Dragon×strife   作:くるみわりナックル

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 どうも、くるみわりナックルです。
 もうね……またですよ、フエターッ!!!
 何でこんなに増殖するの……勘弁して……。
 そして原作も読んでないのに設定の話をする暴挙。
 これ違うじゃん! って所があると思いますが、華麗にスルーしてくれると飛んで喜びます。
 ジャンピング土下座を披露するくらい喜びます。
 ではでは、今回も、よろしくどうぞー!


ようこそオカルト研究部へ

 現時間、午後十一時。

 霧咲真一はリビングにある、食事用のテーブルに腰を落ち着けていた。

 食事の時間はとっくに過ぎてはいるが、まだ食事をしていない彼がテーブルに落ち着いているのはおかしい事ではない。

 しかし、不可思議なのは彼の前には食事は用意されていない。

 それ所か、テーブルの何処を見渡しても、湯気を上げて食されるのを待っている食事達の姿は何処にもなかった。

 その代わりとばかりに、真一の視線の先には、この家の住人ではない者が着席している。

 それも、二人。

 この家の住人は、真一を含めて二人。

 黒歌と真一自身と言う家族構成の筈であり、この様な時間に家の中に他人がいた試しなど殆どない。

 隣の席に視線を下ろせば、真一ともう一人の住人、黒歌が猫の姿をとって椅子の上で丸くなっている光景が見える。

 ゆらゆらと尻尾を揺らして丸くなっている黒歌は、体全体で私は関係ないにゃと言っているのが手に取るように理解出来る。

 こう言う時に、付き合いが長いのも善し悪しであると、真一はいつも思う。

 

 小さくため息を吐いた真一は、諦めと共に視線を正面へと向ける。

 そこにいたのは厳しい視線を真一に送るクラスメイトである、リアス=グレモリー。

 ニコニコと笑顔を浮かべてはいるが、誤魔化しは許さないという雰囲気がありありと伝わってくるもう一人のクラスメイト、姫島朱乃。

 その二人が真一の家に押しかけてきた来訪者の二人である。

 

「で? 何から話してくれるのかしら、私、とっても楽しみだわ……」

 

 かつてこれ程怒った事があっただろうか、いやない。と言わんばかりに、怒りのオーラを体全体から吹き出しているリアスがプレッシャーを掛けてくる。

 

「何からっつってもなぁ……別に隠してたわけでもねぇから、話してくれるって言うのとは違わねぇか?」

「話の論点をズラさないでくださいね?」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべ、口答えをしているように見えた真一に釘を刺す朱乃。

 正に前門の虎、後門の狼だ。

 二人共目の前にいるが……。

 

 くだらない事に思考を走らせつつも、二人の様子を理解した真一は、やれやれと肩を竦めて見せる。

 

「大体、お前らも俺に話してねぇ事があったんだからよ、おあいこって奴だろ」

「私達が悪魔だって事かしら? 貴方の傍にはもう悪魔がいるじゃない。それもとびっきりの、つまり貴方は悪魔かどうか何てどうでもいいって事でしょう?」

「まぁ、そうだな。悪魔かどうかなんて、正直どうでもいい。お前等が悪魔だったのはまぁ、予想はしてたが驚いた。それくらいだな」

「つまり、私達の隠し事は、貴方にとっては気に止めるほどの事でもなかった。でも、私達が知った貴方の事実はそうじゃない」

「真一の口から説明されて、初めて飲み込む事が出来る。これはそんな事実なのですわ」

 

 リアスの鋭い視線と朱乃の真撃な瞳を受け止め、組んでいた腕を解き、軽く髪を掻き毟る真一。

 はぁ、と小さく溜息を吐き出し、二人の視線を特徴的な鋭い瞳で見返す。

 彼女達が聞きたい事はごく単純で、一番大きな事は真一が持つ力の事だろう。

 ただの人間が身につけた力にしてはあまりに大きすぎる。

 それについて掘り下げたいのが、一番大きな所で、後はもう他にないかと言う確認と経歴などの細々した事だろう。

 

 適当にあたりをつけた真一は、まず一番最初に彼女達が聞きたがっている事からざっくりと切り込んでいく。

 

「まずそうだな、俺のやった事だが」

「それね。あれは一体何? 神器じゃないわよね」

「神器? 何だそりゃ?」

「質問をしているのはこちらなのですけれど……」

「まぁいいわ……」

 

 神器(セイクリッドギア)と言う物は、神が創った創造物であり、人間にしか宿る事のない大いなる力を持った物。

 正に神の器とも言うべきもので、その形状は様々。

 武器の形を取る様な攻撃的なものや、そもそも形状が存在しないものまで多種多様。

 物騒な所では、特定の条件下であれば神さえも超えるほどの力を持つ、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる物まで存在するらしい。

