打撃(パウンディング)打撃(パウンディング)……。

 

 …………え、えげつねぇ。

 こ、この人ホント、容赦ってもんを知らねぇ……。

 恐ろしい人だぜ……。

 左右の両手に握り込まれた硬い拳を何度も打ち下ろされ、ドーナシークの顔の形は益々見る影もなくなっていく。

 腹に乗った時に、両手を脛で地面に縫い付けられる様にされてるから、抵抗らしい抵抗も出来ずに呻き声を上げながらただ殴られてるだけのモノに成り下がってる……。

 

「グッ! ごっ! ぶっ! がっ!」

「ほら、どうした? そんなもんか? 堕天使ってのは、男だから本気(マジ)で容赦しねぇぞ? 抵抗しねぇと死ぬぞ?」

「先輩、抵抗しないんじゃなく、出来ないんだと思います……」

「あ? そう? じゃあ死んでろ」

 

 その光景をただ呆然と見てるしかない俺の言葉に、適当に相槌を打つも、打ち下ろされる拳が緩む事はない。

 俺の意識は、その光景に遠のきそうになるが、殴られてるドーナシークよりも気になる事があった。

 それは、先輩の拳だ。

 陽炎の様な……空気が歪んで見える靄の様なものが、先輩の拳にまとわりついてて、それを見る度に俺の背筋には冷水をぶっかけられた様な悪寒が走る。

 あれで殴られたら、今の俺じゃあ死は確実。

 そう思わせるだけの何かが、先輩の拳にはあった。

 

 ただひたすらに殴られ続ける堕天使らしい存在と、笑みを浮かべながら堕天使らしいそれを殴り続ける先輩と言う光景に、どうしようもないほどオロオロとしている俺。

 だ、誰か、誰か先輩を止められるような人はいないのか!?

 そう強く思った瞬間、俺を助けるような、天からの声が舞い降りた……いや、天からじゃないけど。

 浮かんだのは赤い魔法陣? そこから飛び出てきたのは、凛とした声だった。

 

「そこまでよ、それ以上その子……を……って、またなの? 真一」

「お? リアスか。待ってろ、すぐ終わらせる」

 

 突然現れたリアス先輩に、少しばかり驚いた様な表情を浮かべるも、直ぐにサンドバック(堕天使)を殴る作業に戻る先輩。

 拳に大量に付着し、殴る衝撃で跳ね返って頬についた返り血がとってもキュート☆

 ……とか言ってる場合じゃねぇぇっ!

 俺は恥も世間の評価すらかなぐり捨てて、思わず縋りついた……リアス先輩に。

 

「お、おおおおお願いですリアスせんぱぁい! 霧咲先輩を止めてくださいっ!」

「そう言われても……どう言う状況かわからないし……」

「状況なんて後でいくらでも説明しますから! 俺もう怖くて仕方ないんです……霧咲先輩が!」

「まぁ、確かに怖いけれど……」

「姫島先輩でも構いません! 止めてください!」

 

 何故か渋って動こうとしないリアス先輩じゃダメだ! ここは駒王学園で、霧咲先輩と一番仲がいいと噂される姫島先輩しかいねぇ!

 頼む! 俺の希望の星よ! 光れぇぇぇぇぇっ!

 

「無理ですわ」

 

 神は死んだ!

 微笑みを浮かべたまま安らかに逝かれたぁぁぁっ!

 だがまだだ! まだ誰かっ……。

 そして視線をさまよわせた結果……小柄な影を捉える。

 白いショートの髪に、小柄な体躯に細い手足、美少女には間違いない顔の作りをしてるけど無表情なのがちょっと……。

 ではなく!

 神は死んだ!

 

「もう、止められないのか……」

 

 物悲しく俺が呟いた所で、物凄い衝撃が俺の体を貫くっ!? 主に脛からぁぁぁっ!?

 

「うぐぉぉぉぉっ!? い、いてぇぇぇ! 泣きそうなくらい、もう泣いてるくらいいてぇ!」

「失礼な思考を感じました。だから蹴りました。反省はしていません」

「ちょっとぉっ!? 今脛蹴ったよね!? 脛はダメだよ! 脛は!」

 

 今しがた俺の脛を蹴りつけたであろう小柄な美少女に、思わずガンくれるけど、怯んだ様子一つ見せない。

 俺ってやっぱり、そんなに怖くないんだな……人相的にも、迫力的にも。

 霧咲先輩ほどはいらないけど、やっぱりちょっとは威厳が欲しいな……男として。

 ってそうじゃねぇよ!

