「ご覧ください。人類史上初の世界統一を成し遂げられた、ブリタニア帝国第99代皇帝にして黒の騎士団CEO並びに超合衆国の代表議長であらせられる、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア皇帝陛下のご入来です」
純白の皇帝服に身を包んだ黒の魔王が、やけにあっさりとした微笑を浮かべていた。わざと集めておいた、独裁否定派の観衆が視界いっぱいに映り、計画成功の予感が安堵を促す。
いや、それも違うかもしれない。これはどちらかと言うと、生きるのに疲れた者の笑み。きっと永遠の平和など訪れず、自身の犠牲も宇宙規模で見れば一個の死というささやかなものでしかない、とどこかで気付いている。
やつらの計画を頑なに否定しておいて、これか。やさしいウソだなんだ偉そうに講釈垂れたが、もしかしたらあの時の『明日が欲しい』という言葉自体、やつの憎む身勝手なウソだったのかもしれないな。
シュナイゼルもそうだ。彼のことを虚無と表現したが、俺は自虐観から抜けられない。五十歩百歩で罵っていたのだろうか。
だとしたら、ゼロレクイエムとはやはり、諦めなのだろうな。
ルルーシュは自嘲気味に笑んだ。
「ん? あれはなんでしょうか? 警官隊が突然止まりました」
しかし、今さら計画は止められない。騙しきって見せるさ。見よ、世界よ。この驚愕した顔を。
「ゼロ! ゼロです! ゼロがたった一人で現れました!」
うおおおおお、と大歓声が上がる。程なく、ゼロの挙動を何一つ見逃さぬとでも言うように、急激に静かになる。
その時、突然ゼロは駆け出した。計画通り、ルルーシュへと真っ直ぐに。
近場のナイトメアが銃口を向け、程なく人体など軽く引きちぎるマシンガンを乱射。しかしゼロは人とは思えぬ動きで銃弾をジグザグに躱し、着実にルルーシュへと迫っていく。
「手を出すな、私が相手をする」
忠義の騎士、ジェレミアが籠手のような短刀片手に飛び出した。ゼロはそのジェレミアにむしろ飛びつき、肩に乗って跳躍。シュナイゼルの付近に着地する。そして次は、あられもない姿のナナリーの傍。ルルーシュの目が僅かに細まる。驚かせてすまないな。そしてとうとう、ルルーシュと同じ高さへ。
「おおおおおる、はあああいる、まりあああんぬううううう!」
その時、ゼロの横から突然、白い何かが飛び込んできた。
「ぐあっ」
吹き飛ばされ、壇上から遠のくゼロ。代わりに着地したのは、長い黒髪をポニーテールにした若い女性。しかもなぜか服が真っ白なレオタード。
ルルーシュの驚愕は凄まじい。うおっ、お尻の食い込みがっ! 普段ならこの程度で動揺する俺ではないが、この場面と、聞きたくない単語が聞こえた気がするせいでっ!
「救世主です! 救世主が現れました! あのゼロの刃が皇帝陛下の喉元に迫る直前、何者かに蹴飛ばされました。どなたでしょうか? 妖艶な妙齢の女性ですが、お顔は皇帝陛下と似てらっしゃるように見えます。母方の親戚でしょうか? 服装は、白のレオタードです。この場に似つかわしくないかもしれませんが、危ない格好というのがむしろヒーローというギャップに……」
何をやってるんですか母上! アラサーなのにレオタードって! 恥ずかしくないのですか! 皆が見ているのに! あの男がラウンズに用意したパイロットスーツも卑猥でしたけども! 母上の美貌なら20で通用するでしょうし誇らしいと感じるかもしれませんけども! って何を考えてんだ俺は!
ああ、口から出そうな言葉を耐えるのが辛い。母上のお尻の食い込みを眺めるのも辛い。だが、視線を外すと動揺した風に受け取られる。それでは史上最悪の悪逆皇帝のイメージに傷がつく。だが、食い込みを見てばかりと言うのもいただけないな。余裕を見せておかねば。
「貴様、不敬だぞ! 我を誰と心得る!」
「ぷ、ぷふっ。ぷはっはっはっはっはっはっはっは!」
「なっ!」
わ、笑われただと!? この俺を……まあ、母上らしくはあるが。
ではなくて! これはいけない。皇帝のイメージが! 早く片づけなくては!