 歴史上名を残す人物は、神器を所持している事が多いと言う話だ。

 

 しかし、真一は神器など所持してはいないし、勿論持っていないのだからそれを発現させた事もない。

 

「ふぅん……要はとんでもない武器って事か」

「要約しすぎだけれど、まぁ、大まかにはそういう事ね」

「それで? 神器ではないならなんなのです?」

 

 リアスはあまりにも簡単に受け入れている真一に呆れているが、朱乃は真一の持つ力に興味があるらしく、好奇心と言う光を宿した瞳で真一を観察している。

 神器などと言う仰々しいモノの可能性を考慮に入れている手前悪いのであるが、あれは神器などと言う程大層なものではない。

 人間……いや、命あるものならば必ず持っている力だ。

 

「あれは、そうだな……一番わかりやすいのは『気』って言う説明だな」

「気? 仙術と言う術にそんな言葉があった様に記憶しているけれど……」

 

 細くしなやかな指を頬に当て、思案しているように宙へ視線を躍らせるリアス。

 そんな彼女から紡がれた言葉に反応したのは真一、ではなくその隣で丸くなっている黒歌だった。

 

「ご主人様のあれと一緒にするにゃ。ご主人様のあれはもっと尊いものだにゃ」

「……まさか、犯罪を犯したSS級はぐれ悪魔に冷静な意見が貰える日が来るとはね……」

 

 苦い表情を浮かべるリアスと、少し機嫌が悪そうな表情を作っている黒歌の視線が交わる。

 何やら複雑な因縁がリアスにはありそうだが、それこそ今この場では関係のない事であり、今の話のメインは真一についてだ。

 機嫌が悪くなった黒歌は、リアスからの嫌味に取り合う事なく、言葉を続ける。

 

「あれは、気なんてものじゃないにゃ。気っていうのは、己の体内で生成して行使するものだにゃ。気が空っぽににゃったら使えにゃいけど、それでもご主人様のと比べればリスクは少ないにゃ」

 

 黒歌の言葉を正しく理解した様子のリアスと朱乃の表情に、衝撃と悲愴、恐怖と憤りがないまぜになって宿る。

 気と言うものは己の意思次第で生成し、行使する事が可能な力である。

 枯渇するのは当然危険だが、即死すると言う類のものではない。

 しかし、黒歌は真一の使う力は気とは違うと言う。

 

「気と言う力と似て非なるもので、命あるものにゃら誰しもその力を使う事を本能的に嫌い、生涯使う事はない力の筈にゃ」

 

 黒歌の語りは止まらず、それが進む度にリアスと朱乃の額には冷や汗が伝う。

 気は、行使し尽きてもすぐにどうこうと言う程の危険はない。

 無論限界を越えて行使すれば、危険な力である事には違いないが、それはどんな力でも一緒だ。

 しかし、黒歌の語る事の逆に考えれば、真一の使う力の正体が自ずと見えてくる。

 命あるものが誰しも持ち、その力を使う事を忌避する。

 それは何故か?

 決まっている……ただ単純にその力は、使うだけで命の危険があるからだ。

 

「それはつまり……生命力にゃ」

 

 生命力。

 命あるものが誰しも持ち合わせており、それによって生きる事が出来る。

 使えば文字通り己の命を削る力であり、黒歌が尊い力と言った事も頷ける話だ。

 己の生命力を攻勢エネルギーへと転換し、放出、あるいは身体強化等の力へと変える技術。

 真一が使う力の正体を知ったリアスと朱乃は、茫然自失と言う言葉が当てはまるほどの状態で、現実味のない実感の伴わない話の中心である真一をぼんやりと見つめている。

 自然と沈黙が支配するようになったこの場で、一番先に言葉を発したのは、朱乃だった。

 

「し、真一はどれほど前からその力を使っているのです? に、二ヶ月くらいですか?」

「そうだな……体得してから考えれば、もう五、六年位にはなるか」

 

 長い、長すぎる。

 命を削る力を行使しているにしては、使用している期間が長すぎる。

 あれだけの量を放出しているのだから、もう既に人一人の生命力など尽きていてもおかしくはない。

 真一の寄越した軽い回答に、リアスと朱乃は思わず息を飲む。

 当然、そんな危険な力を使うなど、許すリアス=グレモリーではない。

 彼女は身内にはこれでもか、と言う程に甘いと言われるグレモリー家の息女なのだから、そんな彼女がこの話を聞いて黙っているわけがない。

 

