戦闘描写、難しいですね……書いてると楽しいんですけど……。
そして何より……フエターッ!
文章がね……これはちょっとまずい気がします。
際限なく分量が増えたらテンポ悪くなるし、いやだなぁ……。
まぁ、気を取り直して……。
それでは、今話もよろしくどうぞ!
鬱蒼と茂る背が高めの雑草をかき分け、歩を進める真一の視界が開けた時、真一の視界に入ってきたのは紛れもない廃墟だった。
館と呼ばれるだけあって、その大きさは中々の物だが、それだけだ。
この大きな館だったものを廃墟と呼ぶのに何ら忌避はなく、新築当初は塗装と木が持つ質感によって艶があったであろう外壁は腐って一部が崩壊している。
窓ガラスはいたる所が割れて破片が散らばっているし、廃墟を覆う屋根は何かに吹き飛ばされたかの様に、そもそも存在していない。
「ん? 吹き飛ばされた?」
「そうにゃ、あれは自然と出来た現象ではないにゃ」
「するてーとあれは……」
真一の疑問に対して、ゆったりと余裕ある動作で頷いた黒歌の言葉。
予想がついたその続きを紡ごうとした真一だが、言葉を紡ぐ事を突如としてやめて軽く跳躍して後方へと下がる。
地に生えている草を踏みつける小さな音が鳴ったと同時に、真一が今さっきまでいた場所が、突如爆発を起こした様に弾け飛ぶ。
黒歌へと視線を送ってみれば、彼女は回避する必要などないのか、弾け飛んできた小石や衝撃を自らが操る気によって弾き飛ばしている。
正確に言うならば気ではないらしいのだが、真一は黒歌から過去に一度聞いたその技術の事をよく理解していない。
別に理解出来ずとも困りはしないのだが……。
「ま、今はいいか……さて?」
今の極小規模の爆発は、明らかに真一を狙った攻撃である事は明白だ。
自然現象の中で、人をピンポイントで狙って爆破させる自然現象と言うものは、少なくとも真一は知らない。
それにそれが実際の所自然現象ではない現状、どうでもいい事だ。
真一がその不可視且つ無音の爆発を回避出来たのは、それが単に意志を持った現象だからだ。
見えずとも己を害する意思のある現象だからこそ、真一は即座に回避行動に移る事が出来たのだが、それが意図する所は間違いなくそれが攻撃であると言う事。
物騒極まりない歓迎をしてくれた存在が現れるのを、真一はニタリと笑みを浮かべて、ただ静かに待つ。
朽木を吹き飛ばす、豪快で湿り気を帯びた木が破壊される音と共に姿を現したのは、果たして人の形をしている者ではなかった。
「おい黒歌。やっぱりおどろおどろしいぞ」
「悪魔って言うのは、力がつけばつくほど姿形が洗練されるにゃ。そして最終的には人に近い姿を取るのにゃ。ほら、二足歩行で手足もあるにゃ」
「手足っつってもお前……何かドロっとしてるぞ」
頭と胴体は辛うじて人間と言えるかもしれないが、異様に肌が青白く、手足に至っては指もないただの丸太が表面を液体状に溶かした様な形をしている。
ドロリと滴り落ちる液は、酸の様な性質を持つわけではないものの、見ていて気持いい物ではないし……何より触りたくない。
あれにさわんの嫌だなー……等と緊張感のない思考が真一の頭を駆け巡るが、その人ではない存在の発した声により、その意識を引き戻される。
「に、んげん。うまうまうまうまそうだぁ……ヴァヴァヴァ!」
「おい、何か喋ってるぞ」
「ご主人様って一応人間だからにゃー……そんな強い悪魔でもにゃいみたいだし、多分力を安定させる為の食料だと思われてるんだにゃ。無知と身の程知らずは怖いにゃ」
含む所が多くありそうな黒歌の発言は放っておくことにしたのか、真一は一度肩をすくめるだけで言及はしない。
それよりも重要な事は、自分の目の前に立つ存在が自分に敵意と害意を持ち、尚且相対している事だ。
自らの対面に立ち、尚且こちらにも敵対するだけの意思と力がある。
たった二つの純然たる事実に真一の表情は益々攻撃的な笑みの形が刻まれ、戦う前のデモンストレーションの様に、パキンパキンと関節の音を響かせながら右手を握り締める。
黒歌が引き攣った表情で一歩下がると同時に、真一はズンッと重いプレッシャーと共に一歩踏み出す。