「ええい、ゼロ! 何をし…………」
いかんいかん、表向きゼロに頼ってはいけないんだった。
「ゼロ、そしてそこの女! 何をしようとも無駄だぞ! ジェレミア! この痴れ者を排除せよ!」
よし。なんとか言葉をつなげることはできたぞ。後は頼んだ。スザク、ジェレミア。ジェレミアが母上を押さえている隙にスザクが俺を刺せ。
「ルッルーッシュ! あなたの計画をぶち壊してあげるわ! この私が! 最高におもしろい形で!」
この声、やはり母上だったか。そして話しかける時も決してこちらを向かない。ギアスで操ることもできないのか。かと言って後ろから撃っても避けられそうだしな(本音は撃つのに抵抗がある)。やはりジェレミアに頼るのが得策。
ってジェレミア。何を固まっている!
「ジェレミア! 何を戸惑っている! 早くこの痴れ者をっ」
「ジェレミアアアアアアア!」
「はいいいい!」
は、母上! 俺の声をかき消さないでください!
そして後ろから見ていても分かる。きっと悪戯中の子供のようにうれしそうな顔をしているのが。何をするつもりだ?
その時、なぜか俺はレオタードが2つの肉のおわんに食い込むのから目が離せなかった。背徳と情欲。母上のなでやかな肢体に、罪深き興奮を覚えてしまっていたのかもしれない。
母上は突然股を開き、小さく腰を落とした。そして後ろから見たところでは、股をまさぐるように、おい! まさか! 〇ナリーを! じゃなくて〇ナニーを! ん? 少し違うか。左右の股筋にぴったりと両手の5本指それぞれをを沿えている。V字のように。かなり情けない格好だがな。
「アーニャ」
ひょうきんな声音でアーニャの名をつぶやきながら、V字の線に沿うように両腕を斜め上に上げた、だと……!?
「なんだそれは! なぜアーニャの名をつぶやいた!?」
「ふふん? 知りたい?」
「なっ、ど、どうでもよいわ! ジェレミア!」
「アーニャ」
なっ、またアーニャと言いながら同じ行動を繰り返しただと!? そしてジェレミア! 「あっ」 とか言いながら顔を赤らめて立ち止まるな! さっさと助けろ!
スザクは! おっ、ようやく来たようだな!
「ぐわっ」
おいいいいい! 簡単に蹴飛ばされるなよ! いつもの体力バカはどうした! テレビが、皆が見ているのだぞ! それではゼロの神性が!
「アーニャ」
「なっ、まただと!」
なぜアーニャなんだ! なぜアーニャの名前を呼んで卑猥なことを! アーニャが、顔を真っ赤にしてるじゃないか! かわいそうに! 年頃の乙女なんだぞ! おいアラサー!
「アーニャ。そしてナナリー」
何? ナナリー? アーニャの時はV字で、ナナリーの時はしおれた感じで軽く胸をはだけただと!? 確かに今はそんな格好をしているが。
「いやあ、シャルルのバカがさあ。戦場でこそ性がみなぎるなんて言うから。アーニャ。モニカ。私。そしてナナリー」
くそっ、よく分からんコメディアンっぽい喋り方をしたと思ったら、またアーニャか! それにモニカに母上自身まで! ナナリーだけ胸をはだけて、他は股筋のV字!
だが、おかげで分かったぞ! これはあの男の手がけたパイロットスーツの食い込みを言ってるんだな! なんと卑猥な! これ以上は危険だ! 辞めさせろ、スザク!
「ぐわあっ」
クソッ、使えん。……生身の女性相手だからと言って手加減してないだろうな? いくら母上とは言えアラサーだぞ?
しょうがない。ジェレミアも使えん今、俺がやるしかない!
隙をつく。今だ! 足に飛び込む。
「ナナリー」
何? 反転だと? なぜ分かった! 後ろから隙をうかがったのに。
「ぶはっ」
くそっ。勢い余ってぶつかってしまった。だが正面を向けばギアスを使えるぞ。ふははは、は? くそっ、捕まった。柔らかいメロン2つに挟まったまま動けん。
「ミレイ、シャーリー、カレン」
何!? ミレイ達の名を呼びながら胸を押し付けてくるだと!? だが彼女達はそこまで大きくないぞ!?
「ナナリー、アーニャ、カグヤ、天子」
今度はまさか、股に顔を擦りつけるだと!? しかも口がちょうど股筋の間に来るように!? しかも可憐な少女の名前ばかりつぶやいて!? 俺が興奮を覚えるようにだとでも言うのか!?