「霧咲君、その力を使うのは……」

「ダメだ」

「ど、どうして!? 貴方それを使い続けたら死んでしまうのよ!?」

「俺にはな、何にもなかった。親の顔も知らねぇし、家と呼ばる場所もなかった。ただの赤子がピーピー路地で泣いてるだけ、そんな所から俺は始まった」

 

 必死に真一を止めようとするリアスだが、その言葉を遮った真一の瞳は、ぎらりとした鋭い光を宿している。

 そして静かに語るのは、霧咲真一と言う人間の始まりだ。

 

 

 

 SIDE OUT

 

 

 

 SIDE IN

 

 

 

 俺はどうやら、路地に捨てられてたらしい。

 らしいってのは俺を拾った親父から聞いた話だから、本当にそうだったのかは知らねぇ。

 ゴミに塗れてビービー泣いてた俺を拾った親父は、アンダーグラウンド……要は後暗い過去のある奴とか、脛に傷のある奴が集まる場所だな。

 そこの住人だった。

 勿論、そういった所の生活レベル的に見れば、断然いい方だったんだろうな。

 住居はちゃんとした建物だったし、水もあった。

 親父はそこで、金さえ払えば何でもやる仕事をやってた。

 いわゆる何でも屋、ってやつだな。

 何でも屋何て怪しい仕事が成り立つ位には、親父は何でも出来た。

 中でも殺し……武力を行使する仕事にかけては、アングラの中を探しても右に出る奴がいないレベルだったらしい。

 そんな親父が使えた力が、俺の使っている力だ。

 結局俺の居場所は親父の下しかなかった。

 何の力もねぇクソガキが、ピーピー鳴いてるだけで飯が食えるような、そんな世界じゃなかったからな。

 生きていくには金がいる。力がいる。知識がいる。

 騙して、脅して、殺して、そうやって生きていく。

 そんな世界が、嘘みてーな世界があんだよ、知らなかったろ。

 

「辛くは、なかったの?」

 

 辛いと感じた事はあったけどな、冬は寒いし夏は暑いし、ウチの前に腐った死体が捨ててあった事も一度や二度じゃねぇ。

 んで、大体それの処理は俺がやるんだ。ガキだからな、やれる事やんねーと生きてけねぇ、それが言葉も喋らねぇ暴れもしねぇただの物運びなんだから楽なもんだ。

 あ? 死体捨てて問題にならなかったのかって? 決まった場所に運んで捨ててりゃ次の日にはなくなってんだよ、そう言う仕事もあんのさ。

 で、段々体が出来て、親父に戦う術を学ぶ様になった。

 それを学ぶ様になってからは、武力がいる仕事が俺にもちらほら回ってくるようになった。

 世界が広がったみてぇだったよ、何てったって自分で稼げるんだぜ? その金は自分の好きにしていいと来た。

 そりゃあ働いたさ、親父みてぇに何でもやったし、知識をつける為に本を買い漁って読み耽った事もある。

 けどな、そうやって過ごしていくとな、見えてくんだよ。

 

「何が、ですか?」

 

 朱乃……お前もうちょっと察しよくなかったか? え? 何? 思いもよらぬ重い話で困惑してる? それギャグか?

 あー、わかったわかった、わかったから怒るな睨むな。

 まー、見えてくんだよ。

 自分の何もなさっつーかな、俺は何も持ってねぇんだ。

 本当の親も、自分で作った本当の自分の居場所も、俺が俺として立てた証みてーなもんがなぁーんにもなかった。

 だから、この力を十全に扱えるようになったと親父から皆伝貰って、暫く仕事して……自分が生きた証が立てられる世界で取り敢えず生きていけるだけの金が貯まって出てきた。

 多分、証が立てられるなら、この力じゃなくてもいーんだ。

 例えば自分の会社立てて、成功して、名前が売れて……そう言うのでも問題ねぇ。

 じゃあそうすればいいって? あー、ダメダメ、だって俺はもう知っちまったからな……。

 もっと証の立て甲斐のありそうな世界を、な。

 悪魔? 天使? 堕天使? 上等じゃねぇか……そんな奴らの人生の中に、俺が輝いた証が刻まれる可能性が出てきたんだぜ? やるだろ? ワクワクするだろ?

