小説のセオリーとか、常識とか、書き方とか何の配慮もしないまま書き綴っている作品ですが……一体どうなってしまうのか私にもわかりません。
ではでは、お手柔らかに、よろしくどうぞ!
IN 朱乃
私とリアスが、一人の男の子、霧咲真一と言う変わった男の子と出会って三つ目の季節を迎えようとしています。
知り合った当初は、異性と仲良くなって、遊ぶ事が楽しい事なのか判断がつきませんでしたが……。
蓋を開けてみればこれ以上ない程に、私とリアスは楽しいと思っていましたわね。
性別の違いによる価値観や物事の見方も楽しい要因なのですけれど、霧咲真一と言う一人の男の子が、きっと人間的にとても楽しい人物なのが大きいのでしょうね。
それからは何処かへ遊びに行くのも三人一緒である事が多く、誰かが欠けたら遊びに行かない日なんてのもありましたわね。
私もリアスも、異性関係で余りいい思い出がない為、心の何処かで男性と仲良くなる事を避けてきた節があります。
だと言うのに仲良くなってしまった真一は特別……と言うか、彼自体が特別な性質を持っているとしか思えません。
私の席から斜め前へ視線を動かせば、すぐそこに授業を受ける真一の姿が目に入ります。
仲良くなるにつれ、私と真一は互いの事を名前で呼び合い、呼び捨てるようにまでなりましたわ。
だからこそ、と言う訳ではありませんが、こうしてぼんやりと考え事をしている時に彼を見ると益々彼の存在が不思議なものに思えてならないのです。
人の警戒心をするりとくぐり抜けて、いつの間にか心に入り込んでいる真一。
勿論悪い事ではなく、いい事だと思いますわ。
大きな未知と少しの恐怖の象徴であった男性と言う存在を、いい意味で打ち砕いてくれた存在ですもの。
ただ最近、私とリアスとしては、気がつけばそこに居る事が自然になった彼の存在が問題となっています。
あぁ、勿論彼の存在が鬱陶しくなったとかそう言った意味ではありませんよ? 今でも当然、彼の存在は私とリアスにとってオアシスの様なものです。
彼と遊ぶのも話すのも楽しいのですが、問題はそれとは別。
むしろこの問題に彼は全く関係ないと言ってもいいですわね……。
(普通の人間と付き合っていくのが、こんなに大変だとは……思ってもみませんでしたわね)
普通の人間の中に混ざって生活する。
言葉の中では簡単で、いざその時が来る瞬間までシュミレートしても、簡単な事だと思っていました。
ですが、いざ人間ではない事による義務を抱えたまま、人間と同じ生活を送るのが大変だとは思いませんでした。
本当に、誤算、ですわね……。
結局大変にさせているのは霧咲真一と言う一人の男性の存在なのですが、私とリアス共通の大切な友人との時間を切り捨ててまで、最低限こなさなければならないだけの義務を全うする気はありません。
だって、その分私達が頑張ればいいだけの話ですものね……。
何の話かと問われれば、私達、悪魔の家業の事ですわ。
人間と契約し、望みを叶え、対価を頂く。
あぁ、怪しい話ではありませんよ? 命までもらうほどの事はありません、大昔はどうだったか知りませんけれど、今はそんな事はしませんわ。
悪魔家業は非常にクリーンな社会ですわ。えぇ。
(問題は、真一の時間に合わせれば家業の効率が落ち、家業を優先すれば真一との時間が激減する……ここですわね)
悪魔家業は大切ですが、真一との楽しい時間を出来る限り削りたくはない。
ここは私とリアス、話し合って双方意見の一致が見られた部分ですわね。
結局三人の時間が楽しくて手放したくないのでしょうけど、そうなるとまた話は振り出しに戻ります。
(ままなりませんわね……こんな乙女二人を悩ませているんですのよ? 自覚はあるんですか? 真一?)
そんな事を思いながら、授業を受ける……フリをして目を開けたまま寝ている真一に視線を集中させてしまう私は悪くありませんわよ?