ただの錯覚でしかないが、真一が今纏う強烈な好戦的重圧は物理的な視覚に現れそうな程に重く、一歩踏み出した足にさえ重さがまとわりついている様に感じる。
それこそ普通の人間とは思えない程に、そこに有る圧倒的な存在感。
たった一人の人間が発する威圧感と存在感は、悪魔でさえ、ある程度のラインを越えた者にしか感じ取れない程の洗練された空気がある。
その証拠として、黒歌の足は完全に真一と距離を取る方向で動いているのに対し、真一と相対している悪魔はただ虚ろな笑みを浮かべているだけだ。
悪魔や堕天使、天使と言った存在は、確かに身体能力もその時点で人間を遥かに上回る。
更に言えば、魔力と言う人間には操る事の出来ない不可視の力を扱う事が出来、人間よりも上位の存在と言えるかもしれない。
しかし、どの世界にもどの時代にも、例外的存在と言う者は存在する。
ドラゴン然り、神器然り、だ……。
つまりどういう事かと言えば。
(アイツ……終わったにゃ)
そういう事だ。
真一が発する圧倒的な重圧と存在感を感じ取れない上に、明確なまでに敵対しているこの状況は、黒歌が予測している未来をほぼ確実という確率で実現させる。
少なくとも、SS級はぐれ悪魔として認定されている黒歌と言う悪魔は、そう感じている。
好戦的でただでさえ悪い目つきが、凶悪なまでの威圧感を伴った笑みを浮かべ、そこに宿る交戦の意思が頂点に到達するその瞬間……。
真一の耳に、最近随分と聞きなれた声が二つ、入り込んできた。
SIDE OUT
IN リアス
人間界で正規に暮らす悪魔には純潔悪魔が多く、その悪魔達には義務とも言えるものが大きく分けて二つあるわ。
一つは人間達と契約し、願いを叶える代わりに対価を貰うと言う物。
その方法は様々で、人間のサラリーマンの様にする者もいれば、人間界での仕事や立場を活かして契約を取る者も存在するわね。
私や朱乃なんかは、全体的に見れば人間界に来てまだ日が浅く、契約を取る方法も現在色々試行錯誤しながら模索中と言った所ね……。
真一の存在さえなければ色々な方法を考える事が出来るのだけど、あまりおおっぴらな事をして真一に迷惑を掛けたくない私と朱乃は、地道に方法を考えて一つ一つ試していくしかないのがネックよね。
まぁ、こっちの方はいいのよ、何だかんかんだで長い目で見るものだから。
問題は二つ目。
私達は、家名を背負ってここにいる。
不用意に人間に悪魔の存在を気取られる事なく溶け込み、また人間に危害を加える事をよしとしない。
人間と言う種は種の存続と言う問題を解決するには重要な鍵となる種で、そんな彼らに警戒心と忌避感を抱かせない為にも危害を加えたり、敵意を煽るような行動は慎めという事ね。
私はそもそも人間が好きだからいいのだけれど、問題ははぐれ悪魔という存在。
彼らは時折この人間界へ降り立ち、そこで彷徨う様にして人間を襲う時があるのよね。
転生悪魔である事が多いのだけれど、その悪魔が主である悪魔を殺し、その制御を離れた彼らは正しく鎖と首輪のない猛獣の様な存在。
そんな彼らが人間に大きな危害を加える前に処理せよ、と言うのが二つ目のお仕事ね。
契約とは違って、命令のような形で指示される事が多いわね。
それだけ緊急を要する案件という事で、こちらは命令が降れば契約よりも優先度は高く設定されるわ。
今回もそれに則って、はぐれ悪魔の一体を追っているのだけれど……。
何故か対象が敵対している私達から急に背を向けて、廃墟の外に走り出したのよね。
一応結界は張ってあるから、彼程度の悪魔では外へは出られない。
にも拘わらず廃墟の外へと足を向けた事実に、討伐に来ていた私と朱乃は目を見合わせて首を傾げ、腑に落ちない表情を互いに交わす。
……まぁ、考えるのは後にしましょう。
廃墟の壁に大穴を開けて、そこから外へ出たと思われる先に、朱乃がまず飛び出す。
危険が待つかも知れない場所へと、王を先に送り出すにはいかないと言う意識は、私の眷属達に染み込んでいるらしい。
どの子もいい子達だ。
「えっ? どうしてこんな所に……」
何かあったのかしら?