 こっちに出てきた時は、経験や知識を活かした、文化的な証の立て方でもいいと思ってたんだけどよ……。

 こう言う世界の方がでかい舞台で、華々しく輝けそうだろ。

 だからな、俺はこれからもその世界に首を突っ込んでいくぞ、俺は俺の証を手に入れて満足して死んでいく。

 それでいいのさ。

 

 

 

 SIDE OUT

 

 

 

 誰も、何も話す事は出来なかった。

 リアスも朱乃も、そして黒歌も……。

 語った本人は何とも思っていない、何時も通りの空気のままだが、周りはそうはいかない。

 黒歌に至っては既にその話を聞いているのだが、結局その話を聞いて断固として真一を止めようと言う意志が貫けなかった。

 つまり、この件に関して黒歌から言う事は、今更無いと言う事だ。

 証を立てる。

 その為だけに生きていると、真一は言った。

 普通に生きていればそんな事考えもせず、ただ日々を唯々諾々と過ごし、時折自分の掲げた目標に邁進して明るい未来へと走っていく。

 自分が生きた証を手に入れる為だけ、その為だけに生きていると言い切った真一の姿は、リアスと朱乃にとって眩しくもあり悲しくもあった。

 

「まー、すぐにどうこうって事はねーよ。武術家とか武道家とか、とにかく自分を鍛えてる奴ってのは総じて生命力が高いもんでな、俺も中々の生命力があると自負してる。差し当たっての問題は……」

 

 ねーよ、と続けようとした所で、囁くような人の声が真一の鼓膜を叩く。

 その発信源へと、真一は視線を向ける。

 視線の先にいるのは、真紅の髪が印象的なクラスメイト、リアス。

 前髪に隠れて表情をよく伺う事が出来なかった彼女が、顔を上げた奥には、キッと目尻に薄い涙を浮かべながらも真一を睨みつける鋭い瞳があった。

 

「……させない、絶対にさせないわ。貴方を死なせたりしない」

「だから、別にすぐ死ぬわけじゃねーって、上手くすれば……そうだな、後二十年くらいは生きられる」

「貴方は、それでいいの? 二十年なんてあっと言う間よ? 短いじゃない……」

「……十分だろ。二十年もあれば俺をずっと覚えている誰かが、一人くらいは出来んだろ」

「ダメよ、私が許さない。朱乃もきっと同じ事を言うわよ。だから……貴方を止められないなら、問題を根本から解決するわ」

「はぁ?」

 

 心底理解出来ないと言わんばかりの真一の声に、リアスは自らの持つ豊満な胸の間へと手を入れ、そこから出てきたのはチェスの駒。

 しかし、真一の表情は駒に対しての疑問ではなく、リアスの行動に呆れた様な表情を浮かべていた。

 

「どっから出してんだオメェ……」

「仕方ないじゃない、ポケットないんだもの」

 

 悪びれた様子のないリアスは、呆れる真一を前にして、挑発的な笑みを浮かべてみせる。

 駒を右手で持ったまま、胸の下で腕を組み、真一に見せつけるようにして「どう?」と胸を持ち上げてみせる。

 確かに素晴らしいボリュームではあるが、真一はそれよりも駒を胸の谷間に仕舞う等と言う事を、本当にやる人物がいた事の方が驚きである。

 大体、豊満な胸は好きではあるが、そもそも見慣れている。黒歌で。

 挑発的なリアスの笑みと目の前に広がる光景に対し、大きな反応を見せない真一に、リアスの女としてのプライドが煽られる。

 机越しに真一へ近づこうとするリアスを止めたのは、真一……ではなく、黒歌と朱乃だ。

 

「ご主人様に色目使うにゃ、ご主人様に色目使っていいのは今の所私だけにゃ」

「リアス。今はそんな場合ではありませんわ、誘うなら事が終わってからでもよろしいじゃありませんか」

 

 まさか同時に止められるとは思ってなかったのか、リアスは浮かせていた腰を椅子へと再度落ち着ける。

 どことなく二人共視線と言葉が冷たいし、黒歌に至っては警戒した様に毛を逆立ててリアスを睨みつけており、全く生きた心地がしない。

 しかし、そんな黒歌はすぐに落ち着きを取り戻し、からからと笑ってみせる。

 

「まぁ、ご主人様と番になる気があるにゃら、話は別にゃ」

「つ、つがいって……」

「貴女はそれでよろしいのですか?」

「私はもう実状的にはご主人様の番にゃん。初めましても貰ったしにゃー」

「やかましいわ」

 

 あまりといえばあまりの言葉と表情を浮かべる黒歌に、真一から即座にツッコミが入るが、時は既に遅い。

 少しの生々しさが会話の中に見えてしまい、リアスは少し赤くなった顔で真一を少し睨み、朱乃は朱乃でニコニコと笑顔を浮かべてはいるが意味深な視線を真一に送っている。

 

「大体、悪魔って言うのは、己の欲望に忠実にゃん。欲しければ手に入れる。どんな事をしてでも、違うかにゃ?」

「……そうね、少しだけれど貴女に賛成するわ」

「では、私も本格的に狙っていきましょうか」

 