だって、目を開けたまま寝るなんて器用な事、真一くらいしか出来そうにありませんもの。
目乾かないのかしら? 少し心配ですわね……次の休み時間には目薬を投擲する所から始めましょうか……。
(うふ、ふふふっ……爆笑ゲットですわね)
結局一人で考えても埒があかないと、思考を放棄した私は、次の休み時間の事を思いほくそ笑むのです。
…………意志が弱いとか言わないでくださいな。
SIDE OUT
日が落ちるまでの時間が随分と早くなった季節。
薄暗くなった街中を歩く男が一人……目つきの悪い瞳と、均整は取れているがしっかりとした体付きが特徴的な人物は、正しく霧咲真一だ。
珍しく一人で下校ルートを歩いており、勿論薄っぺらい革の鞄も肩に担ぐようにして持っている。
朱乃やリアスと一緒にいない真一は、駒王学園の生徒としては珍しさを感じる光景だが、当人達にとっては違う。
頻度にすればほんの僅かだが、リアスと朱乃が遊びの誘いを真一にする事も減った。
真一からの誘いを断る事も、ほんの僅かだが増えた。
時折見せる不本意で我慢した様に下唇を噛む表情を見る限り、彼女達にとっても仕方のない事だと割り切れない部分があるのだろう。
最近のリアスと朱乃の様子を思い浮かべて一人で小さく肩を竦める真一を、すれ違ったサラリーマンが不思議そうな表情を浮かべるが、結局声を掛ける事もないまますれ違う。
そして真一は、下校中の駒王学園の生徒達に混じって足を動かしつつも、徐々にその群れが散り散りになった時にようやく口を開く。
「何だ? 黒歌」
「ご主人様。また出たにゃん」
「またかよ……めんどくせぇなぁ」
「ただ今回は、この辺りを管轄域にしてる悪魔ともう一人の悪魔が行ったみたいにゃから、そんな気にしなくてもいいと思うにゃん」
いつの間にか音も立てず姿を見せた黒歌に、驚く事もなく声をかける真一に、黒歌の存在に気がついていた様子の真一の隣にごく自然と並ぶ黒歌。
黒歌の中では真一が自分に気が付く事も織り込み済み、と言うか自然な事だと思っているようで、それに対しての言及はない。
そして何より、黒歌の口から出た悪魔と言う単語にも……やはり真一は驚いた様子もない上に、黒歌の事を心配する様子もない。
当然だろう。猫が人語を操るだけでも十分ファンタジーであり、その状況に慣れきった真一が、黒歌とはどう言う存在か……真一はそれを正しく理解している。
先程黒歌が言った悪魔と言う存在は、事実として存在している。
黒歌曰く、自分もその様な存在だと言う話だ。
更に悪魔だけでなく、天使や堕天使も存在しており、果ては神や魔王まで存在するという。
世界はこの人間界だけにあらず。
冥府や冥界、そして天界も存在しており、現在その世界に存在する勢力は大きな戦争の後三竦みの停戦状態にあると言う。
どこの勢力も戦争で疲弊し、実情的にはどこも戦争を続けられない程に打撃を受けていると言う現状、種の存続を優先した結果の停戦らしい。
これからは手を取り合って仲良くしていきましょうと話し合いで決まった停戦ではなく、このままでは種の存続自体が危ういと言う結論から出た停戦だと言うのだから始末に負えない。
そして、種を増やす過程として、人間を悪魔へと転生させると言う手法が確立される。
結果、時折こうして悪魔に生まれ変わった奴の過剰な自信や、転生させた主人の横暴等が原因で『はぐれ』と呼ばれる悪魔が彷徨く事もある。
そして、何故かこの地は人間でない者との遭遇率が異様に高い。
黒歌がふらりといなくなって処理してくる事もあるが、そもそもそれ以前にこの地に住まいこの地を管轄下に置いている悪魔が先に片付けてしまう事が多い。
「俺はまだ戦った事はねぇが……どんな奴らなんだろうな」
「ご主人様が知らないだけで、結構戦ってるにゃ」
「……まじか、そんなおどろおどろしい奴と会ったことねぇぞ?」
「今さりげなく私の事ディスったにゃ?」
「被害妄想すぎだろ」
「私も悪魔にゃん!」
「そう言えばそうだったか……いや、ある意味おどろおどろしいぞ。夜とか」
「それは仕方にゃいにゃ。諦めるにゃ、私はご主人様の前では万年発情期にゃ」
「迷惑且つ都合のいいやつだな、お前……」
悪魔なんてそんなもんにゃ~、と猫のまま真一の隣を歩く黒歌は、からからと笑ってみせる。
どこか機嫌良さそうに尻尾を揺らして歩く黒歌を眼下に捉え、思案するような顔で真一は黙々と歩くが、ふと暗がりが支配する路地へと足を向ける。
「にゃ?」
「思い立ったが吉ってな、見に行くぞ」
「やめるにゃ! ご主人様が見に行くだけのつもりでも、大体そうはならにゃいのが世の常にゃ! 私を殺す気かにゃん!」
「大げさだろ……今いる悪魔ってそんな強いのか?」
「悪魔にゃんてどうでもいいにゃ! どうせ案内するのは私にゃん! 私はご主人様『に』巻き込まれたくにゃいだけにゃ!」
俺が原因かよ……等と天を仰ぎ、既に星が煌く夜空を見上げるが、路地の突き当りに当たるまで真一の足は止まらない。
そして路地に突き当たり、足を止めた所で、再度黒歌に視線を送る。
「行くぞ、黒歌」