「シーツー、シーツー」
「ぶほっ」
最後は尻で顔を踏んづけるだと!? くっそー、なんて屈辱だ。そして予想通り尻はシーツーの役目か。
「ぐわああああ!」
クソッ、こんな時でも隙はないのか。スザクめまた簡単に飛ばされおって。
「おいゼロ! 余計なことをするな!」
「そうだそうだ! 今いいところなんだよ!」
「プレミアもんだぜ! もっと近くで撮らせろ!」
な、何? これは、まさか。
「ふっふっふっふっふ。どうやら民衆はゼロでは無く私の味方のようね」
「なっ、母上!? まさかこれが目的で!?」
「別に? そうなるかもしれないとは思ったけど、一番の目的はあなたで遊ぶことよ」
「なっ」
「ふふふっ」
なんて楽しそうに笑ってるんだ。実の息子をこんな目にあわせておいて。アラサーと思えぬ恥ずかしい服を衆目に晒しておいて。
「ぐっ。ルルーシュっ」
「スザッ」
スザクがとうとう民衆に捕まっただと!? なんて数だ。これではさすがにあいつでも!? いや、今回はもういい! とにかく逃げろ! 正体さえばれなければ、いつかは!
「ルルーシュ、もう無理だよ!」
おい! 余計なことをしゃべるな! 俺のこの表情から察せないのか!
「ゼロレクイエムはおしまいだあ!」
「おい! もう黙れ!」
どうするどうする? どうすればいいんだ? 民衆がドッと寄ってくる。ジェレミア達が撃たないのもばれているのかもしれない。
「あっ、ナナリーの近くに汚らしい中年が」
「何い!?」
まずい、ナナリーが汚される。
「助けて欲しい?」
「それは……だが……っ」
「よっと」
「ほわあっ」
俺を軽々と小脇に抱えただと!?
「ンナナリイイイイイイ!」
俺の声真似だとお!? しかもそれは、ナナリー総督就任の時の、誰にも聞かれなかったはずのものっ!
「お母様あああああ!」
ナナリーが泣き叫んで抱きついただとお!? なんだこれは……安心したじゃないか!
「よっ、ほっ、ほっ、ほい、ほい、ほい、ほい」
「ぐわっ」
「うほっ」
「いてっ」
「見えたっ」
「食い込みが!」
「ルルーシュ様の細腰が!」
「わしはナナリー派だあ。ぶるううああ」
なっ、俺とナナリーを両脇に抱えたまま、群衆を蹴りながら進んでいくだとお!? ちくわがいただとお!? 信じられん。
茫然とする俺とナナリーを他所に、母上は最後に大きく跳躍。トラックのコンテナに飛び乗り、天井の穴からその中に入る。そこにあったのはどこから取り出したのかガウェイン。
「おおおおおるはあああいるまりあんぬううううう!」
ふと大音量スピカ―で、集まった民衆に届くように叫ぶ。
「「「「オールハイルマリアンヌ、オールハイルマリアンヌ、オールハイルマリアンヌ」」」」
なぜか民衆も応えてしまった。これではお終いだ。計画の、何もかも。
その後、マリアンヌはルルーシュの考えていたゼロレクイエムの詳細を発表。事実を知ったナナリーによる涙の訴えもあり、妹の押しに弱いルルーシュは最終的に折れた。一連の流れは民衆の涙を誘った。
しかし、これまでの犠牲、どうしようもない憎しみは大きすぎた。何かにぶつけなければ収まらない。そこでマリアンヌは、扇要による『ゼロの追放』『ゼロの射殺指示』『日本解放を条件にした取引』『敵軍軍人を妻にして、その妻の上官であるシュナイゼルを支持したこと』等、超合衆国並びにゼロの信奉者への裏切りを暴露する。ルルーシュがゼロであった、ということも。
当然民衆の怒りは爆発。ルルーシュに対しては同情と羨望。ゼロレクイエムは扇レクイエムとなり、磔にされた扇はハドロン砲にて肉片1つ残らず消え去った。
ルルーシュは継続して世界唯一皇帝となり、妹のナナリーを正室に迎え入れ、カグヤ、ミレイ、アーニャ、C.C.、咲世子、マリアンヌ、カレン、天子、の順に肉体関係をもったという。