 無論、悪魔だからと言って、その全てが欲望に忠実でそれのみに従っているわけではない。

 何もかもかなぐり捨てて、ただ一つの欲望に従う姿と言うのは、悪魔にとって理想ではあるものの現実がそうはさせてくれない。

 丁度今のリアスの表情がそれを象徴しており、大きすぎる家名を背負い、それを誇りに思いながらも身動きが取りにくい状況を苦く思っている部分もある。

 そう言う複雑な心境が大いに現れた表情だった。

 真一としては、リアスの横で舌なめずりでもしそうな程に、狙う者の瞳で真一を見ている朱乃も気になる。

 しかし、印象に残ったのは、悪魔でありながら人の様な葛藤の中にいるリアスの表情だった。

 頭の片隅に記憶したリアスの表情を差し置き、現状を修正する。

 

「話ズレまくりだろ。で? その駒がどうかしたのか」

 

 チェスの駒らしきモノを取り出した本人も、その事実を忘れていたのか、慌てた様に手に持っていた駒をテーブルの上に置く。

 形状はチェスで言う戦車(ルーク)の駒だが、本来のチェスで使う駒とは違い、白一色という色ではない。

 種類によっては赤色などもある、とはリアス談。

 

「これは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ね」

「まんまじゃねぇか……」

 

 わかりにくいよりはいいけどな……と溜息を吐く真一に、リアスは苦笑してみせる。

 

 悪魔の駒とは、先の大戦で悪魔の絶対的な数の現象に歯止めをかけるに至った要因の一つだ。

 人間が作ったゲームの中でも人気の高かったチェスの駒を参考に作られたもので、これらを使えば駒が持つ特性を備え、人を悪魔へと転生させる事が出来るらしい。

 王の駒はチームのリーダーとなる悪魔が使い、その悪魔が他の駒を使って、様々な存在を悪魔へと転生させる。

 この後天的な悪魔を転生悪魔と呼ぶが、眷属として扱われる為、正確にはまだ悪魔とは認められていない。

 身体機能や特性は悪魔となっているにも関わらず、未だ上級悪魔の中には人間の分際で、と見下す者が多いのが現状だ。

 

 話を戻す。

 その転生悪魔がチェスの駒を模した物でなる事が出来るからには、当然それらを使ったゲームが存在する。

 レーティングゲームと言うらしいそれは、架空の盤面であるフィールドで、自らを駒に見立て戦うシステムらしい。

 つまり、不確定要素がいくつも重なった、実戦形式のチェスのようなもの……らしい。

 駒……つまり悪魔としての性能が物を言う場面が多く、チェスと言うより、極小規模な戦争の様だと真一は思う。

 そして、悪魔としての地位と力は、レーティングゲームの結果内容で見られる場合も多いらしい。

 眷属の素質と力量が高いレベルにあるか……それを見極め、眷属を選ぶのも、立派な王としての責務と役割と言う事だ。

 

「それはいいんだけどよ、駒がもったいなくねぇかそれ……」

「あのね、私は貴方を助ける為だけに提案してるわけじゃないわ。貴方を眷属にすれば、私にも十分以上に見返りがあるわよ。私は貴方の力を買っているのよ」

「ふぅん……なら別に構わねぇが、早速やるのか?」

「えぇ、この戦車の駒はまさに貴方にぴったりだと思うわ。生命力という観点で見れば、人間よりもはるかに高い悪魔になれて、死の危険から遠ざかる。ゲームで勝ち進み、地位を得られれば、貴方も証を立てられる。私は貴方の力を借りられる」

 

 まさにいいこと尽くしとはこの事ね、と機嫌良さ気に、リアスはテーブル上の駒を手に取って真一へと差し出す。

 ふぅん……と、気のない返事と共に差し出される悪魔の駒を受け取る真一。

 しかし、その表情は半信半疑……いや、半分も信じているのかも疑わしい表情だ。

 真一が駒を受け取る様子を、黒歌は興味無さ気に眺めつつも、密かに無知を嘲笑うような笑みを浮かべている。

 猫ながら器用で表情豊かな黒歌の表情の変化に、真一は軽く首を傾げるが、その事を指摘するような空気ではなくなってしまっている。

 何故ならリアスは既に、なにやら儀式の様なものをおっぱじめようとしており、堅苦しく理解出来そうにない詠唱をつらつらと並べている。

 リアスの小さく瑞々しい唇から言葉が紡がれる度に、複雑な文様を描いた赤い魔法陣が浮かび上がり、真一を取り囲む。

 ここまでやっておいて儀式が終わる前に、黒歌の表情が語る意見など指摘してしまえば、興が削がれて空気が固まる事は間違いない。

 そして大抵その場合、指摘した奴が悪い様な空気になるのは、悪魔だろうが人間だろうが関係ない。

 指摘すればそうなる事がわかっている上で、自分には何ら非がないと言うのに、わざわざそんなポジションに収まりに行くほど真一は酔狂ではない。

 