「…………いやにゃ」
「ここまで来て往生際が悪い奴だな……引きずり回すぞ」
「………………あー! もう! わかった! わかったわよ! 行けばいいんでしょ!?」
余程真一と一緒に行くのが嫌なのか、普段の余裕と軽さを含んだ口調が崩れ去る。
浮かべた表情も、見たくないものを見せられて絶対に巻き込まれると確信している、この上なく嫌そうな表情で言葉を吐き捨てる。
そして、言葉を吐き捨てた黒歌の変化は一瞬だ。
先程まで黒猫のいた位置には、艶のある長い黒髪と切れ長の瞳が特徴的で、世の中の女性が羨む肉体――特に胸部辺り――を持った美女が佇んでいた。
突如として現れた美女は、際どい和装に包まれた肉体を、惜しげもなく真一に見せつけている。
今更過ぎて羞恥心すら浮かばない程自然に真一の隣に立つ女性の表情は、丁度先程黒歌と言う黒猫が浮かべていた、この世のヘドロを詰め込んだものを嗅いだ様な嫌そうな表情を浮かべている。
臭い物に蓋ならぬ、嫌なものには蓋である。
「準備できたか? んじゃ行くぞ『黒歌』」
「う、うぅっ……行きたくない。帰ったら絶対に見返りを要求するわよ!」
「へーへー……いつもの事じゃねぇか」
「いつもより貪ってやるわ!」
「先にへばるのオメェだろ」
軽くも夜に似つかわしい艶を含んだ会話を交わしながらも、真一と黒歌と呼ばれた女性の動きは止まらない。
二人共軽く跳躍した様な動作だが、その体は既に突き当たりの塀を飛び越え、宙へと体を躍らせている。
建物の屋根の縁に足を掛け、また跳躍。
たった二回の軽い跳躍で自らの体を建物の頂点へと押し上げる二人は、普通の人間でない事は明らかであり、片方にいたっては人間ですらない。
黒い猫耳をぺたっと寝かせた黒歌は、真一の動きに追従する様にして屋根の上を疾走する。
限界まで体を低くし、建物の影になっている部分を選ぶようにして、屋根から屋根へ飛び移り疾走する二人の姿。
話に伝わる忍者もかくや、と言う動きの二人は、アスファルトの地を歩く人に発見される様子もない。
足音を最小限に、移動は素早く、体を残す時間を極限まで短くする。
影から影へ、月の光が照らす時間が長くなる道幅の広い屋根から屋根へは移動しない。
徹底して隠密行動を取っているといってもいい真一と黒歌が行き着いた先は、この街で心霊スポットとして一時期話題になった事もある廃墟と化した館だ。
その話題も既に過去のもので、既に手入れされなくなって久しい館の周りには、背の高い雑草が茂っている。
視界一面を埋め尽くす緑の奥は、一種の隔絶された空間にすら見える。
人の足並みが遠のいた場所ゆえに、踏み均された道のようなものもなく、奥に辛うじて見えるフェンスが更に封鎖区域であると意識させている。
廃墟と化した館はまだ見えないが、雑草の外から見ている真一は、あまりの違和感に首を傾げる。
黒歌に視線を送るも、彼女も特に変わった箇所はない様に見受けられ、益々真一が感じる違和感が浮き彫りになる。
「なぁ黒歌」
「なんにゃ?」
ヘタをすれば人間界における、スポーツの世界記録を塗り替えるほどの運動量をこなす内に覚悟が決まったのか、黒歌の声は平静を取り戻している。
「ここ、悪魔がいるんだろ?」
「間違いないにゃ、私がこの程度の悪魔を捕捉出来ない訳ないにゃん」
「ふぅん……その悪魔を処理しに来てる奴等がいるにしては無用心じゃねぇか?」
無自覚に言葉を発する真一に対し、黒歌が浮かべる表情は、当然ながら呆れと言う感情を多分に滲ませた表情。
そこから出てくる声と言葉も、表情に準じた様な声音と内容である。
無知を窘める様な黒歌は、正しく外見通りの年上の女性と言う感じだが、その内容が一般的ではないのはこの際置いておく。
「あのにゃー……一応、これでも一般人なら効き目ばっちりの人払いの結界が張られてるにゃん。この場所を何の違和感もなく認識出来て、且つ興味を抱けるご主人様の方が人間としてはおかしいって事にいい加減気がつくべきにゃ」
「アングラだと親父と同じ位の実力の奴は少ないが、いたぜ?」
「あれはあそこがおかしすぎるだけにゃん。悪魔の私から見ても割と普通じゃないにゃ、その中でもとびきりのご主人様にゃ、それだけで異常にゃん」
そんなもんかねぇ……と納得いかない様に小さく呟き、シャープな顎を撫で付ける真一に対して、やはり黒歌は始末が負えないとばかりに体全体で呆れてみせる。
結局どこまで行っても平行線を辿りそうな不毛な意見の押し付け合いは、思考を切り替えて、廃墟へ一歩踏み出した真一によって終わりを告げる。
最後の最後まで尻尾と頭から生える猫耳をわたわたと動かしながら、一歩踏み出したり下がったりを繰り返す黒歌だったが、もう確実に歩みを止めようとしない真一を見て頬を二回ぴしゃりと叩き……小さく前進。
額には冷や汗がいくつも浮かび、顔色も心なしか青い気もするが、もう黒歌は歩みを止めず真一の背中を追うだけ。
願わくは、自らの主人のテンションが上がり過ぎません様に……と、秒間百回を越える勢いで心の中から天へと祈っていた。
……切実に。