Dragon×strife   作:くるみわりナックル

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 どうも! くるみわりナックルです!
 真一くんがダークサイドギリギリにいますが、気にしないでください。
 伏線でも何でもありません……とは言い切れませんが、真一くんが浮かべた人物がキーマンです。
 わかってる人も多いと思いますが……私の想像力が貧困である、と言うのが公に露見してしまいますので、予想だけに留めてください。
 お願いしますorz
 ではでは、今回も、お手柔らかによろしくどうぞー!


黒歌と真一は泥に塗れて暮らしている

 駒王学園オカルト研究部所属、霧咲真一、現三年生。

 オカルト研究部設立当初からいるメンバーの一人だが、オカ研に対しての貢献度は、ハッキリ言って何の役にも立っていないと言える。

 この学園のオカルト研究部とは、オカルト研究とは名ばかり……いや、寧ろ真のオカルト研究とも言える部活動だ。

 悪魔と言う、ある意味神秘の極地とも言える存在が、自ら行っている活動である。

 そんな中にあって、ハッキリ言えば生物学的に言ってただの人間である真一のやれる事など、一つも存在しない。

 

「毎回思うが……俺、この部にいるか? どう思う? 塔城」

 

 旧校舎に存在するオカ研の部室へ歩を進める為、廊下に足音を響かせつつ幾つかの曲がり角を曲がった先の一つで、半身になって後ろを振り向く真一。

 振り向きつつ発した言葉には、確かに人の名前と思しき言葉と、ニュアンスが存在する。

 一秒、二秒と経つが、真一が呼んだであろう人物は姿を現さない。

 全てを知っていると言った風体な真一が、自信満々に問いを発し、それが肩透かしを喰らう。

 そうなれば驚く程の赤っ恥で、現役の力士もビックリな一人相撲だが、時間が経てども真一は後ろにある曲がり角へ視線を送る事をやめない。

 そして、きっかり十秒。

 言葉と共に、真一の視線の先にある曲がり角から、小柄な女の子がするりと出てくる。

 その視線はあちこちへと彷徨い、落ち着きがない。

 

「……部長と副部長が、気に入っているので、必要なんじゃないですか? 先輩は」

「やっと出てきたか。出てこなくてまるで一人相撲、みたいなのはごめんだからな。出てこなかったら全力で追いかけてる所だったぜ」

「出て行ってよかった……本当に、よかった」

 

 にやにやとした笑みを隠さず、軽く放った真一の言葉に、小柄な女の子――塔城小猫は心底安心したと胸を撫で下ろしている。

 それと言うのも、過去に一度同じような状況で真一が小猫に声を掛け、その時の小猫は気配を消してその場を立ち去ったのだ。

 するとどうだろう、気配を消してその場を後にした小猫は、猛然と走り出した真一に追いかけられた。

 そして『正式な意味で』オカ研に所属する小猫を、それこそ、あっと言う間に捕獲して部室へ連行。

 首根っこをしっかり掴まれた小猫は、全力で暴れて見せて、罵詈雑言を撒き散らすもその全ては真一には届かなかった。

 最後にはその状態のまま部室の扉を開け放たれ、小猫と真一の様子を見たリアスには呆れられ、朱乃には真一とのコントのネタとして使われた。

 塔城小猫は忘れない、あの時の屈辱と恥辱を……しかし、仕返しするだけの実力も勇気もない。

 

 小猫が来るのを待っているのか、真一はその場から動こうとせず、じっと小猫を見据えている。

 観念した様に溜息を一つ零した小猫は、小さな足音と共に真一の隣へと並び、そっと高い位置にある真一の顔を見上げる。

 目つきの悪さが一番最初に目に付くこの男は、小猫の学園における『人間』の先輩だが、その中身は最早人間ではないと小猫は断定している。

 へらへらと笑みを浮かべるかにやにやと笑みを浮かべるか、そんな表情の多い真一という人間が、真剣な表情を浮かべる場面と言うのを見た事がない。

 不満や不機嫌は見た事があるのだが、その時の空気は思い出したくもない。

 しかし、誰も彼も真一の浮かべる『笑み』と言う、余裕の象徴とも言うべきそれを剥がせていない。

 そう『誰も』だ。

 その中には当然、悪魔である小猫自身やその仲間も含めている。

 悪魔である小猫達を前にして、どんな状況……いや、取り繕わずに言おう。

 どの様な戦闘の場面でも、その表情は剥せた事は一度もない……ただの一度もだ。

 人間同士の喧嘩、悪魔との鍛錬と称した一騎打ち、複数の悪魔を相手取った乱戦。

 そのどれもを、余裕の象徴である『笑み』を浮かべたまま、何事もなかったかの様に乗り切ってしまう。

 つまりそれは真一にとって悪魔であろうが、生命を脅かすほどの、そして驚愕をもたらす程の存在にはなりえないと言う事実に他ならない。

 小猫の隣を歩く男を、そっと密かに見上げ、そう考える。

 それに真一を小猫が苦手とする理由が、もう一つある。

 