 そしてついに、リアスの詠唱が終わり、赤い魔法陣が姿を消す。

 リアスと朱乃は、キラキラとした期待の瞳で真一に注目するが、本人は目元をひくりと痙攣させるだけだ。

 正しく引きつった表情のまま、リアスと朱乃を見返し、ゆっくりと開いた手には……どこにも変わった様子のない戦車の駒(ルーク)が存在していた。

 

「……なんか、わりぃな」

 

 冷静に口に出す真一の言葉は、目にした光景が告げる通り、失敗したと言う事実に対してのとりあえずの謝罪。

 完全に固まった空気の中で、リアスと朱乃は、信じられないモノを見る様な瞳で真一へと視線を集中させる。

 真一の謝罪から誰も何も言葉を発し様としない状況がおかしかったのか、先程まで小刻みに体を震わせていた黒歌の口から、大音量の笑い声が上がった。

 

「ぶにゃっはっはっは! 当然にゃ! 成功する方がおかしいのにゃ!」

 

 真一の悪魔化失敗の事実を大きな声で笑い飛ばし、猫の癖に器用にお腹を抱えて笑う黒歌に、真一はやれやれと肩を竦めて見せる。

 しかし、誰もが真一の様に、黒歌の事をよく理解している訳ではない。

 その事実として、真一の目の前に座る二人からカチンと聞こえてきそうな程に、黒歌の態度がカンに触ったことは明らかな表情。

 二人共普段は冷静な人物と温厚な人物なのだが、完全に瞳と眉は釣り上がり、揃って黒歌を睨みつけている。

 

「貴女、しん……霧咲君を助ける方法が失敗して何がおかしいの?」

 

 溢れ出る感情そのままに言葉を垂れ流すリアスに、真一はよくないものを感じ取る。

 元いた暗い場所で、幾度も見てきた感情が表面に溢れ出ている。

 それは毎回それを垂れ流す人物を、良くない状況へと追い込み、よくないモノへと変貌させてしまう事を知っている。

 口をついて出た言葉は、当然静止の言葉。

 

「おい、グレモリー……」

 

 だが、その静止は一足遅かった。

 何故なら、決定的な言葉は、言葉を続けようとするリアスではなく隣にいる朱乃から発せられたから。

 

「まるで、真一が死ぬ事を望んでいるようにも聞こえますよ」

 

 朱乃が言い切った言葉は、真一の勘がマズイと警告音を響かせる。

 怒りを始めとした激情で、少し冷静さを欠いているからこそ出てきた言葉だろうが、黒歌を前にして言う言葉ではなかったのだ。

 その証拠に、朱乃の言葉が始まった瞬間には、真一の手は瞳の動きよりも速く黒歌の体へ手を伸ばす。

 伸ばした腕は、正に瞬きの瞬間にと言ってもいい速度で変化を終えた黒歌の腕を掴んでおり、テーブルを飛び越えて朱乃に掴みかかろうとした黒歌をかろうじて押さえ込んでいた。

 音も気配も最小限の小ささで動いた黒歌の表情は、全く温度を感じさせない能面の様な表情で、なまじ整った顔をしている故に無機質な人形の様にも見える。

 能面の様な無表情で口を開いた黒歌の声音もまた、温度を感じさせない冷たい声音で、その口調は先程までの余裕を感じる口調ではない。

 

「アンタ達に何が分かるって言うの? 私がアンタ達が考えつくような可能性を考慮しなかったとでも思ってるの? そんな事でご主人様が……真一が生きてくれるなら、何処かの悪魔から駒をかっぱらってでもやっているわ」

 

 辛うじて真一に押し止められている体は、ぎちぎちと関節を伸ばしつつも前進しようと力が入っている。

 普通ならば既に吹き飛ばされる程の力を込めている黒歌の体とは裏腹に、口調は淡々と冷たく、詰まる事なくスラスラと出てくる言葉は黒歌の本心だ。

 真一との付き合いは、リアスと朱乃よりもよっぽど黒歌の方が長く、真一の状況も人格も性格も性質も熟知していると言っていい。

 そんな黒歌に対して言い放った言葉は、正しく失言であったとしか言い様がない。

 感情を感じさせないからこそ、より強くそう思っている黒歌の心に触れたリアスと朱乃は、ただただ呆然と黒歌を見つめるだけ。

 

「誰だって自分が連れ合いだと思ってる人に死んで欲しくない。当然の事でしょ? 大体私は悪魔なのよ、ご主人様の為だったら何だってするし、誰だって殺す。でもそんな事じゃご主人様の状況は覆らない。じゃあ私に出来る事って何? 方法を模索しながら何時も通りご主人様に接するだけ、それだけなのよ」