朱乃の呆然とした声に、私は廃墟の外へと足を踏み出し、見渡す。
まず目に入ったのは私達が追いかけていたはぐれ悪魔、そしてギリギリ結界の縁に存在する、猫耳を頭に生やした黒髪の美女。
これだけならば、私達と同じ側に立つ存在がもう一人増えただけだと分かりそうなものよね……。
朱乃があんな呆然とした声を出す理由が分からない。
「一体どうした……何で、こんな所に人が……えっ?」
私は、視線の先に存在する人影に、朱乃と同じ様な呆然とした声を上げるのを止められなかった。
はぐれ悪魔の影に隠れるようにして存在する人影に気がついた私は、まずその人影が人間である事を認識する。
魔力も殆ど感じられないし、羽も角も尻尾もなく、特徴的には人間とそう変わりない。
そうなれば、魔力反応が殆どない事実を見れば、彼は人間だろう。
しかし、私が敵の前で呆然と無様な姿を晒したのは、彼が人間であったと言う事実じゃないわ。
あれは……彼は……。
呆然とした表情で棒立ち、考えてみても敵の前で晒す姿ではない状態の私に、いつもと同じ声で朝私達に声を掛けるような調子で紡がれる言葉。
それは私達の名前だった。
「お? よぉ、グレモリー、朱乃」
「しん、いち……何で?」
軽い調子で私達に挨拶する彼――霧咲真一。
駒王学園の男子制服に、整えられてない黒髪、鋭い目つきに細身のシルエット。
紛れもなく、私と朱乃に出来た初めての人間の男性の友達……。
何で? どうして? よりによって一番知られたくない彼にこんな決定的な場面を見られるの?
私はただ、学園で朱乃やソーナと言った古くから付き合っている友人以外で、一番最初に出来た不思議な男の子の友人と楽しく過ごせればそれでよかった。
朱乃と真一がするおかしな一幕を見て、朱乃と真一とソーナと私で昼食を囲んで、くだらない話で笑顔を浮かべて……ただそれだけでよかったのに……。
悪魔である私と人間である彼の道は交わらない。
学園生活だけの短い関係だったとしても、私は彼や朱乃、ソーナとの時間や関係を大事にしたかった。
……やっぱり、私の縁って、ロクでもないものばかりなのね。
最早考える事にも疲れた私だが、それでも彼を危険な目に遭わせるわけには行かない。
友人関係がここで崩壊するとしても、私は絶対に彼を見捨てない。殺させない。
いつか、こんな痛みも私の財産になると信じて、私は彼の命を救う。
友達じゃなくなっても、彼に死んで欲しくないと言う、最後の小さな望みだけでも、お願い叶えさせてと強く空に祈る。
しかし、そんな私の胸中など知らず、真一から発せられた言葉はやはり軽いものだったわね……。
「なぁグレモリー。こいつ、敵意バリバリなんだけどよ、どうなってもいいのか?」
「そいつははぐれ悪魔と呼ばれる存在よ、待ってて真一。今すぐ私が貴方の目の前からこいつを消し飛ばすわ。跡形もなく、絶対に」
「リ、リアス……」
「絶対に、許さない。私と友人との間に亀裂を入れる存在なんて、認めるわけには行かない……」
「リ、リア、リアス! リアス!」
「何よ! 朱乃! アイツを早く消し飛ばさないと、真一が!」
「そうではなくて! 真一をよく見てくださいな!」
慌てたような様子の朱乃。
尋常ではない彼女を見て、いくらか冷静になった私の思考。
そして彼女が放った言葉を理解し、未だ憎悪と悲愴入り乱れる思考ながらも、しっかりと真一を見据えてみる。
…………何アレ? 阿修羅?