「で? そろそろ、黒歌の話を聞く覚悟は出来たか?」

 

 これである。

 二年ほど前――意気揚々とリアスが、拠点に帰ってきた日の事だ。

 唐突に、自分の姉が見つかったと小猫に告げたのは。

 だが、あまりにも唐突過ぎたその話は、小猫に行動を起こさせるには大きすぎた。

 そしてなにより、姉と離れて積み重ねた時間が長すぎたのだ。

 姉に会うには覚悟が、勇気が足りない。

 リアスにそう告げる小猫に対し、彼女は穏やかに優しく笑いかけ、黒歌の言葉を間違える事なく伝える。

 

 話を聞きに来る心が決まるまで、お姉ちゃんは幾らでも待つ。

 

 しっかりとそう告げた。

 その後「小猫の事はお見通しって訳ね……何だか少し、悔しいわね」そう言って苦笑を浮かべていたリアスが、少し小猫には印象的だった。

 後日会った時は、リアスと朱乃が悪い笑みを交わし合い、報告を保留する場面に出くわした。

 理由があるかもしれないとは言え、結局犯罪を犯したはぐれ悪魔である黒歌の存在が、報告せずとも嗅ぎつけられるかもしれない。

 しかし、その心配はないとリアスと朱乃は、静かに笑うだけだ。

 そして口を揃えてこう言うのだ。

 

「あの人が、そんなヘマを踏むはずがありませんわよ」

「そうね、彼がしくじる光景は……あまり浮かばないわね」

 

 だから心配ないと笑みを浮かべ、今はゆっくりと考えろ、そう言われて二年。

 リアスと朱乃が絶大な信頼を置く、彼――霧咲真一と会ったのが、去年の話だ。

 小猫の姉――黒歌の実質的な主人であり、彼の下で黒歌は、誰にも何にも邪魔されずのんびり生きているそうだ。

 その奔放さに多少イラッとさせられたが、それは小猫自身も人の事は言えないので、なんとか飲み込んだ。

 姉が事件を起こし、気がつけば小猫はリアス・グレモリーに保護され、そして守られたまま生きてきた。

 十分に小猫自身も、奔放に生きてきた自覚はあるのだ。

 勿論、守られるだけの存在になっている事に悔しさもあったからこそ、リアスの眷属として今を生きているのだが……。

 小猫自身は、今まで幸せに生きてきたと思っている。

 姉のゴタゴタがあったとは言え、小猫に直接的な被害はなく、気がつけばグレモリー家に保護されていた。

 不幸な時間など、小猫には存在しなかった。

 しかし、それを考えると、姉はどうなのか? と言う疑問にぶち当たる。

 自分は幸せだった、しかし、同じように姉は幸せだったのか?

 ただそれだけを、他ならぬ姉の口から聞きたかった。

 本当は、事件の顛末や自分の事情などどうでもよかったし、姉を責めるつもりは毛頭ない。

 何故なら……恐らくグレモリー家に小猫を置いていったのは、他ならぬ姉だと、小猫は思っているからだ。

 そして恐らくそれは……間違ってなどいない。

 身内には甘い事で知られるグレモリー家に置いていったのだから、打算的な考えがあったにせよ、根っこでは小猫の幸せを心から黒歌が願っていると思えた……。

 

 そして今は、隣を歩く男の下で、幸せに暮らしているらしい。

 

「先輩……姉さまは、幸せでしたか?」

「……いい度胸してんな、質問したのはこっちなんだがなぁ」

 

 小猫が重ねた問いに、台詞上では威圧を掛けている様に聞こえる言葉を発する真一だが、その実気分を害したりはしていない。

 曲がりなりにも、この一年、霧咲真一と言う人物と付き合いはあったのだ。

 小猫自身が真一に対して抱く人物像が間違っていなければ、この程度で気分を害するような男ではなく、それは正しく正解だった。

 

「ま、いいけどよ」

 

 そう言って後頭部を軽く掻きつつ、小猫を見下ろす鋭い瞳には、変な力が入っていない。

 ただ自然に、後輩の小猫を見下ろしているだけだ。

 続けて真一が発した言葉も、律儀に小猫の問いに答える言葉で、ただ自然に思っている事を告げるような言葉。

 