 

 悪魔の駒を以てしても、真一を悪魔にする事は叶わない。

 それは比較的早い段階で黒歌は結論づけていた事であり、リアスがやろうとした事が失敗する事も、正しく予見していた。

 悪魔の駒で眷属悪魔に出来るのは、基本的には自分よりも力量が下の者に限られる。

 勿論それにも例外はあるが、基本的にはそうであり、黒歌からすればリアスが真一を従えるなど天地がひっくり返ってもありえない事だ。

 個人の力量で言うならば、目の前の二人は、まだ黒歌よりも下である。

 そんな二人、主にリアスが、黒歌がご主人様と仰ぐ真一を従えられる道理等ない。

 黒歌と言う悪魔が人間である真一に付き従っているのは、何も感情的な理由だけではないと言う事だ。

 

「だから、私っ! だって、でも……」

「あー、わかった。わかったから落ち着け」

 

 感情が高ぶりすぎて目尻に薄らと涙を浮かべ、支離滅裂な言葉を呟く声は涙声。

 黒歌と言う悪魔が、霧咲真一と言う人間を主としてしっかりと定めている。

 その事実が痛い程わかる黒歌の感情に、リアスと朱乃は言葉を発する事が出来ないでいる。

 どこまでも純粋に不純に、どこまでも情熱的に鮮烈的に、ただ霧咲真一と言う一人を思う黒歌は正しく真一の眷属なのだ。

 いざという時には相変わらずの黒歌に、真一は苦笑しつつもその身をしっかりと抱き寄せる。

 ぐずぐずと泣きべそをかく黒歌を、子供をあやす様に扱う真一を見て、ようやくリアスと朱乃の時間が再起動する。

 そして最初に出てきた言葉は、謝罪の言葉だった。

 

「申し訳ありませんでした。貴女と真一の今までを知らないにも拘わらず、感情に任せた失言をしてしまいましたわ……」

「そうね、私からもごめんなさいね。貴女の事をはぐれ悪魔と言うフィルターを通して見てしまっていたわ。真一の眷属としての貴女を、全く考慮に入れていなかったわ。ごめんなさい」

 

 リアスと朱乃の真摯な姿勢の謝罪を聞いているのかいないのか、黒歌はただグズグズと真一の胸に顔をうずめてべそをかくだけだ。

 幾度も鼻を鳴らす黒歌をそのままに、真一は改めてリアスと朱乃に視線を向ける。

 

「まぁ、そんな訳だ。諦めろ」

「無理ね」

「懲りねぇやつだなぁ」

 

 先程地雷を踏み抜いてしまったリアスと朱乃だが、真一の言葉には絶対に頷こうとしない。

 凛とした声で真一の言葉をはねつけてみせるリアスの瞳は、確かに諦めの光を浮かべておらず、黒歌の様子を見た今となっては更に輝きを増しているような雰囲気もある。

 

「きっと……黒歌も、まだ諦めてなんていないわ。あらゆる方法を使って模索しているはずよ、貴方を助ける術を」

 

 リアスの言葉に、黒歌の肩が小さく震える。

 どうやら当たりらしい。

 大きく息を吐きだした真一は、やれやれと諦めた様に肩を竦めて苦笑を浮かべている。

 そんな真一に対し、リアスは空気を入れ替える様に、弾んだ声を上げて言葉を紡ぐ。

 

「それにもう、霧咲君に悪魔だとバレてしまったしね。これからは大っぴらに動かせてもらうわ、私達の事情も隠さない。その上で、私なりに貴方を助ける術を探していくわ。これでも私の家、グレモリー家は大きな家なのよ?」

「……へーへー、んじゃ任せるとするか」

「よろしい」

 

 諦めたような真一の声に、リアスは一つ満足そうに頷く。

 そして、更に何かがある様に、満足そうなリアスに声を掛けたのは朱乃だ。

 

「リアス? この際、契約の事も一緒に考えてもらえばいいんじゃないかしら?」

「あ、いいわねそれ。採用よ」

「俺としては、その話題は超絶なまでに面倒事の予感がするんだがな」

「私達悪魔がどんな存在で、どんな事をしているか話したかしら?」

「俺の話聞いてねーな……お前もう泣き止んでんだろ、いい加減離れろ」

「あぁん、ご主人様いけずにゃ! もっと傷心の私を慰めても罰は当たらないにゃ!」

「やかましいわ。悪魔に罰当らないとか言われる筋合いはねぇわ」

 

 最もな話だ。

 しかし、リアスとしては空気を読む事なく、相も変わらずマイペースに状況を運ぶ真一に呆れた声を上げるしかない。

 