「朱乃、あれは誰かしら?」
「だから言いましたのに……真一で間違いありませんわよ……」
「だ、だだだって! 何アレ! 怖いわよ! ここに居たら死んでしまうわ!」
やはり私は彼の姿を見た事で、一気に冷静ではなくなったのだろう。
朱乃が張った人払いの結界は正常に機能しているし、はぐれ悪魔を逃さない為の結界も張っている。
普通ならば入ってこれるわけもないし、まず前提としてこの場所に興味を持つはずかないのよ……。
つまり、そんな場所に興味を持ち、簡単に入り込める存在は普通ではないという事だ。
なんだか朱乃に対して醜態を晒している気がしないでもないけれど、今の私はそれどころではない。
あ、霧咲君の事思わず名前で呼んじゃったわ……名前で呼びたい程、彼に私は心を許しているのね……等と全く関係ない事を同時に考える程混乱している。
それも無理はないと思う。
今彼が纏う存在感と威圧感は、普通の人間のそれではないわ。
私や朱乃でさえ、その存在感と威圧感に押しつぶされそうな程の重圧を感じているのがその証拠ね。
今の彼は、雰囲気だけ見てみるならば、人間でも悪魔でもない。
ただ圧倒的な『何か』だ。
私の常識の及ばない『何か』になった真一が、呆れたような声で声を掛けてくる。
いや、声を掛けたというよりも、確認を取ったと言う方が近いかもしれないわね。
「なぁ、こいつ……殺してもいいのか?」
「へっ? えぇ、討伐対象だし、私が消し飛ばすつもりよ?」
問いかけに対して、反射的に答えを返した私は、まさに快挙を成し遂げたと言ってもいいと思う。
混乱極まる思考の中で、質問の意味を理解し、回答を寄越す事が出来た。
私に問いかけた彼が、人間であるという事を考えなければ、結果的に正解の回答だったのだろう。
私から発せられた答えに、真一の好戦的な笑みがさらに深く刻まれる。
比較的真一の近くにいる黒髪の美女から「余計な事言うにゃ! 私はまだ死にたくないにゃ!」等と、頭を抱えてうずくまった状態で言葉を投げつけられる。
しかし、私は一体何を意図して発せられた言葉なのかを正しく理解出来ない。
だってそうでしょう? 要領を得ないもの。
今の真一がただの人間でない事はわかるけれど、それでも彼は人間で、相対しているのは人を殺す事を何とも思わない悪魔なのよ?