「黒歌が今までずっと幸せだったのか、それは俺も知らねぇし、知る必要もねぇ。だがまぁ、ここ十年位は悪くねぇんじゃねぇか? それも、黒歌自身に聞かねぇとわかんねぇがな」

 

 結局、てめぇの幸せを決めんのは、いつでもてめぇ自身だ。

 そう言って隣を歩く真一の言葉は、あまりにも自然で、するりと小猫の心の中に入って落ち着いた。

 リアスや朱乃の様に、無償の優しさに包まれた言葉ではなく、聞こえは優しくも厳しい言葉。

 幸せにしてあげようと声を掛け、努力するリアスや朱乃とはまた違った優しさ。

 何処までも自分で……幸せも何でも、自分自身で見つける物だと言葉の裏で喝を入れるような言葉が、今の小猫にとっては救いの言葉にすら聞こえた。

 

 

 

 もう少し、待ってください……。

 真一の問い掛けに対して、静かにそう告げた小猫に、そうかと短く返した廊下を過ぎ去る。

 到達地点は必然、オカ研の部室であり、すでに始まっている部活の時間。

 その中で、真一は朱乃の入れた茶を飲み、テーブル越しにリアスと顔を突き合わせていた。

 小洒落たアンティーク調の一人掛け用ソファにゆったりと腰掛け、足を組んだまま眼下に存在するチェス盤を睨みつける。

 視線の先には、既にどうしようもない程に追い詰められ、壊滅と言ってもいい黒の軍勢。

 先程までその対局を見ていた小猫は、呆れを含んだ溜息と共に、契約の召喚に応じ姿を消している。

 そして、今でもその対局を見守っているギャラリーは、ニコニコと笑顔を浮かべてリアスの斜め後方に待機する朱乃。

 ある意味興味深いとばかりに、真一の斜め後方から盤面を覗き込む、木場祐斗。

 この二人だけだった。

 

 黒は真一、白はリアスと言う盤面の中で、真一の下した決断は……駒を動かすことだった。

 

「まだやるの!? もう負け確定よ!?」

「いやお前……戦闘者に対して、どう頑張っても負けだから諦めろとか、馬の耳に念仏ってやつだ」

「これチェスよ!? 本当に戦闘してるわけじゃないのに、何でそこまで悪あがきするの!?」

「負けたくねーじゃん?」

「貴方みたいな打ち方してたら誰だって負けるわよ!」

 

 真一とリアスの対局は、今まで幾度も行われてきたが、その戦績は完膚無きまでに真一の全敗。

 なにせ、毎回多少の戦略の差異はあるものの、大体は王を一直線に狙った全軍突貫の傾向が強い。

 放っておいても勝手に向かってくる駒を、適切に打ち落とすだけの簡単な作業であり、リアスとしては戦略も糞もない。

 これで真面目にやっているのだから、真一に指揮官の才能はない、と言う事なのだろう。

 リアスのしなやかな指が動き、迷う事なく駒を刺す。

 

「はい、王手(チェック)

「待て、どこがだ……」

「あのねぇ……いい? こっちに動いても戦車(ルーク)がいるでしょ? 後この兵士(ポーン)はプロモーションしてるからこっちにも動けるの。わかった?」

「ふむ、なるほどな……じゃあ、次は俺の番だな」

「話聞いてた!?」

 

 聞いているようで全く話を聞かない真一に、リアスのツッコミが猛烈な勢いで決まっていく。

 当然真一の駒は、もう何処にも動きようがなく、投了(リザイン)するしかなかった。

 

 対局を見ていた祐斗は、苦笑しつつも面白そうに真一へ視線を送り、朱乃は変わらずニコニコと笑顔を浮かべている。

 負けたはずの真一は、小さく笑みを浮かべ、余裕の態度を崩す事はない。

 

「本当に、先輩は戦闘者として勝負を見ているんですね……ある意味凄いですよ」

「まぁ、実際、真一は戦略を戦術で覆す戦闘者ですから……」

 

 戦略を練り、多角的に、そして広視野に物事を見ている指揮官の策。

 それら全てを局所的、且つ挟い視野で繰り広げる戦闘力でもって、覆しうる可能性。

 霧咲真一と言う男は、そうなれる可能性を持ち、片足は既にその領域へと足を踏み入れていると言ってもいい。

 あらゆる意味で、デタラメとすら言える真一と言う存在に、流石のリアスも溜息を隠す事が出来ない。

 妙に艶っぽく聞こえるリアスの溜息は、光源の少ない部室の中へと溶けていくが、その瑞々しい唇から出てきた言葉はしっかりと鼓膜を打つ。

 