「貴方達も真面目に話聞くつもりないわね……」

「いや、俺はあるけどな、で? 悪魔ってのはどんな存在で、何をしてんだ?」

 

 力づくで黒歌を引き剥がした真一は、改めてリアスに向き直り、それに対して満足そうに一つ頷くリアス。

 軽い咳払いの後に語られるのは、当然先ほど話題に上がった、悪魔についてである。

 三つの勢力が衝突し起こった大戦の話から始まり、その影響による各陣営の現在の状況、そしてその後の方針を一つ一つ説明していく。

 時折小さな質問を挟むが、特に疑っている様子もなく、真一はその話を事実のモノとして受け入れている。

 勿論、魔法や神器等と、自らが扱えない技術を話された所で全く理解は出来ない。

 しかし、それが存在する事を認める事は出来る。

 

 話を一通り聞き終わった真一の心中に飛来するのは疑いや不安でもなく、ただ漠然とした納得だけだった。

 元々暮らしていた場所で、武力と武力でぶつかりあう事があった。

 その際に、自らの力とは違うとハッキリわかる不思議な力を何度か見た事があり、決まってそう言った事柄を依頼してくる人物は同じ人物。

 思えばその依頼者も悪魔か天使、もしくは堕天使のどれかだったのだろう。

 そして依頼対象も、例に漏れずそう言う存在だった……と言う訳だ。

 依頼者の姿を思い出す真一の脳裏には、一番印象的だった灰色か銀色か、どちらともつかない豊かな髪を持った人物が浮かんでいた。

 

「で、貴方の事に関しても悪魔側から色々と調べてみるけれど……それとは別件で、出来ればでいいのだけれど私達のお仕事手伝ってくれないかしら」

 

 昔の依頼者の姿に意識を割いていた真一の思考が、リアスのおずおずとした声で引き戻される。

 声の方へと視線を向けた真一が見たのは、少しばかり申し訳なさそうなリアスの顔だった。

 

「別にいいけどよ、何すりゃあいいんだ?」

「そうね、契約に関しての事を相談する拠点が欲しいから……ここ、貸してくれないかしら? 学園から近いし」

 

 確かに、真一の家は駒王学園から程近い場所にあり、徒歩で五分程の位置にある。

 教室では一般生徒の目と耳があるし、確かに誰にも邪魔されず、悪魔に関して共通の認識のある人物が一堂に集まれる場所が欲しいのは真一としても納得できる。

 しかし、それを理由に家を貸せるかとなれば、当然ながら話は別であり、真一の眉にはその心情がありありと浮かんでいる。

 

「構わねぇっちゃ構わねぇが……どっかの教室じゃダメなのか? 空き教室位あるだろ」

「私が言ってるのは一般生徒が容易に入り込めない場所で、尚且つ、私と朱乃が頻繁に出入りしても怪しまれない場所よ? そんな場所そう都合よく空いてる、訳……が……」

「ん? どうしたグレモリー」

 

 真一の苦し紛れの進言に、リアスは反論を組み立てるが、その途中で何かに気がついた様に語尾が消えていく。

 付き合いの長さと言うのはこう言った所にも影響するものなのか、真一がリアスの様子を不思議に思っていると言うのに、朱乃は「あぁ……なるほど」と納得した様にリアスへ笑みを送っている。

 

「早速お手柄だわ、霧咲君。灯台もと暗しとはこの事ね」

「はぁ? 何言ってんだオメェ……」

「もう霧咲君に隠す必要もない。それを前提として、都合よく空いてる訳が無いなら、都合のいい場所を作ればいいのよ!」

 

 何だその、パンがなければケーキを食べればいいじゃない的な発想は……等と真一は思うが、リアスとしてはもうこれ以外ないと言わんばかりの表情だ。

 そして、満面の笑顔で、真一へと手を差し出すリアスは勧誘の言葉を真一へと送る。

 

「霧咲君……いえ、真一。部活に入ってみる気はないかしら?」

「……はぁ?」

 

 自信に満ちたリアスの声に応えたのは、いまいち状況を飲み込めないウチの突拍子のない誘いに、気の抜けた声を上げる真一の声。

 黒歌は溜息、朱乃はいつもの様にニコニコと笑顔を浮かべて真一を見詰め、リアスは真一へ手を差し出している。

 

「言った通り、面倒な事になったにゃ……」

 

 何かを諦めた様な黒歌の声がリビングに響き渡り、真一はよく事情を理解していないが、そう言う空気だったのでリアスの手を取る。

 夜も深まった霧咲真一邸にて行われたこの出来事が、駒王学園オカルト研究部、誕生の瞬間だった……。

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