悪魔の美女が動かず、ただ真一の付き添いで来たと言ったような風体の彼女の言葉を理解出来ない私は悪くないわよ。
はぐれ悪魔を見て恐怖もしない、朱乃の結界を気取られることなく破り、侵入してくる。
はっきり言って彼女も実力者である事は明白なはず、だというのに彼女は怯えて、動こうとしない。
真一と一緒にいる存在ならば、その力を知られようとも彼を守るべきではないかと私は思うわ。
しかし、根本的に認識を間違っているのは、私の方だったと思い知らされる事になる。
他ならぬ、霧咲真一と言う人物によって。
「じゃ、殺すぜ?」
軽く、そして冷たく言葉を放った真一は、突如として私の視界から『消えた』。
音もなく、気配もなく、前触れもなく忽然とその姿だけを消した。
そして聞こえてくる重い打撃音に、苦痛に悶える苦しげな声が、私の鼓膜を叩く。
「ぎ、ぃあ? な、に……?」
「おせぇな……ほら、どんどん行くぞ?」
打撃音と声が聞こえた場所、はぐれ悪魔へと視線を送れば、そこに真一は存在していた。
悪魔の人間部分である胴体に、深く拳が突き刺さり、変わらず好戦的な笑みを浮かべた真一が散歩にでも出たような気軽さでそこに立っていた。
悪魔である私は夜目が利くし、動体視力も人間のそれを上回っている。
だと言うのに、彼自身が動きを止めるまで、その姿を捉える事は出来なかった。
そしてそこからは壮絶なまでの猛攻が、はぐれ悪魔を待ち受けていた。
近接戦闘には明るくない私だけれど、それでも人の動きを捉える事など造作もない。
その自信と言うか、事実を覆される様に、真一の動きを追い切れない。
拳が動く瞬間はぶれて完全に捉えきれず、一度しか動いてないと私の視覚は告げているのに、打撃音は二つ聞こえる。
拳の先がどんな形をしていて、どこに突き刺さっているのかも理解出来ない。
数十、いや、数百に届くかもしれない拳打を打ち込んでいる真一の表情は涼やかなものだ。
たん、と軽く地を蹴って側面に回り込む姿は辛うじて捉えるも、打ち出した拳が突き刺さるまでの動作を捉えられない。
地を軽く蹴って、はぐれ悪魔の周りを飛び回るようにして幾つもの拳を突き刺すその姿は、正に蝶の様に舞い蜂の様に指すと言う言葉を体現していると思う。
少し違う所を挙げるならば、明らかに蜂と言う程可愛気のある拳打ではない、と言う事位かしら?
「朱乃……私は夢を見ているのかしら?」
「いいえ、リアス。私も多分、同じ光景を見ていますわよ……あ、今の、折れましたわね」
私は今自分が見ている光景を信じる事が出来ず、自分の友人である朱乃に問いかけるが、それこそ返って来た回答は私と同じものを見ていると言う回答。
現実って、非情なのね……。
どう見ても人間である彼が、悪魔を圧倒している……いや、相手にすらなっていない。
あれではただのサンドバックだ。
反撃の糸口すら掴めず、そもそも姿を捉えきれていない上に、攻撃に対して全く反応出来ていない。
悪魔と人間の身体能力の差? 誰が一体そんな事を定義したのか、私はその主に小一時間問い詰めたくなった。
「こんなもんか? 悪魔ってのは」
「な、めるなァ! こぞ、オォォッ! 跳ね回る、だけ、が取り柄、の猿が!」
「イエローモンキーだけにか、洒落がきいてるじゃねぇか」
「貴様の拳、な、ど! 猿とお、なじだ!」
「じゃ、リクエストに応えて、そろそろ仕舞いだ」
悪魔と言う存在を吟味する様に、少し距離をとった真一に対し、精一杯の悪態をつくはぐれ悪魔だけれど……それに対しても真一は余裕を崩す事はない。
戦闘技術にしても、身体能力にしても、真一が圧倒している事に変わりはないわね。けれど、あの悪魔が言うのも確かな事だわ。
素晴らしい能力を持っているけれど、真一には決定打となるものが存在しない。
今までの攻撃も確かに強力だけど、言ってしまえばただの拳打だし……。
人でないものと言う存在は、総じて人よりも身体的能力が高い。