「まぁ、真一が敵として想定する場合、私はそれに対して有効な戦略も戦術も何一つ持ち合わせていないのは確かね……」

「部長がここまで仰るのは相当な事ですよ? 先輩」

「まぁ、真一ですから……」

 

 何処か諦められた様に溜息を吐く朱乃の姿も、真一にとっては見慣れたものである。

 悪魔と言う非常識な存在から、非常識認定されている真一は、まごう事なく人間であると明記しておく。

 

 いつもの光景とも言えるリアスとのやりとりだが、まだ恒例は残っている。

 

「それで? 黒歌はどうなの?」

「まぁたそれか……別にどうもしねぇよ、塔城の覚悟が決まらねぇ事には話は進まん」

「小猫に話をさせてあげたいから、私の所で報告を止めているのよ? どうにか黒歌の方から話を持ちかけられないの?」

「無理だな」

 

 恒例だと言うのに、今日は妙に食い下がるリアスの意見を、考えるまでもなく真一は一蹴してみせる。

 そこには慈悲も何もありはしない。

 ただ純然と目の前に横たわる事実のみを、ただただ並べているだけだ。

 そして、事実であるという事は、それをどうにかしようとする事は出来ないと言う事でもある。

 

「貴方から言えば……」

「だから、無理だっつってんだろ。俺が言ってどうにかなるなら言ってやるさ、だがそうじゃねぇから俺が言ってねぇんだ。何年アイツと付き合いがあると思ってんだ」

「そう、ね……わかってはいるのだけど、小猫の事を考えるとどうにも、ね」

 

 少し俯き加減で言葉を紡ぐリアスの姿に、真一は後頭部をガリガリと掻き毟り、大きな溜息を聞こえるように漏らす。

 祐斗も朱乃も、この話題についてはリアスに一任しているようで、口を挟む様子はない。

 それが原因なのか、それとも今日はそう言う日だったのか……。

 どれが真実かわからないが、妙に食い下がるリアスを前にした真一の言葉を切っ掛けに、話は蓋をしていた中身へと転がっていく。

 

「後、前にも言ったが……黒歌は家族の様なもんでな、連れて行くなら俺は全力で抵抗するぜ?」

「やめて、黒歌は犯罪を犯したの、指名手配中の罪人なのよ? いくら家族だからって貴方が立ち塞がる必要はない筈よ」

「笑わせるな。それは悪魔の理屈だろう? 俺はあいにくと人間でな、悪魔が犯した罪状なんざ知った事じゃねぇ」

「真一! お願いよ、わかって。私は貴方と……」

「それに、アイツが殺人? 殺魔? どっちでもいいか……それで一人の存在として終わってるなら、俺なんざとっくに腐り落ちてる」

 

 触れた。

 触れてしまった。

 何の脈絡もない、ただの言い合いの最中、真一は触れてしまった。

 リアスと朱乃があえて触れないようにしていた、真一の泥に塗れた過去に、自ら触れてしまった。

 こうなればもう真一は止まる事がない。

 耳を塞ぎ、目を閉じ、目の前にある事実から目を反らしたいリアスや朱乃の心情を理解しつつも真一は言葉を止める事はない。

 

「殺したさ。何人も何十人もな、何でも屋に入ってくる仕事なんざそんなもんだ。明るい仕事なんざありゃしねぇ、街の廃品回収やリサイクル運動して金貰える仕事じゃねぇんだ」

「やめて、真一、やめて。そんな事聞きたくないわ」

「いいや、ここで知ってもらう。俺が黒歌と同じ立場だって事を知ってもらう。黒歌は理由があったのかもしれねぇ、だが俺は理由なんざねぇ、仕事だから殺した。金が貰えるから殺した。生きたいから殺した。それ以上の理由なんかどこにもねぇ、これでも俺が黒歌の前に立ち塞がる理由はねぇってか?」

 