 

「あ、霧咲先輩は止められません。あの堕天使が死ぬまで我慢してください」

「うぉぉぉいっ!? 君エスパー!?」

「いえ、戦車(ルーク)です」

「何の話!?」

 

 ダメだ!この人たちダメだ!

 いや、こんなスゴい人達をダメにさせる霧咲先輩の方がヤバイのかもしんねぇけど、それでも敢えて言う。

 ダメだこの人たち!

 

「はぁ……飽きたわ」

「あら、真一。まだその堕天使、死んでないわよ?」

「弱いものイジメは趣味じゃねーんだ。やってみたけど何も面白くねぇ、ちょっと小突いたら倒れやがるし、反撃もしてこねぇし」

 

 はー、やれやれ……なんて言いつつ、霧咲先輩は体を起こして立ち上がる。

 ドーナシークとか言う堕天使らしいやつの顔は、もう見る影もなく膨れ上がり、いたる所から血が流れ出ている。

 こりゃ、ちょっとしたホラーだよな……あれで死んでないのがまたスゲェ……。

 やっぱ人より丈夫なんかね……。

 

 そんな事を思ってる間に、先輩はマイペースに噴水に近寄って、手を突っ込んでザブザブと血を洗い流してる。

 赤い色ではなく、僅かに浅黒い先輩の肌の色が見えた手を、ぷらぷらと水を切る様に振りながらリアス先輩達の下……つまり俺達の傍で立ち止まる。

 先輩の視線の先には、リアス先輩たちがいて、先程までの光景なんか気にしない様な雰囲気で先輩の視線を受けて笑みを浮かべてる。

 あー、何か、この人たちも普通じゃねーんだな……。

 衝撃的な事実を知っちまったよ……あ、堕天使は……。

 

「赤い髪……ま、まさか、この地、が、グレモリー家の、管轄、だったとはな……グッ!」

「む、無理すんなよ……」

 

 自分を殺そうとした奴に、思わず声をかけちまう俺だけど……。

 仕方ないと思うんだよな……だって、明らかに死に体にも拘わらず、無理して仰々しくも見下した物言いとスタンスを保とうとしてるんだぜ?

 かわいそうだろ!?

 

「わ、我が名は、ドーナシーク。再びまみえない事を、いの、ろう」

 

 あ、駄目だこいつ話聞いてねぇ、よっぽど先輩から遠ざかりたいのか?

 それも仕方ないとは思うけどさ、人の話くらいは聞こうぜ、せっかく心配してやってんのにさ……。

 再びまみえない事を祈ったドーナシークは、それこそ欠片も存在を残す事なく、その場から消え去った。

 ほんと、なんだったんだ……あいつが消えた途端、この辺りの雰囲気も元に戻ったみてーだし……。

 死の危険も雰囲気も全ては彼方の向こうに消えた今、俺の胸に飛来するのは、少しの物悲しさと同情の感情だけだったぜ……。

 

「おい、一誠」

「あ、はい! 先輩!」

「何だ? 妙に元気じゃねぇか」

 

 元気なわけじゃないっすよ!

 下手な事できねぇって再確認しただけっすよ! 等とは、口が裂けても言えない。

 いやまぁ、言った所でこの人は怒んないだろうけどさぁ……なんつーの? 気持ちの問題ってやつだろ、ちゃんとしてれば殴られないよね? みたいな。

 態度だけでも保険かけとかないとな!

 今の先輩に声を掛けられただけで背筋が伸びる俺の様子に、先輩自身はよくわかってないように首を傾げてみせるが、すぐにどうでもいいと思ったみたいだ。

 その証拠に、先輩の口から出てきたのは、リアス先輩達についていけって言葉だった。

 

「お前がどうなって、どんな状況にいるのか、今からこいつらが説明してくれるからよ。こいつらについていけ」

「せ、先輩は?」

「俺か? 俺は帰って飯の用意だ。黒歌に飯作ってやんねぇと……たまには当番交代させるか?」

 

 溜息と共にぼやきつつ、後頭部を軽く掻きながら、先輩はすぐに踵を返して公園の出口へと向かった。

 その姿を止める人は、この場には存在しない。

 そして、先輩の姿が消えた後には、少しばかり面白くなさそうな様子の姫島先輩とリアス先輩。

 なんとも思ってなさそうな小柄な美少女に、引き攣ったように頑張って精一杯の笑顔を浮かべる俺だけが、その場に残ってしまった……。

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