それは耐久力と言う面においても何ら変わりないわ。
悪魔や堕天使、天使が扱うような魔法もなければ、ドラゴンやそれに連なる者達の様に牙や爪もない。
人間の様に殴り殺されると言う事は、悪魔や堕天使などの人外に限っては、殆どありえない。
肉体の耐久力プラス回復力が、拳で与えられるダメージを追い抜くからね。
ジリ貧と言ってもいいこの状況下で、真一は笑みを消す事はなく、はぐれ悪魔が宿している自信ごと打ち砕く意思を込めている。
その笑みを見た瞬間に、私の背筋に言い様のない悪寒が駆け巡る。
マズい。
真一が何をする気か予想もつかないけれど、はぐれ悪魔との直線上に居て廃墟を背にしているこの位置関係は、決定的にマズい。
そして何より、真一の瞳がチラチラと私と朱乃へと視線を送っている。
言葉が早いか行動が早いか、それはもう分からないけれど、私は必死に声を出して体を動かしたわ……。
「朱乃! 退避よ!」
「わかっていますわ!」
どうやら私の感じている焦燥感を、朱乃も感じていたらしく、言葉と同時に動き出した私にしっかりと追従している。
そして私にはしっかりと見えた。
廃墟から最大速度で退避する私と朱乃を視界に捉え、真一が満足そうに、小さく笑みを浮かべるのを……。
「じゃ、これでパパッと……死んでくれ」
言葉が終わるのが早いかと言うタイミングで、真一の姿に変化があった。
変化があったと言ってもそう大きな変化じゃないわ、ただ真一の周りの空気が陽炎の様に歪んで、周りの景色を歪め始めた事くらいね。
劇的な変化が訪れたのはそれから、一瞬金色の煙の様な光が立ち上ったと思ったら、地が砕ける様な大きな音と共に真一の姿が消えた。
今度は気がつけばいないと言うような不自然さではなく、ただ速すぎてその姿を捉えきれない様な動き、だけどどう動いたのかと言う軌跡は長く伸びた煙の様な金色の光が教えてくれてる。
それを辿った先には当然真一の姿があって、私には腰だめに構えた掌底を突き出すその動作が、一段とゆっくりに見えた。
多分それは、私の危機本能がその光景を遅くしていたんだと思う。
だって先程から、頭の中に鳴り響いてる警戒の音が煩い。
あれは危険な光で、間違いなく自身を軽く消し飛ばす程のものだと、そう告げている。
「月下咆哮・流星」
ぼそりと呟く様な声で紡がれた言葉と共に、凝縮された光が爆発的に膨れ上がって……キュボッ! と言う爆発の瞬間のような音と共に放たれた。
はぐれ悪魔の体を完全に覆う程の光の本流は、はぐれ悪魔の体を突き抜け、その後ろにあった廃墟までをも飲み込む。
体を貫く衝撃は余波でさえ痺れる程で、真一の髪は完全に逆立っていて、めくれ上がった前髪から除く表情は確かに笑みを浮かべていたわ。
時間にすれば一瞬の出来事で、私の体感時間からすれば数分にも上る光の本流は、やがて流れ星の尻尾の様な光の線を残して……跡形もなく消えたわ。
最早極大のレーザービームと言ってもいい様な……真一の言葉を借りるなら、咆哮が貫いた先には、何も残っていなかった。
はぐれ悪魔も、その後ろにあった廃墟も、そして朱乃が張った二重の結界も……。
跡形もなく……それこそ塵一つ残さず消滅してしまった。
開いた口が塞がらないって、こんな時に使うのね……日本語ってすごいわ。
隣を見てみれば、朱乃も私とそう変わらない表情で真一を見ている。
それもそうよね……これは、あまりにもデタラメだわ。
「だから、ご主人様に着いて行くのは嫌だったのにゃー!」
目の前の光景が衝撃的すぎて、存在を忘れかけていた黒髪美女の声が、私の鼓膜を震わせる。
見てみれば、衝撃の余波に吹き飛ばされたのか、大量の土煙を被ったまま床に臥せっている姿が見えたわね……。
その姿は、世の男性には見せられない程に、あられもない姿。
名誉の為に口には出さないでおくけれど、それでもその美女の悲痛な実感を伴った叫びは、星の綺麗な夜空に消えていったわ……。