 リアスは、真一の言いたい事がよくわかっている。

 彼女は決して愚者ではなく、真一がただ感情に任せて過去を吐露している訳ではないという事が、本当によくわかっている。

 泥に塗れて、血に汚れて、それでもなお守りたいものがある。

 それは悪い事なのか、守ろうとすらしてはいけないのか、そう問うている事はリアスにもわかっている。

 殺しが悪いのか、理由なき殺しが悪いのか、所詮そんなものは水掛け論。

 殺し自体が悪だと言う者が多ければ、世界的に見て殺し自体が悪だ。

 理由なき殺しが悪なのだと言う者が多ければ、それが悪になる。

 所詮世の中そんなもので、この問い掛けに答えはなく、一般常識的に殺し自体がいけない事だと認めてしまえばいい。

 しかし、真一を前にして、リアスはそれを認めるわけには行かない。

 何故ならそれを認めてしまえば、霧咲真一は、リアス・グレモリーと対立する事になってしまう。

 真一と言う人物を識り、気に入り、仲良くなった。

 日々が色付き、幸せな毎日が自分を迎え入れ、その中心にはいつも真一や朱乃の姿があった。

 そんな彼を……霧咲真一を、どんな手を使ってでも、殺さなくてはならなくなる……。

 その答えにたどり着いたリアスの頭の中に、何があるか……ただ純粋に『嫌だ』と言う子供の様な感情だけだ。

 否と言う程理論的な否定ではなく、嫌だと言う感情的な理論も何もない、ただ純粋な感情。

 

 濡れた瞳で、鋭い眼光をあらわにする真一の瞳を睨みつける。

 だがそれでも、真一は揺るがない動じない。

 結局彼女の口から出てきたのは、凛とした理性的な言葉ではなかった。

 

「……嫌よ。真一を殺すのも、捕まえるのも、真一に敵として見られるのも。その全てが嫌、真一には味方で居て欲しい。仲良くなって欲しい」

 

 震えた声で、ただ、子供の様に嫌だと漏らすリアスの言葉を受け止める。

 そして、先程までの雰囲気は何だったのかと言う程にあっさり、真一は鋭く刺すような眼光を解く。

 そこから出てきた言葉も、呆れた様な、考えるのが面倒臭くなった様な言葉だった。

 

「じゃあ、もうそれでいいだろ」

「え?」

「お前は俺と戦うのが嫌だ。俺は黒歌を連れて行かれるのが嫌だ。ならもう、ちょっと口を塞いでチャンスが巡ってくるのを待つしかねぇだろ」

「どういう事ですの?」

 

 話の間、決して真一から瞳を反らさなかった朱乃から、疑問の声が上がる。

 場の空気が緩んだ事を察して、祐斗は構えを解く。

 空気が悪いままに、話の上でもリアスの身が脅かされるならば、剣を抜く事を躊躇しない。

 それが、木場祐斗と言う男だ。

 勝てるかどうか、と言うのは別問題ではあるが……。

 額に浮かんだ冷や汗を軽く拭い、祐斗は先程までと同じく傍観に徹する。

 この場の役者は自分ではないと言う事を、正しく理解しているからだ。

 

「俺がこの世界に首を突っ込む限り、そういうチャンスには事欠かねぇ……と思う」

「自信なさげなキャラは似合いませんわよ?」

「るっせぇなぁ……まぁ、そういう事だ。お前らの上と話す機会がありゃあ、どうにか出来るさ……それも、遠くない気がするしな」

「その心は?」

「勘だ」

「えらく頼りない根拠ね……」

 

 にやっと、笑みを浮かべつつ、自信満々に言い切った真一にリアスの呆れたような声が被さる。

 しかし、勘とは言いつつも、真一の脳裏には銀色か灰色か区別のつきにくい色の髪を持った人物が浮かんでいた。

 

 リアスの呆れた様な声を最後に、この件には一先ずの決着を迎えた。

 問題の先送り、とも言えるが……。

 しかし収まった事は収まったこの場で、空気を入れ替えるには今しかないと感じ取ったのは、誰であろう木場祐斗だった。

 先程までの張り詰めた空気を流した様にニコリと爽やかな笑みを浮かべ、祐斗が声を掛けたのは、勿論と言うか真一だった。

 

「では、この件は一先ず置いておくとして……霧咲先輩、稽古お願いします」

「あ? まぁーたかよ……メンドくせぇんだよなぁ、お前毎回本気だし」

「そんな事言っても、割と先輩が楽しんでるのは知ってるんですよ?」

 

 不満そうな瞳と雰囲気を出してみるも、祐斗の爽やかな笑みと雰囲気は、それを寄せ付けようとしない。

 真一を強かに受け流す側面を持ったこの男も、やはり普通ではない。

 

 どうあっても祐斗は折れないと理解した真一は、後頭部を軽く掻きつつ、溜息と共にゆっくりと立ち上がる。

 

「あー、しゃねぇなぁ……」

「あ、私も見に行くわよ」

「当然、私も行きますわよ?」

「部活は?」

「これも立派な部活よ!」

「小猫ちゃんにお任せしますわ」

 

 ホントに大丈夫かよ……この部活……。

 呆れた様な真一の声は、魔法陣に消えていくリアスと朱乃、そして祐斗の姿の様に部室の中へ掻き消えていった。

 当然真一はこの後、全力で稽古場へと爆走していったのは、言うまでもない。

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